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第2部 第5章 ささやかな休暇 -鋼繊維-

第124話 お嫁さんなら、わたしがなってあげるのに!

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「聖女さまって、バーンのこと好きだよね?」

「ぶっ!?」

 レジーナに急に言われて、バーンは飲んでいた水を噴き出してしまった。

「バーン、汚ーい」

「いやお前、滅多なこと言うんじゃねえよっ」

 熱心なスートリア信徒にでも聞かれたら、ひどい絡まれ方をするに決まっている。

 バーンは慌てて周囲を見渡す。特に誰からも睨まれていないことを確認して安堵した。

「えー、でも会いに来るとき嬉しそうだし、会いに来れないときも手紙くれてるでしょ? みんな宛とバーン宛の二通」

「なんで二通あるって知ってんだよ……」

 直近の手紙は、つい数日前に届いた。

 シオンが手配してくれた物資が、たっぷり馬車十台分も届けられた。その中に同梱されていたのだ。

 相変わらず元気で、トラブルもなくシオンたちと旅を続けられているらしい。リリベル村に到着したら、少し落ち着く予定だとか。他にも楽しかったことや、感動したことなど、個人的な内容が書かれていた。

 親愛の情を感じる文面に、バーンは読んでいて嬉しくなったものだ。

 もちろん返事は書いて、リリベル村へ送った。

 診療所に戻ったバーンたちが、さっそく魔物素材を使った義肢を試作してみたこと。

 魔物素材の使い方をエルウッドから習い、【クラフト】で形にした。患者の体格や要望に合わせて調整を繰り返し、その人にとって一番の義肢を作り上げていった。

 一部の患者は、魔物に対する否定的な感情から、身につけることを拒否した。

 しかし、そこにこだわらない患者たちからは、資材が不足している現状もあって、積極的に魔物素材の義肢を求める声が上がった。

 むしろ通常の素材よりも軽く強いことから好評で、シオンからの物資が届いてからも、魔物素材の義肢を希望する患者もいるくらいだった。

 ラウラの魔法教室も好評で、手足を失う前の生活に少しでも近づけようと毎日、たくさんの患者が参加してくれていることも。

 あと最近、前線から送られてくる負傷兵の数が減って、前ほど忙しくなくなったこと。今は、少しは休みが取れるようになった。

 シオンたちに向けての手紙には、物資手配のお礼もと共に、以上のようなことをしたためた。それとは別に、セシリー宛に個人的な手紙を送っているが、それは誰にも言っていない。

「バーンも、聖女さまだけにお手紙書いてたよね?」

「いやだから、なんで知ってるんだよ」

「へー、本当に書いてたんだー」

「か、カマかけたのか、レジーナ」

「バーンも、聖女さまのこと好きなの?」

「だから滅多なこと言うなって! 俺と聖女様じゃ釣り合わねえだろ。ありえねえよ!」

「ふぅん、そうなんだー」

 レジーナは椅子の上で足をぶらぶらさせながら、にこにこと笑顔になる。

 そのやり取りに、トーマス医師は楽しげに声を上げる。

「しかし本当に気があるかはともかく、釣り合わないことはないんじゃないかい?」

「おいおい、トーマスさんまでなに言い出すんだ」

「S級の魔物を瞬殺して聖女様のお命を救い、さらにさらわれた聖女様の救出に一役買ってるそうじゃないか。それに、その聖女様でも救えないと挫けていた人々を、君は現在進行系で救っている。うん、なかなか釣り合いの取れた英雄だと思うな」

「いやそれは全部、人からもらった力があってこそで……」

「聖女様も、似たようなことを言っていたよ。自分のやったことも、権威やらなにやらも、すべて神からもらった力があってこそだ……ってね」

 バーンは思わず、別れ際のセシリーを思い出す。

 たまにだけでも普通でいたいと言った意味が、なんとなくわかってしまう。

 自分のものではない力で、不当に評価されてしまっていると感じているのだ。

「……俺たちは、似た者同士だったのか……?」

 無性に、会って話がしたくなってしまう。今なら、これまでとは違う話ができそうだ。

「むー、バーン。やっぱり聖女さまのこと気になるんだ。お嫁さんなら、わたしがなってあげるのに!」

「なにぃ?」

「はぁ?」

 バーンが驚いたのとほぼ同時。魔法教室を終えたラウラが、休憩室に入る直前で困惑の声を上げた。

 その表情は、ゆっくりと苦笑に変わる。視線は冷たくなる。

「あー、はいはい。お嫁さんねー。アリーの言ってたやつかー……。幼い頃から相手を育てるやつかー……。こうなっちゃったの、あたしのせいなのかなぁ……」

 そのまま部屋に入らず、ぶつぶつ呟きながら立ち去っていく。

「いや待て、違う! 誤解だ! 本当に誤解だ、勘弁してくれ!」

 慌てて追ったバーンは、残りの休憩時間をすべて費やして誤解を解くのだった。
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