猫みたいな君と、さよならばかりの夏休みを

百度ここ愛

文字の大きさ
13 / 28

終わりと始まり-1

しおりを挟む

 夏休みも明日で終わりだ。
 あまりにも濃密な時間を過ごしたせいか、楽しい夏休みだったと素直に思える。
 あれ以来、メグルと何回もカフェで普通の恋人のように語り合った。
 それなのに、俺は相変わらず弱気で勇気が出ない。
 本当の恋人になろうという言葉は、ついに伝えられなかった。
 そして、夏休み以降の約束を取り付けることもできずにいる。

 夏休み最終日くらい、会いたいな。
 メグルはどこなら付き合ってくれるだろうか。
 どこを提案しても、「いいよ!」と猫のスタンプが返ってくる気もする。

 自室の窓の外を見上げれば、薄紫色の雲が渦巻いている。
 不安になるような色に、ごくんっと飲み干した唾が喉の奥に落ちていく。

 チリチリと胸の奥が痛んで、メッセージを送るのをやめた。
 今は、どうしてか、声が聞きたい。
 指先一つで通話をかければ、軽快な音が耳元で鳴る。

 何回も、何回も、着信音は鳴ってるはずだ。
 それなのにメグルが出る気配がない。
 メッセージを送って既読を確認しようとすれば、名前が消えた。

「もしかして、ブロックされた……?」

 どうして?
 俺が嫌になった?

 不安と、恐怖が、全身の感覚を無くしていく。
 身体が中心からバラバラに崩れていくような気がして、無意識に足を踏ん張っていた。

 メグルとの繋がりは、これしか無いのに。
 探さない方が幸せかもしれない。
 一瞬そんな考えが、頭をよぎって、手を止める。

 それでも、このまま終わりは嫌だった。
 メグルと、まだ、会いたい。

 SNS上で「メグル@夏休み限定」を検索する。
 メグルのアカウント名だった。
 夏休み限定という言葉が、今更気になる。
 最初から、明日で終わらせるつもりだったんだろうか。
 俺との関係も、SNSも。
 無意識に見ていたけど、最初から決めてたのか?

 ポンっとメグルが投稿した画像が出てきて、ほっと胸を撫で下ろす。
 俺とのやりとりを消した、だけなのかもしれない。
 俺が嫌になっただけなら、ひたすら謝り倒してでも会おう。

 そう思って投稿を遡るたびに、メグルとの記憶が蘇る。
 一緒に美術館を回ったこと。
 パスタを食べに行ったこと。
 オープンキャンパスに参加したこと。
 一番最初に一緒に食べたパフェとホットケーキ。

 甘さが口の中に広がって、なんとも言えない気持ちになった。
 メグルの投稿は全部が全部、俺との思い出ばかりだ。俺の下書きと同じで。

 そして、一番最初の投稿は、俺と出会う数時間前だった。

【やっぱり、君に会いに行こうと思う】

 制服のスカートだけ写った写真と、そんな一文。
 君が誰かは、わからない。
 あの時メグルは、誰かに会いに行こうとしてたのか。
 それを、辞めて、俺とカフェに行ったのか。

 そう思っていれば、新しい投稿がされたようだ。
 SNSは勝手にグイーンッと最新の投稿に戻っていく。

【忘れないでね。私がいたこと】

 そんな一言とみたらし色の猫の写真に、吐き気を催す。
 胃の奥から何かが、迫り上がってきてる。
 自分が自分じゃなくなるような。
 コメントをしなければ。
 焦りながらもコメント欄を押せば、投稿がシュンっと一瞬で消えてしまう。

 先ほど表示されていたメグルのアカウントは、全部消えてしまった。
 俺にだけに向けられたメッセージだと思った。
 メグルの【忘れないでね】は、俺宛だ。

 メグルは今どこにいるんだろう。
 忘れないけど、まだ、話せてないことたくさんある。
 本当の恋人になりたかったことも、メグルのことが好きなことも、俺は一つも言葉にしなかった。

 俺が、もし、誰かの代わりでメグルの隣に居たとしても、よかった。
 俺は本気でメグルのことを好きだから。
 メグルに、まだ会いたい。

 部屋から飛び出して、兄ちゃんの部屋を必死にノックする。
 慌てた俺の表情に、兄ちゃんは驚きながら出てきて「どうした?」と優しい声でつぶやいた。

「メグルの連絡先、知らない?」

 俺が知らないところで仲良くなっていた兄だったら。
 あのアカウント以外に知っていても、おかしくない。
 動画だって一緒に撮ったと言っていたから、動画サイトのアカウントとか、なんだっていい。
 メグルと繋がれる何か、があれば。

「メグル……?」

 兄は首を傾げて、不思議そうにメグルの名前を呼ぶ。
 そして、ポカンっとした顔のまま、絶望の一言を口にした。

「誰のことだよ」
「笑えない冗談やめろよ! 家に泊まって、動画だって一緒に撮ったって……」

 冗談を言ってる顔じゃない。
 本気で分からないと目を丸くしてる。
 おかしいって、どうして、忘れてんだよ。

「心が読めて、ちょっと不思議で、俺と兄ちゃんの仲直りを助けてくれて、可愛かったメグルだよ、なんで、覚えてないんだよ」
「ごめん、サトル、なんかゲームでもやってたのか?」

 違う、居たんだって。
 本当に居たんだよ、な?
 俺の、記憶違いじゃなく。
 自分の記憶が不安になっていく。
 俺の妄想だったのか? 都合のいい。

「ごめん」
「いや、俺の方こそ分からなくて、ごめんな」

 兄ちゃんの部屋の扉を閉めて、自室に戻る。
 夏休み限定の幻、だったんだろうか。

 自室の勉強机のイスに座れば、また絵を描き始めた時のノートが開かれていた。
 一番最初のページに戻れば、みたらし色した猫と、猫みたいな女の子。
 忘れないでね、って、こういうことか。
 俺しか、覚えてないのか、この世界で。

 モヤモヤとした霧が脳内に、広がっていく。
 忘れないように、猫みたいな女の子の横に、メグルの知ってる限りの情報を書き込む。
 あの日、駅で猫を助けて出会ったこと。
 辛いものが好きなこと。
 心が読めること。
 忘れないでほしいって、言ってたこと。

 いつか、俺が忘れてしまっても、創作のキャラクターだと思ってしまってもいい。
 確かにメグルの存在を感じれる、何かを残したかった。


◀︎◀︎

 夏休みが始まる。
 少しだけのワクワクが、心の奥で燻っていた。
 楽しむ余裕などないのに、年甲斐もなく夏休みという響きにドキドキしていた。
 
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件

マサタカ
青春
 俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。 あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。   そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。 「久しぶりですね、兄さん」 義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。  ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。 「矯正します」 「それがなにか関係あります? 今のあなたと」  冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。    今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人? ノベルアッププラスでも公開。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

処理中です...