木曽義仲の覇業・私巴は只の側女です。

水源

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治承3年(1179年)

松本の屋敷に帰ってきたけど私の幼女の養女がなついてくれない

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  私達木曽軍が甲斐・信濃と東海・関東を平定したときには冬が訪れておりました。

「しばらくは、兵の休養と新兵の補充の時間を取れそうですね」

 私の言葉に義仲様が頷きました。

「ああ、そうだな、今まで皆戦いずくめであった。
 春まではゆっくり休養を取り春に攻めてくるであろう。
 城資永じょうすけながの兵に各自備えよ。
 まあしばらくは家族とゆっくり過ごすがいい」

 城資永が兵の準備に手間取ったのは今年の冷害による農作物の収穫量の低下の影響も大きかったでしょう。

 兵を集めても食わせる食料がなければ逃げてしまうのは富士川の戦いを見れば明らかです。

「は、ありがとうございます」

 木曽に従う他のものにも同じ言葉がかけられ、一同はそれぞれの所領へ帰ってゆきました。

 私は松本に戻り、手習い天神をおとずれました。

 そこでは阿野全成によってしごかれている歩兵たちがいました。

 皆へとへとになり地面の上に倒れています。

「お疲れ様です、阿野全成どの。
 彼らはいかがですか?」

 全成は私の方に振り返りいいました。

「うむ、巴殿の率いている兵たちに比べればまだまだであるな。
 とは言えやらぬわけにもいかんわけですし、きっちりしごいておりますわい」

 私は苦笑いしながら

「まあ、私のときは時間が取れましたからね。
 そのかわり色々試行錯誤しながらでしたから今より効率は悪いですが」

 全成は私の言葉にうなずきながら答えました。

「まあ、何にせよ兵は神速を尊ぶでございますな」

「ええ、それに遅滞なく補給の手配をしていただけていること誠に感謝しております」

「ははは、何しろ腹が減っては戦はできぬでありますからな。
 食料や武器は各地の国衙や郡衙から徴収しているとは言えそれを兵の元へ手抜かりなく送り届けるのはなかなか頭がいたいところですがな」

「ええ、どこに何がいくらだけあるということをしっかり把握しなければなりませぬからね。
 これからもよろしくお願いいたします」

「うむ、まかされよ」

 私は全成に礼を述べてから松本の屋敷に戻りました

「小百合ただいま、戻りましたよ」

 小百合は私の養女となった大姫の手を引きながら私を迎えてくれました。

「おかえりなさいませ、巴様。
 しばらくはここでゆっくりなされるのですか」

 小百合に言葉に私は苦笑いを浮かべました。

「本当はそうしたいのだけど、遠江や三河にいってやらないといけないことがあるから二・三日したら出立しないといけないです」

 そして私は大姫に笑顔を向けます。

「こんにちは大姫、風邪とかは引いてない?」

 そういたら大姫は小百合の影に隠れてしまいました。

「あ、あれ……大姫?」

「なんか…こわいおばしゃんがきた……」

 と大姫は小さく言ったのでした。

 ”ガーーーーーーーーーーーーーン”

「こわいおばしゃん……。
 どうやら私は養母として覚えられていないのですね」

 そんな私を無視して

「おおよしよし、あの人は怖くないよ」

 とさゆりは大姫をあやしながら私に言いました。

「しかしながら巴様、この姫を私に預けてすぐどこかにいなくなりいきなり戻ってきてお母さんですよと言っても納得するはずはございません」

「そ、それはそうですが……」

 この間も大姫は私のことを怖がっているようでした」

「わ……私の幼女の養女が私になついてくれない……」

「何をバカなことを言っているのですか、早くお屋敷にお入りください。
 どうせすぐ出ていくのですからそれほど気にされることではないでしょう」

「もうこれ以上の追い打ちかけるのはやめて小百合…」

「………」

 小百合と大姫の何を言ってるんだこの人という冷たい視線が私に突き刺さりました。

 しばらくして気を取り直して屋敷に上がり、今日は温泉に入って寝てしまおうと考え早速温泉に入ることにしたのです。

「はぁー、やっぱり温泉は良いですねぇ」

 私は温泉にのんびり浸かって久しぶりに緊張から開放された気がしました。

「あーあ、でも長くやっぱり一緒にいる人になついてあんまりいない人を警戒するのは当たり前ですよね……」

 できることなら冬の間だけでも一緒にいたいのですが、今はまだのんびりしている暇はないのです。

「あの子のためにも早く平和な世にしないとね」

 私は温泉から上がり、夜着に着替えると、その夜はぐっすりねたのでした。

 そして翌日、私は屋敷を立ち遠江に向かうことにしました。

 今の私の個人的なことよりも木曽全体の未来を大切にせねばなりませんからね。

 遠江に赴く門まで小百合と大姫が見送りに来てくれました。

「それでは巴様、行ってらっしゃいませ」

 小百合が頭を下げると大姫が小さく手を振りながら言ったのでした。

「おばしゃん……またきてね」

「うん、ありがとうね大姫、貴方も体に気をつけてね」

「うん……きをつける」

 私は笑顔で遠江へ向かったのでした。

 その頃11月12日、高倉院のもとに有識の貴族が集まって、帰都について検討し、清盛との意見調整の末、その夜に平安京への還都の方針が決まっりました。

 富士川合戦の敗北をもあり、平氏一門の中の宗盛や延暦寺の僧兵たちが都を京都に還すべきだと主張したこともあってけっきょくは再び京へもどることになるのです。

 11月26日、入京した安徳天皇は藤原邦綱の五条東洞院亭に、高倉院は平頼盛の六波羅池殿に、後白河院は、平重盛の六波羅泉殿に入り、11月29日に清盛も福原から上洛したのです。

 清盛が還都に同意したのは、東国追討使が敗れたとの報告が入った、11月10日頃のことであり、当時は改めて、東国に追討軍を派遣するという計画も出ていたのですが、院や貴族、一門内においても還都主張者がおり、追討軍の編制・動員に天皇の権威高揚が必須という状況で清盛は追討軍の編制を万全なものとすべく、福原から京への還都を決断したのでした。

 しかし美濃・近江を中心に畿内近国の諸勢力の反乱も激化しており、清盛は、兵糧米や兵士役を貴族や寺社に賦課し、京都の民家や公卿の家は点検調査され食料の徴収や官軍平氏の兵舎として徴用された。京都市内から徴収した食糧などは軍用米としてのみでなく飢饉のため貧者に分け与えると説明し、東国の反乱を鎮圧する体制に、無理やり組み込んでいったのでした。

 しかし、この頃木曽が平定した地域化からの今年分の税の米などは京に届かず、貴族は皆困窮していたため清盛は一層貴族や寺社の反発を受けることになります。

 その一方で、後白河院・藤原基房を復帰させました、清盛が、福原から京への還都に続き、治承3年の政変時の自身の非を認めるかのような、処置を認めたのも、全ては反乱鎮圧の遂行のためであったのです。

 もし高倉院が没すれば、後白河院政という形式をとるほかなく、清盛は彼等を復帰させた上で、後白河院の院政再開後も、自身が政治の実際を主導する体制をなんとしてでも維持しようとしたのでした。
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