木曽義仲の覇業・私巴は只の側女です。

水源

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治承3年(1179年)

諏訪合戦・関東・東海・甲信平定

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 さて、富士川の合戦の後のことです。

  まず大庭景親は所領安堵をもって我が木曽に下りました。

 伊東祐親・祐清父子には土肥や土屋の支配していた相模西武地域に所領を与え我が傘下としました。

 そして、私は義仲様に許可をいただき平家方の平維盛、平忠度、平知度、藤原忠清らと対面します。

 彼らへの対応は私が主に行うこととさせていただきました。

 私は彼らと対面して一番に行ったのです。

「維盛殿、此度の合戦、あなた方は清盛や宗盛に捨て駒として使われたのですよ」

 維盛は怪訝な顔をして言いかえしました。

「そんなことは……」

 私は彼を諭すようにいいます。

「いえ、清盛はあなたの父である重盛殿を疎ましく思っているはずです。
 鹿ヶ谷事件のことを思い返してください」

「むむむ」

「後白河に近いからと貴方の妻の父である方を配流して殺したのは誰でしたか?」

「………」

「重盛殿が倒れたあと清盛殿は越前へ見舞いに来ましたか?」

「………」

「もはや今上に近い宗盛と違い、後白河法皇に近いあなた方は清盛にとっても宗盛にとっても目障りな存在となってしまったのですよ」

「だからろくに兵も食料も与えず我々を送り出したと?」

「ええ、あなた方が武田に勝てばよし、最も京に帰るためには尾張や美濃の反乱軍も倒さねばなりませんが。
 負けたら重盛殿の心痛はいかほどのことになりましょうか?
 何れにせよ清盛や宗盛には痛くも痒くもないということです」

「では、我らにどうせよというのだ?」

「雪が深くなる前に、越中から越前に下りまずは無事な姿を父上にお見せなさいませ。
 そして父上のもとで冬の間を過ごされますように」

「しかし、春になれば祖父より呼び出しもあろう」

 私はその言葉に頭を振りました。

「いえ、清盛は春を迎えることなく熱病によってこの世を去ることになります。
 仏罰によるものか怨霊によるものかはわかりませぬが」

「どういうことだ?」

「清盛殿は南都をお討ちになるとの噂ですがそしてそれは実行に移される。
 その因果によるものですよ」

「まるで、この先何が起こるかわかるかわかっておられるようだな。
 そなたは一体何者だ?」

「私は義仲様のただの側女でございますよ」

 そして私はふっと笑ったのでした。

「なんとも恐ろしい女人よな……。
 わかった、そなたの言葉に従うとしよう」

「それがよろしいかと。
 たとえ京に戻られても敗戦の罪を問われ流罪とされましょう。
 悪ければ斬首とされるやもしれませぬ」

「そこまで我々は厭われているのか?」

「おそらくは、ですが我が木曽と重盛殿の小松家は縁類でございます、重盛殿方が清盛の手をはなれるときは我々が手を差し伸べる用意はございます」

「わかった、父にもそのように伝えてみよう」

「ありがとうございます、それと越前には我が殿の命の恩人でございます。
 斎藤実盛殿がいらっしゃるはず、どうぞよろしくお伝え下さい」

「なるほど、我らへの行いは、その縁もあってのことか?」

「はい、左様でございます」

 こうして維盛たち平家の一行は京ではなく越前へと向かったのです。

「これでよかったのか?」

 義仲様が私に聞いてきました。

「はい、私が先程申し上げましたとおり中原には小松家とは血縁もございます。
 それに冬の間に北陸へ兵が送られることはないと思われます」

「ああ、豪雪の中を進んでいくバカはいないからな」

 まあ、歴史上たまにそういうバカが現れますが、今の平家にはそのような余裕はありませんからね。

「はい、そして清盛の命は長くございません」

「それは本当なのか?どうも信じられぬが」

 私の言葉に義仲様は首をひねりました

「今は信じていただけなくとも、来年の春になればわかることでがございます」

「ふむ、ではそれまでは様子を見るか」

「はい、ありがとうございます」

 さて、下総を勢力下においた下野と常陸の範頼と義広の部隊は上総に兵を進め、上総の上総広常も我が傘下として下りました。

 しかし、安房の安西と三浦は船により逃亡し、伊豆で三浦の血縁のある武田に合流したのです。

 治めるもののいなくなった安房を私たちは統治下に起き関東の平定はこれによりなりました。

 しかし相模(神奈川県)と遠江(静岡県西部)は我ら木曽、伊豆と駿河(静岡県東部)は武田の支配下となったのですが、三浦と合流し、木曽に周りを押さえられた武田はどうやら相模と信濃に兵を動かす算段のようであります。

 武田の中でも意見は分かれここは木曽と和平を結ぶべきと言うものと、相模と信濃に兵を動かし信濃を落として木曽を討つべきという意見で別れているようですが。

 私たちは信濃の依田城に戻り次なる行動を評定していました。

 まず上座に構えた義仲様が周りに聞きました。

「さて、武田と合流した三浦が諏訪と相模を攻めようとしているらしい俺達はどうするべきだと思うか?」

 それに対し兼平兄上がまず口を開きました。

「それならば我らが先手を打ち甲斐の武田を討滅してくれましょうぞ」

 義仲様は珍しく首を横に振りました。

「うむ、だが俺の妻は武田信義の娘だ。
 それ故に、できれば穏便に済ませたいのだが」

 そこに兼光兄上が言葉を続けました。

「ならば、我々は先ずは守勢を取り、武田に和平を呼びかけてみてはいかがでしょう。
 それでも武田が我が信濃や相模に攻め寄せてきたときにはこれを討つよりありませぬ。
 座して打たれるわけには参りませぬからな」

 義仲様は再び頷きました。

「うむ、では、そうしよう。
 まずは甲斐の武田の様子をみる。
 では相模、武蔵、信濃、遠江の甲斐や伊豆、駿河に近い場所のものは防備を固め、兵の侵入があったときは狼煙にてすぐに知らせよ。
 信濃の総大将は俺、武蔵は範頼、相模は義広叔父上に頼みたい」

 義仲様に指示に範頼と義広は頷きました。

「承知いたした」

「うむ、任せておけ」

「では、各々所領に戻り戦に備えよ」

「はっ、かしこまりました」

 先ずは甲斐へ不戦同盟の使者を送りましたが、その使者はなかなか帰ってきませんでした。

 そして、11月の中旬、武田信義弟の加賀美遠光とその次男・小笠原長清、信義の子・石和信光は兵1000を率いて諏訪に攻め寄せました、諏訪党である金刺盛澄、手塚光盛、諏訪次郎同三郎、千野太郎光弘、手塚別当などが兵500をもって奮戦しましたが兵力の差はいかんともしがたく、敗走します。

 諏訪の地は武田の略奪や乱暴狼藉によりあらされることになりました。

 しかし、狼煙による侵入の連絡を受けた私たちは依田城を出立し諏訪の土地へ駆けつけました。

 武田は諏訪湖の湖畔の平地に陣を敷き私達を待ち構えていました。

 私達の兵力は2000、一方の武田の兵は1000。

 正面を私の歩兵部隊、その左右を我が二人の兄が展開し、義仲様は私の後ろに控え、鶴翼に兵を展開、武田を押し包むように私たちは武田の兵とぶつかりました。

 武田は紡錘陣形を取り私の兵に突撃してきました。

「流石に武田は弓馬に優れるものが多い」

  しかし、矢は最前面に配置した鉄の盾と短刀で武装した歩兵の盾と陣笠によってほぼ防がれ、接近したものは槍衾に阻まれ、伊勢義盛が率いる弓兵が武田の騎馬の武将を次々に射落としていきます。

「練度でも装備でもこちらが上です。
 押し返しなさい!」

「おぉぉっぉぉっ!」

 私の掛け声によりジリジリと敵を押し返し、武田を半包囲したところで、湖岸を迂回してきた弁慶の重装槍騎兵が武田軍の後ろから突撃しました。

 流石に精兵である武田もこの突撃により打ち崩され兵が潰走を始めまました。

「義経殿、追撃を!」

「分かりました!」

 義経の軽装弓騎兵が逃げ惑う武田軍の騎馬武者を後ろから次々に射落としていきます。

「勝ったか」

 義仲様が私のもとへやってきて言いました。

「はい、我らの勝ちでございます」

  加賀美遠光、小笠原長清、石和信光はすべて討ち取られ合戦は集結しました。

 その後我々は甲斐に進み、義仲様と仲がよく甲斐侵攻にかかわらなかった武田信光は、義仲の嫡男の義高 に娘を嫁がせ、甲斐初老を安堵しました。

 そして相模では志田義広に率いられた部隊が三浦の軍を打ち破り、三浦一族は降伏しました。

 畠山重忠の仲介により三浦の領土を再び彼らは与えられ木曽の傘下へと入ったのです。

 遠江の部隊は三河に進行しここを制圧。

 木曽は関東、東海、そして甲信をその支配下としました。
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