6 / 28
一章
5. ミルフォード
しおりを挟む
そして案内した庭園は、ミルフォード様にとって予想よりも遥かに興味をそそるものだったらしい。あちこちの植物を指しては私に「これはなんの植物?」と物珍しそうに見て尋ねてきた。
お母様が草花に対して唯ならぬ関心を抱いているおかげか、我が家の庭園には珍しい種類の植物が植えられていたりするからね。あとは品種改良した薔薇とかもあるし。
何はともあれ退屈しのぎにはなったようでよかったです。
「そろそろ応接間に戻りましょうか」
一通り庭園に咲き誇っている花達の説明を終えた私は、ミルフォード様を振り返ってそう告げた。ミルフォード様は私の提案に頷く。
「そうだね。ありがとう、リリーローズ嬢」
「いいえ、楽しんでいただけたようでなによりです」
老若男女問わずに絆されてしまいそうな笑顔を浮かべて礼を述べるミルフォード様に、しかし私はふわりと笑って返す。きっと同年代の女の子なら絶対にそんなミルフォード様に顔を真っ赤にしそうなものだけれど、生憎なことに私の精神年齢は二倍以上。そんなことで表情が崩れる私ではないのである。
平然としていた私に、ミルフォード様は少しだけ目を細めた。
「珍しいな、そういう反応は」
「……はい?」
ぼそりと呟かれた言葉は、きちんと私の耳に届きました。え、珍しい?私何か変な反応したっけ?
思わず首を傾げた私に、ミルフォード様は真面目な表情できっぱりと言った。
「だってさっきみたいな表情で笑ってれば、大抵の令嬢は頬を赤く染めるんだけれど、君はそんなこと無かったから」
それに俺は公爵家の嫡男だから、あわよくば時期公爵夫人になりたいという思惑を持って自分の子供達を近付かせる人も多いからね……なんてことを続けて話すミルフォード様。
開いた口が塞がらないとは、まさしくこのことだと思います。
あぁ、自覚あっての猫被りだったのね。うん、流石は公爵家のご子息様ですねぇ。……あの、どこから突っ込めばいいですか?
普通五歳でそこまで見抜いている人っている?まだ頬を赤く染めるから~のところまでは目の前で反応されるんだもの、そりゃあ分かるだろうけどね?でも、そんな大人達の下心を早々に理解出来てるのってどうなの?
ちょっと……いや、かなりミルフォード様は早熟してる気がする。
それともここの世界ではミルフォード様が普通なのだろうか。貴族はみんな早熟だったりするのだろうか。
「ええっと、その、大変な思いをされていらっしゃるのですね……」
貴族社会って恐ろしいなんて感想を抱きながら、私はなんとか言葉を絞り出す。そして頬が引き攣ってしまうのはもう仕方があるまい。
ミルフォード様はそんな私の様子をどこか探るような眼差しでじっと見ていた。それからふっと表情を緩めた。
「リリーローズ嬢は他のご令嬢とは違うみたいだね。変に媚を売ってこないし、それに君の傍にいる時は心穏やかに過ごせそうだ」
「左様でございますか」
「リリーと呼んでも?あ、俺のことはミルで構わないから。それとそんなにかしこまった話し方じゃなくていいから」
疑問形で訊かれた筈なのに次々と言葉を続けられて、名前についてを否定することは叶わなかった。まあ、否定する気は元からないのだから、それは別に構わないのですけれど。
それにしても、かしこまった話し方じゃないとなると、私の場合は大惨事になりそうな予感がするよ?とてもではないけれど貴族の使うような言葉遣いじゃなくなりますもの。
でも当の本人がそれで良いと言ってるんだし、ここはお言葉に甘えてしまおう。
「それじゃあ、改めてよろしくお願いしますね、ミル」
「こちらこそよろしく、リリー」
ミルフォード様——もとい、ミルとならきっと良い友人関係を築けていけるかもしれないなんて思いながら私が笑顔で手をさし出すと、ミルも私の手を握り返してくれた。
その後、初めよりも幾分も打ち解けた様子で、更には愛称で名前を呼び合っている私達に気が付いたお母様方は、それはそれは嬉しそうにしていたのは余談です。
お母様が草花に対して唯ならぬ関心を抱いているおかげか、我が家の庭園には珍しい種類の植物が植えられていたりするからね。あとは品種改良した薔薇とかもあるし。
何はともあれ退屈しのぎにはなったようでよかったです。
「そろそろ応接間に戻りましょうか」
一通り庭園に咲き誇っている花達の説明を終えた私は、ミルフォード様を振り返ってそう告げた。ミルフォード様は私の提案に頷く。
「そうだね。ありがとう、リリーローズ嬢」
「いいえ、楽しんでいただけたようでなによりです」
老若男女問わずに絆されてしまいそうな笑顔を浮かべて礼を述べるミルフォード様に、しかし私はふわりと笑って返す。きっと同年代の女の子なら絶対にそんなミルフォード様に顔を真っ赤にしそうなものだけれど、生憎なことに私の精神年齢は二倍以上。そんなことで表情が崩れる私ではないのである。
平然としていた私に、ミルフォード様は少しだけ目を細めた。
「珍しいな、そういう反応は」
「……はい?」
ぼそりと呟かれた言葉は、きちんと私の耳に届きました。え、珍しい?私何か変な反応したっけ?
思わず首を傾げた私に、ミルフォード様は真面目な表情できっぱりと言った。
「だってさっきみたいな表情で笑ってれば、大抵の令嬢は頬を赤く染めるんだけれど、君はそんなこと無かったから」
それに俺は公爵家の嫡男だから、あわよくば時期公爵夫人になりたいという思惑を持って自分の子供達を近付かせる人も多いからね……なんてことを続けて話すミルフォード様。
開いた口が塞がらないとは、まさしくこのことだと思います。
あぁ、自覚あっての猫被りだったのね。うん、流石は公爵家のご子息様ですねぇ。……あの、どこから突っ込めばいいですか?
普通五歳でそこまで見抜いている人っている?まだ頬を赤く染めるから~のところまでは目の前で反応されるんだもの、そりゃあ分かるだろうけどね?でも、そんな大人達の下心を早々に理解出来てるのってどうなの?
ちょっと……いや、かなりミルフォード様は早熟してる気がする。
それともここの世界ではミルフォード様が普通なのだろうか。貴族はみんな早熟だったりするのだろうか。
「ええっと、その、大変な思いをされていらっしゃるのですね……」
貴族社会って恐ろしいなんて感想を抱きながら、私はなんとか言葉を絞り出す。そして頬が引き攣ってしまうのはもう仕方があるまい。
ミルフォード様はそんな私の様子をどこか探るような眼差しでじっと見ていた。それからふっと表情を緩めた。
「リリーローズ嬢は他のご令嬢とは違うみたいだね。変に媚を売ってこないし、それに君の傍にいる時は心穏やかに過ごせそうだ」
「左様でございますか」
「リリーと呼んでも?あ、俺のことはミルで構わないから。それとそんなにかしこまった話し方じゃなくていいから」
疑問形で訊かれた筈なのに次々と言葉を続けられて、名前についてを否定することは叶わなかった。まあ、否定する気は元からないのだから、それは別に構わないのですけれど。
それにしても、かしこまった話し方じゃないとなると、私の場合は大惨事になりそうな予感がするよ?とてもではないけれど貴族の使うような言葉遣いじゃなくなりますもの。
でも当の本人がそれで良いと言ってるんだし、ここはお言葉に甘えてしまおう。
「それじゃあ、改めてよろしくお願いしますね、ミル」
「こちらこそよろしく、リリー」
ミルフォード様——もとい、ミルとならきっと良い友人関係を築けていけるかもしれないなんて思いながら私が笑顔で手をさし出すと、ミルも私の手を握り返してくれた。
その後、初めよりも幾分も打ち解けた様子で、更には愛称で名前を呼び合っている私達に気が付いたお母様方は、それはそれは嬉しそうにしていたのは余談です。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】ど近眼悪役令嬢に転生しました。言っておきますが、眼鏡は顔の一部ですから!
As-me.com
恋愛
完結しました。
説明しよう。私ことアリアーティア・ローランスは超絶ど近眼の悪役令嬢である……。
気が付いたらファンタジー系ライトノベル≪君の瞳に恋したボク≫の悪役令嬢に転生していたアリアーティア。
原作悪役令嬢には、超絶ど近眼なのにそれを隠して奮闘していたがあらゆることが裏目に出てしまい最後はお約束のように酷い断罪をされる結末が待っていた。
えぇぇぇっ?!それって私の未来なの?!
腹黒最低王子の婚約者になるのも、訳ありヒロインをいじめた罪で死刑になるのも、絶体に嫌だ!
私の視力と明るい未来を守るため、瓶底眼鏡を離さないんだから!
眼鏡は顔の一部です!
※この話は短編≪ど近眼悪役令嬢に転生したので意地でも眼鏡を離さない!≫の連載版です。
基本のストーリーはそのままですが、後半が他サイトに掲載しているのとは少し違うバージョンになりますのでタイトルも変えてあります。
途中まで恋愛タグは迷子です。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。
新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。
趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝!
……って、あれ?
楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。
想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ!
でも実はリュシアンは訳ありらしく……
(第18回恋愛大賞で奨励賞をいただきました。応援してくださった皆様、ありがとうございました!)
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
※他サイト様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる