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第5章
134 緊急会議
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「いや、ちょ……おいおいおい! どういう冗談だ!」
「別に冗談じゃない。もしメモに書いてあった通りなら、私が死ぬのが一番いい方法だから」
表情一つ変えずにそう言ってのける。どうやら冗談じゃないってのはマジらしいが、意味が分からん。
「いや……仮にいい方法だったとしても、それは受け入れられない」
「……なら一人で死ぬだけ」
「それもダメだ。アイラに死なれちゃ困るし、死んでほしくもない」
さっきもファミリーがどうとか言ってたが、一般人じゃないのは確かだな。俺とは生きてる世界が違う。常識がズレてるっつーか……話が通じなそうっつーか。前のアイラはこんなじゃなかったんだが。
「……大丈夫。マスターの知るアイラは私じゃない。それに、間接的に私に干渉してきたということは……既に分岐は済んでいるはず」
俺より時空魔術とか詳しそうだな。そういう組織所属か?
「私が死んでも、マスターのアイラは死なないし――むしろ、面倒なことを考えずにここに戻ってこられる」
「そういうことじゃなくてだな……。とにかく死ぬのはなしだ」
「それじゃだめ!」
「な、なんでだよ」
アイラにしてはデカい声で少し驚いた。
「それだと……マスターが死んでしまうから」
「……どういうことだ?」
「私じゃマスターを助けられない。……助け方までは書いてなかった」
なるほどだんだん分かってきたぞ。俺はこの後の迷宮攻めで死ぬが、俺が知ってるアイラはそれをなんとかする方法を知ってる。だがそのアイラはこっちのアイラがいると戻ってこれない……そうだろ?
「……実は、メモにはレルア様に頼むように書いてあった。きっと同意してくれるし、苦しまないように殺してくれるから」
「先に俺に言ってくれて助かったぜ。俺は仲間を殺してまで生きたくはねえ」
「……それでも、私はマスターを救いたかったみたいだから」
「誰も死なずに済む方法を探すさ。幸いここには天使が二人、大罪が一人、大賢者も一人いるからな」
とりあえず緊急会議の時間だ。アイラが変わったってのは知らせておいた方がいいしな。
タイムパラドックスとかはよく分からんが、俺だって時空魔術師の端くれだ。絶対に死ぬ以外の道を見つけてみせる。
(幹部に連絡、緊急会議だ。至急リビングまで来てくれ)
そうだ、アイラの方と同時並行で迷宮攻めも対策しないとな。時間がなさそうな雰囲気だったし、ゴーストに店員させてる店は全部閉めるとかでもいいかもしれない。一時的に。
踏破が目的なら誰でも歓迎だが、正直な話、俺の命が目的のやつらはお断りしたい。踏破報酬ではかなりの金額――恐らくこの世界で一生遊んで暮らせるくらい――を渡すし、それで満足してくれ。
「よォマスター、緊急ってのはなんだァ? 敵襲かァ?」
「ああカイン。あながち間違いでもないな。近いうちにシレンシアの奴らが攻めてくるらしい」
「ッ、マジかよォ!? まァあンだけ派手に暴れりゃそうなるかァ……」
宮廷筆頭騎士がやられてるしな。死んじゃいないだろうが、あの様子じゃ優秀な治癒士がいても数週間は動けないだろう。
「っとォ、アイラもいたのかよォ。珍しい格好だなァ……なんか元気ねェなァ?」
「……そんなこと、ない」
「あァ? 表情もなければ覇気もねェ。てめェ本当にアイラかァ?」
お、日頃返り討ちにされてるだけあって気付くのが早いな。
(マスターァ、気付いてるよなァ?)
(ん、何の話だ?)
(アイラのことだァ、こいつは違う。アイラによく似てるが別人だァ。間違いねェ)
(あー……それに関しては大丈夫だ。皆が集まったら話す)
とか言ってる間に、続々と幹部が集まり始めた。
「ほっほ、アイラ殿。また随分と可愛らしい姿ですな」
「……? これは仕事用の装備で、可愛げはない……と思うけど」
「ほほ、これは失礼。その若返った体によく似合っておりますぞ」
アルデムは気付いてるっぽいな。どこまでかは分からんが。
「ごめんなさいマスターさん! お散歩してたから遅れてしまって……!」
「ああ大丈夫、皆も今集まったとこだ」
最後にリフェアとラビが到着して全員揃った。さて、アイラと迷宮攻めについて話すとするか――
※ ※ ※
「ロード、まずは守りを固めるべきでしょう。宝や名誉が目的の探索者とはわけが違います」
「ああ、俺もそう思う。殺されるのはごめんだからな」
「のう童、我は教会に篭もりたく思うぞ。信者は我の味方だからの!」
「サボるなサボるな。どうせ雑魚相手なら瞬殺だろ。で、配置についてだが――」
とりあえず、地下50階までは今まで通りでいいだろう。どうせ死なないしな。問題は地下51階からだ。
まず騎兵を従えた召喚士。こいつは特にヤバいらしいし、レルアに任せようと思う。
「今回は他と段違いに強い召喚士がいるらしくてな。アイラ曰く俺が死んだ原因もそいつにありそうだから、レルアに確実に仕留めてほしい」
「了解です。地下50階で待機し、幻影を用いて孤立させ、殺します」
「助かる。で、他の奴らだが……」
かなりの手練を送り込んでくるんだろうし、一対多はなるべく避けたいな。
最後の砦をゼーヴェに頼んで、ラティスとアルデムには動き回ってもらうか。
勿論接敵時に固まってることはあるだろうが、ボス部屋で待つよりはいい。それに、先手を取れれば幻影なりなんなりで撹乱することもできる。
「最終的に地下60階くらいまでで決着を付けたい。ホワイトドラゴンは一時的に撤退させておくから、そこはゼーヴェに任せる」
「承知しました」
「その前の階層まではラティスとアルデムに任せた。ラビとリフェアは基本姿を見せずに、少し遠くから影とかで嫌がらせしてくれ。リフィストはその支援を頼む」
天使と大罪は切り札だからな。正面からぶつかるのは最後でいい。
「私はアルデム殿よりも上層を守るとしよう。流石に大賢者様には敵わぬのでね」
「ほほ、ご謙遜を。ラティス殿も古代魔術を使いこなしてらっしゃるでな」
「大賢者様からお褒めの言葉をいただくとは。恐悦至極……魔術師冥利に尽きるというもの」
ラティスもアルデムのことは知ってたらしい。大賢者ってだけあって界隈じゃ有名人なんだろうな。
よっし、大まかな配置はこんな感じでいいか。
「で、次なんだが。アイラを殺さずに済む方法についてだ。何か案はないか?」
少しして、アルデムが口を開く。
「ふむ……先ほど仰っていた召喚士。仮に召喚に携わっていたならば、多少は有益な情報が得られそうですな」
「確かにそうだな。レルア、やっぱり殺さずに捕らえるってのはできるか?」
「はい。お任せください」
余裕です、と聞こえた気がした。やっぱり安心感が違う。
「私は知り合いに召喚士がいてね。肉体と魂の関係についての論文を読まされたことがあるが、その知識が役に立つかもしれない」
「それは助かる! 是非力を貸してくれ」
「勿論、マスターの望みとあらば」
ひとまず、これで一通りの作戦は決まった。あとは迷宮攻めを待つだけだ。
*なろう版に追いついたため、今後は週一更新になります。
「別に冗談じゃない。もしメモに書いてあった通りなら、私が死ぬのが一番いい方法だから」
表情一つ変えずにそう言ってのける。どうやら冗談じゃないってのはマジらしいが、意味が分からん。
「いや……仮にいい方法だったとしても、それは受け入れられない」
「……なら一人で死ぬだけ」
「それもダメだ。アイラに死なれちゃ困るし、死んでほしくもない」
さっきもファミリーがどうとか言ってたが、一般人じゃないのは確かだな。俺とは生きてる世界が違う。常識がズレてるっつーか……話が通じなそうっつーか。前のアイラはこんなじゃなかったんだが。
「……大丈夫。マスターの知るアイラは私じゃない。それに、間接的に私に干渉してきたということは……既に分岐は済んでいるはず」
俺より時空魔術とか詳しそうだな。そういう組織所属か?
「私が死んでも、マスターのアイラは死なないし――むしろ、面倒なことを考えずにここに戻ってこられる」
「そういうことじゃなくてだな……。とにかく死ぬのはなしだ」
「それじゃだめ!」
「な、なんでだよ」
アイラにしてはデカい声で少し驚いた。
「それだと……マスターが死んでしまうから」
「……どういうことだ?」
「私じゃマスターを助けられない。……助け方までは書いてなかった」
なるほどだんだん分かってきたぞ。俺はこの後の迷宮攻めで死ぬが、俺が知ってるアイラはそれをなんとかする方法を知ってる。だがそのアイラはこっちのアイラがいると戻ってこれない……そうだろ?
「……実は、メモにはレルア様に頼むように書いてあった。きっと同意してくれるし、苦しまないように殺してくれるから」
「先に俺に言ってくれて助かったぜ。俺は仲間を殺してまで生きたくはねえ」
「……それでも、私はマスターを救いたかったみたいだから」
「誰も死なずに済む方法を探すさ。幸いここには天使が二人、大罪が一人、大賢者も一人いるからな」
とりあえず緊急会議の時間だ。アイラが変わったってのは知らせておいた方がいいしな。
タイムパラドックスとかはよく分からんが、俺だって時空魔術師の端くれだ。絶対に死ぬ以外の道を見つけてみせる。
(幹部に連絡、緊急会議だ。至急リビングまで来てくれ)
そうだ、アイラの方と同時並行で迷宮攻めも対策しないとな。時間がなさそうな雰囲気だったし、ゴーストに店員させてる店は全部閉めるとかでもいいかもしれない。一時的に。
踏破が目的なら誰でも歓迎だが、正直な話、俺の命が目的のやつらはお断りしたい。踏破報酬ではかなりの金額――恐らくこの世界で一生遊んで暮らせるくらい――を渡すし、それで満足してくれ。
「よォマスター、緊急ってのはなんだァ? 敵襲かァ?」
「ああカイン。あながち間違いでもないな。近いうちにシレンシアの奴らが攻めてくるらしい」
「ッ、マジかよォ!? まァあンだけ派手に暴れりゃそうなるかァ……」
宮廷筆頭騎士がやられてるしな。死んじゃいないだろうが、あの様子じゃ優秀な治癒士がいても数週間は動けないだろう。
「っとォ、アイラもいたのかよォ。珍しい格好だなァ……なんか元気ねェなァ?」
「……そんなこと、ない」
「あァ? 表情もなければ覇気もねェ。てめェ本当にアイラかァ?」
お、日頃返り討ちにされてるだけあって気付くのが早いな。
(マスターァ、気付いてるよなァ?)
(ん、何の話だ?)
(アイラのことだァ、こいつは違う。アイラによく似てるが別人だァ。間違いねェ)
(あー……それに関しては大丈夫だ。皆が集まったら話す)
とか言ってる間に、続々と幹部が集まり始めた。
「ほっほ、アイラ殿。また随分と可愛らしい姿ですな」
「……? これは仕事用の装備で、可愛げはない……と思うけど」
「ほほ、これは失礼。その若返った体によく似合っておりますぞ」
アルデムは気付いてるっぽいな。どこまでかは分からんが。
「ごめんなさいマスターさん! お散歩してたから遅れてしまって……!」
「ああ大丈夫、皆も今集まったとこだ」
最後にリフェアとラビが到着して全員揃った。さて、アイラと迷宮攻めについて話すとするか――
※ ※ ※
「ロード、まずは守りを固めるべきでしょう。宝や名誉が目的の探索者とはわけが違います」
「ああ、俺もそう思う。殺されるのはごめんだからな」
「のう童、我は教会に篭もりたく思うぞ。信者は我の味方だからの!」
「サボるなサボるな。どうせ雑魚相手なら瞬殺だろ。で、配置についてだが――」
とりあえず、地下50階までは今まで通りでいいだろう。どうせ死なないしな。問題は地下51階からだ。
まず騎兵を従えた召喚士。こいつは特にヤバいらしいし、レルアに任せようと思う。
「今回は他と段違いに強い召喚士がいるらしくてな。アイラ曰く俺が死んだ原因もそいつにありそうだから、レルアに確実に仕留めてほしい」
「了解です。地下50階で待機し、幻影を用いて孤立させ、殺します」
「助かる。で、他の奴らだが……」
かなりの手練を送り込んでくるんだろうし、一対多はなるべく避けたいな。
最後の砦をゼーヴェに頼んで、ラティスとアルデムには動き回ってもらうか。
勿論接敵時に固まってることはあるだろうが、ボス部屋で待つよりはいい。それに、先手を取れれば幻影なりなんなりで撹乱することもできる。
「最終的に地下60階くらいまでで決着を付けたい。ホワイトドラゴンは一時的に撤退させておくから、そこはゼーヴェに任せる」
「承知しました」
「その前の階層まではラティスとアルデムに任せた。ラビとリフェアは基本姿を見せずに、少し遠くから影とかで嫌がらせしてくれ。リフィストはその支援を頼む」
天使と大罪は切り札だからな。正面からぶつかるのは最後でいい。
「私はアルデム殿よりも上層を守るとしよう。流石に大賢者様には敵わぬのでね」
「ほほ、ご謙遜を。ラティス殿も古代魔術を使いこなしてらっしゃるでな」
「大賢者様からお褒めの言葉をいただくとは。恐悦至極……魔術師冥利に尽きるというもの」
ラティスもアルデムのことは知ってたらしい。大賢者ってだけあって界隈じゃ有名人なんだろうな。
よっし、大まかな配置はこんな感じでいいか。
「で、次なんだが。アイラを殺さずに済む方法についてだ。何か案はないか?」
少しして、アルデムが口を開く。
「ふむ……先ほど仰っていた召喚士。仮に召喚に携わっていたならば、多少は有益な情報が得られそうですな」
「確かにそうだな。レルア、やっぱり殺さずに捕らえるってのはできるか?」
「はい。お任せください」
余裕です、と聞こえた気がした。やっぱり安心感が違う。
「私は知り合いに召喚士がいてね。肉体と魂の関係についての論文を読まされたことがあるが、その知識が役に立つかもしれない」
「それは助かる! 是非力を貸してくれ」
「勿論、マスターの望みとあらば」
ひとまず、これで一通りの作戦は決まった。あとは迷宮攻めを待つだけだ。
*なろう版に追いついたため、今後は週一更新になります。
応援ありがとうございます!
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