11 / 172
第1章 働かなくてもいい世界 〜 it's a small fairy world 〜
旅人
しおりを挟む
それから3日が経過した。気がついたら友達カウントが1増えていた。恐らくセミルが友達認定されたのだろう。ようやくといった気分だ。
念のため、友達発見器で居場所がわかるか確認しよう。セミルは今、自室で寝ているので、いったん外へ出て試してみよう。
家の裏に周り、モモモのところまで行く。相変わらず、モモモはそこに居た。そのあたりがモモモの縄張りなのだろうか、大抵はこの丘の下あたりにいるのを見かける。
セミルのことを思い浮かべると、家の方向にセミルを感じた。もう何回かやっても同じ結果だ。まず間違いなく友達認定されている。
(よし、ようやく二人目だな)
俺は視界に浮かぶ「2/100」に着目する。友達を増やすには、とにかくたくさんの人に会うことだよな。意思疎通ができなきゃ話にならない。少なくとも100人の意思疎通できるニンゲンを見つけて、そこから友達になれるかは正直、運次第かな。友達の判定基準が分からない以上、積極的にコミュニケーションを取るくらいしかできることが無い。けれどそれを続けても、相性が悪い相手とは下手すると一生友達になれないかもしれない。であれば、意思疎通できるニンゲンは100人以上知っておくべきだろう。
(でも、俺一人で意思疎通できるニンゲンを探すのは、無理なんだよなぁ)
精神崩壊するのはもうゴメンだ。かと言ってセミルを巻き込むのも悪いし、マダムも息子たちに慕われているから屋敷を長く離れられないだろうしな……。
俺はちらりと、モモモを見る
(コイツとも意思疎通できたら友達認定されるのかな……)
それからしばらく、モモモに話しかけてみるも、ことごとく無視された。やはり聞こえて居ないのだろう。ニンゲン以外の生物とも友達になれれば、少しは楽になると思ったんだが……。
まあ、セミル達も遠出することはあるだろうし、当面はそれについていって、出先で探そう。時間はたっぷりあるし、この世界のこともまだまだ知らないことが多いから、それを知る楽しみもある。ミッションは、気がついたら達成してました、くらいの優先度でいいだろう。
俺は家に戻ろうと丘を上る。すると、家の前に何かが止まる音がした。裏手から正面に回ると、セミルたちの家を尋ねる男が居た。隣には屋根なしのジープのような自動車がある。さっきの音はこれのようだ。
とりあえず俺はいつものように「おパンツ拝見!」と叫ぼうとしたが、ハウスルールを思い出したので、思いとどまる。男は何回か呼び鈴をならし、返事がないのを確認すると端末を取り出した。そういえばセミルは寝てたし、恐らくユリカも寝ているのだろう。男の背後から端末を覗き見るも、言語が分からないのでよくわからない。画面のUIからおそらく、メッセージのやり取りをしていると推察できるくらいだ。それから5分くらいして、ようやく扉が開いた。
「あー、ごめんごめん。待たせたね」
「遅いよ。寝てたの? 昨日、この時間に来るって連絡したじゃないか」
「そうは言っても、二度寝、三度寝くらいしないと勿体無い気がするし……」
扉を開けたのはセミルだ。頭に酷い寝癖がついている。男はセミルと顔見知りのようで、そのまま家へと上がっていった。俺もそれに着いていく。
「ふぁあ、おはよう、セミ……と、……誰だっけ?」
「え、酷いな。ライゼだよ、ライゼ。君が忘れるわけ無いだろうが」
「ああ、そうだったそうだった。もう来たのか。早いねー」
リビングに向かう途中で、自室から出てきたユリカと遭遇する。男の方は、ライゼと名乗った。三人はそのままリビングへ入る。
「飲み物と、何か食べるもの用意するからちょっと待っててー」
と言って、セミルはキッチンへと引っ込んだ。俺もあとに続く。
(なあ、セミル。あいつは誰なんだ?)
「あ、悪霊さんおはよう。あいつはライゼ。旅人で、世界を回ってる。近くに来たからここに寄ったんだ」
(そうなのか。来客があることは、先に言っておいて欲しかったな。緊急事態かと思って、玄関で叫びそうになったよ)
「ゴメンね、朝には説明しようと思ったけど、寝過ごしちゃった。」
てへへ、とセミルは誤魔化すように笑う。
「あ、ライゼはどうだった? 悪霊さんの声聞こえた?」
(ん? そうだな)
俺は、ライゼの側に移動する。
(ライゼさん、パンツ見せてもらっても、いいかな?)
ライゼには特に変わった様子はなく、ユリカとの雑談を続けていた。ファッションの話題のようだ。
(駄目だな。聞こえていないようだ)
「そかー」
三人分のお茶と、パンやお菓子の入った器を持って戻ったセミルに俺は言う。
「妖精の声、聞いたことあるって言ってたし、聞こえるかと思ったけど駄目だったか」
(そうか。そいつは残念だ)
「ん? 何の話だ?」
セミルの言葉に反応し、ライゼが尋ねる。セミルは俺に確認をとって、悪霊さんについて知っていることをライゼに話す。
「……ということなんだけど、何か知らない?」
「……いや。僕もそんな話は聞いたことがないな」
ライゼも悪霊さんのことを知らないようだった。死神さんの言う通り、俺みたいな存在は珍しいのか、ほとんど居ないのだろう。
ちなみに、死神さんとミッションのことはセミルに伝えていない。というか、伝えようとしたら死神さんが現れて「話したら駄目です。話したらあなたは消滅します」とだけ告げて去っていった。異世界転生のルールというか決まりごとらしい。俺を通じて死神さんたちと接触されることを避けるためだとか。なので、伝えられないと言ったほうが正しい。
(んー。三千年生きてるマダムも、旅人も知らないんじゃ、もう誰も俺のこと知らないんじゃないかな……)
「そうかもだけど、諦めるのはまだ早いよ。頑張って探そ?」
というわけで、やんわりと俺のルーツを探らなくてもいいよとは伝えているのだが、なかなかセミルに受け入れてもらえない。彼女の暇つぶしもあるだろうが、優しさも少しは感じているので、申し訳ない気持ちになってくる。
「えっと、悪霊さんとやらは、この部屋に居るのかな」
「そこに」
セミルは指で俺の場所を指す。
「悪霊さん。はじめまして、僕はライゼという。世界を旅して、なぜ世界がこんなにもニンゲンに対して都合のいい環境になっているか、調査している。その旅の途中で、僕は妖精さんに会ったことがある。君のように姿は見えないが、確かに目の前から声が聞こえた。妖精さんについても調査しているが、まだ手がかりは掴めていない。何か分かったら、セミルに伝えようと思う」
(そうか、それは助かる。こちらからも、よろしく頼むよ。あ、気が向いたらでいいからね。本来の目的のついでに、ちょろっと調査するだけで、なんなら忘れてもいいからね。俺は全然気にしてないからー)
罪悪感から謙遜する俺の言葉を、セミルはライゼに伝える。
「はは、悪霊さんと聞いていたからどんなに性格が悪いかと思えば、むしろ真逆じゃないか。君は優しいんだな。遠慮することはないよ。知的好奇心を満たすために、僕は旅をしているのだから」
そう言って、ライゼはニカリと笑った。
罪悪感のなかで、俺は感謝の言葉を伝えるのであった。
念のため、友達発見器で居場所がわかるか確認しよう。セミルは今、自室で寝ているので、いったん外へ出て試してみよう。
家の裏に周り、モモモのところまで行く。相変わらず、モモモはそこに居た。そのあたりがモモモの縄張りなのだろうか、大抵はこの丘の下あたりにいるのを見かける。
セミルのことを思い浮かべると、家の方向にセミルを感じた。もう何回かやっても同じ結果だ。まず間違いなく友達認定されている。
(よし、ようやく二人目だな)
俺は視界に浮かぶ「2/100」に着目する。友達を増やすには、とにかくたくさんの人に会うことだよな。意思疎通ができなきゃ話にならない。少なくとも100人の意思疎通できるニンゲンを見つけて、そこから友達になれるかは正直、運次第かな。友達の判定基準が分からない以上、積極的にコミュニケーションを取るくらいしかできることが無い。けれどそれを続けても、相性が悪い相手とは下手すると一生友達になれないかもしれない。であれば、意思疎通できるニンゲンは100人以上知っておくべきだろう。
(でも、俺一人で意思疎通できるニンゲンを探すのは、無理なんだよなぁ)
精神崩壊するのはもうゴメンだ。かと言ってセミルを巻き込むのも悪いし、マダムも息子たちに慕われているから屋敷を長く離れられないだろうしな……。
俺はちらりと、モモモを見る
(コイツとも意思疎通できたら友達認定されるのかな……)
それからしばらく、モモモに話しかけてみるも、ことごとく無視された。やはり聞こえて居ないのだろう。ニンゲン以外の生物とも友達になれれば、少しは楽になると思ったんだが……。
まあ、セミル達も遠出することはあるだろうし、当面はそれについていって、出先で探そう。時間はたっぷりあるし、この世界のこともまだまだ知らないことが多いから、それを知る楽しみもある。ミッションは、気がついたら達成してました、くらいの優先度でいいだろう。
俺は家に戻ろうと丘を上る。すると、家の前に何かが止まる音がした。裏手から正面に回ると、セミルたちの家を尋ねる男が居た。隣には屋根なしのジープのような自動車がある。さっきの音はこれのようだ。
とりあえず俺はいつものように「おパンツ拝見!」と叫ぼうとしたが、ハウスルールを思い出したので、思いとどまる。男は何回か呼び鈴をならし、返事がないのを確認すると端末を取り出した。そういえばセミルは寝てたし、恐らくユリカも寝ているのだろう。男の背後から端末を覗き見るも、言語が分からないのでよくわからない。画面のUIからおそらく、メッセージのやり取りをしていると推察できるくらいだ。それから5分くらいして、ようやく扉が開いた。
「あー、ごめんごめん。待たせたね」
「遅いよ。寝てたの? 昨日、この時間に来るって連絡したじゃないか」
「そうは言っても、二度寝、三度寝くらいしないと勿体無い気がするし……」
扉を開けたのはセミルだ。頭に酷い寝癖がついている。男はセミルと顔見知りのようで、そのまま家へと上がっていった。俺もそれに着いていく。
「ふぁあ、おはよう、セミ……と、……誰だっけ?」
「え、酷いな。ライゼだよ、ライゼ。君が忘れるわけ無いだろうが」
「ああ、そうだったそうだった。もう来たのか。早いねー」
リビングに向かう途中で、自室から出てきたユリカと遭遇する。男の方は、ライゼと名乗った。三人はそのままリビングへ入る。
「飲み物と、何か食べるもの用意するからちょっと待っててー」
と言って、セミルはキッチンへと引っ込んだ。俺もあとに続く。
(なあ、セミル。あいつは誰なんだ?)
「あ、悪霊さんおはよう。あいつはライゼ。旅人で、世界を回ってる。近くに来たからここに寄ったんだ」
(そうなのか。来客があることは、先に言っておいて欲しかったな。緊急事態かと思って、玄関で叫びそうになったよ)
「ゴメンね、朝には説明しようと思ったけど、寝過ごしちゃった。」
てへへ、とセミルは誤魔化すように笑う。
「あ、ライゼはどうだった? 悪霊さんの声聞こえた?」
(ん? そうだな)
俺は、ライゼの側に移動する。
(ライゼさん、パンツ見せてもらっても、いいかな?)
ライゼには特に変わった様子はなく、ユリカとの雑談を続けていた。ファッションの話題のようだ。
(駄目だな。聞こえていないようだ)
「そかー」
三人分のお茶と、パンやお菓子の入った器を持って戻ったセミルに俺は言う。
「妖精の声、聞いたことあるって言ってたし、聞こえるかと思ったけど駄目だったか」
(そうか。そいつは残念だ)
「ん? 何の話だ?」
セミルの言葉に反応し、ライゼが尋ねる。セミルは俺に確認をとって、悪霊さんについて知っていることをライゼに話す。
「……ということなんだけど、何か知らない?」
「……いや。僕もそんな話は聞いたことがないな」
ライゼも悪霊さんのことを知らないようだった。死神さんの言う通り、俺みたいな存在は珍しいのか、ほとんど居ないのだろう。
ちなみに、死神さんとミッションのことはセミルに伝えていない。というか、伝えようとしたら死神さんが現れて「話したら駄目です。話したらあなたは消滅します」とだけ告げて去っていった。異世界転生のルールというか決まりごとらしい。俺を通じて死神さんたちと接触されることを避けるためだとか。なので、伝えられないと言ったほうが正しい。
(んー。三千年生きてるマダムも、旅人も知らないんじゃ、もう誰も俺のこと知らないんじゃないかな……)
「そうかもだけど、諦めるのはまだ早いよ。頑張って探そ?」
というわけで、やんわりと俺のルーツを探らなくてもいいよとは伝えているのだが、なかなかセミルに受け入れてもらえない。彼女の暇つぶしもあるだろうが、優しさも少しは感じているので、申し訳ない気持ちになってくる。
「えっと、悪霊さんとやらは、この部屋に居るのかな」
「そこに」
セミルは指で俺の場所を指す。
「悪霊さん。はじめまして、僕はライゼという。世界を旅して、なぜ世界がこんなにもニンゲンに対して都合のいい環境になっているか、調査している。その旅の途中で、僕は妖精さんに会ったことがある。君のように姿は見えないが、確かに目の前から声が聞こえた。妖精さんについても調査しているが、まだ手がかりは掴めていない。何か分かったら、セミルに伝えようと思う」
(そうか、それは助かる。こちらからも、よろしく頼むよ。あ、気が向いたらでいいからね。本来の目的のついでに、ちょろっと調査するだけで、なんなら忘れてもいいからね。俺は全然気にしてないからー)
罪悪感から謙遜する俺の言葉を、セミルはライゼに伝える。
「はは、悪霊さんと聞いていたからどんなに性格が悪いかと思えば、むしろ真逆じゃないか。君は優しいんだな。遠慮することはないよ。知的好奇心を満たすために、僕は旅をしているのだから」
そう言って、ライゼはニカリと笑った。
罪悪感のなかで、俺は感謝の言葉を伝えるのであった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
79
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる