ヒーラーガール!

西出あや

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10.どうにもできないってば

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 ……まただ。
 次の授業の用意をしようと思ったんだけど、机の中をいくら探しても、数学の教科書が見つからない。
 はぁ……。
 小さくため息をついて立ちあがると、無言で教室を出る。
 ありかは、わかってる。
 昇降口のそばの、落とし物箱の中だ。
 いくら普段ぼーっとしてるわたしでも、数学の教科書なんかどこかで落としたりしない。
 誰かが意図的にやってるとしか思えない。
 誰かっていうか、佐治くんか翔くんに好意を持つ誰か、なんだろうけど。
 あれっ? 今気づいたんだけど、ひょっとして、ほとんどの女子を敵に回してない?
 うぅっ……深く考えちゃダメだ。いくら考えたって、憂うつになるだけなんだから。
 顔をうつむかせて廊下を歩いていたら、前から歩いてきた人の肩がどんっとぶつかり、あまりの勢いに思わずよろめいた。
「ご、ごめんなさい……」
 反射的に振り向いて謝ったけど、ぶつかってきた相手は立ち止まりもせず、通りすぎていってしまった。
 ……このくらい、なんともない。
 自分の思ってることを胸にしまったままにして、佐治くんとさよならすることと比べたら、全然なんともない。
 言わなきゃよかったなんて、絶対に後悔しない。
 自分にそう言い聞かせると、もう一度昇降口へと向かって歩きだした。

「よかった。やっぱりここにあった」
 無事自分の教科書を回収し、教室に引き返そうとしていたら、佐治くんが向かいの職員室のある校舎からこちらへ歩いてきているのに気がついた。
「篠崎。こんなところでどうした?」
「べ、別に? なんでもないよ」
 そう言いながら、数学の教科書をそっと背中に隠す。
「でも、なんだか顔色が悪いぞ」
「大丈夫だってば。心配しすぎだよ、佐治くん。ほら、そろそろ教室に戻らないと、次の授業がはじまっちゃうよ」
 さっと教科書を胸の前に持ち替え、教室に向かって歩きはじめたわたしの斜めうしろを、少しだけ距離を保って佐治くんが歩いてくる気配がする。
 それだけで、すごく安心する。なんだか久しぶり。
 しばらく行くと、前から歩いてきた同じクラスの女子三人とすれちがった。
 わたしの方をチラチラ見ては、ヒソヒソしゃべってクスクス笑っている。
 ああいうのって、全部自分の悪口を言われてるような気がして、胃がキリキリしてくるんだよね。
 実際はちがうかもだし、気にしたってしょうがないんだけど。
 でも……なんだか悪い予感がする。
 さっき取り戻した数学の教科書をきゅっと胸に抱きしめ、わたしは廊下の真ん中で立ち止まった。
「あの――」「先に教室に戻っててくれ」
 わたしが口を開くのと同時に佐治くんの低い声が聞こえ、振り返ったときには、すでに佐治くんはわたしに背を向け、来た道を戻りはじめていた。
 小さくため息をつくと、もう一度教室に向かって歩きだそうとして――。
 やっぱり、イヤな予感がする。
 Uターンすると、わたしは佐治くんの背中を追いかけた。

「そういうことをするなら、君らの下駄箱ごと落とし物箱に入れてもいいんだけど」
 片手で軽々と金属製の下駄箱を持ちあげた佐治くんを見あげて、さっきすれちがった三人が真っ青な顔でガタガタ震えてる。
「わ、わたしたち、別になにもしてない……よ?」
「うんうん。ね、そろそろ教室戻ろっか」
「そ、そうだね」
 引きつった笑みを浮かべて口々にそう言うと、三人はわたしの横をパタパタと通りすぎていった。
 そんな三人のうしろ姿を見送ったあと、下駄箱を元の場所にきっちり戻す佐治くん。
「だ、大丈夫なの? 能力使うとこ、見られちゃって」
「見てないヤツが聞いて、信じると思うか? こんなバケモンみたいな怪力のヤツがいたなんて話」
 手についた汚れをパンパンと払いながら、真面目な顔で佐治くんが言う。
 そんな佐治くんがなんだかおかしくて、思わずぷっと吹き出すと、珍しく佐治くんも口元に笑みを浮かべた。
 以降、『斗真くんを怒らせると、なんかヤバいらしい』というウワサがあちこちでささやかれるようになり、わたしへの嫌がらせは、ぱったりと収まった。
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