猫みたいな君と、さよならばかりの夏休みを

百度ここ愛

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どこか生き急いでるように見える君-3

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 俺の気持ちを読み取ったかのように、メグルは立ち上がって俺の手を取る。

「じゃあ、ちょっとだけカフェでおしゃべりしてから帰ろ!」

 嬉しさと、罪悪感がまた胸の奥でチリリと燃えている音がする。
 楽しい、楽しくちゃダメ。
 嬉しい、舞い上がんな。


 来た道を歩いて、二人で札駅まで戻ってきた。
 カフェといえば、駅の中にいくつもある。
 どこでも良かった。
 メグルと一緒の時間を過ごせるなら。

「私のオススメ、連れてってあげる!」

 そう言われて付いていけば、エスタの屋上に向かっていく。
 エレベーターに乗ってぐんぐんと高いところに登っていくかと思えば、最上階の展望室にたどり着いた。

 ここも、初めてきた。

「あ、ごめん、入場料掛かるけど大丈夫?」
「大丈夫」

 一周ぐるりと見渡せば、札幌が一望できる。
 ビルや線路、余すところなく続いていた。
 カフェも確かにあり、札幌を眺めながら飲み物を飲めるようだった。

「高いところ、大丈夫でしょ?」
「そういうのは、来る前に聞くだろ」
「あはは、大丈夫だと思ったんだよね、ごめんごめん」

 メグルは確信めいた言い方で、カフェのメニューを見ながら呟いた。
 ジンジャエールなどの炭酸飲料まであるのは、ありがたい。
 正直、コーヒーは苦手だ。
 苦いもの全般得意じゃない。

「ジンジャエールあるよ」

 心の中を読まれたように、メグルがジンジャエールを指さす。
 やっぱり、メグルはちょっと不思議なところがある。
 心の中を読めると言われても、俺は多分信じてしまうだろう。

「ジンジャエールにする。メグルは?」
「アイスキャラメルマキアート!」
「甘いの好きだよな」

 最初に会った時から、甘いものばかり食べてる。
 そういえば二度目のカフェだなと思い出す。
 カフェ巡りが、趣味なのかもしれない。
 覚えておこうと思ってから、考え直した。
 次は、もう、いらない。
 
「なにー? サトルだって好きなくせしてさ」
「好きだけど」
「一口だけ、あげるよ」

 二人分の注文を済ませれば、メグルは景色を一望できる席を確保しに走っていく。
 メグルはいつも、急いでるな。

 そんな活発なところが、羨ましくも思う。
 ただ、生き急いでる感も否めない。
 時間は有限でも、そんなに限られてるわけでもあるまいし。

 出来上がったドリンクを貰って、席の方に向かう。
 メグルの目は、札幌の景色に釘付けになっていた。
 テーブルにアイスキャラメルマキアートを置いて、隣の席に座る。

「すごいよね、こんなに見下ろせちゃうなんて」
「そうだな」
「観光で来てたらここだけで、札幌全部回ったようなもんだよ!」

 メグルの言葉に、自然と笑い声が出ていた。
 メグルといると、楽しくて厄介だ。

「そうはならんだろ」
「そっか」

 ちゅーっとアイスキャラメルマキアートを飲みながら、メグルは拗ねたように目を伏せる。
 長いまつ毛の束が、瞳に掛かって美しいなと思った。

 このまま、メグルとの時間を過ごせたら、めちゃくちゃ楽しいだろう。
 そう思えば思うほどに胸の中の罪悪感は、激しく燃え上がる。
 黙り込んで札幌の景色を見つめるメグルの横で、先ほど返せなかった兄への返信を作る。

【もう北大出ちゃいました。また今度、紹介します。機会があれば】

 機会は、一生来ないだろうけど。
 紹介したくないし、メグルとも、もう会う気はないから。

 最後の思い出にしよう。
 ここに来るまでに、その覚悟は決めた。
 ジンジャエールを口にすれば、爽やかな苦味が広がってパチパチと跳ねる。
 これくらいの苦味なら、好きなのにな。

「サトルは、もう私と会わないつもりでしょ」

 メグルは、やっぱり心が読めるのか。
 曖昧に、口元を歪める。
 メグルの顔は真剣そのものだった。
 今まで見た中でも、一番。

「心読めちゃうんだー私。今サトルが何考えてるとか」
「じゃあ当ててみてよ」
「ジンジャエールの苦味なら美味しいのになぁ」
「えっ」

 本当に当てられるとは思わなくて、動揺してコップを落としかけた。
 小さいメグルの手が、俺の手越しにコップを捕まえてくれたから、こぼれなかったけど。

「私、まだまだサトルと行きたいところあるから。会わないって言ってもしつこく連絡するから!」
「どうしてそんなに」
「えー、聞いちゃうー?」

 真剣な顔をしていたかと思えば、意地悪っぽく眉毛を動かす。
 そして、俺の肩をトントンっと叩く。
 どきりとして、心臓が変な音を立てる。
 まさか、まさか。
 そんなことあるはずもないのに、妄想ばかりしてしまう。

「察してくれたまえ!」
「なんだよ、それ」

 がっくりと肩を落としていれば、アイスキャラメルマキアートを差し出された。
 一口、どうぞってことだろうけど……

 ちゅーっと吸い込めば、甘さと軽い苦味が広がる。
 どちらかといえば、甘さの方が強くて美味しく感じた。

「はい、間接キスしたので私たちは今から恋人です!」
「散々食べ回ししたあとだろ!」
「えー? 嫌なの?」

 嫌なの、と聞かれれば嫌ではない。
 でも、もうメグルとは会わないと決めたばかりなのに。
 会ってしまえば、俺は楽しくて、嬉しくて、人生を満喫してしまう。

「それは冗談として。今度来た時はキャラメルマキアート頼んでみてよ。お願いだから」
「今度来ることがあったら、な」
「あるよ」

 明確に口にするから、予言すら出来るのかと思ってしまう。
 メグルは、超能力者なのかもしれない。
 じゃあ、俺は、またメグルに会うことになるんだろうか。
 自分を律しようと心に決めたのに?

「サトルはまた会うよ。絶対私に会うよ」

 メグルの言葉に、ごくりっと唾を飲み込む。
 どこか本当になりそうな雰囲気があった。

「でも、会ってくれないなら……待ち伏せしちゃおうかなぁ。夏期講習くらい、あるでしょ? 二年生だもんね」
「あるけど、行くとは限らないだろ」
「毎日バス停で待ち伏せする。制服から学校だってわかってるんだから」

 メグルはきっぱりと言い切ってから、俺の右手を掴んだ。

「会ってくれなかったら……」
「くれなかったら?」
「どうしてやろうかなぁ~」

 イタズラを考えてる子どもみたいに、くしゃくしゃの顔で笑う。
 そして、掴んだ俺の右手を握りしめた。
 刹那、泣きそうな顔をする。

「私、泣いちゃうよ」

 俺はそんな言葉に絆される、ような人間だ。
 そうじゃなくても、メグルは可愛いし、好意を抱いてるから。
 違う罪悪感に身を焦がしてしまう。

 本当にどうかしてる。
 今まで、恋なんて一番遠い存在だったのに。
 たまたま出会ったメグルに振り回されてばかりだ。

 でも、会わない。
 大学合格の差は二年生のうちの学習から、出てくる。
 先生にはそう教えられてきたし、俺は兄みたいにきちんと北大に進学して、兄みたいになる。
 だから、恋にうつつを抜かしてる暇なんて、本当はない。

 今日だって、流されて来てしまった、だけなんだから。

 
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