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一章
11.心穏やかに過ごせる時間はいつでも限られています
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「それで、リリーはこれからどうするの?」
「うーん、ひとまず挨拶をしないとならない人はお父様と一緒にしたから他は特にやることないんだよね。後は、同じ歳くらいの女の子とか、友達になれそうな子を見つけておくといいよっていうお兄様からの助言があるくらいで、特にこれといってこの後どうするのか決まってないのよね」
そう言いながら、私は会場となっているスターライト邸のサロンの中を見渡した。
我が家ながら、サロンの広さに未だ驚きを感じております。圧倒します。体育館並みの広さは余裕でありそう。……いや、そもそも体育館なんかとは比べ物にならない程立派な部屋なのだけれど。なんで比べたんだろう、サロンに対して失礼だわ。
余計な思考を遮断して、私は本来の目的のものを探す。そして、目的を見つけた私はそこを指さした。
「あ、ほらあそこ。色んなご令嬢が集まってるじゃない?だから、そういうところに行って気の合いそうな子を探すのもいいと思うよってお兄様が行ってたの」
「ああ、なるほど。それなら……」
「でも、ミルがいるから今日はいいかな」
頷きかけたミルを私の言葉で遮る。私は行くだなんて一言も言ってないんだから頷かないでよ。話はちゃんと最後まで聞いて、ミル。
「なんで?行きたいんじゃないの?」
ミルは心底不思議そうに首を傾げて私を見つめてくる。
そんなミルに、私は肩を竦めながら口を開いた。
「別に行きたいって程じゃないし。そもそもあんなところに飛び込んでいったら、絶対にミルが大変なことになるでしょう?鬱陶しいだろうし疲れるだろうし」
それに、ミルがいるなら私にはそれで十分だもの。
そう私が告げると、ミルは何故か微妙そうな顔をする。
……何か変な事言ったっけ私。
今度は私が首を傾げていると、ミルは微かに首を振ってから苦笑した。
「……いや、なんでもない。それよりもリリー、最後の言葉はあんまりほかの人に使わない方がいい、絶対に勘違いされるから」
「え?勘違い?そもそもミル以外に言うことはないと思うけれど」
「……これだから尚更たちが悪いんだよなぁ、リリーは」
何故か一瞬固まったミルは、それから溜息をつきつつ何事かを呟いていた。
「ミル?」
「取り敢えず、そういうことも言わないで」
「そういうこと?」
「だから、さっきリリーが言ったようなことだよ!」
珍しくミルが語尾を強める。けれどもさっき私何言った?特に変なことを言った覚えは本当に無いのだけれど。
私は頭の上にいくつもの疑問符を浮かべる。
「だから、さっきの……っやっぱりもういい。今のリリーに言ったところで自覚が出来ないなら何も変わらないだろうし」
言いかけた言葉を途中で飲み込んで、ミルは疲れた様子で再び溜息を付いた。
大丈夫かな、ミル。脱力しかけてるみたいなんですけれど。
でも、ミルの言動をみると疲れさせた原因は私みたい。
その理由は今のところ全く不明なのだが、私が原因であることに変わりはなさそうなので、一応心の中で謝っておくことにする。
ごめんなさいミル。何に対して謝ってるのか私はわからないけれど取り敢えずごめんよ。
* * *
その頃、サロンと隣接したとある一室にて。
「大丈夫だ。君はもう、スターライト家の、私の息子なんだ。だからもう、大丈夫だよ」
「……はい、ありがとうございます。……公爵、様」
そこにはこの家の持ち主であるアルバート、つまりリリーローズの父親がいた。
そしてもう一人。こちらはリリーローズと同じ歳くらいの少年だ。
少年は、その緑色の瞳の奥に不安そうな色を讃えながら、震える声で言葉を紡ぐ。
そんな少年の様子に、アルバートは僅かに苦笑しながらも少年を安心させるように、穏やかな笑みを浮かべて言った。
「私のことは公爵ではなくて父と呼んでくれて構わない。ここにはもう怖いことなんて何も無いんだから。あの家のように、君を虐げたりなんてことは絶対にこの私がさせないからな。だからもう、大丈夫だよ。君の姉となるリリーローズは、そして兄となるセシルはとても優しくて良い子達なんだ。きっと、仲良くできるよ」
「……は、い」
不安そうな色はその表情から拭えないものの、それでも意志を持った瞳は凛と輝いていた。その様子にアルバートは笑みを浮かべる。そして、少年へと手を差し伸べた。その手に、少年は恐る恐るといった様子で自らの手を重ねる。
アルバートはそんな少年に笑みを深める。
「よし、それじゃあ行こうか、ノア」
ノア、と。そう呼ばれた少年は一抹の拭いきれない不安を感じながらもアルバートの言葉にしっかりと頷いた。
(……ぼくのあにうえになるセシル様は、とてもやさしい人だった。公爵様……ちちうえも。リリーローズ様は、どんな方なのでしょうか)
そして少年は、期待と不安の混ざった表情を浮かべながらこれから会うこととなるリリーローズの姿を、そしてその心根を想像したのだった。
「うーん、ひとまず挨拶をしないとならない人はお父様と一緒にしたから他は特にやることないんだよね。後は、同じ歳くらいの女の子とか、友達になれそうな子を見つけておくといいよっていうお兄様からの助言があるくらいで、特にこれといってこの後どうするのか決まってないのよね」
そう言いながら、私は会場となっているスターライト邸のサロンの中を見渡した。
我が家ながら、サロンの広さに未だ驚きを感じております。圧倒します。体育館並みの広さは余裕でありそう。……いや、そもそも体育館なんかとは比べ物にならない程立派な部屋なのだけれど。なんで比べたんだろう、サロンに対して失礼だわ。
余計な思考を遮断して、私は本来の目的のものを探す。そして、目的を見つけた私はそこを指さした。
「あ、ほらあそこ。色んなご令嬢が集まってるじゃない?だから、そういうところに行って気の合いそうな子を探すのもいいと思うよってお兄様が行ってたの」
「ああ、なるほど。それなら……」
「でも、ミルがいるから今日はいいかな」
頷きかけたミルを私の言葉で遮る。私は行くだなんて一言も言ってないんだから頷かないでよ。話はちゃんと最後まで聞いて、ミル。
「なんで?行きたいんじゃないの?」
ミルは心底不思議そうに首を傾げて私を見つめてくる。
そんなミルに、私は肩を竦めながら口を開いた。
「別に行きたいって程じゃないし。そもそもあんなところに飛び込んでいったら、絶対にミルが大変なことになるでしょう?鬱陶しいだろうし疲れるだろうし」
それに、ミルがいるなら私にはそれで十分だもの。
そう私が告げると、ミルは何故か微妙そうな顔をする。
……何か変な事言ったっけ私。
今度は私が首を傾げていると、ミルは微かに首を振ってから苦笑した。
「……いや、なんでもない。それよりもリリー、最後の言葉はあんまりほかの人に使わない方がいい、絶対に勘違いされるから」
「え?勘違い?そもそもミル以外に言うことはないと思うけれど」
「……これだから尚更たちが悪いんだよなぁ、リリーは」
何故か一瞬固まったミルは、それから溜息をつきつつ何事かを呟いていた。
「ミル?」
「取り敢えず、そういうことも言わないで」
「そういうこと?」
「だから、さっきリリーが言ったようなことだよ!」
珍しくミルが語尾を強める。けれどもさっき私何言った?特に変なことを言った覚えは本当に無いのだけれど。
私は頭の上にいくつもの疑問符を浮かべる。
「だから、さっきの……っやっぱりもういい。今のリリーに言ったところで自覚が出来ないなら何も変わらないだろうし」
言いかけた言葉を途中で飲み込んで、ミルは疲れた様子で再び溜息を付いた。
大丈夫かな、ミル。脱力しかけてるみたいなんですけれど。
でも、ミルの言動をみると疲れさせた原因は私みたい。
その理由は今のところ全く不明なのだが、私が原因であることに変わりはなさそうなので、一応心の中で謝っておくことにする。
ごめんなさいミル。何に対して謝ってるのか私はわからないけれど取り敢えずごめんよ。
* * *
その頃、サロンと隣接したとある一室にて。
「大丈夫だ。君はもう、スターライト家の、私の息子なんだ。だからもう、大丈夫だよ」
「……はい、ありがとうございます。……公爵、様」
そこにはこの家の持ち主であるアルバート、つまりリリーローズの父親がいた。
そしてもう一人。こちらはリリーローズと同じ歳くらいの少年だ。
少年は、その緑色の瞳の奥に不安そうな色を讃えながら、震える声で言葉を紡ぐ。
そんな少年の様子に、アルバートは僅かに苦笑しながらも少年を安心させるように、穏やかな笑みを浮かべて言った。
「私のことは公爵ではなくて父と呼んでくれて構わない。ここにはもう怖いことなんて何も無いんだから。あの家のように、君を虐げたりなんてことは絶対にこの私がさせないからな。だからもう、大丈夫だよ。君の姉となるリリーローズは、そして兄となるセシルはとても優しくて良い子達なんだ。きっと、仲良くできるよ」
「……は、い」
不安そうな色はその表情から拭えないものの、それでも意志を持った瞳は凛と輝いていた。その様子にアルバートは笑みを浮かべる。そして、少年へと手を差し伸べた。その手に、少年は恐る恐るといった様子で自らの手を重ねる。
アルバートはそんな少年に笑みを深める。
「よし、それじゃあ行こうか、ノア」
ノア、と。そう呼ばれた少年は一抹の拭いきれない不安を感じながらもアルバートの言葉にしっかりと頷いた。
(……ぼくのあにうえになるセシル様は、とてもやさしい人だった。公爵様……ちちうえも。リリーローズ様は、どんな方なのでしょうか)
そして少年は、期待と不安の混ざった表情を浮かべながらこれから会うこととなるリリーローズの姿を、そしてその心根を想像したのだった。
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