異世界建築家

空野進

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収納の少ない家屋(6)

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「さぁ、好きに選んでくれ!」


 倉庫に着くなりガリューは両手を広げて言う。それを聞いた研吾は顔を歪ませながらも一本ずつ持ってみて考えていた。

 研吾の見る目はお店に並べられた剣や鎧でわかっていた。それならガリューが選ぶより自分に合ったものを選んでもらったほうがいいだろうと考えていた。

 しばらく悩んだあと、研吾は刃にギザギザがついた剣を選ぶ。


「これをもらってもよろしいでしょうか?」


 それはお世辞にもいい出来とは言えない。いや、むしろガリューが遊び心で作った品だった。しかし、それの何かが研吾に引っかかったようで嬉しそうに眺めていた。


「先生、それはあまり出来のいいものではないが、いいのか?」


 心配そうに尋ねるガリューに研吾は嬉しそうに答える。


「はい、これがいいです」


 研吾のその言葉にガリューはそれ以上何も言えなかった。



 そして、研吾たちが帰って行ったあと、しばらく家事が出来なかったガリューは、夜遅くに鍛治部屋にこもっていた。

 その時、いつもなら床に転がしていたはずの道具がちょうど使いやすい位置に置かれていることに気づく。ちょっとした引っ掛けや棚といったものが使われ、ガリューの作業が流れるように進められる。ものを探す手間がなくなっただけでも時間の短縮だ。

 まさか先生がジッと俺の作業を見ていたのってどういった場所に道具をおけばいいのかを見ていたのか?
 そこまで自分のことを考えてくれていたのかとガリューは感謝の気持ちでいっぱいになった。



 次の日、いつものように日課の鍛治を行おうとした時、店の表が何やら騒がしいことに気づく。鍛治の途中で金槌を持ったまま表に出るとそこにはたくさんの人が並んでいた。


「な、何があったんだ?」


 その光景を見て呆然と立ち尽くすガリュー。すると、近くにいた一人が声をかけてくる。


「あっ、ガリュー、店はいつから開けるんだ? 噂の王国の依頼第一号なんだろう? みんな他人に建築を任せるなんてなかったからどんな状態になったのか気になってるんだ!」
「お、おう、確かに先生が言うには第一号の依頼人らしいが……。それに立派にしてもらえたけど、それにしてもこの人数はなぁ……」


 あまりの大人数、ここまで待たれたら店を開けずにはいられなかった。
 そして、店内は人でごった返していた。それでも大きな混乱がほとんど起きなかったのは研吾の配置が良かったからだろう。


「ここがあの鍛治狂いのガリューの店か……。本当に見違えるようだな」


 店に入るもののほとんどが入った瞬間に感嘆の声を上げる。ゴミ屋敷が一転、こんな立派な店になったわけだからな。すると、店内のものが飛ぶように売れていく。元々腕は立つ鍛治師だったガリュー。ゴミ屋敷でも買いに来る人間がいたほどなのだ。こんな普通のお店になると、その腕の良さが更に引き立ち、どこにも負けない鍛冶屋へとその風貌を変えた。

 ガリューは慌ただしくしながらも飛ぶように自分の作品が売れていくことに喜びを感じ、口元がニヤけた状態でお店と倉庫を行き来するのだった。

 それからは販売の方があまりにも忙しくなりすぎたため鍛冶をする時間がなくなってしまった。このままではさすがに店の商品もなくなってしまうのでガリューは行きつけの酒場で自分の店で働いてくれる人を募集することにした。すると最近の鍛冶屋人気が功を奏して働きたいという人が殺到した。その中でガリューは一番やる気のあった少女を雇うことに決める。



 ガリュー宅の改装工事が済んで数日後、ようやく少女一人でお店の方を任せることが出来たガリューは鍛冶場にこもり一人せっせと新作を生み出していた。いつもならすぐに散らかる鍛冶場や店内も新しく雇った小柄な少女――金色の長い髪を持ったコリンの働きで散らかるどころかいつも新品みたいに片付いていた。


「もう、ししょーはすぐ散らかしてー!」


 そういってガリューが散らかしたところを見たとたんに片付けてくれる。もっともそれもこれも先生が収納を増やしてくれたおかげだ。ものが多くてもコリンがしまってくれればすぐに片付いた。
 そして、使うことのないと思っていたキッチンだが、コリンは自宅でも料理をしているようでよくガリューの分も作っていってくれるようになった。そうなると酒場に行く回数も減ってきた。

 それを嘆いてみると「ししょーはお酒の飲み過ぎです! もっと控えてください!」とますます料理作りを張り切るようになった。

 そして、今日も元気いっぱいに働いてくれている。


「あっ、いらっしゃいませー」


 店の方から元気な声が聞こえる。早速客が来たようだ。


「えっ、誰?」


 どこか聞き覚えのある声が聞こえる。この声は? 思わず鍛冶をする手が止まる。


「もしかしてししょーの知り合いですかぁ? ししょーお呼びしますかぁ?」
「お願いします」


 やはりこの声は先生か?
 そう感じたとき既にガリューの足は店の方を目指していた。


「わかりましたー。少しお待ちくださいね」


 すると、ちょうどガリューを迎えに来たコリンと出会い頭にぶつかってしまう。ガリューは何事もなくその場に立っているがコリンは尻餅をつく。


「いたたたっ」
「だ、大丈夫か?」
「はい」


 コリンはガリューが指しだした手を掴むと勢いよく立ち上がる。


「それよりししょー、お客さんですよー」
「あぁ、わかってる」


 それだけ言うとガリューは店の方へと進んでいった。


「おう、先生! よく来てくれたな!」


 何かを喋ろうとしていたミルファーの言葉を遮りガリューの大きな声が店中に響く。


「ガリューさん……よかったー、まだいたんですね」


 何故か研吾はガリューがいたことに安堵していた。もしかすると知らない子がいたことから、しかしてガリューは違う場所に移ったのかと考えてしまった野だろうとガリューは推察する。


「がははっ、こんないいところ出て行くわけないだろ! 先生のおかげで商売繁盛、今じゃ一人では回しきれないからこうして人を雇うほどになったんだ!」
「ししょーに鍛治を教わりながら店番をしているコリンと言います。先生……というとこの店のデザインをされたのが……?」
「おう、そうだ! この店から隣の倉庫まで全てこの先生に直してもらったんだ! 凄いだろう!」


 コリンが目を輝かせながら研吾に近づいてくる。


「俺はそんな凄いことはしてませんよ」
「そんなことないさ! 先生のおかげで売り上げは倍増、倉庫の品が品薄になるほどだったんだ! そうだ、先生。このあと時間あるか? 一緒に飲みに行こう! もちろん俺のおごりだ!」


 機嫌のいいガリューは研吾の肩をバシバシと叩きながら高笑いする。しかし、コリンはあまりいい顔をしない。


「ししょー、あまりお酒は……」
「先生が来てくれたんだ! こんな時くらいいいだろう!」
「……仕方ないですね」


 渋々だが了承してくれたコリンに思わずガリューは心が高揚する。


「それで先生はどうする?」
「もちろん大丈夫ですよ」
「そうかそうか、もちろん嬢ちゃんもくるよな」


 ガリューはミルファーにも確認する。するとミルファーは研吾に視線を送っていた。おそらく私も行っていいのでしょうかと訴えているのだろう。


「ミルファーも一緒に行こう」


 研吾は笑顔で手を差し伸べていうとミルファーは嬉しそうにその手を取り、頷く。


「それじゃあ今から行くか!」
「ししょー、お店! お店どうするんですか!?」


 今にも出て行きそうなガリューにコリンは慌てて反論する。


「がははっ、先生が来てくれたんだ! 今日は閉店だ!」
「そ、そんなことできるわけないじゃないですかー!」


 店内にコリンの大声が響き渡る。そんな様子を見た研吾たちは苦々しく笑みを浮かべていた。
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