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一章

14.すっかり忘れかけていました

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 ノックをすれば部屋の中からすぐに返事が返ってきて、そしてそれから程なくしてお母様の侍女が扉を開けてくれた。
 私はミルと一緒に部屋の中へと足を踏み入れる。

「失礼します、お母様。体調は大丈夫ですか?」
「ええ、大したことではないから大丈夫よ。心配かけてごめんなさいね、リリーちゃん」

 私がお母様に声を掛けると、椅子に座っていたお母様が眉を下げながらゆっくりと頷いた。それから、ミルへと視線を移す。

「ミルくんも来てくれたのね!今日はリリーのお披露目パーティーに来てくれてありがとう。本当ならご両親にも挨拶をしたかったのだけれどその前に体調を崩してしまったのよ……」

 我ながら体調管理の一つも録に出来ないなんて、情けない話だわと苦笑しながら告げるお母様。それにミルは無言で首を振った。

「いえ、フォリア様の体調が優れないことは公爵から聞いているはずですので、問題はありませんよ。まあ、母上はフォリア様に会いたがってはいましたが……いずれにせよ、フォリア様の謝るようなことなどございませんから、そうご自分を卑下なさらないで下さい」
「まあ……!」

 貴公子然とした態度で言葉を紡ぐミルに、お母様は片手を口元に当てて声を上げる。それからふっと緩んだ笑みを浮かべると、「ミルくんったら益々素敵な紳士になったわね……!」と嬉しそうに呟いた。
 それこそ、我が子の成長を目の当たりにしたような反応だ。
 うん、まあお母様ってミルのことも実の息子のように思っている節があるからね。随分と一緒にいるんだもの、お母様にとってミルは自分の子同然よね。それは多分セルイラ様もそう思ってくださっているのだろうけれど。

「それはそうと、リリーちゃんはここに来ても良かったの?一応今日の主役はリリーちゃんなのだから、会場にいた方がいいんじゃないかしら」
「あ、それは大丈夫です。私がしなければならない挨拶はとっくに終えていますし、お父様にはきちんとお母様の様子を見てくると伝えてありますから」

 お父様の返事を待たずに来ちゃったから、許可を貰ったというわけではないけれど、でもちゃんと言ってあるんだから嘘はついてないよ?

「公爵の返事は待たずに飛び出しましたけれどね」
「余計なことは言わない!」

 隣でボソリと呟くミルを私は横目で睨み付ける。
 返事は待たなかったけれど、別に呼び止められなかったのだしセーフのうちに入るわよ!!

「ふふふっ、相変わらず二人は仲良いわね」

 お母様はそんな私達を交互に見ながら笑う。
 それ、お父様にもさっき同じ様な事を言われました。

「ミルくん、いつもリリーちゃんをありがとう。それから、旦那様がごめんなさいね」
「……やはり部屋の中まで聞こえてましたか?」
「だって、リリーちゃんったら声の音量を抑えないでいるんだもの。部屋の目の前で話されれば誰だって聞こえてしまうわよ?」

 茶目っ気たっぷりに笑いながら片目を瞑るお母様に、ミルが釣られて苦笑しながら頷いた。

「それもそうですよね」
「ごめんなさい、お母様の部屋の前でうるさくしてしまって」
「いいのよ。面白かったから」

 なんでもないようにサラリとそう告げるお母様。
 ……いつも思うのだけれど、お母様って穏やかな性格をしているようで実はそうでもないよね。会話が筒抜けだったのなら、私が階段をドレスの裾を捲し上げながら駆け上がったこともバレていると思うけれど、それも含めて尚且つ面白かったからの一言で片付けてしまうお母様もお母様だわ。
 と、ここで私は本題に入っていなかったことに今更ながら気が付いた。
 体調の確認をするのと当時に、もう既に会ったと思われるノアについての反応もそれとなく探っておこうと思っていたのに、むしろ後半部分が私にとっての重要な問題だったのにそれをすっかり忘れかけるとは……。
 それだけお母様の部屋に入る前のミルとの会話で、私が取り乱していた証拠ですね。ええ。
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