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承安3年(1173年)
八条院と平頼盛と胸病み(結核)
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さて、薬院を開いた翌日の朝でございます。
私は八条院様にお礼を述べるべく八条院の御殿へ向かっておりました。
そして、その隣りにある池殿のお屋敷も眺めていました。
「さすが平家の重鎮のお方の屋敷だけあってこちらも大きいものですね」
できれば屋敷の主人に早いうちにお目通りが叶うといいのですが……。
私は西の対屋の控室に向かいます。
「信濃権守木曽中三中原兼遠が娘、巴まいりました」
八条院様が私にお言葉を返してくださいます。
「ほほ、ようきはりましたな」
そこでは雅な男性二名が八条院様と話をされていました。
「関白様。
私はいつ参議となれましょうか?
我が甥である重盛、宗盛それに時忠殿は既に参議にござりますが……」
「うむ、大宰大弐殿。
内々の話ではあるが近くそなたを参議とするつもりじゃ。
八条院様のたっての願いでな。」
そこへ八条院様がお言葉を続けました。
「あての預かっておる似仁王にそなたはようにておりますえ。
鳥羽院のご嫡流でありながら、滋子様の邪魔立てによって、親王宣下さえ受けらぬとは、あまりにも哀れなことどす。」
そして基房が言葉を続けます。
「血筋で言えば、そなたこそが平家の嫡流。
それをおかしな出自の棟梁によって、出世を阻まれるのは、見るに忍びぬ。
今しばらくの辛抱じゃよ」
頼盛が二人へ頭を下げて言いました。
「きっと八条院様のお役に立てるよう非才ながらお尽くし致します」
そして私の方をみて頼盛が八条院様に聞いたのです。
「してこの女人は?」
「外記や東市司の中原の家のむすめはんやって。
なかなか面白い娘っ子どすえ」
その説明に基房が私を見ながら口を開きました。
「なんと、地下の娘でございますか?」
「そやけど、なかなかにおもろい娘やさかいな、ようしてやってな」
彼は私を乞食でも見るような目で見ています。
まあ、仕方のない事でしょう、皇族でありながら鷹揚に対処してくださる八条院様のほうが珍しいのでしょうから。
「はあ、八条院様がそうおっしゃるのでしたら……」
明らかに嫌そうに彼は言いました。
「そういえば河原に薬院を作っておるそうだな」
頼盛が私に聞いてきました。
「はい、信濃の戸隠の修験者直伝の薬草術を以て大衆の救済のお役に立てればと」
私の言葉を聞いたあと頼盛は少し悩んで、やがて言いました。
「ふむ、では私の家人の様子を見てくれぬか、坊主どもの祈祷は一向に効かんのでな」
さて、一体どんな病でしょうか。
「かしこまりました、拝見させていただきましょう」
八条院様のお屋敷から池殿のお屋敷に移動し、屋敷の西の対屋に私は通されました。
そこには床に臥せった女性がおりました。
他には誰もいません。
「私の孫娘なのだが、ここの所ずっと体の調子が悪く床に臥せっておるのだ」
ふむ、夏風邪ならまだいいですが……。
彼女に症状を聞くと咳が止まらず、全身のだるさ、夕刻に出る微熱、寝汗、更には胸痛等ということで……
「おそらく胸病みでございますね」
「な、なんと……やはりか、では孫の命は……」
「このままでは1年持てば良い方でしょう」
「な、なんとかならぬのか?」
頼盛が私ににじり寄りながら私に聞いてきました。
「わたしにできることは行いますが、本人の協力も必要となります」
「う、うむ、むろんだ」
「ではまずは胸の薬を調合いたしましょう」
私は八条院様の倉の中の宋の国より集められた珍しい薬などを集め柴胡桂枝湯を調薬します。
「まずは、こちらをお飲み下さい」
平家の姫様が椀に溶かし入れた柴胡桂枝湯を飲むと
「渋い……」
と顔を歪めました。
「申し訳ありませんが我慢してください、その薬を用いればは胸の痛みも治まるはずです」
「はい……」
頼盛はぐぬぬという表情ですが、薬というのは往々にしてにがいものなのですよ。
そして私は煮沸した藁に煮た大豆を包んで納豆を作るとともに、生ぬか、塩、昆布、実山椒、煮干し、などをつぼに漬け込みそこに大根やキュウリ、なすなどを糠漬けにして漬け込みます。
またぶなしめじやヒラタケと雉の卵を山より採取してまあいりました。
そして翌日、朝の食事です。
「どうそコレを召し上がってください」
食事の内容は納豆に卵と刻みネギににんにくを混ぜたものに醤をかけたものと、胡瓜と大根と茄子の糠漬け、玄米とキジの卵の卵がゆにしめじのお吸い物です。
「これをですか?」
「はい、少しずつで良いのですべての品を召し上がってください」
「分かりました」
そして漢方薬と食事療法を一週間ほど続けたところ症状は目に見えて改善したのです。
「おお、まさか本当に病魔を払えるとは……」
頼盛は驚きつつもうれしそうでした。
まあ、孫が可愛くない人はあまり居ませんからね。
「本当にありがとうございます」
平家の姫も私に礼を言って頭を下げてきました、なかなかよいこのようですね。
「う、うむ、どうじゃ、私に仕えてはみぬか?
無論それなりに報酬と待遇ははからせるが」
頼盛の誘いには私は申し訳ないという表情で答えます。
「申し訳ございません、私には信濃に残してきた者がおります。
それに都の空気は田舎者の私にはあまり合わないようでございます」
頼盛は少し気落ちしたようですが、そんなに私に執着をしているようでもないようです。
「そうか、残念だが仕方あるまい。
わしが諏訪の領にいった折にはまた世話になるやもしれん、そのときはよろしくたのむ」
私は頭を下げ
「は、そのときにはまたお力にならせていただきます。
また貴重な薬の使用許可を出していただいた八条院様にも感謝していただければ」
「うむ、うむ、当然じゃな」
私は納豆と糠漬けの作り方を姫のおつきのものに伝えて毎日食べるように言付けました。
そして屋敷をでると久しぶりにゆっくりと休んだのでした。
私は八条院様にお礼を述べるべく八条院の御殿へ向かっておりました。
そして、その隣りにある池殿のお屋敷も眺めていました。
「さすが平家の重鎮のお方の屋敷だけあってこちらも大きいものですね」
できれば屋敷の主人に早いうちにお目通りが叶うといいのですが……。
私は西の対屋の控室に向かいます。
「信濃権守木曽中三中原兼遠が娘、巴まいりました」
八条院様が私にお言葉を返してくださいます。
「ほほ、ようきはりましたな」
そこでは雅な男性二名が八条院様と話をされていました。
「関白様。
私はいつ参議となれましょうか?
我が甥である重盛、宗盛それに時忠殿は既に参議にござりますが……」
「うむ、大宰大弐殿。
内々の話ではあるが近くそなたを参議とするつもりじゃ。
八条院様のたっての願いでな。」
そこへ八条院様がお言葉を続けました。
「あての預かっておる似仁王にそなたはようにておりますえ。
鳥羽院のご嫡流でありながら、滋子様の邪魔立てによって、親王宣下さえ受けらぬとは、あまりにも哀れなことどす。」
そして基房が言葉を続けます。
「血筋で言えば、そなたこそが平家の嫡流。
それをおかしな出自の棟梁によって、出世を阻まれるのは、見るに忍びぬ。
今しばらくの辛抱じゃよ」
頼盛が二人へ頭を下げて言いました。
「きっと八条院様のお役に立てるよう非才ながらお尽くし致します」
そして私の方をみて頼盛が八条院様に聞いたのです。
「してこの女人は?」
「外記や東市司の中原の家のむすめはんやって。
なかなか面白い娘っ子どすえ」
その説明に基房が私を見ながら口を開きました。
「なんと、地下の娘でございますか?」
「そやけど、なかなかにおもろい娘やさかいな、ようしてやってな」
彼は私を乞食でも見るような目で見ています。
まあ、仕方のない事でしょう、皇族でありながら鷹揚に対処してくださる八条院様のほうが珍しいのでしょうから。
「はあ、八条院様がそうおっしゃるのでしたら……」
明らかに嫌そうに彼は言いました。
「そういえば河原に薬院を作っておるそうだな」
頼盛が私に聞いてきました。
「はい、信濃の戸隠の修験者直伝の薬草術を以て大衆の救済のお役に立てればと」
私の言葉を聞いたあと頼盛は少し悩んで、やがて言いました。
「ふむ、では私の家人の様子を見てくれぬか、坊主どもの祈祷は一向に効かんのでな」
さて、一体どんな病でしょうか。
「かしこまりました、拝見させていただきましょう」
八条院様のお屋敷から池殿のお屋敷に移動し、屋敷の西の対屋に私は通されました。
そこには床に臥せった女性がおりました。
他には誰もいません。
「私の孫娘なのだが、ここの所ずっと体の調子が悪く床に臥せっておるのだ」
ふむ、夏風邪ならまだいいですが……。
彼女に症状を聞くと咳が止まらず、全身のだるさ、夕刻に出る微熱、寝汗、更には胸痛等ということで……
「おそらく胸病みでございますね」
「な、なんと……やはりか、では孫の命は……」
「このままでは1年持てば良い方でしょう」
「な、なんとかならぬのか?」
頼盛が私ににじり寄りながら私に聞いてきました。
「わたしにできることは行いますが、本人の協力も必要となります」
「う、うむ、むろんだ」
「ではまずは胸の薬を調合いたしましょう」
私は八条院様の倉の中の宋の国より集められた珍しい薬などを集め柴胡桂枝湯を調薬します。
「まずは、こちらをお飲み下さい」
平家の姫様が椀に溶かし入れた柴胡桂枝湯を飲むと
「渋い……」
と顔を歪めました。
「申し訳ありませんが我慢してください、その薬を用いればは胸の痛みも治まるはずです」
「はい……」
頼盛はぐぬぬという表情ですが、薬というのは往々にしてにがいものなのですよ。
そして私は煮沸した藁に煮た大豆を包んで納豆を作るとともに、生ぬか、塩、昆布、実山椒、煮干し、などをつぼに漬け込みそこに大根やキュウリ、なすなどを糠漬けにして漬け込みます。
またぶなしめじやヒラタケと雉の卵を山より採取してまあいりました。
そして翌日、朝の食事です。
「どうそコレを召し上がってください」
食事の内容は納豆に卵と刻みネギににんにくを混ぜたものに醤をかけたものと、胡瓜と大根と茄子の糠漬け、玄米とキジの卵の卵がゆにしめじのお吸い物です。
「これをですか?」
「はい、少しずつで良いのですべての品を召し上がってください」
「分かりました」
そして漢方薬と食事療法を一週間ほど続けたところ症状は目に見えて改善したのです。
「おお、まさか本当に病魔を払えるとは……」
頼盛は驚きつつもうれしそうでした。
まあ、孫が可愛くない人はあまり居ませんからね。
「本当にありがとうございます」
平家の姫も私に礼を言って頭を下げてきました、なかなかよいこのようですね。
「う、うむ、どうじゃ、私に仕えてはみぬか?
無論それなりに報酬と待遇ははからせるが」
頼盛の誘いには私は申し訳ないという表情で答えます。
「申し訳ございません、私には信濃に残してきた者がおります。
それに都の空気は田舎者の私にはあまり合わないようでございます」
頼盛は少し気落ちしたようですが、そんなに私に執着をしているようでもないようです。
「そうか、残念だが仕方あるまい。
わしが諏訪の領にいった折にはまた世話になるやもしれん、そのときはよろしくたのむ」
私は頭を下げ
「は、そのときにはまたお力にならせていただきます。
また貴重な薬の使用許可を出していただいた八条院様にも感謝していただければ」
「うむ、うむ、当然じゃな」
私は納豆と糠漬けの作り方を姫のおつきのものに伝えて毎日食べるように言付けました。
そして屋敷をでると久しぶりにゆっくりと休んだのでした。
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