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10.どうにもできないってば
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「ねえ、聞いた⁉ 斗真くんが、転校しちゃうって話」
「えーっ、あのウワサってやっぱほんとだったの? ショックなんだけど~」
佐治くんが転校するっていうウワサは、あっという間に学年じゅうに広まった。
そして、転校してしまう前にと、告白待ちの女子の長い行列ができているという、本当かどうかわからないウワサまで、同時にまことしやかにささやかれるようになった。
「ねえ、どういうこと⁉ 佐治くん、体育祭前に転校しちゃうなんて」
「うん、そうみたいだね」
「そうみたいだね……って。またそんな自分には関係ありませんー、みたいな言い方して。ねえ、なにか理由聞いてないの? この学校では、若葉が一番佐治くんと仲よさそうだったじゃない」
「そう? 須田くんとか、凛香ちゃんとか夏樹ちゃんとか。わたしより仲よさそうな子なら、他にいっぱいいるよ」
「そうかなあ」
ヒヨちゃんが、なんだか腑に落ちないような顔をする。
「斗真ぁ、なんでオレに黙って転校なんかすんだよぉ。一緒に応援団やるの、マジで楽しみだったんだからな」
「ごめん。家の都合だから」
「まあ、わかってるけどさー。あーあ、寂しくなるなあ」
「須田は、俺がいなくなっても寂しくないだろ。他に友だちならいっぱいいる」
「そんなの関係ねえだろ! 斗真は斗真一人なんだよ。だから、誰も斗真の代わりなんかできないんだよ。わかったか。もう一回同じこと言ったら、マジで殴るからな」
本気で怒る須田くんのことを、佐治くんが不思議そうに見つめている。
あの調理実習がきっかけで、ちょっとずつしゃべるようになって、応援団の練習だって、一緒にがんばってきたんだもんね。
須田くんだって、佐治くんがいなくなったら寂しいに決まってる。
普段はみんなとの間に壁を作って、あえて交わらないようにしているように見える佐治くんだけど、最近は、須田くんといるときだけは、なんていうか、とっても自然体で、なんだか普通の男の子みたいに見えていたんだよね。
「若葉はいいの? このままで」
「いいもなにも。転校なんて、わたしにはどうにもできないってば」
本当は、いいわけない。
けど、仕方ないの。これが佐治くんにとって、一番いいんだから。
今は、毎日翔くんがマンションの前まで迎えにきてくれている。
結局佐治くんに迷惑をかけなくなった分、翔くんにかけちゃってるんだけど。
「それにしても残念だなあ。せっかく佐治くんと真剣勝負ができると思っていたのに」
転校のウワサを聞いたのか、翔くんも、今朝歩きながらそうつぶやいていたっけ。
翔くんも、佐治くんと同じ男女混合リレーに出る予定だったみたい。
わたしだって見たかったよ。佐治くんが走るところ。
はぁー、とため息が出そうになって、わたしはごくんと飲み込んだ。
教室の前扉から入ってきた佐治くんと、久しぶりにバチッと目が合ったんだ。
でも、すぐにそらされちゃった。
そうだよね。ボディガードの仕事がなくなった今となっては、わたしとかかわる必要なんて、これっぽっちもないんだから。
でも……。
こんなの、ただのワガママだってわかってる。
でも、やっぱり言わせて。
わたしは、自分の席に荷物をおろしたばかりの佐治くんの前に立った。
「えーっ、あのウワサってやっぱほんとだったの? ショックなんだけど~」
佐治くんが転校するっていうウワサは、あっという間に学年じゅうに広まった。
そして、転校してしまう前にと、告白待ちの女子の長い行列ができているという、本当かどうかわからないウワサまで、同時にまことしやかにささやかれるようになった。
「ねえ、どういうこと⁉ 佐治くん、体育祭前に転校しちゃうなんて」
「うん、そうみたいだね」
「そうみたいだね……って。またそんな自分には関係ありませんー、みたいな言い方して。ねえ、なにか理由聞いてないの? この学校では、若葉が一番佐治くんと仲よさそうだったじゃない」
「そう? 須田くんとか、凛香ちゃんとか夏樹ちゃんとか。わたしより仲よさそうな子なら、他にいっぱいいるよ」
「そうかなあ」
ヒヨちゃんが、なんだか腑に落ちないような顔をする。
「斗真ぁ、なんでオレに黙って転校なんかすんだよぉ。一緒に応援団やるの、マジで楽しみだったんだからな」
「ごめん。家の都合だから」
「まあ、わかってるけどさー。あーあ、寂しくなるなあ」
「須田は、俺がいなくなっても寂しくないだろ。他に友だちならいっぱいいる」
「そんなの関係ねえだろ! 斗真は斗真一人なんだよ。だから、誰も斗真の代わりなんかできないんだよ。わかったか。もう一回同じこと言ったら、マジで殴るからな」
本気で怒る須田くんのことを、佐治くんが不思議そうに見つめている。
あの調理実習がきっかけで、ちょっとずつしゃべるようになって、応援団の練習だって、一緒にがんばってきたんだもんね。
須田くんだって、佐治くんがいなくなったら寂しいに決まってる。
普段はみんなとの間に壁を作って、あえて交わらないようにしているように見える佐治くんだけど、最近は、須田くんといるときだけは、なんていうか、とっても自然体で、なんだか普通の男の子みたいに見えていたんだよね。
「若葉はいいの? このままで」
「いいもなにも。転校なんて、わたしにはどうにもできないってば」
本当は、いいわけない。
けど、仕方ないの。これが佐治くんにとって、一番いいんだから。
今は、毎日翔くんがマンションの前まで迎えにきてくれている。
結局佐治くんに迷惑をかけなくなった分、翔くんにかけちゃってるんだけど。
「それにしても残念だなあ。せっかく佐治くんと真剣勝負ができると思っていたのに」
転校のウワサを聞いたのか、翔くんも、今朝歩きながらそうつぶやいていたっけ。
翔くんも、佐治くんと同じ男女混合リレーに出る予定だったみたい。
わたしだって見たかったよ。佐治くんが走るところ。
はぁー、とため息が出そうになって、わたしはごくんと飲み込んだ。
教室の前扉から入ってきた佐治くんと、久しぶりにバチッと目が合ったんだ。
でも、すぐにそらされちゃった。
そうだよね。ボディガードの仕事がなくなった今となっては、わたしとかかわる必要なんて、これっぽっちもないんだから。
でも……。
こんなの、ただのワガママだってわかってる。
でも、やっぱり言わせて。
わたしは、自分の席に荷物をおろしたばかりの佐治くんの前に立った。
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