一度目の人生は散々だったので、二度目の人生をやり直させて頂きます

七宮 ゆえ

文字の大きさ
33 / 42
一章

32.エメルリーズ領の現状4

しおりを挟む
「……何故ここにユンカー殿が?」

 アルベルトは最もな疑問を口にする。それもそうだろう、これからミルフィ達が向かう先がエルメリーズ領なのだ。それも、ハーバル帝国との繋がりの証拠を探すためのようなもの。
 それなのに、その当主がこちらにいるのだ。
 フェリクス達の報告で、エルメリーズ辺境伯はその地位を奪われている可能性が高いということを聞いていた。それならばユンカーはその地位を利用させられるために何処かに監禁されていると考えていたのだ。
 それなのに、これは一体全体どういうことなのだろうか。

「そうね、説明すれば大して長くも難しくもない事情があるのよ」

 アルベルトの疑問に頷きつつ、ミルフィはその後の説明をユンカーにするように視線を向けて促した。
 その視線の意味を的確に把握すると、ユンカーが軽く頷いてから、それでは私から大まかな事情を話しましょうかと口付けていたカップをソーサーの上に置いた。

「元々、私は国王陛下からミルフィリアス殿下の補佐をするようにと言伝を受け取っておりました。王位継承権第一位であられる殿下には、他にも執務やら公務やら、沢山のことを同時にこなさなくてはならないので、流石に一人だけでは領地のことまでにそこまで関わることができないと判断したからでしょう。実際殿下はとても忙しく、領地のことまで全てやろうとすると手一杯で他のことに手を回すことが出来辛くなるようでした。なので私は殿下の領地経営の補佐をすることにしたのです。幸いなことに、私の部下には優秀な者が揃っております。私がしなくてはならないことだけは私がして、それ以外を彼らに任せておけば、エルメリーズ領の治安は守られるはずでしたので」

 最後の言葉を過去形にしたユンカーの言葉に、アルベルトは険しい表情をする。

「なるほど、そういうことですか。殿下の補佐のためこちらに来ている間に、エルメリーズ領の経営に携わっていた誰かから手引きをされ、手引きされた者がいつのまにかユンカー殿と取って代わっていた、と」

 そういうことよ、とミルフィがアルベルトの出した結論に満足そうに頷いた。

「これは私の責任です。帝国側の人間を知らずのうちに信用して、そして自身の領地を結果的には売ってしまったようなものですので」
「それについては貴方だけの責任ではないわよ。むしろ責任を問われるのならわたしの方。ユンカーを無理言って呼び出したりしたのはわたしなのだから」

 それに……とミルフィは付け加える。

「貴方がアルザール領に来ていなくても、いずれあの場所は帝国側に渡ることになっていたと思う。それこそ、貴方を殺しでもしてね」
(実際、前回でユンカーは何者かの手によって殺害されていた。いつなのかは不明だったけれど、数年は誰もそのことに気付けなかったわ。……どちらにしても、最終的にエルメリーズ領は帝国の人間によって王国こちら側が気付く前に陥落させていたはずだもの)

 まさか人身売買の件とここら辺の事情が同一していたなんてとミルフィは憂鬱な気分になり、前回には穴がありすぎたようね、と心の中で忌々しそうに吐き捨てた。

「ユンカーは王家に忠誠を誓った身なのだから、どうしたって帝国側には敵の対象でしかないもの。これが王家に忠誠を誓っていないものだったのなら、向こうに使えるかもしれないと思われて殺すまでは行かなかったかもしれないけれど」
「そうですね……でも、私は利用されるために生かされるのであれば、潔く殺されてしまった方が嬉しいです。誇りを持ったままでいられますし、王家の方のために死ねるのならば、忠誠を誓った身としては、この上ない名誉ですので」

 それに今現在でも私は見つかり次第速やかに亡き者にさせられるそうですし、と朗らかに笑いながら言う。
 そんなユンカーの発言を聞いたアルベルトは、殿下の周りには物騒なことを平然と言ってのける者が多いなと、とてつもなくどうでもいいことを思った。

(利用される為に生かされるのであれば、潔い死の方が嬉しい、か。……ユンカー殿は、本当に気高い思考の持ち主なんだな。代々王家に忠誠を誓っている家柄だということは知っていたが、まさかこれほどまでとは……)

 アルベルトだって騎士として、そして伯爵家を継ぐものとしての誇りを持っている。いざという時には死ぬ覚悟だって出来ている。
 しかし、自らが進んで死にたいなどとは思ったことが無かった。

(俺の感覚がおかしいのか?普通の貴族は皆そう思っているのか?)

 複雑そうな表情を浮かべたアルベルトを見て、その考えを的確に把握したミルフィは微笑しながら首を振った。

「アルベルト、ユンカーの言うことは気にしないで頂戴。ユンカーが少し……いえ、大分おかしいだけなのだから」

 王族信者みたいなものなのよ、と本人を目の前にしてそう言ったミルフィにユンカーが大袈裟に肩を竦めてみせた。

「王族信者なんて探せばあちこちにおりますよ。なんなら数人紹介致しましょうか?貴族だけでなく平民の中にもおりますよ?」
「貴方はそこで肯定しないで頂戴」

 ミルフィが呆れたように溜め息をついた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

慈愛と復讐の間

レクフル
ファンタジー
 とある国に二人の赤子が生まれた。  一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。  慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。  これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。  だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。 大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。  そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。  そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。  慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。  想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……

孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下

akechi
ファンタジー
ルル8歳 赤子の時にはもう孤児院にいた。 孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。 それに貴方…国王陛下ですよね? *コメディ寄りです。 不定期更新です!

やさしい魔法と君のための物語。

雨色銀水
ファンタジー
これは森の魔法使いと子供の出会いから始まる、出会いと別れと再会の長い物語――。 ※第一部「君と過ごしたなもなき季節に」編あらすじ※ かつて罪を犯し、森に幽閉されていた魔法使いはある日、ひとりの子供を拾う。 ぼろぼろで小さな子供は、名前さえも持たず、ずっと長い間孤独に生きてきた。 孤独な魔法使いと幼い子供。二人は不器用ながらも少しずつ心の距離を縮めながら、絆を深めていく。 失ったものを埋めあうように、二人はいつしか家族のようなものになっていき――。 「ただ、抱きしめる。それだけのことができなかったんだ」 雪が溶けて、春が来たら。 また、出会えると信じている。 ※第二部「あなたに贈るシフソフィラ」編あらすじ※ 王国に仕える『魔法使い』は、ある日、宰相から一つの依頼を受ける。 魔法石の盗難事件――その事件の解決に向け、調査を始める魔法使いと騎士と弟子たち。 調査を続けていた魔法使いは、一つの結末にたどり着くのだが――。 「あなたが大好きですよ、誰よりもね」 結末の先に訪れる破滅と失われた絆。魔法使いはすべてを失い、物語はゼロに戻る。 ※第三部「魔法使いの掟とソフィラの願い」編あらすじ※ 魔法使いであった少年は罪を犯し、大切な人たちから離れて一つの村へとたどり着いていた。 そこで根を下ろし、時を過ごした少年は青年となり、ひとりの子供と出会う。 獣の耳としっぽを持つ、人ならざる姿の少女――幼い彼女を救うため、青年はかつての師と罪に向き合い、立ち向かっていく。 青年は自分の罪を乗り越え、先の未来をつかみ取れるのか――? 「生きる限り、忘れることなんかできない」 最後に訪れた再会は、奇跡のように涙を降らせる。 第四部「さよならを告げる風の彼方に」編 ヴィルヘルムと魔法使い、そしてかつての英雄『ギルベルト』に捧ぐ物語。 ※他サイトにも同時投稿しています。

その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。 貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。 元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。 これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。 ※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑) ※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。 ※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。

私たちの離婚幸福論

桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

処理中です...