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1日目:別れと出会い

another story-流れる音楽と-

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車内では、ノラが気に入っているバンドの曲が流れていた。日本では結構有名らしい。

ノラは車が赤信号でとまると、後ろを振り向いて俺を見た。

「そいつ、大丈夫か?」

「…大丈夫ではないと思う。」

「何か言ってたか?」

「もう、死ぬって。……だから、死ぬなって言った。」

「…珍しいな。レイがそんなこと言うなんて。」

「そうかな?」

信号が青に変わって、ノラはまた前を向いた。

俺はとなりで眠っている彼女を見た。

「レイ、これからそいつ、どうする?」

「………俺たちの家でこいつも暮らせないかな?」

顔を見なくてもノラの表情がわかった。

「無理に決まってんだろう?これ以上この子を苦しめてどうする。」

だよな、そう言おうとしたその時、彼女の閉じた瞳から流れる涙を見た。

また、泣いているのか。

窓に寄りかかって眠る彼女は、今にも消えてしまいそうだった。たまらず、彼女の右手を強く握った。

左手が燃えるように熱くなり、それは彼女の冷えた体には不釣り合いのように思えた。それでも、手を離せなかった。

「レイ、明日そいつが目覚めてから話をしよう。今夜は俺達も、みんな疲れ切ってる。」

「ああ。……ありがとうな、ノラ。」

「別にいい。俺らは仲間だ。どんな絆で繋がっていてもな。」

「……そうだな。」

ノラは音量を少し小さくして、静かに走り続けた。

彼女は今どんな夢を見ているのだろう。

さっきのキスをどう受け止めたのだろう。

不安を全てぶちまけてしまえばいいのに。なぜ、1人でただ泣くのか。

俺は、お前に聞きたいことがたくさんあるのに。


…今日の俺は変だ。今までもっと残酷な世界を見てきたのに、なぜ彼女のことをこんなにも考えてしまうのだろう。

恋とかじゃない。そんな軽いもんに俺は流されない。

ただ…。

……今日の俺は変だ。


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