異世界で悪霊となった俺、チート能力欲しさに神様のミッションを開始する

眠眠

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第2章 恋のキューピッド大作戦 〜 Shape of Our Heart 〜

歴史改竄(パンモロ無効)

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「ふぅ、こんなもんですかね」

 休むことなく貢物を俺の身体へ入れていった死神さんは、手をポンポンと払う仕草を見せる。

(……けっこうな量の貢物を入れましたね。どこにそんなに持ってたんですか)
「それは乙女の秘密です」

 死神さんはかなりの量の食料と酒を懐から取り出しては、どんどこ俺の身体へと詰めていた。
 絶対にその小さな懐には収まりきらないでしょう。異次元空間にでも収納していて、そこからでも取り出してるのかな。

「まあ、そんなところです。さて、私はそろそろ戻ります。創造神さんは無事と言っていましたが、剣神さんと闘神さんのことが心配ですので。……悪霊さんも、ミッション達成頑張ってくださいね。ようやくラブラブキッスの回数も増えたようですし」
(う、うん。頑張るよ)

 死神さんの言葉には棘があった。ついさっき、死神さんに黙って転生を実行しようとしたのだから無理もない。

「まったくです。するにしても、先に相談のひとつは欲しかったですね」

 はぁ、とため息をつく死神さん。

(えっと、相談すればどうにかなったので?)
「それは相談次第です。もっとも、コンちゃんによる転生はできないようなので、もはや無意味ですが」

 う……。そうなんだよなー。夢の中ではフィールドがないせいか受肉はできたけれど、夢では結局無意味だし、現実世界ではフィールドを解いたらすぐミジンコ転生しちゃうみたいだし。そもそも死神さんたちがフィールドを解くとも思えないんだよね……。うん、仕方ない。ミッション達成がんばろう。

「その意気です。それでは」

 そう言って、死神さんは上司さん達みたいに光となって消えていった。神の世界に帰ったのだろう。あーあ。転生できると思ったんだけどな……。

 俺はため息をついて、元通りになったバラクラードの街を教会目指して移動する。時間停止もいつの間にか解除されていたようで、街を行き交う人々の楽しげな喧騒が嫌でも耳に入ってきた。


(た、ただいまー)

 俺は恐る恐る教会の扉をすりぬける。玄関には誰もいなかった。ひとまず、状況の確認のためにアスカの部屋を目指すこととしよう。本人から許可はもらっていることだし、怒られるということはないだろう。

 帰宅の道すがら、俺はコンちゃんの伝言について考えていた。

『お主がパンツを見たこと、なかったことになっとるはずじゃから、安心するといいぞ。』

 聞いたときは意味不明だったけど、これは恐らくイータさんのパンツのことを指している。今まで幾枚ものパンツを見てきたが、コンちゃんの知る俺の見たパンツはイータさんのパンツだけだからだ(俺の心がコンちゃんに深奥まで読まれていなければ)。

 しかも、コンちゃんは上司さんの去り際に、『儂のしでかした不始末の尻拭いをしてもらおうかの』と言い、その後、彼女と上司さんは俺の方を見ていた。つまり、コンちゃんは、自身の起こした強風によるパンチラを、上司さんに頼んで無かったことにしてもらったのではないだろうか。時間停止ができるのだ。少々の歴史や記憶の改竄は、造作もないだろう。

 もちろんこれは俺の推測であり、確証はない。もし記憶の改竄が成されていなければ、イータさんは俺のことをパンツ見たさに風を起こした外道とレジスタンスメンバーに周知しているはず。

 果たして、結果は……。

 俺は意を決して、アスカの部屋の前で「コンコン」と声を出す。物理的に叩いて音を出すことはできないためだ。すり抜けして、部屋でアスカが着替えでもしてたら目も当てられない。

「……誰だ?」
(悪霊だ。今帰ったよー)
「……悪霊さん?」

 アスカの誰何に返答すると、イータさんの声も聞こえた。どうやら彼女もアスカの部屋に居るらしい。
 扉がガチャリと開かれ、心配そうなイータさんが顔を覗かせた。

「……居るんですか?」
(うん。ここに)
「良かった……」

 ふうと胸を撫で下ろすイータさん。おや、この反応は……?

「ほら、言った通りだろう。悪霊はちゃんと戻って来るって。イータは心配のし過ぎなんだよ」
「……アスカほど、私は肝が座って無いんですよ」

 ケラケラとアスカは笑い、イータさんはため息をつく。

「……というより、アスカはもう少し慎重になってください。もし、本当に悪霊さんが敵に通じていたら、ピンチだったんですからね」
「へーへー。気を付ける気を付ける」

 元家庭教師らしく説教をするイータさんに、アスカは領主の娘らしく生意気に答えていた。まったくもう、とイータさんは額に手を当てる。

(えっと、何かあったの?)
「何かあったじゃありませんよ。悪霊さん、いきなり車から・・・・・・・消えたら・・・・心配するじゃないですか」
「そうだぞ悪霊。俺は、心配要らないって言ったんだけどな、こいつが心配すること心配すること」

 いきなり車から消えた。……ははぁ、なるほど。これは本当にイータさんのパンツを見たことが無かったことになっているようだ。

 恐らく、城壁に行ったところまでは改竄前と同じ。そして上司さんの手により、風とパンモロが無かった事になったのだ。本来の歴史であれば、怒ったイータさんは俺を置いてひとりで教会に帰還したのだが、改竄後の歴史では怒る理由がない。結果、イータさんがひとりで帰ったことと帳尻を合わせるために、俺が帰りの車から理由も告げずに居なくなったということになったのだろう。

 つまり、俺の名誉は保たれたのである。うおおおお。コンちゃん、上司さん、ありがとう! この恩は一生忘れない!

「ん? 黙ってどうした? 何かやましいことでもあるのか?」
「さては、悪霊さん。本当にあなたは帝国のスパイ……!?」
(いやいやいやいや。やましいことなんて微塵もないぞ! 大丈夫。安心してくれ。俺はせいぜいが微風しか起こせない悪霊だ。……って、帝国のスパイ? 俺が?)

 いったいどうしてそんな話に?

「悪霊、一通りバラクラードの街を周ってから姿を消したろ。こっちの事情も秘密の抜け道も判った上で何も告げずにさ。そんなことされた、こっちだって警戒するさ。まあ、俺は心配要らないって言ったんだが、イータがな」
「心配して当然です。私のせいでみんなが危機になったかと思うと……」

 イータさんは息を吐いて肩の力を抜く。どうやらかなりの警戒状態にあったらしい。俺が姿を現して、その必要も無くなったから安堵したようだ。
 というか、心配って俺のことじゃなくて、レジスタンスの他のメンバーのことね。はいはい、分かってますよ。期待しなければ傷つかない。悪霊さん知ってる。

「それで? どうして悪霊は車から居なくなったんだ?」
(ああ……、えっとだな。ちょっと余所見をしてたら落っこちゃったみたいだ)

 とりあえず、話を合わせるためにそういうことにしておこう。

「……余所見をしてたら落っこちるのか?」
「へぇ、幽霊でも落っこちるんですね。知りませんでした」

 二人は半信半疑といった様子だったが、すぐアスカが「まあ、いいや」と話題を切り替える。

「イータ。一応、警戒していたメンバーに警戒解除を通達。あとアルバートに悪霊が見つかったと連絡してやれ。まだ街を探しているかもしれない」
「分かりました」

 イータさんは部屋を出ていく。部屋の中は俺とアスカの二人きりとなった。ユキトの姿は見えない。さすがに、四六時中一緒に行動しているわけでもないか。
 さて、俺も乙女の部屋にいつまでも居るわけにもいかない。クリスくんの部屋にでも行こうかな。アスカに一言挨拶して部屋を出ようと思った矢先、逆にアスカに声を掛けられた。

「なあ、悪霊。イータから俺のことは聞いたか」
(えっと、聞いたけど)
「ふうん、どんなことを言っていた?」

 こいこいとアスカは俺を呼び寄せる。彼女は俺が部屋に入ったときからずっとベッドの上であぐらをかいている。もう、女の子がそんなはしたない格好をしてはいけませんよ。

 俺はアスカのそばに移動して、イータさんから聞いたアスカことをかいつまんで説明する。

「なんだ、そんな程度か。基本的なことは教えとけって言ったんだけどな……。まあ、しゃーないか」

 アスカはボリボリと頭を搔くと、再び口を開く。

「悪霊、《少数派の最大派閥マイノリティ・マジョリティ》のことは知ってるだろう。だったら疑問に思わなかったのか?」
(疑問って?)

 キョトンとする俺の返事に、アスカは眉根を寄せてため息をつく。

「ああ、クリスの仕込みにも気づかなかったもんな。スパイにしては間抜けすぎるって、イータは思わないのかね」
(ん? 何か言ったか?)

 後半は声が小さすぎて聞こえなかったぞ。

「なんでもねーよ。ユキトとベータが回復する様子を見てわかっただろう。俺達は全員、即死級の怪我を負っても回復する。もちろん俺もだ。そんな俺が、どうして喀血をするか、気にならなかったのか」
(……あ)
 
 言われてみればその通りだ。どうしてアスカは喀血するのだろう。

(えっと、病気?)
「お。ヒントをあげれば察しがいいんだな。まあ、半分正解だ。普通の病気ならば《少数派の最大派閥マイノリティ・マジョリティ》で全治するからな」

 え、全治するの? あの回復力を目の当たりにしているので、全治するのはまあ分かる。けれど、ならばどうしてアスカは喀血するんだろう。

「それはな。俺が生まれつきそういう身体だからだ」
(生まれつき……?)

 少しだけ目を伏せて、アスカは言う。

「《少数派の最大派閥マイノリティ・マジョリティ》は回復特化能力。ただし、その回復上限は、各人の通常状態まで。つまり、生まれつき欠損を抱えたこの身体は、回復しきってもいつ爆発するか分からない、そんな欠陥品でしかないんだぜ」

 鋭い目つきの彼女は、自身の胸に爪を突き立てて、そう言った。
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