1 / 2
風向きの変化
しおりを挟む
俺はふと目覚める。いつものように、頬に涙を伝わせながら。
ただ季節は違い、蒸し暑いこの時期。
地に埋まる水道管から聞こえてくる音。
耳を澄ましても聞こえないのに、地に耳を付ければ全て聞こえてくる。
水の流れる音。振動。その一つ一つは、普段見えていない隠れているもの。
朝になるとふと感じる。
夏に朝の空気を吸うと、涼しいな。なんて思ったりする。
冬に朝の空気を吸うと、肌寒いな。なんて思ったりする。
時間が変われば感じ方も違う。
時間が変われば人だって変わる。
時間が変われば人は死に、新しい生命が生まれる。
時の過ぎるスピードは常に一定だ。
だが、人の感情と共にそのスピードは変化する。人1人、それぞれ時間の過ぎ方は一分一秒と変わってくる。
それと同様に、人はどれどけ似通った道のりを歩んで来ようが必ず全員が違う何かを持っている。
「凜音、起きてたんだ」
「私は結構前からねー」
「俺はついさっきかな。」
「うん、知ってるよ。ずっと見えてたし。」
俺は疲弊しきった体を動かし、ベッドの上に座る。隣では凜音が布団を畳んでいる。
ここは学校の保健室。仲良く二人揃って体育の時間に倒れたんだっけ。
「体育祭なのは分かるけどさー、玲蘭あんまり無理すんなよな!まだ大会の疲れ取れてないんでしょ?」
「うん…。」
そう、大会…。先週末あった演劇の大会だ。
俺は大会の1週間前から1日最低6時間以上のレッスンを皆に強要して…。俺は寝ている間以外ほとんど練習をしていた。
そうして、飯も取らずに前日に倒れて…。
多分あの時は気が気じゃなかったんだよな…。
大好きなあの人の最後の大会。そう考えただけで頑張れた。絶対優勝したかった。
そうやって無理して大会に出て、セリフは飛ばして、舞台では転けて。俺のせいで先輩の夢は途絶えたんだ。
皆は笑って許してくれた。そんな温かい人達だからこそ、俺は後悔している。
「玲蘭?」
「…」
「玲蘭、聞いてる?おーい!」
凜音が玲蘭の目の前で手を振る。
「ん……。あ、え?」
「大丈夫?今日は1回帰ったらどう?」
「ああ、いや、大丈夫だよ。ちょっと考え事してただけだから…。」
「いやいや…最近そればっかりじゃん!何?何か不満がある?あるならあるで言ってよ!」
凜音が怒っているようにも思えるが、今はそれに答えようとも思えない。
「え?玲蘭?まだ体調悪いんでしょ!?」
俺は無言で保健室を後にする。
部屋の時計を見てきたが、今は5時限目の終わりに差し掛かっている時間帯だ。次の時間は夏休みの指導とプリントや宿題の配布が行われるだけで、少し目眩はするけど…。なんとかなるだろう。
凜音に追い付かれないようにルートは遠回りしてみた。
「あら、須桐君?こんなところで何してるのかしら?」
曲がり角にさしあたった時、誰かに後ろから話しかけられる。
「教頭先生……。実は体育の時間に倒れてしまって…。それで、今保健室から戻ってきてるところです。」
「あら、体は大事にですわよ?あ、今戻ってもなんでしょうから、ちょっと職員室に来てもらえるかしら?」
今居るのは職員室の隣にある個室。
教頭に頼まれここまで来たが、話が少し違う。
「ええと、クラスに河燈凜音ちゃんが居るでしょう?その子が虐められてるって、先生聞いたんだけどね。仲がいい玲蘭君なら何か知ってるかなって思ったのよ。」
「え?凜音がですか!?」
「そうらしいのよ…。聞いただけなんだけどね?放課後に悲鳴が聞こえてきて、それが多分凜音ちゃんのだって、とある子が言ってきてね。その後に2人高身長な子が出てきたらしいの。」
「でも、うちのクラスには少なくともそんな人は居ませんよ。皆凜音と仲良くやってます。」
「あら、そうかしら?でも、男の子で背の高い子は何人かいるでしょう?」
「ええ、3人居ますが、全員あまり喋らない人達ですよ。」
「あらそう…?大丈夫ならいいのだけれど…。」
そこでチャイムの音が流れる。
「あら、時間ね。あまり無理はしちゃ駄目よ?」
「ありがとうございます。」
"ガラッ"
勢いよく片引き戸を閉め、俺は教室に向かう。
先に戻っているであろう凜音から何か言われるかもしれないが、平静を保てそうにないから、ギリギリまで誰かと話しているつもりだ。
ただ季節は違い、蒸し暑いこの時期。
地に埋まる水道管から聞こえてくる音。
耳を澄ましても聞こえないのに、地に耳を付ければ全て聞こえてくる。
水の流れる音。振動。その一つ一つは、普段見えていない隠れているもの。
朝になるとふと感じる。
夏に朝の空気を吸うと、涼しいな。なんて思ったりする。
冬に朝の空気を吸うと、肌寒いな。なんて思ったりする。
時間が変われば感じ方も違う。
時間が変われば人だって変わる。
時間が変われば人は死に、新しい生命が生まれる。
時の過ぎるスピードは常に一定だ。
だが、人の感情と共にそのスピードは変化する。人1人、それぞれ時間の過ぎ方は一分一秒と変わってくる。
それと同様に、人はどれどけ似通った道のりを歩んで来ようが必ず全員が違う何かを持っている。
「凜音、起きてたんだ」
「私は結構前からねー」
「俺はついさっきかな。」
「うん、知ってるよ。ずっと見えてたし。」
俺は疲弊しきった体を動かし、ベッドの上に座る。隣では凜音が布団を畳んでいる。
ここは学校の保健室。仲良く二人揃って体育の時間に倒れたんだっけ。
「体育祭なのは分かるけどさー、玲蘭あんまり無理すんなよな!まだ大会の疲れ取れてないんでしょ?」
「うん…。」
そう、大会…。先週末あった演劇の大会だ。
俺は大会の1週間前から1日最低6時間以上のレッスンを皆に強要して…。俺は寝ている間以外ほとんど練習をしていた。
そうして、飯も取らずに前日に倒れて…。
多分あの時は気が気じゃなかったんだよな…。
大好きなあの人の最後の大会。そう考えただけで頑張れた。絶対優勝したかった。
そうやって無理して大会に出て、セリフは飛ばして、舞台では転けて。俺のせいで先輩の夢は途絶えたんだ。
皆は笑って許してくれた。そんな温かい人達だからこそ、俺は後悔している。
「玲蘭?」
「…」
「玲蘭、聞いてる?おーい!」
凜音が玲蘭の目の前で手を振る。
「ん……。あ、え?」
「大丈夫?今日は1回帰ったらどう?」
「ああ、いや、大丈夫だよ。ちょっと考え事してただけだから…。」
「いやいや…最近そればっかりじゃん!何?何か不満がある?あるならあるで言ってよ!」
凜音が怒っているようにも思えるが、今はそれに答えようとも思えない。
「え?玲蘭?まだ体調悪いんでしょ!?」
俺は無言で保健室を後にする。
部屋の時計を見てきたが、今は5時限目の終わりに差し掛かっている時間帯だ。次の時間は夏休みの指導とプリントや宿題の配布が行われるだけで、少し目眩はするけど…。なんとかなるだろう。
凜音に追い付かれないようにルートは遠回りしてみた。
「あら、須桐君?こんなところで何してるのかしら?」
曲がり角にさしあたった時、誰かに後ろから話しかけられる。
「教頭先生……。実は体育の時間に倒れてしまって…。それで、今保健室から戻ってきてるところです。」
「あら、体は大事にですわよ?あ、今戻ってもなんでしょうから、ちょっと職員室に来てもらえるかしら?」
今居るのは職員室の隣にある個室。
教頭に頼まれここまで来たが、話が少し違う。
「ええと、クラスに河燈凜音ちゃんが居るでしょう?その子が虐められてるって、先生聞いたんだけどね。仲がいい玲蘭君なら何か知ってるかなって思ったのよ。」
「え?凜音がですか!?」
「そうらしいのよ…。聞いただけなんだけどね?放課後に悲鳴が聞こえてきて、それが多分凜音ちゃんのだって、とある子が言ってきてね。その後に2人高身長な子が出てきたらしいの。」
「でも、うちのクラスには少なくともそんな人は居ませんよ。皆凜音と仲良くやってます。」
「あら、そうかしら?でも、男の子で背の高い子は何人かいるでしょう?」
「ええ、3人居ますが、全員あまり喋らない人達ですよ。」
「あらそう…?大丈夫ならいいのだけれど…。」
そこでチャイムの音が流れる。
「あら、時間ね。あまり無理はしちゃ駄目よ?」
「ありがとうございます。」
"ガラッ"
勢いよく片引き戸を閉め、俺は教室に向かう。
先に戻っているであろう凜音から何か言われるかもしれないが、平静を保てそうにないから、ギリギリまで誰かと話しているつもりだ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
妹の仇 兄の復讐
MisakiNonagase
青春
神奈川県の海に近い住宅街。夏の終わりが、夕焼けに溶けていく季節だった。
僕、孝之は高校三年生、十七歳。妹の茜は十五歳、高校一年生。父と母との四人暮らし。ごく普通の家庭で、僕と茜は、ブラコンやシスコンと騒がれるほどではないが、それなりに仲の良い兄妹だった。茜は少し内気で、真面目な顔をしているが、家族の前ではよく笑う。特に、幼馴染で僕の交際相手でもある佑香が来ると、姉のように慕って明るくなる。
その平穏が、ほんの些細な噂によって、静かに、しかし深く切り裂かれようとは、その時はまだ知らなかった。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる