一度目の人生は散々だったので、二度目の人生をやり直させて頂きます

七宮 ゆえ

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一章

プロローグ

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 その日、シルバート王国でとても大きな、それこそ国中を巻き込んだ内乱が発生した。

「殿下、早くここから逃げてくれ!!」
「そんなの嫌!!あなたをここで見捨てろっていうの!?」

 城の中にはあちこちに怒涛の声が響き渡る。内乱は、王宮をも巻き込んでいたのである。
そんな中、とある一室に一人の少女と一人の青年がいた。
青年は、少女を——王族である私を逃がそうとしてくれていた。

「殿下、貴女はまだ生きなくてはならない。だから、俺のことは……」
「駄目!あなたまで死ぬ必要なんて無いのよ!?これはわたし達王家の問題。それに巻き込まれたのはあなたの方なのに、なんで……!?」

    私だけを逃がそうとする彼に、しかし私は首を振る。逃げるなら一緒に、と私は必死に彼を説得させようとした。
   けれども、どれだけ私が必死に言い募ろうとも彼は首を縦に振ることはなかった。ただ、そこで私を安心させるように微笑んでいたのだった。
それはそうだ。彼は私の護衛騎士なのだから私の安全を最優先させることは正しいことなのである。
私は分かっているのだ。彼と一緒に逃げても安全であるはずがないことを。一緒に逃げるというのなら、まだ彼がここに残って私が逃げる時間を稼いでいた方が私の安全が確保されるということを。
でも、それでも私は彼をこの場に置いてなんて行きたくなかった。


「いや、いやよ!!あなたも一緒に逃げるのよ……!!」

 彼へと必死に手を伸ばす。
   でも、それでも彼はその手を取らない。取ろうとはしない。

「なんで……どうして……?」

 次第に私の瞳からは涙が溢れ出てきた。
 もう少しで届きそうなのに、届かない。泣き叫んで、彼の名前を呼んで。    
   それでも彼はその場から一歩も動かなかった。

「大丈夫。殿下なら一人で逃げきれる」

 そう言って彼は微かに笑っていた。
    そうこうしているうちに、扉の外からは複数の足音が聞こえてくるようになっていた。きっと継承権を持つ私を殺しに来たのだろう。
    誰の派閥の者が来たのかしら……と心の奥底の冷静な部分がそんなことを思った。

「さあ殿下、行くんだ」
「……わたしは、あなたも一緒じゃなきゃ嫌よ」
「殿下……」
    
    止まらない涙をなんとか推しとどめようと手の甲で拭いながら彼を見つめる。
    お願いだから、私の手を取って。私のために犠牲になろうとなんてしないで。
    そんな思いを込めて、私は彼を真っ直ぐに見つめた。

「あなたまでいなくなるなんてそんなの耐えられないの。お願い、お願いよ……私はあなたにまで死んで欲しくないの……」

 脳裏に過去の記憶が過る。人が、私の大切な人が知らぬ誰かの手によって殺された、その瞬間のことが。
    怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
    私はもう、大切な人を喪いたくなんてないのに。

「お願いだから、私と一緒に逃げて」
「……すまない、殿下」

 少しの沈黙の後にそう告げた彼の表情は、固く揺るぎのない。
    私は、そういう彼が好きだった。大好きだった。けれども今は、それが何よりも悲しかった。
 その時、扉が激しく震えた。ガチャガチャと外側から鍵を壊そうとしていることがわかる。

「っ!!」
「殿下、はやく!!」

 一瞬迷ったものの、私は覚悟を決めて隠し通路へと足を踏み入れる。
 そして、そこで彼を振り返った。

「一緒に逃げられないというなら、絶対に生きて。約束して!」
「……約束する。絶対に、必ず俺はもう一度殿下に会いに行くって、約束するよ」
    
    約束すると、そう言ってくれた。一緒に逃げられなくとも、そう約束してくれたことが私には嬉しかった。
 そして強く頷く彼を見届けた私は、そのまま急いで通路の中へと入っていった。




 どれくらい走っただろう。薄暗いその道は、時間の感覚を忘れさせる。

「っ!!」

 その途中で私は足を縺れさせて転んでしまった。
 それでも私は必死に走った。ここから抜け出すために。彼にもう一度会うために。
 震える足を叱咤しながら私は走り続けた。
 そして、とうとう出口が見えてくる。一筋の光が私を導いてくれる。

「はぁ、はぁ、」

 喉の奥はカラカラに乾いて、咳をするたびに喉が痛かった。でも、それでも今は構わない。
 早く、早く外へ……!!
 光が一層近付いてくる。
 もう少し、あともう一歩……!!
 そうして、私は出口に出ようとしたその瞬間。

「っきゃぁぁぁぁぁ!!」

 背筋に酷く鋭い痛みが走った。
 力が入らなくなる。
 私はなすすべがないまま前へと倒れ込んでしまった。

「な、に……?」

 何が起こったのか私は初め理解できなかった。
 なんで、どうして周りは赤くなっているの?私はどうして倒れているの?
 ひたすら疑問符を浮かべ、何が何だか分からなくなっていた私は、目の前に現れた人物によって全てを理解した。
 何故ならそこには———

「殿下、先ほどぶりですね」

 彼が紅に染まった剣を片手に持って佇んでいたからだ。
 私は愕然として彼を見つめた。
 視線の先にいる彼は、その瞳になんの感情も写すことなく、ただその場で私を見下ろしている。
 私はどうしようもない苦痛に顔を歪めた。
   何かを喋ろうとすると、鋭い痛みが走った。
 それでも私はその痛みになんとか耐えながら彼に問いかけた。

「ど……う、して…?」

 しかし、彼は何も答えてはくれなかった。
 無表情のまま、何の感情も写すことのないその瞳で私を見つめ返してくる。
 私は絶望した。酷い虚無感に襲われる。
 信じていたのに。一番、信じていたのに……
 それなのに、私は裏切られたの?
 なんでと問い詰めたかった。
 けれども私はもうそれが出来なかった。
 視界がじわじわと黒く塗りつぶされていく。
 次第に力が抜けてゆき、私は自分が作り出した鮮やかに散っていた紅色の血の海へと身を沈めていった。
 濃厚な血の匂いが鼻孔をくすぐる。

「———殿下……ミルフィ……ごめん」

 私が完全に意識が無くなるその寸前。
 彼の悲観と悲哀と後悔の念が混ざり合ったような、そんな声が私の耳元で聞こえたような気がした。






 そうして私はその日、信じていた人の手によってこの世を去ることとなった。
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