ヒーラーガール!

西出あや

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7.優しい人

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「きゃーっ! 斗真くん、カッコいい!」
 バトンを受け取り、トラックを颯爽と走る佐治くんを見つめるみんなの目が、ハートになってるよ。
 今日は、体育祭の学年リハーサル。
 佐治くんは、一番得点の高い男女四×二〇〇メートルリレーに出場予定。
 わたしも、気づいたら佐治くんのことを目で追っていて、無理やり視線をそらした。
「斗真ってさ、やる気なさそーに見えて、意外といつでも一生懸命だよね!」
 佐治くんと一緒に混合リレーに出場予定のスポーツ万能少女・浜辺はまべ夏樹なつきちゃんが、楽しそうに佐治くんに話しかけている。
 高いところでひとつに束ねたロングヘアに、くりっとした二重の目。
 小学生の頃からバスケをやっていて、中学のバスケ部では、一年生で唯一のレギュラーなんだって。
「別に。そんなことはない」
 そんな夏樹ちゃんから、佐治くんがふいっと顔をそらす。
「もうっ、そんなふうにテレなくていいってばあ」
 夏樹ちゃんが、ばしばしと佐治くんの肩をはたく。
 佐治くんは迷惑そうな顔をしているけど……なんだかいいな。わたしも、あんなふうに佐治くんと気さくに話せるようになりたい。
 今朝は、嫌がる佐治くんから無理やりいろいろ聞きだしちゃって、あんな苦しげな表情をさせてしまった。
 わたし、嫌われちゃったかもしれない。
 もう二度とわたしとはしゃべってくれないかも……。
 今朝のやりとりを思い出したら、思わず涙が込みあげてきた。
 でも、こんなところで突然泣きだすわけにはいかないよ。
 わたしは、唇をかみしめてなんとか涙をこらえた。
「なあに? 旦那を取られそうで不安?」
 隣に座っていたヒヨちゃんが、肘でツンツンとつついてくる。
「そ、そんなんじゃないってば」
「うかうかしてると、さらっと奪われちゃうかもよ~」
「なっ……」
 奪われる……?
 いや、元々わたしのものではないけども。
 でも、佐治くんが、誰かとお付き合いをはじめる……ってこと?
 そっか。そんなこと、考えてもみなかった。
『ボディガードの仕事が終わったら、公園でデートでもするか』
『うん、わかった。じゃあ、先に公園で待ってるね!』
 みたいな?
『待たせたな。ちょっと邪魔が入って、仕事が終わるのが遅れた』
『もうっ。わたしと仕事、どっちが大事なの?』
 みたいな⁇
 ま、まさかね……。
 なんだか血の気が引いて、クラクラしてきた。
「次、ダルマ運びリレーの出場選手、入場門に集まってー」
「ほらっ、若葉。行くよ」
 先に立ちあがったヒヨちゃんにぐいっと腕を引かれ、わたしも立ちあがる。
 ……こんな気持ちのままじゃダメだ。ちゃんと集中しなくっちゃ。
 パンパンッとほっぺたを軽くたたくと、ヒヨちゃんがびっくりした顔をしてから、ぷっと吹きだした。
「若葉、めっちゃやる気じゃん」
「うん。がんばるよ、ヒヨちゃん!」
 わたしが両方のこぶしをぎゅっと握ってみせると、
「おーっ! 目指せ優勝!」
 と、ヒヨちゃんがこぶしを天に突きあげる。
 ヒヨちゃんと顔を見合わせると、クスクス笑いながら、入場門へと向かった。
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