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4章
先輩が可愛い
しおりを挟む「村井君?」
俺が店の前で足を止めるのを見て不思議がる先輩。
先輩、別のお店にしませんか?という言葉が喉まで出てきたが、今更そんなことは言いづらい。昨日の電話の時点で嫌いなものはないか聞かれていたし、先輩にお任せしますと言ってしまっていたからな。
なんか、さっき感じていた緊張感とは別の緊張感が生まれてる。
いや、このお店自体は全然いいんだけど。
もし昨日のバイトのお姉さんに遭遇した時がどういう接客態度になるかがわからない。あのゴミを見るような接客態度は嫌だ。
ということはつまり、あの人が今日シフトに入っていなければ何も問題はない、はずである。いない事を祈ろう。
「あーいえいえ、入り口に置いてある、あのファンシーなフクロウが気になって」
「ああ、あのフクロウ可愛いですよね。確か名前があるんですよ。この店の名前にちなんでクロッキーっていうみたいです」
さも当然のように水城先輩はこの店のマスコットキャラクターを口にする。
「…詳しいですね?」
「そうですね。このお店は時々来ていたので」
まじか…。
あれ?もしかしてここの店員さんと知り合いレベルになってる可能性がある?
だとすると、変な話を先輩に吹き込まれる可能性があったりしないだろうか…。
「それじゃあ、そろそろ中に入りましょうか」
そういって俺が止める間も無く先に入ってしまう先輩。
あ、あ、あ…。
仕方ない、行くしかないか…。
「いらっしゃいませ」
「あの2名でお願いします」
「はい、少々お待ちください」
「…」
店の中に入ると例の店員さんが水城先輩と話をしていた。
けれど、事務的な会話でそこまで親密な印象は受けない。
どうやら考えすぎだったようだ。
「はい、ただいまご案内、しまーす…」
案内する段階になり、その店員さんは俺に気がつくと明らかに声のトーンが落ちていた。
やっぱり、俺のこと覚えてるよなー。昨日の今日だもん。
またお前かという目でめっちゃ俺のことを見てくる。
居心地は悪いが、誤解があるだけで俺は何もやましいことはしていない。
ここはもう開き直るとしよう。
別に冷たい目で見られるだけで何かされるってことはないだろう。と思っていたが、
「ふふふ。お客さん、とても格好いいですね?どこかでお会いしたことありません?」
…この店員さん、邪悪な笑みを浮かべて話しかけてきやがった。
「いやーどうですかねー?ははは…」
「ふふふ、隣の方は彼女さんですか?彼女さん、気をつけてくださいね?この人多分、他の女性にも声をかけて相当浮名を流してますよ?」
その店員さんは水城先輩にもそういって話しかける。
流してねーよ!
多分この店員さんとしては、俺がナンパ野郎だと思っているので水城先輩にこの男は危ないから気をつけてね的な警告のメッセージをしてあげたものだと思うが、そもそもから間違っているので普通に勘弁してほしい。
水城先輩はこう言うこと信じてしまいそうなイメージがある。
そう思って、水城先輩の顔を覗き込んでみると、水城先輩は無表情になったかと思うときっとその店員を睨みつけた。
「この人はそう言う事をする人じゃありません。いきなり失礼じゃ無いですか?」
その店員さんは水城先輩の剣幕に驚いた様子であった。慌てて謝罪する。
「…その、大変失礼をしました。申し訳ございません。席にご案内いたします」
店員さんはそれ以上は特に触れずに俺たちを席に案内してきた。俺のことはやっぱりゴミを見るような目で見てはいたけど。こんな純粋な人を騙しやがってと昨日よりも睨みの聴かせ方が凄んでいた。
案内した席が昨日と全く同じ席だったのが、その証拠だと思う。
席に着き、店員さんが離れるとむすっとした表情で俺に話しかけてくる。
「…あの店員さん、失礼な人ですね」
「まあ、そうですね」
まあ、それは否定しない。
一応あの人なりに善意で言ってるのだとは思うが、ただの誤解なので迷惑なことには変わりない。
それよりも水城先輩があんなに怒ってくれてびっくりした。てっきり、また俺に対して女性に声かけてるんですか?とか聞いてくるものかと思った。
正直今日の水城先輩はこれまで俺が想像していた人物像と違っていて驚いている。色んな意味で。
「私は村井くんがそう言う事をする人では無いって事を知ってます。変なこと言われても気にしちゃだめですよ?」
そう言って、俺の手を握ってくる。
今日の水城先輩は俺に対して全力で味方ですよという態度を取ってくるのでかなり戸惑う。
「それでその、村井くんはああいう風に、よく知らない女性に声かけられるんですか?」
…ん?もしかして、先輩、さっきのやりとり俺があの店員さんに粉かけられたと勘違いしてる?
「いえ、俺は普段は声なんてかけられることなんて無いですよ。さっきのはたまたまというか…」
「そうですか。なんだかあしらい方が手慣れているように見えましたけど?」
いや、そんなことは全くないんだけど…。
多分、それ陽キャと同じ対応してたからだと思う。
「というかよく知らない人に声をかけられるのは水城先輩なのでは?」
今日だって普通にナンパされてたしな。
「いえ、私は…ああ、すみません。やっぱり、この話題はやめましょうか。もっと楽しいこと話しましょう!」
「そうですね…。とりあえず食べるもの決めましょうか?」
そう言ってメニュー表を水城先輩に渡すと、俺にもメニュー表を見やすい向きに向けてくれ、一緒にメニュー表を覗き込む形になる。
顔を近づけてみると水城先輩は香水を付けているのか、水城先輩から甘いいい香りがしてきてこれまたドキッとさせられてしまう。
「ここはパスタが美味しいんですよ。ほら、特にこのグラタンスパゲティは私のイチオシなんです!」
「あー、じゃあそれにしようかな」
ちょうどコッテリしているものを食べたかったのでちょうどいい。
「じゃあ、私はもう一つおすすめのきのこ和風パスタにしますね。あとで分け合いましょうね」
そう言って俺に微笑んでくるその笑顔にいちいち見惚れてしまう。
…参った。今日の先輩は普通に可愛い…。
そういえば、今まであんまり水城先輩の事は厄介ごとを持ち込む人という認識で異性という感じで見たことがなかった。確かに学校で話題になる程美人であることを今更ながらに認識した。
「デザートはどうしますか?パフェならチョコレートパフェがお薦めですよ!」
「…パフェは今日はいいです」
もう昨日で4種類食べてるんだよ…。
美味しいけど、しばらくはいいや…。
そう思っていたが、注文の際には例の店員さんが俺たちのもとに訪れ、俺に対してはだけはしつこく俺が昨日注文したパフェについてお薦めされた。
地味な嫌がらせだけはしてくるのね…。
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