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第2章 恋のキューピッド大作戦 〜 Shape of Our Heart 〜
レジスタンス
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食堂で喀血した少女は、「ああ、またやった」とでも言いたげな表情をしていた。祈りの挨拶をしていたユキトとやらが「お嬢様!」と彼女の傍まで駆け寄り、他2名が慣れた手付きで血の掃除を始める。俺の声が聞こえた者はこちらを注視しているが、それ以外の者はすぐに朝食を再開していた。
(えっと、大丈夫? すごい血が出てるけど……)
「……大丈夫。いつものことだ。お前、悪霊か?」
(そうだけど)
クリスくんから俺のことは聞いていたのだろうか、少女に驚いた様子はない。というか、いつものことなんだ……。
「着替えと食事が済んだらまた話そう」
「お嬢様、お召し替えを……」
「分かってる。ユキト、居る限りのメンバーにも集まるように伝えておいてくれ」
「承知しました」
ユキトは少女と会話しつつも視線は俺を見据えている。この人にも俺の声が聞こえているようだ。少女はユキトと一緒に食堂を出ていく。なぜかアルも立ち上がり、二人を追って食堂を出ていってしまった。俺はクリスくん達のところへと戻る。
(あの人、大丈夫なのかな)
「ああ、アスカだったら大丈夫ですよ。いつものことです」
アスカ、とクリスくんは彼女の名を呼ぶ。ユキト以外の他の面々、彼女自身ですら「またか」という様子だったし、心配は無用ということなのかな。
(でもアルは彼女についてったけど……)
「ああ、アルは彼女に惚れてるんですよ。だからでしょう」
(へえ、アルがあの子に……って、え!?)
さらりと牛乳を喉に流し込むように、クリスくんは友人の恋心を露呈した。
(そうなのか、アルが彼女に……。ていうか、言っちゃっていいの?)
「悪霊さんもすぐ気づきますから。言っても言わなくても同じです」
まじか。いやーそれにしてもアルに春が訪れていたとは……。持ち前の不幸に負けず頑張って欲しい。あ、でもユキトとアスカってどうな関係なんだろう。随分とふたりの距離は近いように思えたけど。
(あ、アルが故郷に帰省しないのはそれが理由?)
「それは理由の半分ですね」
(もう半分は?)
「人質だからです」
人質だから? なんのこっちゃ。続きを促すとクリスくんは「説明するのが面倒なので、アルに聞いてください」と放り投げた。むう、気になるな。後で聞いてみよう。
(あ、そういえばクリスくん、俺が挨拶してるとき笑ってたでしょ。駄目だよ、人の挨拶を笑っちゃ)
「ああ、いやいや。悪霊さんの挨拶を笑ったわけじゃないですよ。滅多に見れない、アスカのぽかーんとした反応が面白くてですね。つい」
滅多に見れない反応? 俺の声が聞こえたものは、大抵みんなぽかーんとこちらを見るが。
「まあ、アスカと2,3日話せば分かりますよ」
そう言ってクリスくんは朝食を再開してしまった。彼の目の前にいる二人は、困惑した面持ちで引続きひそひそと囁きあっていた。
朝食後、ユキトによってクリスくん達はアスカの部屋へと呼び出された。俺も来てくれと要求されたので了承してついていく。教会の地下に彼女の部屋はあるらしい。薄暗い階段を降りて俺たちは彼女の部屋へと向かう。
アスカの部屋には既に多くの人が居た。。十数人は居るだろう。これだけ人数が居てもゆとりがあるほど部屋は広い。メンバーは先程食堂に居た者がほとんどだが、子供や年寄りはここには居ない。さっきクリスくんの前に座っていた2人も居た。
「来たか」
と、部屋の奥から声がする。服を着替えたアスカがベッドに座っていた。着替える前と同じ、白い地味なワンピースである。後から聞いた話だが、彼女はよく喀血するため汚れてもいい服装をしているらしい。
「悪霊。ちょっとこっち来てくれるか」
(ん? どうした)
アスカに手招きされたので、他の人をスススとすり抜けて俺は彼女のもとに移動する。
「今、彼の声が聞こえたメンバーは挙手だ」
後ろからどよめきが起きる。振り返ると挙手をした者がクリスくん達を除き4人いた。うち、ひとりはユキトである。
「なるほどね。リーシャが半信半疑と言っていた理由がこれか」
「えっと、アスカ様。本当に……?」
朝食にてクリスくんの目の前に座っていた二人のうちの片方がアスカに尋ねる。
「そうだ。……やっぱり声が聞こえなければ、疑わしいよな」
(ああ、そういうこと。俺の声が聞こえるのか知りたかったのね)
「そういうことだ。お前のことはクリスからも聞いている」
アスカは鋭い目つきを俺に向ける。ユキトは彼女のことをお嬢様と呼んでおり、言葉遣いは男性的で上からのものだ。わりと高い身分の人なのかな。
「軽い風を起こせるらしいな。今できるか?」
(おうよ)
俺はアスカの上げた手に微風を送る。
「……確かに室内にも関わらず風を感じるな。声の聞こえなかった者たちにやってみてくれないか」
(いいよー)
俺は部屋を周り適当に微風を当てまくる。奇声をあげたり目を見開いたりと色んな反応が見れて楽しい。
「納得したか?」
「……はい」
疑問を呈していた男性は微風を受けた手のひらを恐怖の表情で見つめていた。
「でだ。悪霊。どうして今になって現れた? クリスをこちらに招いてから、もう2週間は経過しているが」
あ、そんなに経ってたのか。「気絶してたそうですよ」と、俺の代わりにクリスくんが答える。
「気絶? どうしてまた?」
「そういえば、どうして気絶を?」
(クリスくんとレイジーちゃんが死んだと思ったショックでな)
「「メンタル弱ッ!」」
アスカとクリスくんは声を揃えて言った。うるせえ、ほっとけ。君たちには言えないけれど、俺には転生がかかってるんだからな。それが絶たれたと思った日には気絶だってするわ。
「おっと、失礼したな。気を悪くさせたか」
(別にいいよ。それよりも、クリスくん達を助けてくれてありがとね)
おかげで助かった。
「なあに、礼には及ばない。それにしても、君とクリス達は仲が良いな」
(まあねー)
「僕とレイジーの逃避行にもついて来てくれてますからね」
「そうなのか。どうしてまた?」
(娘(仮)と義息子の(仮)のピンチだからね。ついていきますよ)
ミッション達成もかかってるしね。
俺の言葉を聞いたアスカは、おもむろに鋭い双眸を崩して、吹き出した。
「っぷ、あははははははっ!! なんだクリス。この悪霊とやらは可笑しいな!」
「だから、言ったでしょ。悪霊さんは敵になるほうが難しいって」
そう言ってクリスくんも微笑む。
(え、なんなの、なんなの? なんで二人とも笑ってるの?)
「いや、すまんな。君の答えが斜め上過ぎて笑ってしまったよ。まさか、本当に娘がどうとか言うとはな」
「悪霊さん、気づいてないんですから……」
はあ、とクリスくんはため息をつく。だから、どういうことさ。
「僕とレイジーが逃避行してるのは秘密だって、悪霊さん分かってますよね。あと、僕とレイジーの身分証は偽名ですよ。それなのに、どうしてここのみんなが僕らの本当の名前を知ってると思います? どうして、アスカが逃避行のことを知っていると思います?」
……あ。本当だ。気が付かなかった。単純に命を助けられただけならば、本名や逃避行のことを明かしたりしないはずだ。けれど、教会の面々はクリスくん達を本名で呼び、逃避行についてもアスカはすでにご存知に様子だ。
(えっと、どうして?)
「悪霊。それは俺たちが君らと同じだからだ」
「お嬢様」
「いいんだ、ユキト」
口を挟んだユキトをアスカが制する。
「俺も、リーシャ、セイ、クリスと同じ判断だ。悪霊は敵ではなく敵にもなり得ないだろう。だったら味方につけたほうが得策だ」
敵。敵にはなり得ない。アスカ達にも敵がいる。アスカとクリスくん達は同じ。クリスくん達の敵は……。
「そう、俺達も君らと同じ敵と闘っている。クリスとは同盟を結んだ関係だな。悪霊さん。君も俺たちの味方になってくれるか?」
俺と自称する少女は、鋭い、真剣な眼差しで俺を見つめている。そんな真剣に見られたこと無いからちょっと照れるな。
(うん、いいよ)
「本当か?」
(ああ。クリスくんの味方なんでしょ? だったら俺も協力するよ)
協力しない理由が無い。
「そうか、感謝する」
なるほどね。さっきの質問は俺がアスカ達の敵か味方かの判断するための質問だったんだな。その答えやら反応を見て、俺が敵ではないと判断したのだろう。
(でも、そんな迂闊に俺のこと信用していいのか?)
もしも俺が敵だとしたら、君たちの秘密は筒抜けだぞ。
「迂闊ってどの口が言ってるんですか悪霊さん。簡単な引掛けも見抜けなかったくせに」
うぐ。……いやあ、クリスくんたちがすっかり気を許していたから、秘密を露呈してもいい環境と判断したまでだ、うん。
「だとしても、事前に確認はすべきでしたね」
はい、そうですね。命がけの逃避行でしたもんね。
「というわけで、悪霊が味方になった。ここにいない他のメンバーにも共有すること。基本はクリスかレイジーと一緒に居るはずだ。会話できるのは俺と、ユキト、ベータにイータとアルバートもか。用があるときは彼ら経由で頼むこと。イータは悪霊としばらく行動をともにしろ。人となりと能力をこちらでも把握する必要がある」
「アスカ。ですが……」
「なんだ、不服か?」
ギロリと、険しい眼がイータと呼ばれた女性を射竦める。
「い、いえ……」
「イータ。これも重要な任務です。しっかりと励みなさい」
「はい……」
ユキトの言葉に押されるように、彼女は返事を絞り出した。
うーん、俺と一緒に居るのがそんなに嫌なのかな。字面だけ聞くと確かに俺は正体不明の魑魅魍魎だけど、中身は善良な悪霊さんなんだけどな。ちょっと傷つく。
(というか、任務って?)
「敵を倒すための任務だ。決まってる」
アスカが険しい目つきをこちらに向ける。
(そういえば、敵って誰なの?)
クリスくん達と逃避行していたときには謎な存在だったけど。
「帝国だ」
間を置くことなくアスカは答えた。
「俺たちはレジスタンス。敵は帝国そのものだ。決まってる」
ギリリと奥歯を噛み締めて、彼女は帝国への叛意を口にした。
(えっと、大丈夫? すごい血が出てるけど……)
「……大丈夫。いつものことだ。お前、悪霊か?」
(そうだけど)
クリスくんから俺のことは聞いていたのだろうか、少女に驚いた様子はない。というか、いつものことなんだ……。
「着替えと食事が済んだらまた話そう」
「お嬢様、お召し替えを……」
「分かってる。ユキト、居る限りのメンバーにも集まるように伝えておいてくれ」
「承知しました」
ユキトは少女と会話しつつも視線は俺を見据えている。この人にも俺の声が聞こえているようだ。少女はユキトと一緒に食堂を出ていく。なぜかアルも立ち上がり、二人を追って食堂を出ていってしまった。俺はクリスくん達のところへと戻る。
(あの人、大丈夫なのかな)
「ああ、アスカだったら大丈夫ですよ。いつものことです」
アスカ、とクリスくんは彼女の名を呼ぶ。ユキト以外の他の面々、彼女自身ですら「またか」という様子だったし、心配は無用ということなのかな。
(でもアルは彼女についてったけど……)
「ああ、アルは彼女に惚れてるんですよ。だからでしょう」
(へえ、アルがあの子に……って、え!?)
さらりと牛乳を喉に流し込むように、クリスくんは友人の恋心を露呈した。
(そうなのか、アルが彼女に……。ていうか、言っちゃっていいの?)
「悪霊さんもすぐ気づきますから。言っても言わなくても同じです」
まじか。いやーそれにしてもアルに春が訪れていたとは……。持ち前の不幸に負けず頑張って欲しい。あ、でもユキトとアスカってどうな関係なんだろう。随分とふたりの距離は近いように思えたけど。
(あ、アルが故郷に帰省しないのはそれが理由?)
「それは理由の半分ですね」
(もう半分は?)
「人質だからです」
人質だから? なんのこっちゃ。続きを促すとクリスくんは「説明するのが面倒なので、アルに聞いてください」と放り投げた。むう、気になるな。後で聞いてみよう。
(あ、そういえばクリスくん、俺が挨拶してるとき笑ってたでしょ。駄目だよ、人の挨拶を笑っちゃ)
「ああ、いやいや。悪霊さんの挨拶を笑ったわけじゃないですよ。滅多に見れない、アスカのぽかーんとした反応が面白くてですね。つい」
滅多に見れない反応? 俺の声が聞こえたものは、大抵みんなぽかーんとこちらを見るが。
「まあ、アスカと2,3日話せば分かりますよ」
そう言ってクリスくんは朝食を再開してしまった。彼の目の前にいる二人は、困惑した面持ちで引続きひそひそと囁きあっていた。
朝食後、ユキトによってクリスくん達はアスカの部屋へと呼び出された。俺も来てくれと要求されたので了承してついていく。教会の地下に彼女の部屋はあるらしい。薄暗い階段を降りて俺たちは彼女の部屋へと向かう。
アスカの部屋には既に多くの人が居た。。十数人は居るだろう。これだけ人数が居てもゆとりがあるほど部屋は広い。メンバーは先程食堂に居た者がほとんどだが、子供や年寄りはここには居ない。さっきクリスくんの前に座っていた2人も居た。
「来たか」
と、部屋の奥から声がする。服を着替えたアスカがベッドに座っていた。着替える前と同じ、白い地味なワンピースである。後から聞いた話だが、彼女はよく喀血するため汚れてもいい服装をしているらしい。
「悪霊。ちょっとこっち来てくれるか」
(ん? どうした)
アスカに手招きされたので、他の人をスススとすり抜けて俺は彼女のもとに移動する。
「今、彼の声が聞こえたメンバーは挙手だ」
後ろからどよめきが起きる。振り返ると挙手をした者がクリスくん達を除き4人いた。うち、ひとりはユキトである。
「なるほどね。リーシャが半信半疑と言っていた理由がこれか」
「えっと、アスカ様。本当に……?」
朝食にてクリスくんの目の前に座っていた二人のうちの片方がアスカに尋ねる。
「そうだ。……やっぱり声が聞こえなければ、疑わしいよな」
(ああ、そういうこと。俺の声が聞こえるのか知りたかったのね)
「そういうことだ。お前のことはクリスからも聞いている」
アスカは鋭い目つきを俺に向ける。ユキトは彼女のことをお嬢様と呼んでおり、言葉遣いは男性的で上からのものだ。わりと高い身分の人なのかな。
「軽い風を起こせるらしいな。今できるか?」
(おうよ)
俺はアスカの上げた手に微風を送る。
「……確かに室内にも関わらず風を感じるな。声の聞こえなかった者たちにやってみてくれないか」
(いいよー)
俺は部屋を周り適当に微風を当てまくる。奇声をあげたり目を見開いたりと色んな反応が見れて楽しい。
「納得したか?」
「……はい」
疑問を呈していた男性は微風を受けた手のひらを恐怖の表情で見つめていた。
「でだ。悪霊。どうして今になって現れた? クリスをこちらに招いてから、もう2週間は経過しているが」
あ、そんなに経ってたのか。「気絶してたそうですよ」と、俺の代わりにクリスくんが答える。
「気絶? どうしてまた?」
「そういえば、どうして気絶を?」
(クリスくんとレイジーちゃんが死んだと思ったショックでな)
「「メンタル弱ッ!」」
アスカとクリスくんは声を揃えて言った。うるせえ、ほっとけ。君たちには言えないけれど、俺には転生がかかってるんだからな。それが絶たれたと思った日には気絶だってするわ。
「おっと、失礼したな。気を悪くさせたか」
(別にいいよ。それよりも、クリスくん達を助けてくれてありがとね)
おかげで助かった。
「なあに、礼には及ばない。それにしても、君とクリス達は仲が良いな」
(まあねー)
「僕とレイジーの逃避行にもついて来てくれてますからね」
「そうなのか。どうしてまた?」
(娘(仮)と義息子の(仮)のピンチだからね。ついていきますよ)
ミッション達成もかかってるしね。
俺の言葉を聞いたアスカは、おもむろに鋭い双眸を崩して、吹き出した。
「っぷ、あははははははっ!! なんだクリス。この悪霊とやらは可笑しいな!」
「だから、言ったでしょ。悪霊さんは敵になるほうが難しいって」
そう言ってクリスくんも微笑む。
(え、なんなの、なんなの? なんで二人とも笑ってるの?)
「いや、すまんな。君の答えが斜め上過ぎて笑ってしまったよ。まさか、本当に娘がどうとか言うとはな」
「悪霊さん、気づいてないんですから……」
はあ、とクリスくんはため息をつく。だから、どういうことさ。
「僕とレイジーが逃避行してるのは秘密だって、悪霊さん分かってますよね。あと、僕とレイジーの身分証は偽名ですよ。それなのに、どうしてここのみんなが僕らの本当の名前を知ってると思います? どうして、アスカが逃避行のことを知っていると思います?」
……あ。本当だ。気が付かなかった。単純に命を助けられただけならば、本名や逃避行のことを明かしたりしないはずだ。けれど、教会の面々はクリスくん達を本名で呼び、逃避行についてもアスカはすでにご存知に様子だ。
(えっと、どうして?)
「悪霊。それは俺たちが君らと同じだからだ」
「お嬢様」
「いいんだ、ユキト」
口を挟んだユキトをアスカが制する。
「俺も、リーシャ、セイ、クリスと同じ判断だ。悪霊は敵ではなく敵にもなり得ないだろう。だったら味方につけたほうが得策だ」
敵。敵にはなり得ない。アスカ達にも敵がいる。アスカとクリスくん達は同じ。クリスくん達の敵は……。
「そう、俺達も君らと同じ敵と闘っている。クリスとは同盟を結んだ関係だな。悪霊さん。君も俺たちの味方になってくれるか?」
俺と自称する少女は、鋭い、真剣な眼差しで俺を見つめている。そんな真剣に見られたこと無いからちょっと照れるな。
(うん、いいよ)
「本当か?」
(ああ。クリスくんの味方なんでしょ? だったら俺も協力するよ)
協力しない理由が無い。
「そうか、感謝する」
なるほどね。さっきの質問は俺がアスカ達の敵か味方かの判断するための質問だったんだな。その答えやら反応を見て、俺が敵ではないと判断したのだろう。
(でも、そんな迂闊に俺のこと信用していいのか?)
もしも俺が敵だとしたら、君たちの秘密は筒抜けだぞ。
「迂闊ってどの口が言ってるんですか悪霊さん。簡単な引掛けも見抜けなかったくせに」
うぐ。……いやあ、クリスくんたちがすっかり気を許していたから、秘密を露呈してもいい環境と判断したまでだ、うん。
「だとしても、事前に確認はすべきでしたね」
はい、そうですね。命がけの逃避行でしたもんね。
「というわけで、悪霊が味方になった。ここにいない他のメンバーにも共有すること。基本はクリスかレイジーと一緒に居るはずだ。会話できるのは俺と、ユキト、ベータにイータとアルバートもか。用があるときは彼ら経由で頼むこと。イータは悪霊としばらく行動をともにしろ。人となりと能力をこちらでも把握する必要がある」
「アスカ。ですが……」
「なんだ、不服か?」
ギロリと、険しい眼がイータと呼ばれた女性を射竦める。
「い、いえ……」
「イータ。これも重要な任務です。しっかりと励みなさい」
「はい……」
ユキトの言葉に押されるように、彼女は返事を絞り出した。
うーん、俺と一緒に居るのがそんなに嫌なのかな。字面だけ聞くと確かに俺は正体不明の魑魅魍魎だけど、中身は善良な悪霊さんなんだけどな。ちょっと傷つく。
(というか、任務って?)
「敵を倒すための任務だ。決まってる」
アスカが険しい目つきをこちらに向ける。
(そういえば、敵って誰なの?)
クリスくん達と逃避行していたときには謎な存在だったけど。
「帝国だ」
間を置くことなくアスカは答えた。
「俺たちはレジスタンス。敵は帝国そのものだ。決まってる」
ギリリと奥歯を噛み締めて、彼女は帝国への叛意を口にした。
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