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第2章 恋のキューピッド大作戦 〜 Shape of Our Heart 〜
模擬戦の目的
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「だから、俺はみんなと違って外に出るような任務はこなせないんだ。いつ血を吐くか分からないこんな身体じゃ。みんなの足手まといになるのが目に見えてるからな。まったく、ユグドももう少し融通してくれてもいいのによ」
(……)
胸から手を離し、冗談めかすように喀血する仕草を見せるアスカ。正直、なんと返事をしていいか分からない。
「……おーい、聞いてるのか?」
黙ったままの俺がちゃんと話を聞いているか不安になったのだろう。アスカはそう尋ねてくる。
(ああ、聞いてるよ。正直、どう返事したらいいか悩んでた)
生前、俺は大きな病気に罹ることなく健康に育った。アスカのような経験のひとつでもあれば、説得力の有る励ましの言葉でもかけるんだろうけど、残念ながら気に利いた言葉一つ出やしない。
「ふぅん。なんだ、悪霊は普通にいいヤツだな。クリスとは大違いだぜ」
片目のみ、驚いたように見開いてアスカは言う。
(クリスくん?)
「ああ。あいつは飛び切りの嫌な奴だ。どんな人生を歩めばあんな性格になるんだろうな。悪霊知ってるか?」
(いや、知らないけど……。クリスくんが粗相をしたなら謝る。すまんな)
「? なんで悪霊が謝るんだ? そこまで付き合い長いわけじゃないんだろ」
(まあ、そうだけど……。嫌な思いをしたんでしょ?)
「別に。あいつは嫌な奴だけど、俺は嫌いじゃないからな。レジスタンスだって仲良しグループってわけじゃないんだし、ひとりくらいあんな奴が居てもいいだろ」
そう言ってアスカは苦笑する。クリスくん、俺が居ない間に一体何をしでかしたんだろう。
「まあ、別に大したことじゃないさ。うちのメンバーが、何人か口喧嘩でフルボッコにされて、心に傷を負ったくらいだな」
口喧嘩か。それも、どうやら心に傷作るレベルまで相手を追い込んだらしい。あの子ときどき容赦ないからな……。
「それと、俺の病気の話な。ネタバラシするとな、俺はわざとこの話を振ってるんだよ。相手の素が見えるからな。クリスとまでは行かないけど、俺もけっこう嫌なやつだろ」
しっしっし、と彼女は笑う。
ああ、それでわざわざ病気のことを俺に伝えたのね。反応を見て、俺の性格を調査していたんだ。
「まあ、実務半分趣味半分ってとこだよ。知らなかったからと根も葉もない噂を垂れ流されても困るしな。でだ。俺の経験上、病気の話を聞いた9割の人間がまず黙る。その後、とってつけたような言葉が出てくるんだが、5割が励まし、2割が憐憫、2割が物知りアピールってとこだな。物知りアピールっつうのは、俺の病気は〇〇だろ、とか、△△も同じ病だったなとか、□□すると良くなるぞってやつだな。あ、一番傑作だったのが、『それは神による天罰です』って宣った奴。どこぞの宗教の祈祷師つってたっけ。父様にボコボコにされててすっげー笑えた」
そのときの様子を思い出したのか、腹を抱えてアスカは笑う。
なるほどな。それで、俺は普通にいいヤツというわけか。ちょっと照れる。
「悪霊って名前なのにな。リーシャも悪霊のことは普通にいいヤツつってたぞ。なんでそんな名前なんだよ」
(んー。俺の知り合いが付けた名前でな。最初は冗談だったと思うんだけど、いつの間にか定着したな)
俺も気に入ってるし、別に変えなくてもいいかなと思っている。
「ふぅん。クリスか?」
(いや、前の世界の知り合い。むしろ、クリスくんは俺の名を聞いて恐怖のあまり逃げ出したことがある)
「まじか。意外と怖がりなのな。これはいいことを知ったぜ」
アスカは悪戯っぽい笑みを浮かべる。あ、クリスくんごめん。君の弱みを暴露した気がする。
「で、話を戻すとだ。クリスは俺の病気の話を聞いて、何て言ったと思う?」
(んー。物知りアピールかな)
彼、知識はすごいあるし。
「残念、ハズレだ。あいつは特に間をおかずに少し驚いてこう言ったよ。『え? そんなんでリーダーなんてやってけるんですか? なんだったら、僕が代わりにやりましょうか』ってな」
……ああ、彼なら言いそう。
(……すまん)
「だから、どうして悪霊が謝るんだ。ちなみに、それを聞いていた何人かのメンバーがクリスに絡もうとしてな。そのときはまあ俺が止めたんだけど、結局後で絡んだのかそのときにクリスにフルボッコにされたらしい」
それで心の傷作ったのね……。
「まったく、黙ってれば大人しそうな顔なのに」
(初めて会った時から彼はそんな感じだったからなぁ。もうあの性格はどうにもならないでしょ。三つ子の魂百までって言うし)
「お、なんだそれ? 異世界の諺か?」
(そんなところ)
「あ、ちょうどいいや。ついでだし、異世界の話も聞かせてくれよ。やっぱりみんな魔法とか使えたりすんのか? その風も魔法なんだろ?」
目を輝かせて、アスカが尋ねてくる。こういうところは年相応な感じだ。
(実はこれ、悪霊になってから使えるようになったんだよね。生前はアスカ達と同じく、魔法みたいなことは何もできない一般人だったよ。もちろん、魔法なんて空想の産物)
「なんだ、そうなのか?」
(うん)
「本当に?」
(うん)
「本当は?」
(いや、本当に)
「まじかー」と残念そうにベッドに倒れ込む彼女。割とショックだった模様。
と、そこで部屋がノックされる。勢いよくアスカは身体を起こし、「誰だ?」と尋ねる。
「……ベータだ。今、解放された」
「そうか、入れ」
扉を開けてやや憔悴したようなベータさんが入ってきた。模擬戦から今までずっと、リズとリラに部屋の補修をやらされていたのだろうか。
「……ひとりか?」
部屋を見回してベータさんは尋ねる。
「悪霊が居る」
(お邪魔してるぞ)
「……そうか。クリスももう解放されたぞ。部屋に居るはずだ」
ベータさんは視線を扉に向ける。
ああ、クリスとレイジーちゃんが居ないから、アスカの部屋に入り浸っていると思われているのね。
(どうも。じゃあ、俺はそろそろ戻るよ)
「そうか。扉は開けなくて大丈夫か?」
(大丈夫。すり抜けられるから)
それじゃあ、と二人に挨拶して、俺はクリスくんの部屋へと向かった。
----------------------------
「……行きましたかね」
悪霊が居なくなったアスカの部屋で、ベータは部屋の主人に尋ねる。
「どうだろうな。悪霊が本気なったら俺達の会話なんて盗み聞きし放題だけど、あいつ自身そんな度胸があるやつには見えないからな。それはイータの報告にもあったし、俺もそう思った」
じっと扉を睨めつけながら「演技だとしたら大したタマだがな」とアスカは付け足す。
「それで、クリスはどうだった?」
悪霊に盗聴されていたとしても、この話題は特に問題はない。そうアスカは判断してベータに報告を促す。
「戦闘レベルは及第点です。防御の硬さはピカイチ。攻撃も創意工夫を凝らしていましたし、戦闘のセンスも良い。常人であれば縮こまるような場面でも目を瞑ることなく対応していました。胆力も相当あるでしょう」
先の模擬戦の結果を経て、ベータはクリスをそう評する。
「ですが、精神的にはまだ未熟。挑発にも簡単に乗りましたし、その辺りはまだ子供といったところかと」
「なるほどな。その辺りは要改善といったところか。それで、もうひとつの方はどう思った?」
先の戦闘訓練の目的は二つあった。ひとつはクリスの戦闘能力評価。新たにレジスタンスのメンバーとして加わったクリスが、どの程度能力を持っているか把握する必要があった。
そして、もうひとつはヴェルニカ周辺におけるモンスター殺害の犯人探し。クリスとレイジーをヴェルニカからこちらへ運んだ折、ベータは何かに穿たれたようにバラバラになった数多の死骸を目撃していた。クリスを守るように立ちはだかっていたレイジーの様子から察するに、この死骸も彼らの手によるものと推察されていたのだが……。
「なんとも言えませんな。あの羽ではあそこまで損壊した死骸にはなりません。本気を出させるために、挑発しましたが、不十分だったやもしれません」
ベータは顔を顰めたままそう答える。模擬戦でその片鱗でも掴めればよかったのだが、もし推察自体が外れていれば犯人は別に居ることになる。別の<イヴの欠片>とそのパートナーの手によるものならまだいい。それがもし、帝国の新兵器であるならば、何らかの対策を講じる必要がある。
「そうか。まあいいや。クリスの奥の手ってんなら隠させておこう。こっちだって全ての手を明かしたわけじゃないし。それと、例の死骸はヴェルニカから帝都方面の道中にも発見されたらしいぞ。情報収集だけは怠らないようにしてくれ」
「了解です」
強面を崩さずにベータは返事をすると、彼は足早にアスカの部屋から出ていった。
(……)
胸から手を離し、冗談めかすように喀血する仕草を見せるアスカ。正直、なんと返事をしていいか分からない。
「……おーい、聞いてるのか?」
黙ったままの俺がちゃんと話を聞いているか不安になったのだろう。アスカはそう尋ねてくる。
(ああ、聞いてるよ。正直、どう返事したらいいか悩んでた)
生前、俺は大きな病気に罹ることなく健康に育った。アスカのような経験のひとつでもあれば、説得力の有る励ましの言葉でもかけるんだろうけど、残念ながら気に利いた言葉一つ出やしない。
「ふぅん。なんだ、悪霊は普通にいいヤツだな。クリスとは大違いだぜ」
片目のみ、驚いたように見開いてアスカは言う。
(クリスくん?)
「ああ。あいつは飛び切りの嫌な奴だ。どんな人生を歩めばあんな性格になるんだろうな。悪霊知ってるか?」
(いや、知らないけど……。クリスくんが粗相をしたなら謝る。すまんな)
「? なんで悪霊が謝るんだ? そこまで付き合い長いわけじゃないんだろ」
(まあ、そうだけど……。嫌な思いをしたんでしょ?)
「別に。あいつは嫌な奴だけど、俺は嫌いじゃないからな。レジスタンスだって仲良しグループってわけじゃないんだし、ひとりくらいあんな奴が居てもいいだろ」
そう言ってアスカは苦笑する。クリスくん、俺が居ない間に一体何をしでかしたんだろう。
「まあ、別に大したことじゃないさ。うちのメンバーが、何人か口喧嘩でフルボッコにされて、心に傷を負ったくらいだな」
口喧嘩か。それも、どうやら心に傷作るレベルまで相手を追い込んだらしい。あの子ときどき容赦ないからな……。
「それと、俺の病気の話な。ネタバラシするとな、俺はわざとこの話を振ってるんだよ。相手の素が見えるからな。クリスとまでは行かないけど、俺もけっこう嫌なやつだろ」
しっしっし、と彼女は笑う。
ああ、それでわざわざ病気のことを俺に伝えたのね。反応を見て、俺の性格を調査していたんだ。
「まあ、実務半分趣味半分ってとこだよ。知らなかったからと根も葉もない噂を垂れ流されても困るしな。でだ。俺の経験上、病気の話を聞いた9割の人間がまず黙る。その後、とってつけたような言葉が出てくるんだが、5割が励まし、2割が憐憫、2割が物知りアピールってとこだな。物知りアピールっつうのは、俺の病気は〇〇だろ、とか、△△も同じ病だったなとか、□□すると良くなるぞってやつだな。あ、一番傑作だったのが、『それは神による天罰です』って宣った奴。どこぞの宗教の祈祷師つってたっけ。父様にボコボコにされててすっげー笑えた」
そのときの様子を思い出したのか、腹を抱えてアスカは笑う。
なるほどな。それで、俺は普通にいいヤツというわけか。ちょっと照れる。
「悪霊って名前なのにな。リーシャも悪霊のことは普通にいいヤツつってたぞ。なんでそんな名前なんだよ」
(んー。俺の知り合いが付けた名前でな。最初は冗談だったと思うんだけど、いつの間にか定着したな)
俺も気に入ってるし、別に変えなくてもいいかなと思っている。
「ふぅん。クリスか?」
(いや、前の世界の知り合い。むしろ、クリスくんは俺の名を聞いて恐怖のあまり逃げ出したことがある)
「まじか。意外と怖がりなのな。これはいいことを知ったぜ」
アスカは悪戯っぽい笑みを浮かべる。あ、クリスくんごめん。君の弱みを暴露した気がする。
「で、話を戻すとだ。クリスは俺の病気の話を聞いて、何て言ったと思う?」
(んー。物知りアピールかな)
彼、知識はすごいあるし。
「残念、ハズレだ。あいつは特に間をおかずに少し驚いてこう言ったよ。『え? そんなんでリーダーなんてやってけるんですか? なんだったら、僕が代わりにやりましょうか』ってな」
……ああ、彼なら言いそう。
(……すまん)
「だから、どうして悪霊が謝るんだ。ちなみに、それを聞いていた何人かのメンバーがクリスに絡もうとしてな。そのときはまあ俺が止めたんだけど、結局後で絡んだのかそのときにクリスにフルボッコにされたらしい」
それで心の傷作ったのね……。
「まったく、黙ってれば大人しそうな顔なのに」
(初めて会った時から彼はそんな感じだったからなぁ。もうあの性格はどうにもならないでしょ。三つ子の魂百までって言うし)
「お、なんだそれ? 異世界の諺か?」
(そんなところ)
「あ、ちょうどいいや。ついでだし、異世界の話も聞かせてくれよ。やっぱりみんな魔法とか使えたりすんのか? その風も魔法なんだろ?」
目を輝かせて、アスカが尋ねてくる。こういうところは年相応な感じだ。
(実はこれ、悪霊になってから使えるようになったんだよね。生前はアスカ達と同じく、魔法みたいなことは何もできない一般人だったよ。もちろん、魔法なんて空想の産物)
「なんだ、そうなのか?」
(うん)
「本当に?」
(うん)
「本当は?」
(いや、本当に)
「まじかー」と残念そうにベッドに倒れ込む彼女。割とショックだった模様。
と、そこで部屋がノックされる。勢いよくアスカは身体を起こし、「誰だ?」と尋ねる。
「……ベータだ。今、解放された」
「そうか、入れ」
扉を開けてやや憔悴したようなベータさんが入ってきた。模擬戦から今までずっと、リズとリラに部屋の補修をやらされていたのだろうか。
「……ひとりか?」
部屋を見回してベータさんは尋ねる。
「悪霊が居る」
(お邪魔してるぞ)
「……そうか。クリスももう解放されたぞ。部屋に居るはずだ」
ベータさんは視線を扉に向ける。
ああ、クリスとレイジーちゃんが居ないから、アスカの部屋に入り浸っていると思われているのね。
(どうも。じゃあ、俺はそろそろ戻るよ)
「そうか。扉は開けなくて大丈夫か?」
(大丈夫。すり抜けられるから)
それじゃあ、と二人に挨拶して、俺はクリスくんの部屋へと向かった。
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「……行きましたかね」
悪霊が居なくなったアスカの部屋で、ベータは部屋の主人に尋ねる。
「どうだろうな。悪霊が本気なったら俺達の会話なんて盗み聞きし放題だけど、あいつ自身そんな度胸があるやつには見えないからな。それはイータの報告にもあったし、俺もそう思った」
じっと扉を睨めつけながら「演技だとしたら大したタマだがな」とアスカは付け足す。
「それで、クリスはどうだった?」
悪霊に盗聴されていたとしても、この話題は特に問題はない。そうアスカは判断してベータに報告を促す。
「戦闘レベルは及第点です。防御の硬さはピカイチ。攻撃も創意工夫を凝らしていましたし、戦闘のセンスも良い。常人であれば縮こまるような場面でも目を瞑ることなく対応していました。胆力も相当あるでしょう」
先の模擬戦の結果を経て、ベータはクリスをそう評する。
「ですが、精神的にはまだ未熟。挑発にも簡単に乗りましたし、その辺りはまだ子供といったところかと」
「なるほどな。その辺りは要改善といったところか。それで、もうひとつの方はどう思った?」
先の戦闘訓練の目的は二つあった。ひとつはクリスの戦闘能力評価。新たにレジスタンスのメンバーとして加わったクリスが、どの程度能力を持っているか把握する必要があった。
そして、もうひとつはヴェルニカ周辺におけるモンスター殺害の犯人探し。クリスとレイジーをヴェルニカからこちらへ運んだ折、ベータは何かに穿たれたようにバラバラになった数多の死骸を目撃していた。クリスを守るように立ちはだかっていたレイジーの様子から察するに、この死骸も彼らの手によるものと推察されていたのだが……。
「なんとも言えませんな。あの羽ではあそこまで損壊した死骸にはなりません。本気を出させるために、挑発しましたが、不十分だったやもしれません」
ベータは顔を顰めたままそう答える。模擬戦でその片鱗でも掴めればよかったのだが、もし推察自体が外れていれば犯人は別に居ることになる。別の<イヴの欠片>とそのパートナーの手によるものならまだいい。それがもし、帝国の新兵器であるならば、何らかの対策を講じる必要がある。
「そうか。まあいいや。クリスの奥の手ってんなら隠させておこう。こっちだって全ての手を明かしたわけじゃないし。それと、例の死骸はヴェルニカから帝都方面の道中にも発見されたらしいぞ。情報収集だけは怠らないようにしてくれ」
「了解です」
強面を崩さずにベータは返事をすると、彼は足早にアスカの部屋から出ていった。
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