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一章
4. 自己紹介と挨拶は基本です
しおりを挟む「初めまして、リリーローズ様。本日はお招きくださってありがとうございます」
「は、はじめまして、シンフォーニ公爵夫人。こちらこそ、お会いできて光栄です」
それから私は作法通りの礼をとった。
うん、我ながら上手くいった気がする。まだ小さいからそこまで本格的な礼儀作法は習っていないけれど、今の私くらいの年齢ならば及第点でしょう。
挨拶は少しだけ言葉がつっかえてしまったけれども、それはご愛嬌ということで。それ以外はきちんと出来ていたはずだから。
場所はスターライト邸の応接間。そこで私は先日お母様が宣言した通り、お母様のご友人であられるシンフォーニ公爵夫人、セルイラ様とそのご子息様と対面していた。
そう、聞いて……じゃなくて見て驚き、セルイラ様の子供は男の子だったのである。
てっきり私は同い年の女の子が来るのかとばかりに思っていたよ。まさか男の子だとは思わなかった。
「リリーちゃんは緊張しているみたいね。セルイラ、今日は私の我儘を聞いてくれてありがとう」
「あら、私だってリリーローズちゃんにお会いしてみたかったのだし、それにミルフォードと仲良くさせられたらって思っていたのだからおあいこよ」
そんなことをお母様達が話している間に、私はセルイラ様の隣、つまり私の真正面に座っている男の子を盗み見ていた。
ええっと、男の子の名前は確かミルフォード様だったよね?さっきセルイラ様がそう言っていたから多分そうだと思う。
ミルフォード様はいかにも良いところのご子息様だと分かる雰囲気を纏わせていた。
流石は乙女ゲームの世界だわ。どんな人でも基本容姿は整ってるのね……
というよりミルフォード様、攻略対象者並に顔立ち整ってない?うちの使用人達だって美形は多いし元々二次元の世界なのだから美形しかいないことは知っているんだけれど、ミルフォード様の容姿はそんじょそこらにいるモブ美形様達よりずば抜けてるよ?
落ち着いた菫色の髪は少しだけ長く、リボンで一つに束ねられていて、瞳の色は髪の色と同じような紫水晶色をしている。そしてそのかんばせは精巧な造りをしているお人形さんのように整っていた。これ、無表情とかだったら絶対に人形だよね。人形としてどこかに飾っておけるレベルだよね?
「……リリーちゃん?」
おっといけない。思考の溝に嵌りかけてお母様に怪訝そうな顔をさせてしまった。
私はパッと表情を改めるとにこっと笑って誤魔化した。
「そういえば、まだミルフォードから挨拶していなかったわね。ごめんなさい、紹介する前に私が話し出してしまって……」
ふと気が付いたように呟いたセルイラ様は、それから申し訳なさそうに眉を下げる。
それにお母様が同意するように頷く。
「そうね、すっかり私達で話し込んでしまったわね。今日の目的は子供達の親交を図るものだったのに……」
困ったように頬に手を当てて告げるお母様。でもお母様達が本当に仲が良いことは伝わってきたのだから、それはそれで構わないのよ。
セルイラ様はミルフォード様へ視線を下げて挨拶をするように促す。セルイラ様に向けて僅かに頷いたミルフォード様は、そのまま席を経つと改まった口調で言葉を紡いだ。
「初めまして、リリーローズ嬢。ミルフォード・ロレイン・シンフォーニです」
お会いできて嬉しいです、と子供らしく愛らしい声で笑ったミルフォード様。
「こちらこそ、お会いできて嬉しいです。よろしくお願いしますね、ミルフォード様」
そう言いながら、私は内心で安堵していた。
良かったぁ。傲慢ちきな子供だったりしたらどうしようとか心配だったけれど、ミルフォード様はちゃんと礼儀正しい人だったぁ!!
この様子ならなんとかやっていけそうかも。
「ふふ、二人とも仲良くしてくれそうで良かったわ」
「本当に。……そうだわ!リリーちゃん、ミルフォード君を庭園に案内してみたらどうかしら?」
「それは良い考えね、フォリア!」
お母様の提案にセルイラ様も名案だとばかりに目を輝かせる。私は構わないけれど、ミルフォード様はどうなんだろう……
そっとお母様達からミルフォード様へと視線を向けると、「それじゃあ案内してくれる?」と微笑まれた。
「かしこまりました。それではミルフォード様、庭園まで案内させて頂きますね」
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