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一章
32.エメルリーズ領の現状4
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「……何故ここにユンカー殿が?」
アルベルトは最もな疑問を口にする。それもそうだろう、これからミルフィ達が向かう先がエルメリーズ領なのだ。それも、ハーバル帝国との繋がりの証拠を探すためのようなもの。
それなのに、その当主がこちらにいるのだ。
フェリクス達の報告で、エルメリーズ辺境伯はその地位を奪われている可能性が高いということを聞いていた。それならばユンカーはその地位を利用させられるために何処かに監禁されていると考えていたのだ。
それなのに、これは一体全体どういうことなのだろうか。
「そうね、説明すれば大して長くも難しくもない事情があるのよ」
アルベルトの疑問に頷きつつ、ミルフィはその後の説明をユンカーにするように視線を向けて促した。
その視線の意味を的確に把握すると、ユンカーが軽く頷いてから、それでは私から大まかな事情を話しましょうかと口付けていたカップをソーサーの上に置いた。
「元々、私は国王陛下からミルフィリアス殿下の補佐をするようにと言伝を受け取っておりました。王位継承権第一位であられる殿下には、他にも執務やら公務やら、沢山のことを同時にこなさなくてはならないので、流石に一人だけでは領地のことまでにそこまで関わることができないと判断したからでしょう。実際殿下はとても忙しく、領地のことまで全てやろうとすると手一杯で他のことに手を回すことが出来辛くなるようでした。なので私は殿下の領地経営の補佐をすることにしたのです。幸いなことに、私の部下には優秀な者が揃っております。私がしなくてはならないことだけは私がして、それ以外を彼らに任せておけば、エルメリーズ領の治安は守られるはずでしたので」
最後の言葉を過去形にしたユンカーの言葉に、アルベルトは険しい表情をする。
「なるほど、そういうことですか。殿下の補佐のためこちらに来ている間に、エルメリーズ領の経営に携わっていた誰かから手引きをされ、手引きされた者がいつのまにかユンカー殿と取って代わっていた、と」
そういうことよ、とミルフィがアルベルトの出した結論に満足そうに頷いた。
「これは私の責任です。帝国側の人間を知らずのうちに信用して、そして自身の領地を結果的には売ってしまったようなものですので」
「それについては貴方だけの責任ではないわよ。むしろ責任を問われるのならわたしの方。ユンカーを無理言って呼び出したりしたのはわたしなのだから」
それに……とミルフィは付け加える。
「貴方がアルザール領に来ていなくても、いずれあの場所は帝国側に渡ることになっていたと思う。それこそ、貴方を殺しでもしてね」
(実際、前回でユンカーは何者かの手によって殺害されていた。いつなのかは不明だったけれど、数年は誰もそのことに気付けなかったわ。……どちらにしても、最終的にエルメリーズ領は帝国の人間によって王国側が気付く前に陥落させていたはずだもの)
まさか人身売買の件とここら辺の事情が同一していたなんてとミルフィは憂鬱な気分になり、前回には穴がありすぎたようね、と心の中で忌々しそうに吐き捨てた。
「ユンカーは王家に忠誠を誓った身なのだから、どうしたって帝国側には敵の対象でしかないもの。これが王家に忠誠を誓っていないものだったのなら、向こうに使えるかもしれないと思われて殺すまでは行かなかったかもしれないけれど」
「そうですね……でも、私は利用されるために生かされるのであれば、潔く殺されてしまった方が嬉しいです。誇りを持ったままでいられますし、王家の方のために死ねるのならば、忠誠を誓った身としては、この上ない名誉ですので」
それに今現在でも私は見つかり次第速やかに亡き者にさせられるそうですし、と朗らかに笑いながら言う。
そんなユンカーの発言を聞いたアルベルトは、殿下の周りには物騒なことを平然と言ってのける者が多いなと、とてつもなくどうでもいいことを思った。
(利用される為に生かされるのであれば、潔い死の方が嬉しい、か。……ユンカー殿は、本当に気高い思考の持ち主なんだな。代々王家に忠誠を誓っている家柄だということは知っていたが、まさかこれほどまでとは……)
アルベルトだって騎士として、そして伯爵家を継ぐものとしての誇りを持っている。いざという時には死ぬ覚悟だって出来ている。
しかし、自らが進んで死にたいなどとは思ったことが無かった。
(俺の感覚がおかしいのか?普通の貴族は皆そう思っているのか?)
複雑そうな表情を浮かべたアルベルトを見て、その考えを的確に把握したミルフィは微笑しながら首を振った。
「アルベルト、ユンカーの言うことは気にしないで頂戴。ユンカーが少し……いえ、大分おかしいだけなのだから」
王族信者みたいなものなのよ、と本人を目の前にしてそう言ったミルフィにユンカーが大袈裟に肩を竦めてみせた。
「王族信者なんて探せばあちこちにおりますよ。なんなら数人紹介致しましょうか?貴族だけでなく平民の中にもおりますよ?」
「貴方はそこで肯定しないで頂戴」
ミルフィが呆れたように溜め息をついた。
アルベルトは最もな疑問を口にする。それもそうだろう、これからミルフィ達が向かう先がエルメリーズ領なのだ。それも、ハーバル帝国との繋がりの証拠を探すためのようなもの。
それなのに、その当主がこちらにいるのだ。
フェリクス達の報告で、エルメリーズ辺境伯はその地位を奪われている可能性が高いということを聞いていた。それならばユンカーはその地位を利用させられるために何処かに監禁されていると考えていたのだ。
それなのに、これは一体全体どういうことなのだろうか。
「そうね、説明すれば大して長くも難しくもない事情があるのよ」
アルベルトの疑問に頷きつつ、ミルフィはその後の説明をユンカーにするように視線を向けて促した。
その視線の意味を的確に把握すると、ユンカーが軽く頷いてから、それでは私から大まかな事情を話しましょうかと口付けていたカップをソーサーの上に置いた。
「元々、私は国王陛下からミルフィリアス殿下の補佐をするようにと言伝を受け取っておりました。王位継承権第一位であられる殿下には、他にも執務やら公務やら、沢山のことを同時にこなさなくてはならないので、流石に一人だけでは領地のことまでにそこまで関わることができないと判断したからでしょう。実際殿下はとても忙しく、領地のことまで全てやろうとすると手一杯で他のことに手を回すことが出来辛くなるようでした。なので私は殿下の領地経営の補佐をすることにしたのです。幸いなことに、私の部下には優秀な者が揃っております。私がしなくてはならないことだけは私がして、それ以外を彼らに任せておけば、エルメリーズ領の治安は守られるはずでしたので」
最後の言葉を過去形にしたユンカーの言葉に、アルベルトは険しい表情をする。
「なるほど、そういうことですか。殿下の補佐のためこちらに来ている間に、エルメリーズ領の経営に携わっていた誰かから手引きをされ、手引きされた者がいつのまにかユンカー殿と取って代わっていた、と」
そういうことよ、とミルフィがアルベルトの出した結論に満足そうに頷いた。
「これは私の責任です。帝国側の人間を知らずのうちに信用して、そして自身の領地を結果的には売ってしまったようなものですので」
「それについては貴方だけの責任ではないわよ。むしろ責任を問われるのならわたしの方。ユンカーを無理言って呼び出したりしたのはわたしなのだから」
それに……とミルフィは付け加える。
「貴方がアルザール領に来ていなくても、いずれあの場所は帝国側に渡ることになっていたと思う。それこそ、貴方を殺しでもしてね」
(実際、前回でユンカーは何者かの手によって殺害されていた。いつなのかは不明だったけれど、数年は誰もそのことに気付けなかったわ。……どちらにしても、最終的にエルメリーズ領は帝国の人間によって王国側が気付く前に陥落させていたはずだもの)
まさか人身売買の件とここら辺の事情が同一していたなんてとミルフィは憂鬱な気分になり、前回には穴がありすぎたようね、と心の中で忌々しそうに吐き捨てた。
「ユンカーは王家に忠誠を誓った身なのだから、どうしたって帝国側には敵の対象でしかないもの。これが王家に忠誠を誓っていないものだったのなら、向こうに使えるかもしれないと思われて殺すまでは行かなかったかもしれないけれど」
「そうですね……でも、私は利用されるために生かされるのであれば、潔く殺されてしまった方が嬉しいです。誇りを持ったままでいられますし、王家の方のために死ねるのならば、忠誠を誓った身としては、この上ない名誉ですので」
それに今現在でも私は見つかり次第速やかに亡き者にさせられるそうですし、と朗らかに笑いながら言う。
そんなユンカーの発言を聞いたアルベルトは、殿下の周りには物騒なことを平然と言ってのける者が多いなと、とてつもなくどうでもいいことを思った。
(利用される為に生かされるのであれば、潔い死の方が嬉しい、か。……ユンカー殿は、本当に気高い思考の持ち主なんだな。代々王家に忠誠を誓っている家柄だということは知っていたが、まさかこれほどまでとは……)
アルベルトだって騎士として、そして伯爵家を継ぐものとしての誇りを持っている。いざという時には死ぬ覚悟だって出来ている。
しかし、自らが進んで死にたいなどとは思ったことが無かった。
(俺の感覚がおかしいのか?普通の貴族は皆そう思っているのか?)
複雑そうな表情を浮かべたアルベルトを見て、その考えを的確に把握したミルフィは微笑しながら首を振った。
「アルベルト、ユンカーの言うことは気にしないで頂戴。ユンカーが少し……いえ、大分おかしいだけなのだから」
王族信者みたいなものなのよ、と本人を目の前にしてそう言ったミルフィにユンカーが大袈裟に肩を竦めてみせた。
「王族信者なんて探せばあちこちにおりますよ。なんなら数人紹介致しましょうか?貴族だけでなく平民の中にもおりますよ?」
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ミルフィが呆れたように溜め息をついた。
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