一度目の人生は散々だったので、二度目の人生をやり直させて頂きます

七宮 ゆえ

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一章

36.別行動

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 孤児院の手伝いだという、まだ二十代であろうと思われる女性に案内された部屋には、二人がけの長椅子が二脚、その間にテーブルが一脚置かれていた。
 そのうちの片方にミルフィは腰を下ろす。
 因みにフェリクスとリュディガーとアルベルトは現在外で待機中である。ミルフィがいくら渋っても、二人は——特にフェリクス——はミルフィの言うことを無視したからだ。これには流石にミルフィが折れ、こうしてここまで付いてこさせている羽目になってしまっていたのだ。

 ———大体、リュディガーは騎士団の仕事をどうしてきたのよ。仮にも団長がそんなに頻繁に抜けてしまって良い訳ないじゃない……!

 そう文句を告げたかったのだが、生憎なことに国王がリュディガーの行動を許可しているのだ。こうなるとミルフィがその意見に入り込む余地は無い。
 内心で何度目になるのか分からない溜め息を零しつつ、ミルフィはどんよりと曇った空を窓越しに眺める。
 今にも雨が降り出しそうな程に厚い雲は、まるで今のミルフィの心境をそのまま反映させているかのようであった。

「待たせてしまって申し訳ないね」

 部屋に通されてから暫くして、ようやくミルフィの待ち望んだ人物——即ちこの孤児院を経営する立場にある人物が部屋の中へと入ってきた。
 ミルフィは改めて気を引き締めると、人懐っこそうな笑みを浮かべて席を立った。

「初めまして、ミリアと言います。エドワード様から手紙を届けるようにと申し仕り、この孤児院へと足を踏み入れさせていただきました」
「うん、その件は既にエドワード様から連絡が来ていたよ。手紙を届けてくれてありがとう、ミリアちゃん。……そうそう、自己紹介がまだだったね。俺の名前はテオって言うんだ」

 テオと名乗った男は、そう言って手を差し出してきた。
 ミルフィはその手を見て一瞬どういうことかと考えたが、すぐさまその意図を理解して、自身の手をテオのそれに重ね合わせ、そして握手を交わす。

「よろしくお願いします、テオさん」
「こちらこそよろしくな、ミリアちゃん」

 テオは、一言で言うと豪快な男だった。
 まず身体付きがしっかりとしている。体のあちこちには一目見ただけでも分かるほどに筋肉が付いており、柔な体をしていないのは目に見えて明らかである。

(これが、本当に孤児院の管理者なの?とてもそうは見えない……どちらかと言うと、傭兵のように見えるわね……)

 テオの人当たりの良さそうな笑みと、その社交的な性格は人付き合いにはうってつけのものだ。
 敵ならば相当に厄介な人物であることは間違いない。
 そしてエドワードとの交流がある為、十中八九敵であると認識して良いだろう。
 ミルフィはテオのその動向を警戒することにした。

「早速なんだけれど、エドワード様からの手紙を受け取っていいかな?」
「あ、はい!勿論ですよー」

 テオの言葉に二つ返事で了承したミルフィは、ガサゴソと鞄を漁った。

「ええっと……これですね!はい、テオさん!」

 そして、鞄から取り出した手紙をそのままテオに手渡す。それを受け取ったテオは、ミルフィに礼を告げると、そのまますぐに手紙の封を切った。

「もうお読みになられるんですか?」

 その様子にミルフィは目を丸くする。

「私達がいますけど……」
「ああ、うん。どうせすぐに読み終わるから」

 そしてテオの言う通り、渡してから二分とかからないうちに手紙を読み終える。
 手紙から顔を上げたテオはミルフィを見やると、手を顎に当ててふむ……と何かを考えるような素振りを見せた。

「どうかしましたか?」
「いや、……君は、エドワード様の新しい側仕えだっんだな」
「もしかして、手紙に書いてありましたか?……実はそうなんです」

 えへへ、と照れたようにはにかみながらミルフィは頷く。
 そんなミルフィの動きをじっと観察していたテオは、「……確かにエドワード様の言う通りだな」と、声に出さずに呟いた。
 しかしミルフィは読唇術を習得している為、その唇の動きで大体のことを察した。

(大方、公爵の手紙に私は扱いやすい人材だとでも書かれていたのでしょうね)

 さて、これからどうなるのかとミルフィは身構える。そしてタイミング良くテオが口を開いた。

「君は、エドワード様に忠誠を誓うかい?」
「え…?勿論ですけれど……?」

 そして問われたことにミルフィは戸惑い気味に頷いた。

「そうか、それならいいんだ。今日から暫くミリアちゃんはここで働いて貰うことにするか!」
「え、え?今日から、ですか?」
「今日からだ!エドワード様から許可は貰っているからな!!」

 そう言ってテオは、エドワードからの手紙をミルフィに見せた。それに視線を巡らせたミルフィはそういうことかと内心で納得する。

(こんなにも運良くチャンスが回ってくるなんてね……。お父様からはその場での実力行使の許可を貰っている事だし、この場で決着を付けることにしようかしらね)

 自分の運の良さにミルフィは素直に感謝した。

(さて、と。それならば、最後の仕上げと行こうじゃないの)

 心の中でそう呟きたミルフィは、〝ミリア〟という仮面の下で、小さく〝ミルフィ〟としての笑みを浮かべた。
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