ヒーラーガール!

西出あや

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10.どうにもできないってば

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「佐治くん。わたし、やっぱりどうしても佐治くんの走るとこが見たい! それに……応援団の演舞も、最後まで一緒にやりたいよ。だって、今までせっかく一生懸命練習してきたんだしっ。わ、わたしも、佐治くんたちに置いてかれないようにって、がんばって練習してきたし。最近、わたしもだいぶ踊れるようになってきた……でしょ? だからね、せめて体育祭が終わるまで、転校は待ってもらえないかな……って。……ごめんね、そんなこと、ムリだよね」
 せっかく勇気を出して言ったのに、結局最後には弱気な自分が出てきちゃった。
 そんなわたしのことを、佐治くんが真正面からじっと見つめてくる。
 ……ダメだ。これじゃ全然わたしの気持ち、伝わらない。
「本当は……わたし、佐治くんに転校、してほしくないっ」
 しんと静まり返った教室の中に、わたしのか細い声が響いた。
 一瞬の間を置いて、教室の中にざわめきが戻る。
「え、なに今の⁉」
「っていうか、そんなのムリに決まってるし」
「斗真くんのこと困らせて、どうするつもり?」
 そんなざわめきなどまったく耳に入っていないかのように、佐治くんは静かにわたしのことを見つめてくる。
「じゃあ、体育祭で俺が如月に勝ったら、俺のことを選んで」
「へ⁉」
 思わずわたしの口からヘンな声がもれ、近くにいた女子の輪から小さな悲鳴が聞こえた。
 でも、佐治くんは真面目な顔で、ずっとわたしのことを見つめたまま。
 その視線に耐えきれず、思わず目を泳がせるわたし。
 今の、みんなにバッチリ聞かれちゃったよ⁉
 絶対恋愛的な話だって勘ちがいされてるってば。
 だけど、もう二度とわたしに向けてもらえないんじゃないかって思っていた佐治くんのまっすぐな視線が、しっかりとわたしに向けられている。
 それだけで……すごくうれしい。
 ううん。もっとワガママを言っていいなら……やっぱりわたし、佐治くんがいい。
「うん。わかった」
 わたしがうなずくと、なんだか佐治くんの口元が少しだけほころんだように見えた。
「それじゃあ、如月にもそう伝えてくる」
 そう言い残して、佐治くんは教室を出ていった。
 うん。言ってよかった。
 きっと今までの自分なら、言いたいことも涙も我慢して、お別れを受け入れてた。
 でも、ヒヨちゃんと出会って、それから佐治くんと出会って。
 背中を押してくれる友だちができて、どうしても本当の気持ちを伝えたい友だちができたから。
 わたし、ちょっとだけ変われたような気がするよ。
「ふわっ! ……っとと。ひ、ヒヨちゃん⁉」
 佐治くんの出ていった扉をじっと見つめていたら、突然うしろからヒヨちゃんにがばっと抱きつかれてよろめいた。
「よく言ったよ、若葉ぁ」
 ヒヨちゃんが、よしよしと頭をなでてくれる。
 ヒヨちゃんがホメてくれるのはうれしいんだけど……でも、ヒヨちゃんの思ってるような展開ではないからね⁉
「若葉は、それくらいちゃんと自分の思ってることを言っていいんだよ」
 ヒヨちゃんが、そうやってわたしの背中を押してくれたおかげだよ。
「うん。ありがとね、ヒヨちゃん」
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