転生ニートは迷宮王

三黒

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第7章

189 連鎖

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「くっ……」
「キール!? 嫌、教授!」 
「ああなっては助からない。壁のあるうちに一時撤退か、或いは――」 
「どうして、キール、私のせいなの? 私が苦戦しないなんて言ったから?」 
「落ち着けエイマ! 取り乱してる場合じゃない!」 
 
 飛び散った血液にだらんと力なく投げ出された四肢、なかなかにショッキングな映像だ。
 それが仲間のものともなれば尚更だろう。取り乱すのも分かる。だがまあ、ローンズの言うことも正しい。そのままだと後を追うことになるぞ。
 
「よし、撤退だ。このままの状態で戦うのは危険だからね。入口からは少ししか離れていない、そこまでは魔物も着いて来ないはずだ」 
「待ってください教授、キールは助かりますよね? あんな普通の魔物にやられるはずない、彼は優秀なんです。少し不真面目なところもあるけど――」 
「ローンズ、彼女を連れてきてくれ。彼らがいつ壁を消すか分からない。私は後ろを警戒する」
「了解だ。エイマ、退くぞ」  
 
 ローンズの声も聞こえているのかいないのか、それとも聞こえた上で無視しているのか、エイマは壁に張り付いたまま動こうとしない。
 
「エイマ、早く来い!」  
「やめて! ローンズ、離して!」
 
 ローンズがエイマの腰に手を回し、抱き抱えるようにして持ち上げた。エイマは抵抗しているがこの体格差だと無意味だな。バタつかせてる足が股間にクリーンヒットしたら多少は痛いだろうが、流石になんか入れてるだろうし。
 
「いいや離さない! このままあの猿共と戦っても俺たちに勝ち目はない。今は教授と共に退がるべきだ。敵討ちなら後にしろ、奴らはここを根城にしているようだし――」 
「離してって言ってるでしょう!」  
「ぐっ!? おい、エイマ!」 
 
 風衝ルウィズか何かを撃ったな。直接ってわけじゃなかったが、足元を崩されたローンズはその場に尻もちをついた。
 あの壁がどういうものなのかまでは把握してないが、俺の見立てだとそろそろ消えるぞ。イエティも魔力を流すのをやめてるし、じっとエイマたちを見つめるだけだ。

「ヴァオ、ヴァウヴァ」 
「っ! 吹風ウィレスカ――風壁ウィレンダ!」
 
 案の定、数秒と経たずに壁は消えた。瞬間イエティはまとめて吹き飛ばされ、今度は風の壁に阻まれることになった。
 殺すんじゃなく近付けないようにしたらしいが、あいつらはその辺の土鎖グライドくらいなら簡単に引きちぎるやつらだぞ。
 ……いや、風壁ウィレンダはそもそも耐久が高い壁じゃない。くぐると傷を負うタイプだから、イエティがそれを気にして歩みを止めるのを狙ったのか?
 
「戻れ! クソっ!」 
 
 ローンズがエイマを追って走り出した。見捨てたくない気持ちは分かるが、それは多分悪手だ。
 エイマの方はキールの死体に向かって一直線に――ああ、まだ消えてないってことは一応生きてる扱いなのか? 流石にもう死ぬと思うし、ここから助かりそうもなさそうだけどな。
 
「キール、今連れて帰るから……吹風ウィレスカ
 
 威力を調整してキールの体をいい感じに浮かせた。持ち上がったときの動きで、首から更に血が噴き出してくる。飛び散った血がエイマの服を汚すが、本人は気にする様子もない。
 
「ヴァウェ、ヴェア」 
「ヴァウ、ヴァオア」 
 
 まあそれをみすみす見逃すイエティでもない。それまでは動きを止めていた個体も、獲物を横取りされるとなっては話は別だ。風の壁など意に介さないというように、次々にエイマに襲いかかる。
 
「――風刃ウィレイス!」 
 
 浅い。先頭の個体には正面から入ったにも関わらず、一瞬怯ませただけで終わりだ。
 
「――吹風ウィレスカ風刃ウィレイス!」 
 
 キールの体を浮かせたままに、他の魔術を連続使用か。なかなか器用なことをやる。
 だが肝心の威力がダメだ。ローンズも走って来てはいるが、間に合いそうにないな。
 
「っ……!」
「エイマぁ!」 
 
 遂に追い付かれた。掴まれた足首から嫌な音がしたな。震える手でポーションを探すが、直後に手首も潰された。詰みだ。
 
「……キールを、お願い――吹風ウィレスカ
 
 もう片方の腕をローンズに向け、キールを飛ばす。その状態でここまで安定した魔術を使えるのか。つくづく惜しいな。
 
「ヴォエヴァ、ヴァウア」 
「ヴェア、ヴォウア」 
「い、ぎ、あ……あ」 
 
 エイマは鎖骨と首の間あたりから齧られ始めた。うう痛そ。俺なら不死階層でもあんなのは嫌だね。地下51階にこんな凶暴な猿を配置したのはどこのどいつだ? 全く……
 
「うおおおおあああああああ!」 
 
 ローンズが雄叫びを上げて猿の群れに突っ込んだ。いい振り下ろしだ。かなりの破壊力でイエティを吹き飛ばし、且つエイマの体には傷一つ付けていない。
 ただその判断はまずいだろ。イエティの獲物のキールを受け取れとは言わないが、それならそのまま逃げろよ。なぜ突っ込む。一人ずつ殺されてくなんてアホのすることだぜ。教授はため息をついてる。それはそれで薄情すぎる気もするが。
 
「こっちだ猿共ぉ!」 
「ヴォヴァ・ヴァエア・ヴァウア」 
「なっ!?」 
 
 さっき氷壁を出した個体が、今度は氷獄シャルジュらしき魔術を使った。複数の氷片がローンズの体に当たり、弾け、凍り付かせる。
 炎系の魔術ならなんとでもなりそうな感じだったが、ローンズはそういうのは使えないらしい。斧を振り回すが体勢にも無理があるし、にじり寄るイエティを撃退することは叶わない。
 教授は既に入口の方まで下がっていた。ローンズからはとてもじゃないが見えない位置だ。
 
「ここまで……か……」 
 
 ガツっと顎を殴られ意識を失うローンズ。後は他の二人と同じパターンだろう。教授何してんだマジで。この人次第じゃ余裕で全員助かったと思うんだが。
 
「こんなものか。出来がいいのを連れてきたつもりだったんだけどね。また一から集め直しだ、骨が折れる」
 
 バッチリカメラ目線でこう宣ってみせる教授。独り言じゃなさそうだ。貴様見ているなッ!
 
魅了チャームというのは信頼関係が大事なんだ。絆と言い換えてもいい。私を教授だと思わせるのは難しくはなかったが、共に困難を乗り越える経験というのが問題だった」
 
 雪をどかした石に腰掛け、尚もカメラ目線で話し続ける。突然何を言ってるのか分からないが、やっぱりこいつは教授じゃなかった。そう呼ばれていただけだ。
 
「術式の再構成には彼らが必須だったというわけだ。劣化した器では初回のようにはいかないからね。シルヴァを取り戻すだけでは足りない。半端に形を持たせるのに成功してしまったからこそ起こった悲劇とも言える」
 
 リラックスした様子で話し続ける教授だが、よく見れば右手が雪の上を忙しなく動き回っている。ズームできるか? ――手元が拡大された。
 何か似たようなものを見たことがある。あれはアルデムの魔術講座だったか。
 
「しかし、順序は重要ではない。同時にこなしてしまえば私が楽だったというだけの話だ。ハインベルの上層部も既に私の術中であるし、代わりの学生はゴマンといる」 
 
 何かの術式であることは間違いない。ただ落書きをしているだけってわけじゃないだろ。
 アルデムの結界の編集は終わってない。陣は���解呪ディスペルでどうこうできるものでもないし、今の俺にできるのは発動された後どうするかを考えることくらいだ。
 
「罠も魔物も十分に楽しませてもらった。シルヴァを返してもらうよ」
 
 教授の姿が消えた――この感覚は、転移。
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