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6.佐治くんのヒミツ?
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「佐治くん、あの……」
「篠崎は、余計なことは考えなくていい。ただ自分の命を守ることだけを考えてくれ」
翌朝、どうしても知らんぷりできなくて、昨日のことを佐治くんにたずねようとしたんだけど、目の前で心の扉をバタンと閉められてしまったみたい。
「うん……」
わたしはただ、佐治くんのことがもっとちゃんと知りたいだけなのに。
もしも……もしも佐治くんもわたしと同じように、なんらかの能力者だとしたら、悩みを分かちあうことだってできるかもしれないのに。
通学路をそのまましばらく歩いたあと、わたしはその場でぴたりと足を止めると、佐治くんの方を振り向いた。
「でも、やっぱり……」
そんなわたしに気づいて、佐治くんも少し離れたところで立ち止まる。
「佐治くんのこと、もっとちゃんと知りたいよ」
守る側と守られる側。それだけの関係だなんて、寂しすぎる。
もっと……佐治くんに近づきたい。
「俺のことを知ってどうする」
佐治くんが、明らかな拒絶を含んだ低い声で言う。
こんなに嫌がっているのに、これ以上聞くべきじゃないってわかってる。
けど……それでもわたし……。
「佐治くんと、もっと仲よくなりたいの」
「自分の方がマシだと思いたいだけだろ」
「ちがうよ。わたし、そんなことがしたいわけじゃ――」
「こんなバカ力のせいで、親にも気味悪がられて見捨てられて……それで、鮫島さんに拾われた。これで満足か?」
……え?
佐治くんが、苦しそうに胸元をつかみながら言葉を吐く。
「篠崎は恵まれてるよ。篠崎の両親は、篠崎のことを必死になって守ろうとしてる。……ごめん。本当はこんなことが言いたかったわけじゃない」
佐治くんが、顔をうつむかせて、唇をかむ。
「でも、これだけはわかっていてほしい。みんな、篠崎のことが大事だから守ろうとしているんだ。篠崎の両親も――俺も」
佐治くんは、そっと顔をあげると、わたしの目を見た。
「だから俺は、今の暮らしには満足してる。そこだけは、誤解しないでほしい」
こんなの……なにも言えないよ。
くるりと向きを変えると、わたしはふたたび黙って通学路を歩きだした。
「おはよー、若葉」
ヒヨちゃんが、明るくわたしに手を振ろうとして、ぴたりと止まる。
「……どうした、若葉?」
「ううん、なんにもないよ? おはよ、ヒヨちゃん」
わたしがぎこちなく笑ってみせると、ヒヨちゃんが心配そうな表情を浮かべる。
「だから大丈夫だって。ほら、早く学校行こっ」
「うん。…………あのさ、若葉」
先に歩きだしたわたしのことを、ヒヨちゃんが呼び止める。
「なに?」
わたしが足を止めて振り向くと、ヒヨちゃんは一瞬口を開きかけてから閉じ、そしてもう一度開いた。
「なにか困ってることがあったら、いつでも相談に乗るからね」
「うん。ありがとね、ヒヨちゃん」
……ごめんね、ヒヨちゃん。
どれもこれも言えないことばっかだよ。
わたしの能力のことも。
それに、佐治くんのことも。
「篠崎は、余計なことは考えなくていい。ただ自分の命を守ることだけを考えてくれ」
翌朝、どうしても知らんぷりできなくて、昨日のことを佐治くんにたずねようとしたんだけど、目の前で心の扉をバタンと閉められてしまったみたい。
「うん……」
わたしはただ、佐治くんのことがもっとちゃんと知りたいだけなのに。
もしも……もしも佐治くんもわたしと同じように、なんらかの能力者だとしたら、悩みを分かちあうことだってできるかもしれないのに。
通学路をそのまましばらく歩いたあと、わたしはその場でぴたりと足を止めると、佐治くんの方を振り向いた。
「でも、やっぱり……」
そんなわたしに気づいて、佐治くんも少し離れたところで立ち止まる。
「佐治くんのこと、もっとちゃんと知りたいよ」
守る側と守られる側。それだけの関係だなんて、寂しすぎる。
もっと……佐治くんに近づきたい。
「俺のことを知ってどうする」
佐治くんが、明らかな拒絶を含んだ低い声で言う。
こんなに嫌がっているのに、これ以上聞くべきじゃないってわかってる。
けど……それでもわたし……。
「佐治くんと、もっと仲よくなりたいの」
「自分の方がマシだと思いたいだけだろ」
「ちがうよ。わたし、そんなことがしたいわけじゃ――」
「こんなバカ力のせいで、親にも気味悪がられて見捨てられて……それで、鮫島さんに拾われた。これで満足か?」
……え?
佐治くんが、苦しそうに胸元をつかみながら言葉を吐く。
「篠崎は恵まれてるよ。篠崎の両親は、篠崎のことを必死になって守ろうとしてる。……ごめん。本当はこんなことが言いたかったわけじゃない」
佐治くんが、顔をうつむかせて、唇をかむ。
「でも、これだけはわかっていてほしい。みんな、篠崎のことが大事だから守ろうとしているんだ。篠崎の両親も――俺も」
佐治くんは、そっと顔をあげると、わたしの目を見た。
「だから俺は、今の暮らしには満足してる。そこだけは、誤解しないでほしい」
こんなの……なにも言えないよ。
くるりと向きを変えると、わたしはふたたび黙って通学路を歩きだした。
「おはよー、若葉」
ヒヨちゃんが、明るくわたしに手を振ろうとして、ぴたりと止まる。
「……どうした、若葉?」
「ううん、なんにもないよ? おはよ、ヒヨちゃん」
わたしがぎこちなく笑ってみせると、ヒヨちゃんが心配そうな表情を浮かべる。
「だから大丈夫だって。ほら、早く学校行こっ」
「うん。…………あのさ、若葉」
先に歩きだしたわたしのことを、ヒヨちゃんが呼び止める。
「なに?」
わたしが足を止めて振り向くと、ヒヨちゃんは一瞬口を開きかけてから閉じ、そしてもう一度開いた。
「なにか困ってることがあったら、いつでも相談に乗るからね」
「うん。ありがとね、ヒヨちゃん」
……ごめんね、ヒヨちゃん。
どれもこれも言えないことばっかだよ。
わたしの能力のことも。
それに、佐治くんのことも。
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