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面通り①
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タケシの決定から二日後、真新しいメイド服を纏った少女が土井垣家をたずねてきた。
彼女の名前は女鬼島メル。毛先の縮れた栗毛のショートヘアーと薄い胸板がチャーミングな女の子である。
出迎えた使用人のひとりに挨拶をし、そのまま書斎に通されたメルはタケシとふたりきりとなる。タケシはただ者ではない雰囲気を纏っており、普通の十六歳では怯える人の方が多いであろう。その場でもメルは平静を保つ。
「初めましてだな女鬼島くん───」
タケシは簡単な自己紹介と共に土井垣家についてメルに説明した。
土井垣家は鉱山を所有する富豪の一族であり、そして「土井垣流抜刀術」という古流派を継承する武門でもある。
かつては伝来の技を鉱山の採掘に流用して鉱山開拓を行っていたのだが、それによって得た収入を元手に起こした事業が大当たりをして莫大な富を得たという。
メルを派遣した皆川の出資者でもあり、故に土井垣家は彼に対して尊大な態度を取っていた。
「当家の説明は以上だ」
一通りの説明を終えたタケシに一礼をしてから、メルは彼から一歩離れた。単純に近づきすぎるのも失礼かと考えて不意にとった行動なのだが、それがどうやらタケシの琴線に触れたようだ。
「出来ておるな」
それはメルが一歩下がったのとほぼ同じタイミングの行動である。おもむろに咥え葉巻に手をやったタケシは葉巻を剣に見立てて振り回したのだ。
火のついた葉巻の熱がメルの鼻先をくすぐって、これ以上近づけられたら火傷しそうなほどである。突然の行動にメルも驚きを隠せない。
「旦那様? 急に何を」
「なあに、キミを試したまでだ。使用人見習いとして来てもらった手前で失礼ではあるが、キミは皆川くんの部下だからな。子供とはいえ、どの程度できるのかを試してみたまでよ」
メルの鼻先を燻らせる葉巻の熱がメルに伝わって、彼女の額を汗で濡らした。葉巻を凝視するメルの目にはタケシが葉巻を軸に産み出した闘気の剣が映っており、彼はそれの先でメルのもみあげをくすぐった。
見えていないのではなく、おそらく見えている上で微動だにしないと受け取ったタケシはメルの度胸を気に入って、大きく葉巻の煙を吸い込んだ。深呼吸なので吐き出す煙もいっそうに多く、彼の口からは煙が長く漂った。
「キミの担当は息子の身の回りの世話だ。予め言っておくが、息子になにか粗相があれば遠慮なくしつけてもらって構わない」
「かしこまりました」
「息子が帰ってくるまで暇であろう。それまではユーリくんに色々と教わるといい。キミが我が家に来た目的はそれであろう」
主人からの説明が終わり、書斎から追い出されたメルを待っていたのは初老の女性だった。どうやら彼女がユーリさんのようである。
彼女の名前は女鬼島メル。毛先の縮れた栗毛のショートヘアーと薄い胸板がチャーミングな女の子である。
出迎えた使用人のひとりに挨拶をし、そのまま書斎に通されたメルはタケシとふたりきりとなる。タケシはただ者ではない雰囲気を纏っており、普通の十六歳では怯える人の方が多いであろう。その場でもメルは平静を保つ。
「初めましてだな女鬼島くん───」
タケシは簡単な自己紹介と共に土井垣家についてメルに説明した。
土井垣家は鉱山を所有する富豪の一族であり、そして「土井垣流抜刀術」という古流派を継承する武門でもある。
かつては伝来の技を鉱山の採掘に流用して鉱山開拓を行っていたのだが、それによって得た収入を元手に起こした事業が大当たりをして莫大な富を得たという。
メルを派遣した皆川の出資者でもあり、故に土井垣家は彼に対して尊大な態度を取っていた。
「当家の説明は以上だ」
一通りの説明を終えたタケシに一礼をしてから、メルは彼から一歩離れた。単純に近づきすぎるのも失礼かと考えて不意にとった行動なのだが、それがどうやらタケシの琴線に触れたようだ。
「出来ておるな」
それはメルが一歩下がったのとほぼ同じタイミングの行動である。おもむろに咥え葉巻に手をやったタケシは葉巻を剣に見立てて振り回したのだ。
火のついた葉巻の熱がメルの鼻先をくすぐって、これ以上近づけられたら火傷しそうなほどである。突然の行動にメルも驚きを隠せない。
「旦那様? 急に何を」
「なあに、キミを試したまでだ。使用人見習いとして来てもらった手前で失礼ではあるが、キミは皆川くんの部下だからな。子供とはいえ、どの程度できるのかを試してみたまでよ」
メルの鼻先を燻らせる葉巻の熱がメルに伝わって、彼女の額を汗で濡らした。葉巻を凝視するメルの目にはタケシが葉巻を軸に産み出した闘気の剣が映っており、彼はそれの先でメルのもみあげをくすぐった。
見えていないのではなく、おそらく見えている上で微動だにしないと受け取ったタケシはメルの度胸を気に入って、大きく葉巻の煙を吸い込んだ。深呼吸なので吐き出す煙もいっそうに多く、彼の口からは煙が長く漂った。
「キミの担当は息子の身の回りの世話だ。予め言っておくが、息子になにか粗相があれば遠慮なくしつけてもらって構わない」
「かしこまりました」
「息子が帰ってくるまで暇であろう。それまではユーリくんに色々と教わるといい。キミが我が家に来た目的はそれであろう」
主人からの説明が終わり、書斎から追い出されたメルを待っていたのは初老の女性だった。どうやら彼女がユーリさんのようである。
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