異世界で悪霊となった俺、チート能力欲しさに神様のミッションを開始する

眠眠

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第2章 恋のキューピッド大作戦 〜 Shape of Our Heart 〜

クリス vs ベータ3

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「おいおい、ベータ! やり過ぎじゃないのか、子供相手に」
「そうだそうだ!」

 模擬戦を観ていたレジスタンスのメンバーから野次が飛ぶ。

「ふん。戦場では準備を怠ったやつが死ぬだけだ。現にこいつは第零軍団てきの攻撃で死にかけたらしいじゃないか。同盟相手がそんな間抜けだと困るから、準備の大切さを教えてやってるんだよ」
「けれど、それで怖がってしまったら……」
「それならそれで、教会ここで大人しく指でも咥えて待っていればいい。他の子供達ガキどもと一緒にな。もっとも、子供二人で帝国から脱出してここまで来ているんだ……」

 ベータさんは視線を上に向ける。そこには逆さまになって天井に張り付くクリスくんの姿があった。服も身体も酷く煤けており、頭部からは流血している。

「そんなつもりは毛頭ないだろうがな。……ジャンプで躱し、羽を天井に突き刺してるのか。でも、攻撃は効いたようだな。よしよし」
「子供子供うるさいですね。悪霊さんと同じこと言って。僕はもう大人ですよ」

 ベータさんはニヤリと微笑み、クリスくんは悪態をつく。まだ戦う気はまんまんらしい。

「おい、アルバート!」
「くそ、だから跳弾に当たるなと言っただろうが!」

 突然、アスカとユキトが声を荒げる。見ると、二人に囲まれたアルが胸を抑えて倒れていた。

「当たったのは胸か。見せてください」
「まだ生きてるか? 限界なら仕方ない。契約・・するぞ」
「ま、待ってくれ、だ、大丈夫だ。そこまで痛くない」

 心配する二人をアルが制する。彼はごそごそと胸の辺りを探ると、内ポケットから何かを取り出した。

「これは……オスカーさんのファンクラブ会員証だ。これが弾を防いでくれたのか」

 取り出したのはオスカーファンクラブ会員証。それに紛れてポトリと落ちる潰れた銃弾。まさか、あの会員証で機関銃の弾を防いだというのか。そんな馬鹿な。どんだけ固いんだこの会員証は。

 とはいえ、アルが無事なことが分かりアスカとユキトは安堵する。

「おい、ベータ。好きにやり合えとは言ったがこっちに被害がでないようにしてくれ! 準備の大切さを教えるのはいいけど!」

 アルバートを指さしてアスカはベータに声をかける。

「被害?」
「機関銃の跳弾だよ」
「……あれは跳弾しづらいゴム弾なんだが。よほど運が悪かったと見えるな」
「ゴム弾?」
「確かにゴム弾だ」

 ユキトが潰れた銃弾を確認する。次いで「こちらはプラスチックですね」と会員証を確認する。

「足止めが目的だしな。一応、クリス以外には被害が出ないようにしているんだが」

 ベータはじっとアルの方を見てため息をついた。

 仕方ない。彼は不幸体質なのだ。「俺の不幸はそこまで大きな不幸ではない」と以前に彼は言っていたが、今回もその範疇だろう。跳ねたゴム弾が命中したものの、クリスくんに弾かれた時点で拉げて潰れ、人の身体を貫くほどのエネルギーは残っていなかっと思われる。たまたま会員証が防いだ形にはなっていたが、あっても無くても大して差は無かったんじゃないかな。

「……暢気なもんだな。天井に張り付いてじっとして。怪我なんてとっくに回復しているだろう? 攻撃してこないのか?」

 ベータさんは動こうとしないクリスくんに声をかける。

「別に。ただ、無差別に攻撃しているわけじゃないんだなと感心していただけです」
「オスカーさんの身内にそう言って頂けると嬉しいよ」
「……いちいち僕の枕詞に父さんの名前を出すのは止めてほしいですね。僕の名前はクリストファーです」
「知ってるよ。文句があるなら、そうさせてみな」
「分かりました。この模擬戦で僕が勝ったら、父さんの〇〇という形容詞は禁止です。ああ、でもその必要に迫られた場合は除きましょう。その場合は『オスカーの息子で、俺より強いクリス』と僕があなたより強いことを正確に表現してくださいね」
「ペラペラとうるさいガキだなぁ。そういうことは勝ってから言え。今迄一度も攻撃すらしてないだろうが」
「言われずとも」

 天井に張り付いたまま、クリスくんは一枚の翼をめいいっぱい広げる。翼を構成する一部の羽が、わっと逆立つ。

「これからが本番です。いくよ、レイジー!」

 バサリと翼が振るわれ、それと同時にいくつもの羽がベータさんに飛んで行った。彼は横に移動して羽を躱す。甲高い音とともに、尖った羽の先端が床に突き刺さっていく。黒虎の鱗飛ばしみたいだ。

「ほう、それがお前の攻撃か」
「続けるよ。レイジー」

 続いて二枚の翼が左右に広がり羽が逆立つ。左翼で攻撃を行い、ベータさんは先ほどと同様に回避。しかし回避方向を予測してクリスくんは右翼を振るう。羽はベータさんに命中し甲高い音がする。ガードした腕もろとも羽が身体を切り裂き、貫いた。

「……ッツ。見かけ以上に威力が高いな。どういう仕組からくりだ?」
「さあ? 言うわけ無いでしょ」

 被直後はベータさんの身体から派手に出血したものの、すぐにそれは収まってしまった。彼もレイジーちゃん並の回復力を持っているんだろう。なんだか、前の世界のコロシアムみたいになってきたな。不死人同士のバトルである。

(なあ、アスカ。これって決着つくのか? お互いに不死身っぽいけど)
「悪霊さんからするとそう思うかもしれないが、実はいくつか急所があってな」
(急所?)
「ああ。頭を撃たれると回復するまでに時間がかかるんだ。その間は行動不能。そうなったら負けだな。あるいは、拘束されて身動きが取れなくなったら負け。頭を撃たれるのも時間の問題だし」

 なるほど。頭を撃たれたら行動不能か。それは前の世界と同じだ。

(他の急所は?)
「絶対に他言するなよ。俺たちの身体は無限に回復できるわけじゃない。限界があるし、限界に近づくと回復速度が遅くなる」

 限界があるのか。これは前の世界とは違うな。

「あと細切れにされると回復しない。せいぜいが40%かな。それ以下のサイズに身体をバラバラにされたりすると《イヴの欠片》とそのパートナーでも死亡する……らしい」
(らしい?)
「ユグドから伝え聞いた話だからな。試してみるわけにもいかないし」

 アスカはため息をつく。なるほどね。アスカも確信が持てていないんだな。

「急所のことはベータもクリスも知ってるからお互いに相手の頭を狙ってると思う。さっきの羽は惜しかったな」
 
 しっしっしとアスカは笑う。血みどろバトルが目の前で展開されてるというのに楽しそうだ。一方で、ベータさんは床に刺さった羽を抜き取り観察している。

「……高周波……あるいは超音波振動といったところか。攻撃を受けた箇所が熱すぎる。音もうるさい」
「あらら、バレちゃいましたね」

 クリスくんがあっさりと認める。というかなにそれ。超音波振動翼とか格好いいんだけど。

「それで捕獲銃のワイヤーも切り裂いたか」
「ご明答ですよ」
「翼の防御と羽の攻撃……か。どちらかというと防御主体だな。……クリス、お前とレイジーの能力名は何だ?」
「は? 能力名?」

 逆さまになったままクリスくんは首を傾げる。

「そうだ。名前くらいつけとけ。呼ぶ時に困るだろうが。ちなみに、俺達とユグドの能力名は《少数派の最大派閥マイノリティ・マジョリティ》だ」
「あの能力、そんな名前だったんですね……」

 クリスくんはため息をつく。

(《少数派の最大派閥マイノリティ・マジョリティ》?)
「ああ。クリスの能力が防御特化なら、俺達の能力は回復特化だ。普通、パートナーはひとりなんだが俺たちは大人数だったからな。そういう能力になったらしい」

 なったらしい、って他人事だな。

「能力は『願い』を元に形作られる。願ったのはオレたちとはいえ、能力を作り俺たちに与えたのはユグドだからな」
(ふうん、そうなんだ。ということは、レイジーちゃんのあの能力もクリスくんが願った形なのかな)

 彼の背中から生える6枚の翼。正直あまり似合っていない。

「似合ってないよな」
(あ、アスカもそう思う?)
「ああ。野郎の背中に翼が生えてもなぁ」

 そうなんだよなぁ。翼が生えたのがレイジーちゃんであれば似合っていたのに。
 能力名を考えていたクリスくんが口を開く

「ちょっと、すぐには思いつきませんね。また後で決めますよ」
「クリス、思いつかなかったら俺が決めてやるからな」
「いい名前にしてくださいね」

 アスカがクリスに笑顔で提案する。どうやら名付けるのが好きらしい。

「まあ、いいや。模擬戦の続きと行こうか。さて、クリス。もう攻撃はいいのか? 翼の羽が少なくなっているがまだ3翼分は残っているだろ」
「そうですね、僕は小休止です」
「余裕だなぁ。じゃあこちらから攻めよう。あと試してない攻撃はーー」
「もう、攻撃してますから」

 一枚の羽が、ベータさんの背後から、彼の頭を貫いた。

「な、に……?」

 彼の背後にはレイジーちゃんが居た。クリスくんと同じように翼が生えているが、サイズは小さく枚数も片翼の一枚だけだ。

「さっきの攻撃で、レイジーの一部を分離しておきました。いろいろと準備していただいたようですが、僕の仕込んだ準備ワナには気づかなかったようですね。ま、リハビリにはなりましたよ」

 気がつくと、床に撃ち込まれた羽が無くなっている。そうか、あの羽もレイジーちゃんの身体の一部なんだ。羽になれるのであれば身体にも戻れる。ベータさんに気付かれないようにさっき飛ばした羽を合体させて、攻撃したのか。

「……やるじゃないか」

 小さく呟いて僅かに微笑み、ベータさんは気絶した。

「終了ー。クリスの勝利ー」

 パチパチと手を鳴らし、アスカが戦闘終了の宣言をする。クリスくんはようやく天井から離れて床に着地。羽ばたきもせずにズドンと床に落ちたが、特に問題なくこちらに歩き始めた。順調に人外への道を進んでいるらしい。レイジーちゃんは嬉しそうに彼に駆け寄って抱きつくと、そのまま再び合体する。

「ふう、疲れました」
(お疲れー)

 他の皆も次々にクリスくんに労いの言葉をかける。ベータさんのほうにも何人か向かっているな。

「お疲れさん。負けるかと思ったけど何とかなったな」
「そうですね。リハビリじゃなかったんですか?」
「リハビリだよ。お前に取っちゃな。《少数派の最大派閥マイノリティ・マジョリティ》は集団でないと無意味な能力だ。ポテンシャルなら断然お前に分がある。正直、ベータに負けるようじゃ先が思いやられると思っていた」
「……機関銃とか手榴弾とか持ち出されても?」
「ああ、あれには笑ったな。あそこまで念入りに準備しているとは思わなかった。よっぽど、実力でお前らをヴェルニカから回収できなかったことが心残りだったらしい」
「え? それはどういうーー」

「お前らーー!! うるっせえぞーー!!!」

 突然扉が開かれて、リズとリラが入ってきた。

「うるさくすんなって言っただろうがって、なんじゃこりゃー!! なんで床に穴が? 機関銃がなんでここに!? それに天井にヒビが入ってやがるじゃねえか!」
「あー、うぜえのが来た」
「え、ええとね、ええとね。天井は知らないけど、床はベータさんに空けてって頼まれたの」
「……は? リラは知ってたのか?」
「ふ、ふぇえ。ごめんね、ごめんね。怒らないで」
「怒らねえよ。おい、ベータはどこだ! あと天井をやったのは誰だ!」

 こちらにズカズカと歩いてくるリズ。それを追うようにリラがパタパタとついてくる。

「天井はこっちのクリスだ。ベータはあそこで気絶……ああ、もう復活したな。あそこに居るぞ」

 アスカがベータさんの方を指差す。リズはクリスくんを一睨みして「お前は後だ」と吐き捨てると、ベータさんのそばまで歩み寄った。

「おい、ベータ。てめえ勝手にリラに頼み込んで床に穴を空けたな」
「待て、リズ。話せば分かる」
「そんなこと知るか!!」

 リズはベータさんの首根っこを掴み上げる。ブランと筋肉質なベータさんの身体が浮いた。そしてそのまま思い切り壁にベータさんの身体を叩きつける。バアンと、およそ人間の身体が出してはいけない音がした。音源となったベータさんは壁にひしゃげてカエルのようにペタンコになった。周りには放射状に血が飛び散り、壁を伝って床へと落ちた。

(え? ちょ、何あれ? 何あの力!)
「……嘘。リズってあんなに強かったんですか?」

 クリスくんの顔からサーと血の気が引く。

(クリスくん! リズってただのレジスタンスメンバーじゃないの?)
「リズも《イヴの欠片》です。パートナーはリラ」

 あ、彼もガイアから来たのか。つまり、レイジーちゃん並の力は持っているということだな。

「そしてこの二人は特別で、リラのほうも《イヴの欠片》なんです。《イヴの欠片》同士がパートナーになってます」
(はい?)

 それってどういうことだってばよ。

「まあ、レジスタンス最強はこの二人ってことだ。この空間も二人が手ずから作ったものでな。壊したりするとおっかねぇんだよ。ベータはリラに頼んで床とか改造したみたいだけど、リズまで話が通ってなかったようだな。可哀想に」

 事態の分からない俺にアスカが解説してくれる。

「よし、ついでだ。クリス、模擬戦続行な。相手はリズ。お前にも戦う理由をやろう」
「え? ちょっと待ってアスカ。そんな理由は要らない。むしろ間を取り持って欲しいんだけど。ほら、模擬戦の発案はアスカでしょ?」
「あいつ、基本的に人の話聞かないからな。天井崩すなと俺は忠告したし、大人しく犠牲になってくれ。半殺しですむだろう。アルファのときもそうだった。あ、この部屋の補修も手伝わされるから覚悟しておけよ」

 素敵な笑顔でビッと親指を立てるアスカ。と、そこにリズがやってくる。

「よう。俺たちの作った部屋を壊したのはお前か、新入り。」
「す、すみません。二度しませんから……」
「謝罪はいい。一発殴らせろ」

 はあ、と拳に息を当てるリズ。

「……く、謝罪では駄目か。だが僕にはレイジーが居る!」

 翼を展開し、全面に集中させるクリスくん。リズとの間に六枚の壁ができる。

「ああん? これが新入りの能力か。だが知らねえ。ぶっ飛ばす」

 数多の銃弾を寄せ付けないレイジーの翼。その翼に向かって彼は全力で拳を突き出す。激音とともに拳は翼に防がれた止まった。

「やった……」

 かに見えた束の間。するりと拳が翼の中にめり込んでいき、そのままガードを突き抜けたのかリズは思い切り腕を振り切った。翼ごとクリスくんの身体はふっ飛ばされ、長時間滞空した後、どしゃりと地面に叩きつけられた。彼は動く気配を見せない。気絶してしまったようだ。

「あー、スッキリした。よし、リラ。部屋を元通りにするぞ。ベータと新入りも手伝え」
「う、うん。リズ、ごめんねごめんね。黙ってて、すぐに直せばいいかなと思って……」
「分かった、分かったから、もう謝んな。面倒くさい」

 リズとリラはクリスくんとベータさんを引きずって歩き出す。

「よーし、模擬戦終わり。上に戻るぞー。特に任務のないやつは解散な」

 アスカの号令で他のレジスタンスのメンバーは戻り始めた。

(え、ええと。二人はいいの?)
「大丈夫だろ。部屋が元通りになったら解放されるさ」

 そうなのか。まあ、二人共、前の世界のヒト並に回復力がついてるし大丈夫か。

「それよか、おい、イータ。悪霊さんに教会と街を案内してやってくれ。まだ分からないことだらけだろうし、基本的なことは教えて構わないから」
「はい、分かりました」

 イータさんがうなずく。イータさんは女性だ。年齢は二十代前半といったところ。髪は肩程度までで、化粧っ気は少ないけれど顔立ちの良い美人さんである。そんな人が街を案内してくれる、だと……? 

(つまりこれは、デートということだな)

 クリスくんのことなんか心配してらんねえぜ!

 イータさんの口から「ひっ」という悲鳴が漏れる。しまった、うっかり強く思いすぎてしまったか。こわごわとイータさんがこちらを見る。

「ああ、そうだなデートしてこい」

 アスカにも声が聞こえたしまったらしいが、彼女は特に否定せずにニヤニヤと笑っていた。
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