サンスティグマーダー

どるき

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聖痣の姫とドックウッド家

コサク・ドックウッド

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 ミオが自身とアルスの治療に専念すべく姿を消し、ヒメノは組織の追跡者が居なくなったことで王都への道程の後半は不自由なく進んだ。
 追手がしばらく来ることは無いという状況や、先の戦いでの経験の振り返り。
 そしてミオからもらった水の痣を試しながらの登頂だったヒメノが王都に到着したのはそれから三日後。
 そのころミオたちからの連絡がないことを不審に思ったカグラとアポトーはシロガネに連絡役を頼んでいだ。
 その相手はミオではなく組織でも特殊な立ち位置にある男たちの一人。
 痣の力を彼らなりに研究する過程で複数の痣を刻まれている複痣と呼ばれる特殊な構成員だった。

 そんな新たな情勢を知るすべのないヒメノは王都に到着するとダイサクに聞いた住所をたずねた。
 彼の弟で元近衛騎士団長、コサクが住む立派な構えの家である。
 ヒメノはできる限りの正装でたずねたいと思うのだが、一番立派な服は先日の戦いにて燃やされている。
 他の服は客観的には五十歩百歩とはいえ、彼女の中では不合格らしい。
 そこで不本意ながらミオからもらった露出の多い服を着ていくことにした。
 立派な屋敷なだけあって門番がおり、ヒメノは彼にダイサクの名を出してコサクへの謁見を申し入れる。
 だがヒメノの姿を見て門番はなにやらポツリとつぶやいてから伝声管をコサクに繋ぐ。

「旦那様。若い花がたずねてきていますよ。離れに通しておけばいいですかね?」
「な、何を言っておるんだゲートミル。ワシはそんなモノを頼んではおらんぞ」
「じゃあガクリン坊っちゃんが呼んだんですかね。いちおうオバタのお兄様からの紹介だとは言っていますが、格好があからさまなので合言葉なのかと。まあ華奢な娘で若いというよりも幼いのですが、わたくしは旦那様の趣味に干渉する積もりはありませんよ」
「オバタのお兄様というと……ダイサク兄さんか。ゲートミル! 変な気を使って勘ぐるな」
「前に一回、奥様と旦那様が呼んだ娼婦がかち合って大問題になったことがあったから、こうして気を利かせているんじゃないですか」
「そのことは蒸し返さんでくれ。とにかく……ダイサク兄さんの紹介ってことなら、その子は手紙で連絡を受けているヒメノと言う子だ。名前を確認した上でワシの書斎に通してくれ」
「へい」

 このゲートミルという男がつぶやいた言葉は「旦那様も子供に手を出すとはスキモノだ」という呆れの一言だった。
 ヒメノの格好を見て子供ながら娼婦をしている歓楽街の女だと勘ぐった彼は離れにある休憩室にヒメノを通そうと気を利かす。
 だが手紙でヒメノのことを先に聞いていたコサクはゲートミルを叱ってヒメノを書斎に招いた。
 ちなみに一緒に連れていたキジノハはゲートミルのところで待機である。

「──キミがヒメノか。ワシがダイサクの弟のコサクだ。よろしく」
「ヒメノ・ユーハヴェイです」
「それにしても……フフフ、そういうことか」

 初対面のヒメノを見たコサクは彼女の格好を見て思う。
 ゲートミルが娼婦と見間違えたこの服は幼い彼女なりに考えた格好なのだろうと。
 確かにもう少し背が高くて胸が大きい女性が着ればドレスと言い張ってもおかしくないのだが、サイズが合わないせいで脇や胸元が透けて見えるのせいで娼婦的になっている。
 近衛騎士団の元団長として衣服の知識も持っていたコサクは一目でヒメノの着こなしの悪さを見抜いた。

「どれ……話に入る前にこちらに来なさい。そのままではキミもドレスも台無しだから」

 コサクを不愉快にさせたのかと緊張するヒメノなのだがここは彼なりの善意と妻が帰ってきたときに勘ぐられないようにするための方便。
 仕事でなれた補修用の針と糸でヒメノの衣服を仮縫いすると、的確なサイズに直されたそれは気品を放った。

「これでいいだろう。大まかな話は兄さんからの手紙で把握しているし、しばらくウチに泊まっていくだろう。後でメイドに頼んで仕上げるから、しばらくはそのまま気をつけて着てくれ」

 コサクが仕立てた服を鏡で見るとヒメノ自身もその変わりように驚いた。
 いままで獣臭い他の服よりは断然良いが、露出が多くて恥ずかしい服と感じていた貰い物。
 それが自分にピッタリとハマった立派なドレスに変身したのだから無理もない。

「ありがとうございます」
「礼はいい。それよりも脇道に逸れてしまったね。そろそろ手紙の件について話をしようか」

 お色直しをしたヒメノをソファーに座らせたコサクは彼女の前に座る。
 よっこいしょと腰をおろすまではダイサクに似た好々爺の顔をしていたわけだが、持ち上がった顔はキリリとして恐怖すら感じるほど。
 元近衛騎士団長──コサク・ドックウッドの本気にヒメノの背筋を緊張が走った。
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