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演劇鑑賞が終わり、その興奮と感動、そして、煋蘭の可愛いところを見る事が出来て、大満足な大輔は、隣を歩く煋蘭へ視線を向けて、
「俺、初めて演劇を見たんだけど、すごく良かったよ。何ていうか、感動したよ。あのさ、また、一緒に演劇を見に行かないか?」
今ならこんな誘いにも乗ってくれるだろうと、思い切って言ってみた。
「そうだな。考えておく」
と煋蘭は答えた。
「おう」
これには大輔もにんまりした。断られなかったのだから、チャンスはあるということだ。
その日の夜、煋蘭はなぎなたを持ち、大輔はもちろん武器を持たせてもらえないまま、妖退治へと出かけた。妖が現れた場所は、大都会の裏側のような寂れた商店街だった。薄暗く、シャッターの閉まった店舗が並び、煌びやかな世界から追い出されたような汚い浮浪者が段ボールを敷いて座っている。
「結界を張る」
煋蘭がそう言うと、辺りは結界に包まれた。現れた妖は、巨大な体躯と鋭い爪を持つ恐ろしい姿をしていた。その目は赤く光り、口からは毒々しい煙が立ち上っている。妖の咆哮が響き渡り、周囲の空気が一瞬にして冷たくなった。ここにいるのは生きることに疲れた者ばかり。そんな者たちをこの妖は襲ってその魂を食らい大きく成長しているのだと、大輔は煋蘭から説明を受けていた。
「ひでえな。だからこんなに醜いんだろう、こいつは」
ここにいるのはこの一体だけ。二人で協力して斃す手筈だ。
「こいつは強い。今までのは小者で、お前が斃せたのは兄上や、私の助力があってのこと。今回は気を抜けば死ぬぞ。お前は攻撃より、防御に集中しろ」
煋蘭はそう言って、なぎなたを手に妖を睨むと、妖は素早く移動し、煋蘭めがけてその鋭い爪を振り下ろした。煋蘭はその攻撃を躱すと同時に、なぎなたを振るい、妖の手を斬り落とした。斬り落とされた妖の手は黒い煙となって消滅したが、妖は再び煋蘭めがけて襲いかかった。まるで大輔は存在しないかのように無視されていた。そこで大輔は考えた。気配をなるべく消して、妖の背後へ周り、隙を見て攻撃しようと。そんな考えは煋蘭にも伝わり、妖を誘導するように移動し、大輔を妖の視界から外した。妖は煋蘭との激闘に深く傷ついていて、背後への警戒を怠っている。煋蘭はそれを確認すると、
(今だ、殺れ!)
と思念を送った。
(おう!)
大輔はその機を逃すまいと、渾身の気を込めて巨体の妖の背中めがけて拳を打ち込むと、眩しく光りを放ち、妖はほろほろと崩れるように消えていった。
「お前、やればできるではないか」
と煋蘭は言って、結界を解き、
「帰るぞ」
と大輔に声をかけた。大輔は自分の力であの巨体の妖を斃したことで興奮していたが、帰り道を歩いていて、だんだんと冷静になり、煋蘭の言った言葉を思い返した。
「あれ? そう言えば、あれってどういう意味だったの?」
大輔は疑問に思って聞いたが、煋蘭はその質問には答えず、
「帰ったら、ゆっくり休め」
とだけ言った。大輔は小者の妖を二度斃しているが、先ほど、大輔が妖を斃せたのは兄の瑞光と煋蘭の助力があったと言っていた。
(ということは? 妖を斃させて俺に自信を付けさせるため? そして今は、強い敵を前に、俺が自信過剰になってしまわないように真実を明かしたって事か? 煋蘭ちゃんも兄貴も結構いいとこあるじゃないか)
翌朝、いつもの鍛錬が始まった。もちろん、大輔の着物は煋蘭が着付けた。
「お前、いつになったら一人で着物が着られるのだ?」
戦闘の構えで大輔と対峙した煋蘭が聞くと、
「俺も努力してるよ? 今日だってトライしたじゃん。見てたでしょ?」
と大輔が答える。
「どうしたらあんな無様な姿になるのだ? 不器用にも程がある」
煋蘭の言う通り、大輔が自分で着物を着ると、見ている方が恥ずかしいほどに無様だった。
「あれでも一生懸命やってるよ? 頑張った結果があれなんだ」
と大輔が言うと、煋蘭は深くため息をついて、
「分かった。着替えに時間がかかるのはもったいないからな。毎回私が着付けよう」
と折れたのだった。
「え? 本当? それ、凄く嬉しい!」
大輔が喜ぶと、
「戯けもの! 自分の不甲斐なさを恥と思え!」
と煋蘭に叱責される大輔だったが、それさえも嬉しそうにヘラヘラしていると、煋蘭は真顔で、
「行くぞ」
と声をかけて、瞬時に大輔の傍に移動して右わき腹へ蹴りを入れた。不意を突かれたように見えたが、大輔は煋蘭の攻撃パターンに慣れてきて、その攻撃を右足で防いだ。続いて煋蘭は拳を鳩尾めがけて振る。大輔は拳が当たる場所へ気を集めて受け止めて、煋蘭の袖と襟を掴み、身体を回し背負う様にして投げ飛ばした。ただの背負い投げではなく、気を使っているため、数メートル先へ飛ばされた煋蘭だったが、しっかりと着地し、
「やるではないか」
とほんの少し口元を緩ませた。大輔が気の使い方を徐々に身に着けて成長している事が嬉しかったのだろう。それからは、煋蘭も熱心に大輔を鍛え上げた。その結果、またもズタボロ、見るに堪えない無残な姿で倒れるのだった。
「俺、初めて演劇を見たんだけど、すごく良かったよ。何ていうか、感動したよ。あのさ、また、一緒に演劇を見に行かないか?」
今ならこんな誘いにも乗ってくれるだろうと、思い切って言ってみた。
「そうだな。考えておく」
と煋蘭は答えた。
「おう」
これには大輔もにんまりした。断られなかったのだから、チャンスはあるということだ。
その日の夜、煋蘭はなぎなたを持ち、大輔はもちろん武器を持たせてもらえないまま、妖退治へと出かけた。妖が現れた場所は、大都会の裏側のような寂れた商店街だった。薄暗く、シャッターの閉まった店舗が並び、煌びやかな世界から追い出されたような汚い浮浪者が段ボールを敷いて座っている。
「結界を張る」
煋蘭がそう言うと、辺りは結界に包まれた。現れた妖は、巨大な体躯と鋭い爪を持つ恐ろしい姿をしていた。その目は赤く光り、口からは毒々しい煙が立ち上っている。妖の咆哮が響き渡り、周囲の空気が一瞬にして冷たくなった。ここにいるのは生きることに疲れた者ばかり。そんな者たちをこの妖は襲ってその魂を食らい大きく成長しているのだと、大輔は煋蘭から説明を受けていた。
「ひでえな。だからこんなに醜いんだろう、こいつは」
ここにいるのはこの一体だけ。二人で協力して斃す手筈だ。
「こいつは強い。今までのは小者で、お前が斃せたのは兄上や、私の助力があってのこと。今回は気を抜けば死ぬぞ。お前は攻撃より、防御に集中しろ」
煋蘭はそう言って、なぎなたを手に妖を睨むと、妖は素早く移動し、煋蘭めがけてその鋭い爪を振り下ろした。煋蘭はその攻撃を躱すと同時に、なぎなたを振るい、妖の手を斬り落とした。斬り落とされた妖の手は黒い煙となって消滅したが、妖は再び煋蘭めがけて襲いかかった。まるで大輔は存在しないかのように無視されていた。そこで大輔は考えた。気配をなるべく消して、妖の背後へ周り、隙を見て攻撃しようと。そんな考えは煋蘭にも伝わり、妖を誘導するように移動し、大輔を妖の視界から外した。妖は煋蘭との激闘に深く傷ついていて、背後への警戒を怠っている。煋蘭はそれを確認すると、
(今だ、殺れ!)
と思念を送った。
(おう!)
大輔はその機を逃すまいと、渾身の気を込めて巨体の妖の背中めがけて拳を打ち込むと、眩しく光りを放ち、妖はほろほろと崩れるように消えていった。
「お前、やればできるではないか」
と煋蘭は言って、結界を解き、
「帰るぞ」
と大輔に声をかけた。大輔は自分の力であの巨体の妖を斃したことで興奮していたが、帰り道を歩いていて、だんだんと冷静になり、煋蘭の言った言葉を思い返した。
「あれ? そう言えば、あれってどういう意味だったの?」
大輔は疑問に思って聞いたが、煋蘭はその質問には答えず、
「帰ったら、ゆっくり休め」
とだけ言った。大輔は小者の妖を二度斃しているが、先ほど、大輔が妖を斃せたのは兄の瑞光と煋蘭の助力があったと言っていた。
(ということは? 妖を斃させて俺に自信を付けさせるため? そして今は、強い敵を前に、俺が自信過剰になってしまわないように真実を明かしたって事か? 煋蘭ちゃんも兄貴も結構いいとこあるじゃないか)
翌朝、いつもの鍛錬が始まった。もちろん、大輔の着物は煋蘭が着付けた。
「お前、いつになったら一人で着物が着られるのだ?」
戦闘の構えで大輔と対峙した煋蘭が聞くと、
「俺も努力してるよ? 今日だってトライしたじゃん。見てたでしょ?」
と大輔が答える。
「どうしたらあんな無様な姿になるのだ? 不器用にも程がある」
煋蘭の言う通り、大輔が自分で着物を着ると、見ている方が恥ずかしいほどに無様だった。
「あれでも一生懸命やってるよ? 頑張った結果があれなんだ」
と大輔が言うと、煋蘭は深くため息をついて、
「分かった。着替えに時間がかかるのはもったいないからな。毎回私が着付けよう」
と折れたのだった。
「え? 本当? それ、凄く嬉しい!」
大輔が喜ぶと、
「戯けもの! 自分の不甲斐なさを恥と思え!」
と煋蘭に叱責される大輔だったが、それさえも嬉しそうにヘラヘラしていると、煋蘭は真顔で、
「行くぞ」
と声をかけて、瞬時に大輔の傍に移動して右わき腹へ蹴りを入れた。不意を突かれたように見えたが、大輔は煋蘭の攻撃パターンに慣れてきて、その攻撃を右足で防いだ。続いて煋蘭は拳を鳩尾めがけて振る。大輔は拳が当たる場所へ気を集めて受け止めて、煋蘭の袖と襟を掴み、身体を回し背負う様にして投げ飛ばした。ただの背負い投げではなく、気を使っているため、数メートル先へ飛ばされた煋蘭だったが、しっかりと着地し、
「やるではないか」
とほんの少し口元を緩ませた。大輔が気の使い方を徐々に身に着けて成長している事が嬉しかったのだろう。それからは、煋蘭も熱心に大輔を鍛え上げた。その結果、またもズタボロ、見るに堪えない無残な姿で倒れるのだった。
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