S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ

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第1部 第3章 心優しき魔法使い -海水淡水化装置-

第25話 残念ね~、ざまあみろ~♪

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 装置は期日までに無事に完成した。

 おれたちは作業場にしていた倉庫に、契約していた海運会社の担当者を招き、装置の説明と実演をすることになったのだが……。

「ちょっと、なんであなたが来てるのよ! 関係ないじゃない!」

 招かねざる客が、海運会社の人間と一緒にやってきたのだ。

「ははは、関係ならあるさ。君は失敗したら違約金を払わなきゃならないんだろう? でも君はそんなお金は持ってない。そこでこの僕が肩代わりしてあげようと思って、わざわざ来たんだよ」

 細身でメガネをかけた青年だった。ノエルのストーカーと見て間違いない。

 その背後には、彼の護衛と思わしき男がいる。先日、ショウとソフィアを尾けていた男だ。

「う~、オクトバーさん……」

 ノエルは海運会社の担当者、オクトバーに恨めしそうに目を向ける。

「いや申し訳ない。返すアテのないあなたに借金をさせるよりは、返ってくるアテのあるほうを選ばねばならなかったもので」

「会社としてはそれが正しいんでしょうけど……よりによって、ボロミアになんて」

「ふふふ、うちへの借金は心配しなくていいよ。働き口も用意してあるんだ。学院の講師さ。僕の妻として、一緒に学院をより良くしていこうじゃないか」

 ノエルは汚物を見るような目でボロミアを一瞥すると、すぐ背中を向けた。

「ふん、いいわ。どうせ思い通りになんかならないんだから」

「そうです、ノエルさん。わたしたちの装置は、完璧です」

 ソフィアの励ましで、ノエルに笑顔が戻る。

「うん、よっし! 見せてあげましょうか!」

 ノエルは装置にかけてあった布を取り、全容を露わにする。

「さあ、これがアタシたちの海水淡水化装置よ!」

 ひと目見て、ボロミアは狼狽えた。

「なんで形になってるんだ? おい、彼女らは材料ひとつ買えないんじゃなかったのか?」

 護衛の男に食ってかかる。

 護衛は、おれのほうに視線を向けた。

「どうやら甘く見ていたようです」

「はぁ? なんだよそれ、ちゃんと仕事しろよな!」

「申し訳ありません」

「ちょっと、静かにしてよ外野! これからオクトバーさんに説明するんだから」

 ノエルに怒られて、ボロミアはしぶしぶ口をつぐむ。

 ノエルはオクトバーに装置の仕様を説明した。それから装置の実演に入る。

「ではでは樽の中の海水が、飲み水に変わるさまをご覧あれ~♪」

 ノエルは意気揚々と装置の安全装置を外して、魔力石と魔力回路を接続する。

 魔法が発動。ろ過器の最後のガラス管に魔力の膜が生成される。樽の中では順調に圧力が高まり、海水が押し上げられ、ガラスの水管を通っていく。

 ろ過器に到達した海水は、それぞれ容器に入った小石、砂、そして魔力膜を通って透き通った水になり、事前に置いておいたコップに注がれる。ふたつある出口のもう一方からは、塩分の濃縮された海水が排出される。

 一分ほどでコップ一杯分が溜まる。べつのコップに置き換えて、ノエルはろ過水の入ったコップをオクトバーへ手渡した。

「さあ、飲んでみてオクトバーさん」

 コップを受け取ったオクトバーは、まず舌先で味を確かめ、それから一気に喉を鳴らして飲み干した。

「これは……これは凄い! 海水がこんなにも早く飲めるようになるなんて!」

「そうでしょう、そうでしょう♪」

「一週間前は、正直なところただの詐欺だと思っていたが……いや、これは素晴らしい。航海中にいくらでも飲み水が確保できる。本当に素晴らしい発明ですぞ、これは!」

 オクトバーは感激してノエルに握手を求める。握手を受けたノエルの手を、両手で包んでしまうほどに喜んでいる。

 それも無理はない。

 船に水を大量に積み込んでいっても、すぐに腐って飲めなくなってしまう。雨水を収集するタンクを船に搭載しているが、それでも賄いきれない。そこで多くの場合、腐りにくい酒類を大量に積み込んでいる。

 しかしおれのように酒が体質的に合わない人間も少なくはない。仮に酒に強い人間でも、酔って船上で騒乱を起こすこともある。

 また、嵐などで航路を外れてしまった場合、どこかの港に寄港して補給する計画も崩れてしまう。わずかな雨水で全員の渇きをしのげるわけもない。

 海水を蒸留する手段もあるにはあるが、海上では燃料が限られる上に、蒸留には時間がかかる。おまけに一歩間違えたら火災になる。

 これらの問題を、一挙に解決できるのだ。

「ありがとう。海水淡水化装置、確かに受領いたします。本当にありがとう」

 オクトバーの口調が、いつの間にか敬語になっている。

「ちょちょちょ、ちょっと待ってくれ!」

 ボロミアが声を上げてオクトバーに突っかかる。

「僕との約束はどうなるんだ!? あんたが受領しちゃったら、ノエルは借金を背負わなくなっちゃうじゃないか!」

「そりゃそうでしょう。約束はの話なんですから」

 ノエルは胸を張って「ふふん」とボロミアを鼻で笑う。

「色々やってたみたいだけど残念ね~、ざまあみろ~♪」

 ボロミアはノエルを見て、すぐオクトバーに唾を飛ばす。

「くぅうっ! なら訂正しろ、これは失敗作だ!」

「あんたなに言ってんです。こんな素晴らしい装置を失敗作だなんてとんでもない」

「だったら僕が、失敗作だって証明してやる! 装置を検めさせてもらうからな!」
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