一度目の人生は散々だったので、二度目の人生をやり直させて頂きます

七宮 ゆえ

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一章

35.何も知らない

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「……盗み聞きとは感心しませんねぇ」

 ミルフィの部屋から今度こそ退室したフェリクスは、扉を閉めてから振り返らずに、すぐそばに身を隠していた〝彼〟に向かって話しかけた。

「……申し訳ありません」

 話しかけられた〝彼〟は、気付かれてたことに内心驚きつつ、素直に謝罪した。
 そして隠れていた柱から姿を現す。
 フェリクスはやれやれと言った様子で溜め息をつき、それから後ろを振り返って〝彼〟を見据えた。

「そんなに姉上のことが気になりましたか?——アルベルト・テレザ・シュバルツ」

 そう言って見つめた先では、アルベルトが罰の悪そうな表情を浮かべていた。
 そんなアルベルトの様子を暫し無言で眺めてから、フェリクスはアルベルトに付いてくるように促し、廊下を早足で進んで行った。






 *   *   *

「それで、一体どこから聞いていたんですかぁ?」

 フェリクスの自室にアルベルトを通すと、直球で本題に移った。
 アルベルトは正直に答える。

「殿下が、自己満足の為にしか動いていない、という辺りからです」

 つまり殆ど始めの頃から聞いていたんですかぁ~、とフェリクスは先程のミルフィとの会話を思い出しながら分析する。

「……殿下は過去に何かあったのですか?」
「……随分と踏み込んできますねぇ」

 躊躇いがちに放たれた言葉に、フェリクスは若干の苛立ちと、憐れみを感じた。

(事情の全ては貴方に繋がっているというのに、当の本人は何もかも知らないんですねぇ)

 人は、知らないことは時に罪になるという。
 この場合のアルベルトは、きっと罪なのではとフェリクスは思った。
 ——少なくとも、ミルフィにとってはそうだと言える。

「貴方のように姉上も、何も知らないまま、全てを忘れ去ってしまっても良かったのに……」

 そうだとすれば、ミルフィはあんな風に自分を責めることなど無かっただろう。後悔して、苦しみ続けることなど無かっただろう。
 そして何よりも。
 自分が一番信頼したい人を、裏切られるかもしれないなんて疑って、したくもない猜疑さいぎをすることなど無かっただろう。

「それは、どういう……」
「僕は、基本的に姉上が知られたくないと思っていることは、例え父上であろうと、捕えられて拷問されようと、絶対に話さない主義なんですよぉ」

 フェリクスの物騒過ぎる話に、アルベルトは内心で姉上至上主義シスコンにも程度があるだろうと頬を引き攣らせた。
 否、これは最早姉上至上主義シスコンを通り越して崇拝しているレベルである。
 ミルフィのことでフェリクスを敵に回したら、後が恐ろしそうだとアルベルトは心の底から思った。
 そんなアルベルトにはお構い無しといったように、フェリクスは話しを続ける。

「だから、姉上の過去の話を姉上に黙ってしたくなんて無いんですよねぇ」
「……失礼しました」

 断られたと思い、アルベルトはでしゃばった真似をしてしまい申し訳ありませんと頭を下げようとしたが、それをフェリクスによって制された。

「人の話は最後まで聞いてもらいたいんですけどぉ」

 全く、とフェリクスはわざとらしく溜め息をつき、大袈裟に肩を竦める。

「確かに僕は、姉上の嫌がるようなことなんて絶対にしたくないんですよぉ。それに正直僕は貴方のことが好きじゃないんです」

 それはアルベルトも薄々勘づいていたことだった。
 やっぱり、とアルベルトは複雑な思いで頷く。

「でも、貴方は姉上の護衛騎士だ。なんで姉上が自分と距離を置こうとするのか、それがアルベルトの一番知りたいことですよねぇ?」

 フェリクスの言葉にその通りだとアルベルトは頷いた。

「普通なら、信頼関係あっての護衛騎士だと私は思うんです。ですが、ミルフィリアス殿下は……」
「殆どの人に対して、決して自分の内側に入れようとしていない、ということですよねぇ」

 アルベルトの言葉をフェリクスが引き継ぐ。

「そうですねぇ。何故、姉上が人を信頼しなくなったのか。それだけなら話してあげてもいいですよぉ~」

 そしてフェリクスはその理由わけを話した。

「姉上は、随分と昔にある人物に裏切られたんです。しかもその相手は、姉上が最も信頼していた人物でした」
「その人が、〝アルト〟という人でしょうか?」

 そういえば先程の会話を聞いていたんでしたっけ、とフェリクスは溜め息をつきつつ頷いた。
 まさかその〝アルト〟が、自分のことだとは思うまい。
そのことにフェリクスは複雑な思いがよぎる。そして、なんとも言えない表情で、その先の言葉を紡いだ。

「それから、姉上は人を信じることが難しくなりました。自分が心を許した人が、自分を裏切るのではと考えるようになったんです。だから、姉上は人を信頼出来ない。内側に入れることをしないんですよ」

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