S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ

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第1部 第3章 心優しき魔法使い -海水淡水化装置-

第26話 嫌に決まってるでしょ♪

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「そもそもインチキじゃないのか。元が本当に海水だったか確かめてやる!」

 ボロミアは安全装置で魔力を遮断してから、樽の蓋を開けた。コップですくい、一気に口に含む。

「ぶふぅ! 海の味!?」

 盛大に海水を吹き出した。

 バカなのかな……。

「げほげほっ、くそお。なら、次は――」

「もうやめてくれないか」

 おれは見ていられなくて、一歩前に出た。

「なんだお前は!」

「ノエルの仕事仲間だよ。そんなことして、君は恥ずかしくないのか?」

「なにが恥ずかしいって言うんだ! ノエルにはもっと相応しい場所があるんだ。そこに連れて行くためなら、僕はなんだってするぞ! こんな下らない物を作ってるより、結婚して、学院に貢献するほうが何倍も――」

「想い人が作った物を、下らないと言うのか?」

 ボロミアは言葉を詰まらせた。

「君のやり方は卑怯だと思うけど、恋愛のやり方は人それぞれ自由だ。非難はしない。けど、君の想い人が精魂込めた物を、どうして下らないと言えるんだ? おれには、それがわからないよ」

「それは……」

「君はノエルのことが好きじゃないのか? なにをもって結婚を望んでいるんだ?」

「す、好きに決まってる! そっちこそ、ノエルのなにを知ってるんだ。僕は学院で何年も一緒だったんだぞ! ノエルの美貌も、才能も、なにもかもよく知ってるんだ! 知ってるから好きなんだ!」

「美貌や才能なら、知り合ったばかりのおれにだってわかるよ。他にはないのかい?」

「他にはって……」

「例えば、まず意外とよく食べる。健康的でいいと思う。それに人助けがしたいっていう夢が素敵だ。そのために努力してきたのも凄い。追われてるのに、いかにも魔法使いだっていう目立つ格好をやめずにいるのもいい。魔法の助けを求める人に見つかりやすくしてるんだ。信念を感じておれは好きだな。他にも――」

「ちょ、ちょっとやめてよ~……」

 なぜかノエルが真っ赤になって、突っついてくる。

「なんで?」

 その脇で、ソフィアが小さくため息をついた。ジト目になっている。

「とにかく、おれでさえこれくらい知ってるんだ。君が結婚を望むのもよくわかる。でも君が挙げたノエルの美点が、見た目と才能だけっていうのは、少し寂しくないかな」

「こ、言葉にできなかっただけだ! たくさんありすぎて!」

「本当かな? 君はノエルの表面だけ見て、内面を理解してないように思えるけど」

「そんなことはない! 僕のこの気持ちに、嘘なんてない!」

「なら教えてくれ。ノエルのどこに惹かれたんだ? なにかきっかけがあるんだろう?」

「それは……」

 ボロミアは深呼吸して興奮を抑え、思い出すようにポツポツと語る。

「ノエルが、助けてくれたんだ。僕がどうしてもわからない魔法理論があって悩んでたとき……派手な魔女の格好でいきなり現れて、理解するまで根気よく教えてくれたんだ。他にも、いじめられそうになったときに、味方してくれた……。僕にだけの態度じゃなかったみたいだけど……そんな人だから僕は……」

 おれは安堵の息をついた。

「良かった。君はちゃんとノエルが好きなんだな」

「だから、そうだって言ってる」

「でもそうなら、今のノエルをちゃんと見るんだ。学院時代と同じことを、学院から飛び出してやっているだけなんだよ。今回の装置を作ったのだって、そうだ。これを下らないと言うのは、君が好きになったノエルを否定することになる」

「……!」

 ボロミアは、初めて気づいたとばかりに息を呑んだ。

 やがてボロミアは無言のまま肩を落とす。

「僕は……バカだ。祖父や父に言われるまま、自分を見失ってた……」

「でも見下げ果てるほどでもない」

 ボロミアは涙目で顔を上げる。

「情熱のまま突っ走るのはおれも好きだからね。方向性は間違ってたけど、ノエルのためならなんだってするってのも気に入ったよ。実際、人任せにせず、自分で追いかけてるみたいだし。ちゃんと話せば間違いにも気づける。これから、見込みがあると思うな」

「え、褒められた? え、ありがとう」

 それから、ボロミアは姿勢を正した。あらためてノエルへ向き直り、頭を下げる。

「ノエル、すまなかった。これまでのこと、すべて謝罪する。でも君を想う気持ちも、君のためになんでもするという言葉にも嘘はない。これから全部改める。だから、僕たちの関係のことを、少しでもいい、考え直してくれないか」

 その真っ直ぐな姿勢に、おれは微笑んだ。ソフィアも感心していた。オクトバーもうんうん、と頷いていた。

 そしてノエルも、微笑んだ。

「嫌に決まってるでしょ♪」
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