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一章
8.王子の密告
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「今日から殿下の護衛騎士として配属されることとなったアルベルトです。よろしくお願いします」
「ええ。よろしくね、アルベルト」
その翌日。早速ミルフィの元にアルベルトが配属されることになった。
少しだけ前回が懐かしいと感じながらもミルフィは王女としての笑みをその顔に貼り付けて頷いた。
「早速なのだけれど、わたしは今から私用でレオンハルトお兄様の元へ行かなくてはならないの。付き合ってくれるかしら?」
「レオンハルト殿下、ですか……?」
ミルフィの言葉にアルベルトは少しだけ困惑したような声音で訊き返した。
「そうよ。話があるんですって。……ああ、そういえば貴方とお兄様は学園時代の友人だったわね」
思い出したようにミルフィが言う。
その言葉にアルベルトは頷いた。
「よく存じておりましたね」
「……お兄様がよく話していたから」
その言葉は半分本当で半分嘘だった。
(前回からとっくに知っていることだけれどね……)
ミルフィは僅かに目を細めた。
アルベルトはその時のミルフィのほんの少しの変化に目敏く気が付く。
(なんだ……?)
他の人から見ればミルフィのその表情は、ただ昔の思い出にほんの少しだけ浸っていただけのように感じたことだろう。
しかし、アルベルトにはミルフィのその表情に僅かな違和感を感じたのだ。
しかしすぐに考えるのを止める。
先日知り合ったばかりの相手の心の内なんて分かるはずがないからだ。
微かに首を振って思考を中断させると、自分を複雑そうに見つめてくるミルフィの視線に気が付いた。
「……どうかしましたか?」
そう尋ねたアルベルトにミルフィは一瞬躊躇してから口を開いた。
「……ねえ、わたしに向かって敬語で話すのやめてくれないかしら?」
言いづらそうな表情で告げた言葉にアルベルトは目を見開いて、そして固まった。
「……はい?」
暫く考えて、そしてミルフィの口から紡がれた言葉の意味を完全に理解したアルベルトは困惑した表情を浮かべた。
「殿下、流石にそれは……」
「敬語を使われるの、あまり好きではないのよ」
断ろうとしたアルベルトの声を自身の言葉によって無理やり遮断する。
(それに、アルトに敬語を使われるとどうしても違和感しか感じないんだもの)
ミルフィがじっとアルベルトを見つめる。
アルベルトはいくらなんでも、と反論しようとするも、ミルフィの無言の圧力に気圧され、口を噤んでしまう。
それから暫くして、諦めたように溜め息混じりの声を発した。
「……分かった。殿下が望むなら敬語は使わないことにする」
「そうして頂戴」
その言葉に満足そうに頷いてから、ミルフィは椅子から立ち上がる。
「今からレオンハルトお兄様の部屋に行くわよ」
* * *
「昨日ぶりだね、ミルフィ」
「そうね、お兄様」
レオンハルトの部屋に辿り着くと、本人が出迎えてくれた。
「メイドは?」
「先に人払いを済ませておいたんだ」
その言葉にあら、そう。と頷いてミルフィは通された部屋へ我が物顔で入っていった。
その姿に苦笑しながらレオンハルトも中に入ろうとしてピタリと足を止める。そしてミルフィに付き添ってきたアルベルトへと向き直り、そして視線を交わらせた。
「それにしても、意外だな。お前がミルフィの護衛騎士になるなんて」
「陛下のご命令です」
「そうかそうか。まあ、お前は中立派だし余計な波風が立たなくて済む。そして何より真面目で誠実だ。親父殿も的確な判断をしたものだ」
うんうんと満足そうに頷きながらレオンハルトはアルベルトの肩に手をポンっと乗せる。
「ま、頑張ってミルフィに支えて、守ってやってくれ」
「勿論です」
アルベルトの返事を聞くと、途端にレオンハルトは顔を歪ませた。
「……お前なぁ、その話し方どうにかならないのか?昔みたいに話してくれて全然構わない……いや寧ろそうしてくれた方がありがたいんだが」
「そう言われても……」
レオンハルトの言葉にそういう訳にはいかないだろうと内心でアルベルトは呆れ果てた。
この人は王族のくせに、肝心の王族としての常識をあまりにも気にしなさすぎている。
しかし、そんなアルベルトの思いに気が付いているであろうレオンハルトは、そんなことをお構い無しに笑って言った。
「堅苦しい言葉遣いは嫌いだってことお前ならよく知ってるだろう?因みにこれは命令だからな」
レオンハルトはそう言ってさっさと部屋の中へと入っていってしまった。その後ろ姿を見てアルベルトは思わず苦笑してしまう。
(殿下達は兄弟だな。言っていることが同じだ)
「アルベルト、貴方もこっちに来なさい」
ミルフィに呼ばれ、アルベルトは扉を閉めてから自らも部屋の奥へと足を踏み入れた。
「それで、話って?」
ミルフィはレオンハルトが椅子に座るのを確認すると、さっさと本題に入ろるように促した。
「まあ、そう急かすなよ」
レオンハルトがゆったりと寛ぎながらそう言うと、途端に睨みつけられる。
「わたしはまだ仕事が残っているの。書類の仕分けと処理が山のようにあるのよ?貴方がとても重要で大事な話があるというからこうして足を運んだのに、大した用事じゃないのなら今すぐ部屋に戻るわ」
そう言ってさっさと自室へ戻ろうとするミルフィにレオンハルトは本当にいいのか?と笑った。
「聞かなかったらお前は後悔すると思うぞ?」
「……どういうことかしら?」
浮かしていた腰を再び下ろし、カップに手を添えながらレオンハルトを見やる。
「これは、絶対に他の誰にも言うんじゃないぞ?それを守れないのなら俺からは何も話すことはない」
どうする?といいたげな視線とともに紡がれた言葉に、ミルフィは真剣な表情を浮かべる。
「誰にも言わないわ」
そう言ってちらりと自分の後ろで静かに立っていたアルベルトを見る。席を外すように、と口を開きかけてレオンハルトに止められた。
「いや、アルベルトもここにいてくれて構わない」
それなら、とミルフィは視線を再びレオンハルトに戻した。
「それで?何かあったのかしら」
「ああ。大ありだな。実は最近妙な情報を掴んだんだ」
そして、レオンハルトはミルフィを真っ直ぐ見つめる。ミルフィの反応を楽しむかのような、それでいてどこか見極めるような視線で。
「———ローネイン公爵家の、な」
「ええ。よろしくね、アルベルト」
その翌日。早速ミルフィの元にアルベルトが配属されることになった。
少しだけ前回が懐かしいと感じながらもミルフィは王女としての笑みをその顔に貼り付けて頷いた。
「早速なのだけれど、わたしは今から私用でレオンハルトお兄様の元へ行かなくてはならないの。付き合ってくれるかしら?」
「レオンハルト殿下、ですか……?」
ミルフィの言葉にアルベルトは少しだけ困惑したような声音で訊き返した。
「そうよ。話があるんですって。……ああ、そういえば貴方とお兄様は学園時代の友人だったわね」
思い出したようにミルフィが言う。
その言葉にアルベルトは頷いた。
「よく存じておりましたね」
「……お兄様がよく話していたから」
その言葉は半分本当で半分嘘だった。
(前回からとっくに知っていることだけれどね……)
ミルフィは僅かに目を細めた。
アルベルトはその時のミルフィのほんの少しの変化に目敏く気が付く。
(なんだ……?)
他の人から見ればミルフィのその表情は、ただ昔の思い出にほんの少しだけ浸っていただけのように感じたことだろう。
しかし、アルベルトにはミルフィのその表情に僅かな違和感を感じたのだ。
しかしすぐに考えるのを止める。
先日知り合ったばかりの相手の心の内なんて分かるはずがないからだ。
微かに首を振って思考を中断させると、自分を複雑そうに見つめてくるミルフィの視線に気が付いた。
「……どうかしましたか?」
そう尋ねたアルベルトにミルフィは一瞬躊躇してから口を開いた。
「……ねえ、わたしに向かって敬語で話すのやめてくれないかしら?」
言いづらそうな表情で告げた言葉にアルベルトは目を見開いて、そして固まった。
「……はい?」
暫く考えて、そしてミルフィの口から紡がれた言葉の意味を完全に理解したアルベルトは困惑した表情を浮かべた。
「殿下、流石にそれは……」
「敬語を使われるの、あまり好きではないのよ」
断ろうとしたアルベルトの声を自身の言葉によって無理やり遮断する。
(それに、アルトに敬語を使われるとどうしても違和感しか感じないんだもの)
ミルフィがじっとアルベルトを見つめる。
アルベルトはいくらなんでも、と反論しようとするも、ミルフィの無言の圧力に気圧され、口を噤んでしまう。
それから暫くして、諦めたように溜め息混じりの声を発した。
「……分かった。殿下が望むなら敬語は使わないことにする」
「そうして頂戴」
その言葉に満足そうに頷いてから、ミルフィは椅子から立ち上がる。
「今からレオンハルトお兄様の部屋に行くわよ」
* * *
「昨日ぶりだね、ミルフィ」
「そうね、お兄様」
レオンハルトの部屋に辿り着くと、本人が出迎えてくれた。
「メイドは?」
「先に人払いを済ませておいたんだ」
その言葉にあら、そう。と頷いてミルフィは通された部屋へ我が物顔で入っていった。
その姿に苦笑しながらレオンハルトも中に入ろうとしてピタリと足を止める。そしてミルフィに付き添ってきたアルベルトへと向き直り、そして視線を交わらせた。
「それにしても、意外だな。お前がミルフィの護衛騎士になるなんて」
「陛下のご命令です」
「そうかそうか。まあ、お前は中立派だし余計な波風が立たなくて済む。そして何より真面目で誠実だ。親父殿も的確な判断をしたものだ」
うんうんと満足そうに頷きながらレオンハルトはアルベルトの肩に手をポンっと乗せる。
「ま、頑張ってミルフィに支えて、守ってやってくれ」
「勿論です」
アルベルトの返事を聞くと、途端にレオンハルトは顔を歪ませた。
「……お前なぁ、その話し方どうにかならないのか?昔みたいに話してくれて全然構わない……いや寧ろそうしてくれた方がありがたいんだが」
「そう言われても……」
レオンハルトの言葉にそういう訳にはいかないだろうと内心でアルベルトは呆れ果てた。
この人は王族のくせに、肝心の王族としての常識をあまりにも気にしなさすぎている。
しかし、そんなアルベルトの思いに気が付いているであろうレオンハルトは、そんなことをお構い無しに笑って言った。
「堅苦しい言葉遣いは嫌いだってことお前ならよく知ってるだろう?因みにこれは命令だからな」
レオンハルトはそう言ってさっさと部屋の中へと入っていってしまった。その後ろ姿を見てアルベルトは思わず苦笑してしまう。
(殿下達は兄弟だな。言っていることが同じだ)
「アルベルト、貴方もこっちに来なさい」
ミルフィに呼ばれ、アルベルトは扉を閉めてから自らも部屋の奥へと足を踏み入れた。
「それで、話って?」
ミルフィはレオンハルトが椅子に座るのを確認すると、さっさと本題に入ろるように促した。
「まあ、そう急かすなよ」
レオンハルトがゆったりと寛ぎながらそう言うと、途端に睨みつけられる。
「わたしはまだ仕事が残っているの。書類の仕分けと処理が山のようにあるのよ?貴方がとても重要で大事な話があるというからこうして足を運んだのに、大した用事じゃないのなら今すぐ部屋に戻るわ」
そう言ってさっさと自室へ戻ろうとするミルフィにレオンハルトは本当にいいのか?と笑った。
「聞かなかったらお前は後悔すると思うぞ?」
「……どういうことかしら?」
浮かしていた腰を再び下ろし、カップに手を添えながらレオンハルトを見やる。
「これは、絶対に他の誰にも言うんじゃないぞ?それを守れないのなら俺からは何も話すことはない」
どうする?といいたげな視線とともに紡がれた言葉に、ミルフィは真剣な表情を浮かべる。
「誰にも言わないわ」
そう言ってちらりと自分の後ろで静かに立っていたアルベルトを見る。席を外すように、と口を開きかけてレオンハルトに止められた。
「いや、アルベルトもここにいてくれて構わない」
それなら、とミルフィは視線を再びレオンハルトに戻した。
「それで?何かあったのかしら」
「ああ。大ありだな。実は最近妙な情報を掴んだんだ」
そして、レオンハルトはミルフィを真っ直ぐ見つめる。ミルフィの反応を楽しむかのような、それでいてどこか見極めるような視線で。
「———ローネイン公爵家の、な」
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