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第二幕
2.インチキおじさん、登場②
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庄助は、大きなあくびをした。昨日も夜遅くまで景虎に抱かれていたため、眠かった。
さすがに毎日とまではいかないまでも、最近は週に3回以上は求められるようになってきて、さすがに身体が辛い。
景虎の無尽蔵な体力と精力に、慢性的に疲れ果ててしまい、最近は筋トレもできていない。庄助が通販で買った腹筋ローラーは、今や部屋のオブジェと化している。
あいつに付き合っとったらそのうち死んでまう。
重だるい首を回すと、ぱきっと音が鳴った。そのまま伸びをしようと腕を上げたところで、庄助を呼ぶ声がした。
「庄助ちゃあん。良かった、まだいたのねぇ」
「アリマのおばーちゃん!」
向こうの廊下に、背の小さな老女が立っている。庄助は横着にも、背伸びをしながら手を振った。アリマ老人はニコニコと笑い、手すり伝いに庄助の座るテーブルまで来ると、手に持った小さなクラフト紙の紙袋を差し出した。
「庄助ちゃん、いつ来るかなと思ってね。いっぱい作ってたのよ」
中にはニットで編んだコースター数枚、ワンシーズン前の戦隊キャラが印刷された布のポケットティッシュカバー、ちりめん素材のラッコのぬいぐるみキーホルダーなど、いずれも手作りのものが入っていた。
「わ! すごいやんおばーちゃん、腕を上げたんちゃうか」
丁寧に作られた暖かみのある品々に、庄助は感嘆の声を上げた。
還付金詐欺の件でアリマを助けてからずっと、彼女は庄助に恩を感じているようだった。
御礼の品だと言って事務所に送られてきた箱の中には、百貨店のお菓子の他に、彼女の手作りの品が何点か入っていた。趣味だという。
「迷惑かなって思うんだけど、誰かに受け取ってほしくて」
「全然迷惑じゃないで! コースターとか事務所でお茶出すとき普通に使うし。あ、このラッコのキーホルダーとか俺の相方が……あー、喜ぶと思う」
庄助は、ちりめん素材のラッコを手にとってみせた。タバコの箱ほどの大きさで、キーホルダーにしては着けにくい気がする。
「あらそうなの? 庄助ちゃんの相方ってあの背の高い……遠藤さんって言ったかしら? ふふ、仲が良いのねえ。でもそれは庄助ちゃんに作ったのよぉ」
アリマははにかんだように笑って、作ったものをひとつひとつ、庄助に説明してくれた。
庄助はふと何かの折に、景虎のことを思い出してしまう自分が厭だった。
一緒に過ごすうちに、そこにいて当たり前のような存在になっている。まるで家族みたいに。
おかしな話だと思う。そもそも自分らの関係はなんなのだと。
相棒だとはいうが、実際に景虎の仕事に連れて行ってもらったことはほぼない。
営業の仕事の収入は、国枝にピンハネされて小遣い程度しか残らない。家賃も生活費のほとんども景虎に払って居候させてもらっている現状は、本当に飼い主とペットのような関係性に近い。
本当に景虎と対等でいるためには、庄助もヤクザとして出世しなければならないだろう。
でも、どうやって?
普段あまり深く思考することがない庄助は、悩むのが苦手だ。たくさんのお土産が入った紙袋を抱えて、職員用出入口のドアを開ける頃には、今日はどこで買い物して帰ろうかなどと、早くも散漫になり始めていた。
さすがに毎日とまではいかないまでも、最近は週に3回以上は求められるようになってきて、さすがに身体が辛い。
景虎の無尽蔵な体力と精力に、慢性的に疲れ果ててしまい、最近は筋トレもできていない。庄助が通販で買った腹筋ローラーは、今や部屋のオブジェと化している。
あいつに付き合っとったらそのうち死んでまう。
重だるい首を回すと、ぱきっと音が鳴った。そのまま伸びをしようと腕を上げたところで、庄助を呼ぶ声がした。
「庄助ちゃあん。良かった、まだいたのねぇ」
「アリマのおばーちゃん!」
向こうの廊下に、背の小さな老女が立っている。庄助は横着にも、背伸びをしながら手を振った。アリマ老人はニコニコと笑い、手すり伝いに庄助の座るテーブルまで来ると、手に持った小さなクラフト紙の紙袋を差し出した。
「庄助ちゃん、いつ来るかなと思ってね。いっぱい作ってたのよ」
中にはニットで編んだコースター数枚、ワンシーズン前の戦隊キャラが印刷された布のポケットティッシュカバー、ちりめん素材のラッコのぬいぐるみキーホルダーなど、いずれも手作りのものが入っていた。
「わ! すごいやんおばーちゃん、腕を上げたんちゃうか」
丁寧に作られた暖かみのある品々に、庄助は感嘆の声を上げた。
還付金詐欺の件でアリマを助けてからずっと、彼女は庄助に恩を感じているようだった。
御礼の品だと言って事務所に送られてきた箱の中には、百貨店のお菓子の他に、彼女の手作りの品が何点か入っていた。趣味だという。
「迷惑かなって思うんだけど、誰かに受け取ってほしくて」
「全然迷惑じゃないで! コースターとか事務所でお茶出すとき普通に使うし。あ、このラッコのキーホルダーとか俺の相方が……あー、喜ぶと思う」
庄助は、ちりめん素材のラッコを手にとってみせた。タバコの箱ほどの大きさで、キーホルダーにしては着けにくい気がする。
「あらそうなの? 庄助ちゃんの相方ってあの背の高い……遠藤さんって言ったかしら? ふふ、仲が良いのねえ。でもそれは庄助ちゃんに作ったのよぉ」
アリマははにかんだように笑って、作ったものをひとつひとつ、庄助に説明してくれた。
庄助はふと何かの折に、景虎のことを思い出してしまう自分が厭だった。
一緒に過ごすうちに、そこにいて当たり前のような存在になっている。まるで家族みたいに。
おかしな話だと思う。そもそも自分らの関係はなんなのだと。
相棒だとはいうが、実際に景虎の仕事に連れて行ってもらったことはほぼない。
営業の仕事の収入は、国枝にピンハネされて小遣い程度しか残らない。家賃も生活費のほとんども景虎に払って居候させてもらっている現状は、本当に飼い主とペットのような関係性に近い。
本当に景虎と対等でいるためには、庄助もヤクザとして出世しなければならないだろう。
でも、どうやって?
普段あまり深く思考することがない庄助は、悩むのが苦手だ。たくさんのお土産が入った紙袋を抱えて、職員用出入口のドアを開ける頃には、今日はどこで買い物して帰ろうかなどと、早くも散漫になり始めていた。
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