転生ニートは迷宮王

三黒

文字の大きさ
上 下
136 / 252
第5章

134 緊急会議

しおりを挟む
「いや、ちょ……おいおいおい! どういう冗談だ!」
「別に冗談じゃない。もしメモに書いてあった通りなら、私が死ぬのが一番いい方法だから」

 表情一つ変えずにそう言ってのける。どうやら冗談じゃないってのはマジらしいが、意味が分からん。
 
「いや……仮にいい方法だったとしても、それは受け入れられない」
「……なら一人で死ぬだけ」 
「それもダメだ。アイラに死なれちゃ困るし、死んでほしくもない」
 
 さっきもファミリーがどうとか言ってたが、一般人じゃないのは確かだな。俺とは生きてる世界が違う。常識がズレてるっつーか……話が通じなそうっつーか。前のアイラはこんなじゃなかったんだが。
 
「……大丈夫。マスターの知るアイラは私じゃない。それに、間接的に私に干渉してきたということは……既に分岐は済んでいるはず」
 
 俺より時空魔術とか詳しそうだな。そういう組織所属か?
 
「私が死んでも、マスターのアイラは死なないし――むしろ、面倒なことを考えずにここに戻ってこられる」
「そういうことじゃなくてだな……。とにかく死ぬのはなしだ」
「それじゃだめ!」
「な、なんでだよ」 
 
 アイラにしてはデカい声で少し驚いた。
 
「それだと……マスターが死んでしまうから」
「……どういうことだ?」
「私じゃマスターを助けられない。……助け方までは書いてなかった」
 
 なるほどだんだん分かってきたぞ。俺はこの後の迷宮攻めで死ぬが、俺が知ってるアイラはそれをなんとかする方法を知ってる。だがそのアイラはこっちのアイラがいると戻ってこれない……そうだろ?
 
「……実は、メモにはレルア様に頼むように書いてあった。きっと同意してくれるし、苦しまないように殺してくれるから」
「先に俺に言ってくれて助かったぜ。俺は仲間を殺してまで生きたくはねえ」
「……それでも、私はマスターを救いたかったみたいだから」
「誰も死なずに済む方法を探すさ。幸いここには天使が二人、大罪が一人、大賢者も一人いるからな」
 
 とりあえず緊急会議の時間だ。アイラが変わったってのは知らせておいた方がいいしな。
 タイムパラドックスとかはよく分からんが、俺だって時空魔術師の端くれだ。絶対に死ぬ以外の道を見つけてみせる。
 
(幹部に連絡、緊急会議だ。至急リビングまで来てくれ)
 
 そうだ、アイラの方と同時並行で迷宮攻めも対策しないとな。時間がなさそうな雰囲気だったし、ゴーストに店員させてる店は全部閉めるとかでもいいかもしれない。一時的に。
 踏破が目的なら誰でも歓迎だが、正直な話、俺の命が目的のやつらはお断りしたい。踏破報酬ではかなりの金額――恐らくこの世界で一生遊んで暮らせるくらい――を渡すし、それで満足してくれ。
 
「よォマスター、緊急ってのはなんだァ? 敵襲かァ?」
「ああカイン。あながち間違いでもないな。近いうちにシレンシアの奴らが攻めてくるらしい」
「ッ、マジかよォ!? まァあンだけ派手に暴れりゃそうなるかァ……」 

 宮廷筆頭騎士アルクヴレスがやられてるしな。死んじゃいないだろうが、あの様子じゃ優秀な治癒士がいても数週間は動けないだろう。
 
「っとォ、アイラもいたのかよォ。珍しい格好だなァ……なんか元気ねェなァ?」
「……そんなこと、ない」
「あァ? 表情もなければ覇気もねェ。てめェ本当にアイラかァ?」 
 
 お、日頃返り討ちにされてるだけあって気付くのが早いな。

(マスターァ、気付いてるよなァ?)
(ん、何の話だ?)
(アイラのことだァ、こいつは違う。アイラによく似てるが別人だァ。間違いねェ)
(あー……それに関しては大丈夫だ。皆が集まったら話す) 
 
 とか言ってる間に、続々と幹部が集まり始めた。
 
「ほっほ、アイラ殿。また随分と可愛らしい姿ですな」
「……? これは仕事用の装備で、可愛げはない……と思うけど」
「ほほ、これは失礼。その若返った体によく似合っておりますぞ」
 
 アルデムは気付いてるっぽいな。どこまでかは分からんが。
 
「ごめんなさいマスターさん! お散歩してたから遅れてしまって……!」 
「ああ大丈夫、皆も今集まったとこだ」
 
 最後にリフェアとラビが到着して全員揃った。さて、アイラと迷宮攻めについて話すとするか――
 
 
※ ※ ※
 
 
「ロード、まずは守りを固めるべきでしょう。宝や名誉が目的の探索者とはわけが違います」
「ああ、俺もそう思う。殺されるのはごめんだからな」
「のう童、我は教会に篭もりたく思うぞ。信者は我の味方だからの!」
「サボるなサボるな。どうせ雑魚相手なら瞬殺だろ。で、配置についてだが――」
 
 とりあえず、地下50階までは今まで通りでいいだろう。どうせ死なないしな。問題は地下51階からだ。
 まず騎兵を従えた召喚士。こいつは特にヤバいらしいし、レルアに任せようと思う。
 
「今回は他と段違いに強い召喚士がいるらしくてな。アイラ曰く俺が死んだ原因もそいつにありそうだから、レルアに確実に仕留めてほしい」
「了解です。地下50階で待機し、幻影を用いて孤立させ、殺します」
「助かる。で、他の奴らだが……」
 
 かなりの手練を送り込んでくるんだろうし、一対多はなるべく避けたいな。
 最後の砦をゼーヴェに頼んで、ラティスとアルデムには動き回ってもらうか。
 勿論接敵時に固まってることはあるだろうが、ボス部屋で待つよりはいい。それに、先手を取れれば幻影なりなんなりで撹乱することもできる。
 
「最終的に地下60階くらいまでで決着を付けたい。ホワイトドラゴンは一時的に撤退させておくから、そこはゼーヴェに任せる」
「承知しました」
「その前の階層まではラティスとアルデムに任せた。ラビとリフェアは基本姿を見せずに、少し遠くから影とかで嫌がらせしてくれ。リフィストはその支援を頼む」
 
 天使と大罪は切り札だからな。正面からぶつかるのは最後でいい。
 
「私はアルデム殿よりも上層を守るとしよう。流石に大賢者様にはかなわぬのでね」
「ほほ、ご謙遜を。ラティス殿も古代魔術を使いこなしてらっしゃるでな」 
「大賢者様からお褒めの言葉をいただくとは。恐悦至極……魔術師冥利に尽きるというもの」
 
 ラティスもアルデムのことは知ってたらしい。大賢者ってだけあって界隈じゃ有名人なんだろうな。
 よっし、大まかな配置はこんな感じでいいか。
 
「で、次なんだが。アイラを殺さずに済む方法についてだ。何か案はないか?」
 
 少しして、アルデムが口を開く。
 
「ふむ……先ほど仰っていた召喚士。仮に召喚に携わっていたならば、多少は有益な情報が得られそうですな」
「確かにそうだな。レルア、やっぱり殺さずに捕らえるってのはできるか?」
「はい。お任せください」
 
 余裕です、と聞こえた気がした。やっぱり安心感が違う。

「私は知り合いに召喚士がいてね。肉体と魂の関係についての論文を読まされたことがあるが、その知識が役に立つかもしれない」
「それは助かる! 是非力を貸してくれ」
「勿論、マスターの望みとあらば」  
 
 ひとまず、これで一通りの作戦は決まった。あとは迷宮攻めを待つだけだ。



*なろう版に追いついたため、今後は週一更新になります。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ド陰キャが海外スパダリに溺愛される話

BL / 連載中 24h.ポイント:7,455pt お気に入り:255

フェロ紋なんてクソくらえ

BL / 完結 24h.ポイント:518pt お気に入り:388

男ふたなりな嫁は二人の夫に愛されています

BL / 連載中 24h.ポイント:1,604pt お気に入り:137

子供を産めない妻はいらないようです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:8,789pt お気に入り:276

主神の祝福

BL / 完結 24h.ポイント:2,124pt お気に入り:257

救国の乙女として異世界転移したわたしが皇子様に愛され過ぎるまで

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:47

運命の番を見つけることがわかっている婚約者に尽くした結果

恋愛 / 完結 24h.ポイント:13,610pt お気に入り:258

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:18,689pt お気に入り:7,957

少女魔法士は薔薇の宝石。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:846

処理中です...