辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

第7章：未来への学びと絆

第144話「学院での日常と新たな課題」

エルヴィンたちのグループが完成させた試作品は、学院内でも話題となり、魔道工学の授業で教材として取り上げられることとなった。その成果が評価され、彼らは学院内で次の研究テーマを自由に設定できる特別許可を与えられる。

その日の午前中、エルヴィンたちは魔道工学の講義を受けていた。この日の担当講師は、錬金学部で著名な魔道具研究者である老齢の賢者ライエン・バルトン。白髪にひげをたくわえた彼の姿には落ち着いた威厳があり、学生たちは自然とその言葉に耳を傾けていた。

ライエン・バルトンが教壇に立ち、杖を片手にランプ型の魔道具を持ち上げると、講義室全体が静まり返る。

「さて、皆さん。今日は『魔力の分岐制御と多重動作』について学びます。」
彼の低く落ち着いた声が教室全体に響く。

「これまで、魔力循環とその安定性について学びましたね。それは、単一の動作を安定的に行うための基本技術です。しかし、実用的な魔道具というのは、それだけでは不十分です。」

彼は手に持ったランプをひねり、さらにいくつかの小さな部品を取り付けると、ランプから別々の色の光が同時に放たれ始めた。

「このランプには、魔力を三方向に分岐させる仕組みが施されています。それぞれ異なる魔力を必要とする動作を同時に行えるように設計されています。」

学生たちの間から驚きの声が漏れる。

「魔道具の複雑な動作を設計する際、魔力の『分岐』と『同期』をいかに管理するかが鍵となります。このランプの場合、魔力を一箇所で吸収し、三つの出力に分け、それぞれのタイミングを精密に調整して動作を同期させています。」

ライエンは指でランプの側面を指しながら説明を続ける。ランプの魔力回路を覆う透明な素材越しに、複雑に絡み合った魔法陣の線が輝いているのが見える。

「これを可能にするには、高度な魔法陣の設計だけでなく、魔力干渉を抑える特殊な素材の選定も必要です。たとえば、この部分には『魔力伝導性』と『安定化特性』を兼ね備えた希少な鉱石を使用しています。」

エルヴィンはその言葉を聞いて目を輝かせ、ノートに夢中でメモを取っていた。

「エルヴィン様、その鉱石……何か思いついたのですか？」
隣に座っていたカトリーヌが、エルヴィンの真剣な様子に気づいて小声で尋ねた。

「いや、ただこの分岐の仕組み……僕たちの次の研究に応用できそうだなと思って。」
エルヴィンはランプを見つめながら答える。

「おい、授業中だぞ。研究の話は後だ、後。」
後ろの席からレオンが冗談めかして囁き、エルヴィンは小さく笑った。

「授業中におしゃべりは控えましょう、レオン様。」
カトリーヌがぴしゃりと言うと、リヴィアが控えめに微笑んで頷く。
「私も、教授のお話をもっと聞きたいです……。」

その日の昼休み、エルヴィンたちは学院の中庭に集まり、次の研究テーマについて話し合っていた。緑豊かな中庭のベンチに座り、エルヴィンはノートを広げて提案を書き込んでいる。

「さて、次の研究テーマだけど……何かいい案はある？」
エルヴィンが問いかけると、レオンが真っ先に手を挙げた。

「おう、もちろんだ！もっと派手で見た目もスゴい魔道具を作ろうぜ！たとえば……一瞬でピカッと光るやつとかさ！」

「レオン様、それは何の役に立つのですか？」
カトリーヌが冷静に返すと、レオンは肩をすくめて笑った。
「いや、ただ見た目がカッコよさそうだと思ってさ。」

リヴィアがノートをめくりながら控えめに口を開いた。
「それよりも……もっと実用的なものがいいんじゃないでしょうか。たとえば、魔力分岐を利用して、学院の設備を改善するとか……。」

「それも良い案だね。」
エルヴィンが頷きながらリヴィアの意見をメモする。

「でも、せっかくだから、もっと挑戦的なテーマにしたいな。学院の枠を超えて、王国全体の魔道技術に貢献できるようなものを目指したい。」
エルヴィンが考えを巡らせていると、カトリーヌが微笑みながら提案を口にした。

「エルヴィン様、それでしたら、今日の講義で学んだ魔力分岐の応用を考えてみるのはいかがでしょう？たとえば、高出力の魔力を複数の装置に効率的に供給できるシステムを研究するとか。」

「それはいいアイデアだね！これなら、学院内の研究としても価値が高いし、実用性も十分だ。」
エルヴィンが頷きながら提案を書き加える。

午後、エルヴィンたちは魔道工学主任に提案書を提出しに行った。彼らの案は主任からも高く評価され、学院内で研究を進めるための資材と設備が優先的に手配されることとなった。

「みんなのおかげでいいテーマになったよ。ありがとう！」
エルヴィンが微笑みながら仲間たちに感謝を伝えると、リヴィアとカトリーヌも満足げに微笑んだ。

「エルヴィン様のお力があってこそですわ。」
カトリーヌが言い、リヴィアも小さく頷いた。
「私も……少しでもお役に立てるように頑張ります。」

「おいおい、俺だってちゃんと貢献してるからな！次の装置の組み立ては任せとけ！」
レオンが笑いながら拳を突き上げると、エルヴィンたちも自然と笑顔を浮かべた。