35 / 42
一章
34.過去の記憶と躊躇い2
しおりを挟む
フェリクスが会話を切り上げて部屋を出ようとする。
「……待って」
しかし、それをミルフィは呼び止めた。
ピタリと足を止めてフェリクスが振り向くと、ミルフィが無言で再び座るようにと促した。
フェリクスはそれに黙って従う。
しかしミルフィは硬く口を閉ざしたままで、その口を開く気配が無かった。
そしてその瞳は、不安で揺れていた。
その様子にフェリクスは少しだけ眉をひそめて、それから優しく言い聞かせるように告げる。
「姉上、先程僕が言ったことは、本当に気にしなくていいんです。ただ、僕があまりにも姉上に対して何も出来なくて、それを姉上に当たってしまっただけなんです」
だから本当に姉上は気にしなくていいんですよ。と、フェリクスはミルフィに微笑みかける。
「それに、姉上が答えたくない、答えられないような質問をしてしまったのは僕の方ですから」
フェリクスの言葉にミルフィは、気を使わせてしまうなんて……と、ほんの少し後悔する。
「……ねえ、フィル。フィルには、今のわたしはどう見えているのかしら?」
少しだけ言いにくそうにミルフィが言うと、フェリクスはほんの一瞬だけ目を丸くした。
「突然、どうしたんですか?」
姉上は姉上にしか見えませんけど……と不思議そうに首を傾げるフェリクスを見て、ミルフィはそういうことじゃなくて、と首を振る。
「さっきのフィルの話を聞いて、わたしはフィルの目にどう映っているのかと疑問に思ったの。……わたしは、結局自分のことしか考えられていないから。だから、どうしてそう思ったのかを聞いてみたくて」
ごめんなさい、と謝るミルフィにフェリクスはなんで謝るんですかと苦笑した。
「それは謝ることじゃないですよ。……でも、そうですね。姉上は僕から見れば確かに誰かの為を思っての行動をしているようにしか見えないんですよ。昔から誰かに助けを求められたら、簡単に手を差し伸べる人ですからね」
そう言ってくすりと笑う。
「でも、姉上は前回の記憶に囚われているのかもしれないですね。だからどうしても、どんなことに対しても全てが懺悔するように思えてしまうのではないでしょうか?」
「それは……」
そうかもしれない、とミルフィは思う。
確かに自分は今でも前回のことを後悔しているし、悲観も、憤りも感じていた。
「……でも、わたしはやっぱりフィルの言うような人間だとは到底思えない。自己中心的な考えをしているようにしか思えないわ」
だって、誰かを助けた後でいつも自分は心の内でどこか安堵してしまう。ほっとしてしまう。
誰かを救うことが出来た。目を逸らさずにいられた、と。
「わたしは結局、自分の過去を精算したいだけ。……あの人のことだってそう。内乱を引き起こしたかもしれないから信頼しないなんて口では言っているけれど、実際は単にまた裏切られるのが怖いだけ。……アルトに見限られたかもしれないと思いたくないだけ」
アルベルトの名前を口にしたミルフィにフェリクスはほんの少し目を細めた。
「……そうですか」
「でも、わたしはやっぱり駄目ね。……気が付くとアルベルトに心を許そうとしてしまうんだもの。アルトに裏切られた時のことを、今でも鮮明に憶えているのに。その時に感じた思いだって、何もかもを忘れてなんていないのに。……それでも、時々本当は違かったのかもしれないなんて思ってしまう」
都合良く考えてしまうのよ、とミルフィは自身を嘲笑した。
「……待って」
しかし、それをミルフィは呼び止めた。
ピタリと足を止めてフェリクスが振り向くと、ミルフィが無言で再び座るようにと促した。
フェリクスはそれに黙って従う。
しかしミルフィは硬く口を閉ざしたままで、その口を開く気配が無かった。
そしてその瞳は、不安で揺れていた。
その様子にフェリクスは少しだけ眉をひそめて、それから優しく言い聞かせるように告げる。
「姉上、先程僕が言ったことは、本当に気にしなくていいんです。ただ、僕があまりにも姉上に対して何も出来なくて、それを姉上に当たってしまっただけなんです」
だから本当に姉上は気にしなくていいんですよ。と、フェリクスはミルフィに微笑みかける。
「それに、姉上が答えたくない、答えられないような質問をしてしまったのは僕の方ですから」
フェリクスの言葉にミルフィは、気を使わせてしまうなんて……と、ほんの少し後悔する。
「……ねえ、フィル。フィルには、今のわたしはどう見えているのかしら?」
少しだけ言いにくそうにミルフィが言うと、フェリクスはほんの一瞬だけ目を丸くした。
「突然、どうしたんですか?」
姉上は姉上にしか見えませんけど……と不思議そうに首を傾げるフェリクスを見て、ミルフィはそういうことじゃなくて、と首を振る。
「さっきのフィルの話を聞いて、わたしはフィルの目にどう映っているのかと疑問に思ったの。……わたしは、結局自分のことしか考えられていないから。だから、どうしてそう思ったのかを聞いてみたくて」
ごめんなさい、と謝るミルフィにフェリクスはなんで謝るんですかと苦笑した。
「それは謝ることじゃないですよ。……でも、そうですね。姉上は僕から見れば確かに誰かの為を思っての行動をしているようにしか見えないんですよ。昔から誰かに助けを求められたら、簡単に手を差し伸べる人ですからね」
そう言ってくすりと笑う。
「でも、姉上は前回の記憶に囚われているのかもしれないですね。だからどうしても、どんなことに対しても全てが懺悔するように思えてしまうのではないでしょうか?」
「それは……」
そうかもしれない、とミルフィは思う。
確かに自分は今でも前回のことを後悔しているし、悲観も、憤りも感じていた。
「……でも、わたしはやっぱりフィルの言うような人間だとは到底思えない。自己中心的な考えをしているようにしか思えないわ」
だって、誰かを助けた後でいつも自分は心の内でどこか安堵してしまう。ほっとしてしまう。
誰かを救うことが出来た。目を逸らさずにいられた、と。
「わたしは結局、自分の過去を精算したいだけ。……あの人のことだってそう。内乱を引き起こしたかもしれないから信頼しないなんて口では言っているけれど、実際は単にまた裏切られるのが怖いだけ。……アルトに見限られたかもしれないと思いたくないだけ」
アルベルトの名前を口にしたミルフィにフェリクスはほんの少し目を細めた。
「……そうですか」
「でも、わたしはやっぱり駄目ね。……気が付くとアルベルトに心を許そうとしてしまうんだもの。アルトに裏切られた時のことを、今でも鮮明に憶えているのに。その時に感じた思いだって、何もかもを忘れてなんていないのに。……それでも、時々本当は違かったのかもしれないなんて思ってしまう」
都合良く考えてしまうのよ、とミルフィは自身を嘲笑した。
12
あなたにおすすめの小説
慈愛と復讐の間
レクフル
ファンタジー
とある国に二人の赤子が生まれた。
一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。
慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。
これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。
だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。
大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。
そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。
そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。
慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。
想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……
孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下
akechi
ファンタジー
ルル8歳
赤子の時にはもう孤児院にいた。
孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。
それに貴方…国王陛下ですよね?
*コメディ寄りです。
不定期更新です!
やさしい魔法と君のための物語。
雨色銀水
ファンタジー
これは森の魔法使いと子供の出会いから始まる、出会いと別れと再会の長い物語――。
※第一部「君と過ごしたなもなき季節に」編あらすじ※
かつて罪を犯し、森に幽閉されていた魔法使いはある日、ひとりの子供を拾う。
ぼろぼろで小さな子供は、名前さえも持たず、ずっと長い間孤独に生きてきた。
孤独な魔法使いと幼い子供。二人は不器用ながらも少しずつ心の距離を縮めながら、絆を深めていく。
失ったものを埋めあうように、二人はいつしか家族のようなものになっていき――。
「ただ、抱きしめる。それだけのことができなかったんだ」
雪が溶けて、春が来たら。
また、出会えると信じている。
※第二部「あなたに贈るシフソフィラ」編あらすじ※
王国に仕える『魔法使い』は、ある日、宰相から一つの依頼を受ける。
魔法石の盗難事件――その事件の解決に向け、調査を始める魔法使いと騎士と弟子たち。
調査を続けていた魔法使いは、一つの結末にたどり着くのだが――。
「あなたが大好きですよ、誰よりもね」
結末の先に訪れる破滅と失われた絆。魔法使いはすべてを失い、物語はゼロに戻る。
※第三部「魔法使いの掟とソフィラの願い」編あらすじ※
魔法使いであった少年は罪を犯し、大切な人たちから離れて一つの村へとたどり着いていた。
そこで根を下ろし、時を過ごした少年は青年となり、ひとりの子供と出会う。
獣の耳としっぽを持つ、人ならざる姿の少女――幼い彼女を救うため、青年はかつての師と罪に向き合い、立ち向かっていく。
青年は自分の罪を乗り越え、先の未来をつかみ取れるのか――?
「生きる限り、忘れることなんかできない」
最後に訪れた再会は、奇跡のように涙を降らせる。
第四部「さよならを告げる風の彼方に」編
ヴィルヘルムと魔法使い、そしてかつての英雄『ギルベルト』に捧ぐ物語。
※他サイトにも同時投稿しています。
その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?
行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。
貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。
元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。
これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。
※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑)
※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。
※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。
私たちの離婚幸福論
桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。
しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。
彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。
信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。
だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。
それは救済か、あるいは——
真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。
【完結】大変申し訳ありませんが、うちのお嬢様に貴方は不釣り合いのようです。
リラ
恋愛
婚約破棄から始まる、有能執事の溺愛…いや、過保護?
お嬢様を絶対守るマンが本気を出したらすごいんです。
ミリアス帝国首都の一等地に屋敷を構える資産家のコルチエット伯爵家で執事として勤めているロバートは、あらゆる事を完璧にこなす有能な執事だ。
そんな彼が生涯を捧げてでも大切に守ろうと誓った伯爵家のご令嬢エミリー・コルチエットがある日、婚約者に一方的に婚約破棄を告げられる事件が起こる。
その事実を知ったロバートは……この執事を怒らせたら怖いぞ!
後に後悔しエミリーとの復縁を望む元婚約者や、彼女に恋心を抱く男達を前に、お嬢様の婿に相応しいか見極めるロバートだったが…?
果たして、ロバートに認められるようなエミリーお嬢様のお婿候補は現れるのだろうか!?
【物語補足情報】
世界観:貴族社会はあるものの、財を成した平民が貴族位を買い新興貴族(ブルジョア)として活躍している時代。
由緒正しい貴族の力は弱まりつつあり、借金を抱える高位貴族も増えていった。
コルチエット家:帝国一の大商会を持つ一族。元々平民だが、エミリーの祖父の代に伯爵位を買い貴族となった資産家。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる