辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐

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第7章:未来への学びと絆

第182話「魔力バッファの威力! 仕組みは完璧なはずなのに……?」

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エルヴィンたちは、魔力バッファを組み込んだ新しい制御装置を完成させた。
これがうまく機能すれば、スプリンクラー型魔道具を順番に動作させることができるはずだ。

王立魔道研究所の実験棟には、試作した装置と四つのスプリンクラー魔道具が設置されている。
前回の失敗で床が水浸しになったため、今度はきちんと排水溝も用意した。

「さて、これが魔力バッファだね。」
エルヴィンが装置の一部を指差す。

机の上には、球体の魔道具が乗っていた。
内部に魔力を一時的にため込み、一定量ずつ放出する役割を持つ。

「このバッファを経由して魔力を供給すれば、一度にドバッと流れることはない。」

「まるでダムみたいな仕組みね。」
カトリーヌが頷く。

「そうそう! 水の流れを一度せき止めて、少しずつ流すのと同じだよ。」

「んじゃ、さっそく試してみるか!」
レオンがスイッチの前に立ち、ワクワクした表情で待ち構える。

「準備はいいかい?」
エルヴィンが仲間たちを見渡す。

「はい、測定機器の準備はできています。」
リヴィアが計器を確認しながら答えた。

「では……魔力供給システム、起動!」
エルヴィンが合図を出し、レオンがスイッチを押す。

――ゴォォォン……

魔力供給装置が静かに動き出し、バッファに魔力が溜まっていく。

「今のところ順調……」
リヴィアが慎重にデータを確認する。

魔力バッファが安定した数値を示しながら、一定の間隔で魔力を供給する。
数秒後、最初のスプリンクラーAが作動した。

――シャァァァ……!

「やった! ちゃんと動いてる!」
レオンが嬉しそうに声を上げる。

数秒後、スプリンクラーAが止まり、次にスプリンクラーBが作動した。

――シャァァァ……!

「すごいわ……順番に動いてる!」
カトリーヌが感嘆する。

その後もC、Dと順番通りにスプリンクラーが動き、畑の模型にまんべんなく水を撒いていく。

「やった、成功だ!」
エルヴィンが満面の笑みを浮かべた。

しかし――

「エルヴィン様、少しおかしいです!」
リヴィアの声が響いた。

「えっ?」

彼女の測定器には、魔力の消費量が徐々に増えているという異常な数値が表示されていた。

「このままだと、魔力が……!」

――バチッ!

突如、魔力バッファの一部から火花が散った。

「しまった!」
エルヴィンが慌てて緊急停止スイッチを押す。

――ゴォォ……ガクンッ。

魔力供給装置が停止し、スプリンクラーも止まった。
幸い、今回は水浸しにはならずに済んだ。

「……何が起きたんだ?」
レオンが首を傾げる。

「魔力供給が不安定になっていった……?」
エルヴィンは装置を調べながら考える。

「魔力バッファそのものは機能していましたわ。」
カトリーヌが冷静に指摘する。

「ただ、途中から供給される魔力量がどんどん増えていった……。」
リヴィアが測定データを整理しながら言った。

「最初は少量ずつ流れていたのに、途中から加速するように魔力が放出されたみたいです。」

「まるで……堤防が決壊したかのような状態ね。」
カトリーヌが考え込む。

「確かに……最初はうまく流れていたのに、ある時点で一気に魔力が放出された……。」
エルヴィンはバッファの構造を見ながら、思案する。

「……もしかして、魔力の蓄積量が一定を超えたら、一気に吐き出してしまうのかも?」

「そういうことか!」
レオンが手を打つ。

「ダムでも、あふれそうになったら放流するのと同じってことか?」

「うん、そんな感じ!」

エルヴィンは急いで設計図を確認する。

「バッファに魔力を溜めるのはいいけど、溜まりすぎた時の対策が不十分だったみたいだ。」

「つまり、"あふれる前に少しずつ流す仕組み"を作る必要があるのですね?」
リヴィアが尋ねる。

「そうだね。今の設計だと、魔力が一定量を超えるまで流れが抑えられてしまって、超えた瞬間に一気に放出される……。」

「それじゃあ、意味ないよな。」
レオンが苦笑する。

「うん……制御するための"安全弁"が必要だ。」

「水道の蛇口みたいに、流れる量を常に調整する仕組みが必要ですわね。」
カトリーヌが考えをまとめる。

「そうだね。"魔力バッファ"の出口に調整バルブをつけて、魔力を適切な量だけ流すようにするんだ。」

「それができれば、供給が安定するかもしれねぇな。」
レオンがワクワクした表情で言う。

エルヴィンはすぐにノートを開き、新しい設計図を描き始めた。

「よし、次の試作では"魔力調整バルブ"を組み込もう!」

「私は新しいバルブの設計を考えますわ。」
カトリーヌが手を挙げる。

「俺は装置の調整を頼まれてるぜ!」
レオンが工具を手に取る。

「私は、魔力の流れのデータを再計測して、最適なバルブの開閉速度を調べます。」
リヴィアが測定器を準備する。

エルヴィンは皆の顔を見渡し、改めて意気込んだ。

「今度こそ、成功させよう!」

こうして、エルヴィンたちは魔力供給システムの最終調整に向けて動き出した。

果たして、次こそは完璧なシステムが完成するのか――?
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