異世界建築家

空野進

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ドワーフ族には使いづらい家(5)

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 そして、目につく範囲で気になる部分を治し終えた研吾は何度も頷き満足した仕上がりになっているか確認して見て回った。

 ミルファーも一緒に見て回ったが他に気になるような部分はなかったが、研吾はどこか気になる様子でいろいろな部分で立ち止まっては首をひねっていた。


「うーん、こことかも少し直せるんだけどなぁ。今回の依頼とは外れるから下手にしない方が良いよね」


 そんなことを呟いている研吾。もやもやとした気持ちを抱えていそうだった。


「これで大丈夫そうだね。あとはモロゾフさんに見てもらってから考えようか」


 一通り見終わった研吾がミルファーとバルドールを集めてそう言った。


「そうだな。さすがにドワーフ族の使い勝手は俺たちじゃわからんもんな」


 バルドールも同意してくれたので今日のところは戻ることにした。
 お城の部屋に戻った研吾はとってきた素材を少しずつ集めてきていた。そして何か使い道がないかを考えていた。


「また無茶をしてない?」


 お茶を持ってきたミルファーが心配そうに聞く。


「大丈夫だよ。根をつめてるわけじゃないからね。でも地球にはなかった素材だからどうしても気になってね」


 研吾はミルファーの方に振り向くと持ってきてくれた飲み物に口をつける。


「うん、ミルファーが入れてくれるお茶は美味しいね」
「ありがとうございます」


 頭を下げながらも自分の分のお茶を飲み始めるミルファー。そして、頬を少し緩めていた。


「確かに美味しいですね」


 そして、お茶を飲み終えると研吾がそろそろ寝るみたいなのでミルファーも自分の寮へと戻っていった。



「どんな感じになるんだろうな」


 商売の要である素材採取に向かいながらもモロゾフの気持ちは頼んだ家の方へと向けられていた。


「きっといい感じにしてくださいますよ」


 モロゾフの家内であるミランダが優しい微笑みを浮かべながら答える。


「あぁ、あの先生なら信じられると思って任せたんだがな。ダメだな、どうにも心配性で……」
「わかりますよ。でも、今回は信じましょう。それよりそろそろドワーフ族の村につきますよ」
「そうだな」


 モロゾフは意識を今回の商売の方に向ける。



 そして数日間かけて十分すぎるほどものを仕入れて帰ってきた。
 住み慣れた我が家かどうなったのか気になって少し足早に家の前まで帰ってくる。


「見た目はあまり変わってな……いや、変わったな」


 外見は変わってないように見えたがよく見ると少し変わっている。
 まず真っ先に変わった取っ手に手をかけると自然と扉を開くことができた。


「簡単に開けられるな」


 いつもみたいに必死に背を伸ばして手を限界まであげる必要もなく、まっすぐ手に取るだけでよかった。


「私でも簡単に開きますよ」


 ミランダも実際に手にとって確かめていたが、問題なさそうだ。


「どうですか? 使い心地の方は?」


 取っ手一つに感動していたモロゾフたちの前に研吾が現れる。


「あぁ、俺でも簡単に開けられる……。十分すぎるほどだ」
「それはよかったです。中もみてください。直すところがありましたらまた直しますので」


 そういった研吾はモロゾフたちに中に入るように誘導する。



 そして首を傾げる。目に見えた変化はあまりないような気がしたからだ。


「えっ?」


 モロゾフ は困惑の声をあげる。


「何も変わって……ないのか?」


 変わった部分をよくよく見ていくがよくわからなかった。


(しいっていえば椅子の脚が変わったくらいか?)


「あの、先生?」
「あっ、そのままでは分かりにくいですよね。ミルファーお願い」
「わかりました」


 ミルファーが椅子に魔力を込めると椅子の高さが低くなっていった。


「うおっ!? なんだこれっ!?」


 驚きの声をあげるモロゾフ。椅子に近づいていってどうなっているのかを熱心に調べていたがよくわからずに首をかしげていた。
 試しに座ってみると座りやすい大きさの椅子になっていた。しかし、これではテーブルが高くなってしまう。


「ということは魔力を込めたらこの椅子が大きくなるのか」


 モロゾフが椅子に魔力を込めるとさらに小さくなっていった。


「いや、普通の魔力じゃダメなんだな。これは……マルティネスの町の方角にある大森林の木か。魔力で大きさを変えるとなると魔伸木か……」


 それならとモロゾフは水の魔力を込める。
 すると椅子は元の大きさに戻っていく。


「これは楽だな。自由自在に大きさを変えられる。にしても魔伸木にこんな使い道があるとはな。基本おもちゃにしか使われないようなものなんだが」


 感心しながら何度も大きさを変えるモロゾフ。


「あなた、あまりすると壊れるのでは?」


 それを心配そうに見るミランダ。しかし、研吾は微笑みながら言う。


「もし壊れたとしてもすぐに直せますから安心してください」
「本当か? 結構複雑そうに見えるが……」
「いえ、意外と簡単にできてますから何かあったら行ってくださいね」


 それを聞いたモロゾフは安心して再び大きくしたり小さくしたりを繰り返していた。



 そして、椅子に満足したモロゾフをつれて今度はキッチン前に行く。


「ここももしかして……?」
「えぇ、このキッチンの下に踏み台を配置しました。これを取り出して魔力を込めてください」


 モロゾフが魔力を込めてみると台が普通の大きさになる。そして、水の魔力を加えると収納しやすいサイズになる。


「これも便利だな」


 いつもならわざわざ踏み台を取りに行ってキッチンを使い、使い終えるとまた片付ける。それを繰り返していたモロゾフにとってこれはかゆいところに手が届く品であった。


「だいたい作らせてもらったのはそのくらいなんですけど、気になった点があるので少し来てもらえませんか?」


 研吾はモロゾフを連れて奥にある寝室へと向かった。



「ここの部屋なんですけど、かなり天井が高いですよね?」


 研吾が手を広げて見せてきた。確かに今まではあまり意識したことないけど言われてみれば相当高いかもとモロゾフは天井を見上げる。


「確かに高い天井だ。それに梁が一本見えている。でもそれがどうしたんだ?」
「よかったらこの部屋にロフトを作ってみませんか? それだけでだいぶ広くなりますよ」


 それを聞いてふと考えるモロゾフ。


(確かガリューの倉庫を見たときも空いたスペースを有効活用して荷物を置くところを作っていたな。あんな感じになるのだろうか?)


 そこまで荷物はないのだが将来を考えると置き場があるにこしたことはない。


「あぁせっかくだから頼めるか? でも予算は?」
「もちろん初めの依頼金で収まりますよ」


 それを聞いて安心してモロゾフは頷く。



「それで日にちはどのくらいかかりそうだ?」
「そうですね。一、二日くらいで出来ると思いますよ」
「そっか。それなら明日からもよろしく頼む」


 それだけ言うと研吾たちは今日は帰って行った。



 翌朝から研吾たちは工事にかかっていたが、モロゾフはそれが気になりながらも商売のほうがあったので意識半分に商売を始めていく。

 奥から聞こえてくる何かを叩く音。切り刻む音。そして、話し声。
 聞き耳をたてるモロゾフだが、何をしているのかはわからない。


(まぁ楽しみは終わるまで取っておくか)


 微笑みながら接客に戻るモロゾフ。



 そして、夜に研吾から終わったと報告を受けて早速見に来てみた。

 ただの寝室だった部屋には梯子が設けられ、上の階へと登れるようになっていた。
 早速モロゾフは梯子を上っていく。
 すると目の前には何も置かれていない、相当広い空間が広がっていた。


「これは……凄いなぁ」


 さすがにここまで広い空間が出来上がるとは思ってなかったモロゾフは感動のあまり声に詰まってしまった。


「えぇ、これだけあれば当面、収納の心配はないと思いますよ」


 そういうとまとめて置いた請求書をモロゾフに渡す研吾。


『請求書』
 モロゾフ様
 工事費合計【金貨一枚、銀貨二十一枚】を請求させていただきます。
 詳細は以下をご確認ください。
 人件費、金貨一枚、銀貨二十枚
 その他雑費、銀貨一枚


「この程度で良いのか?」


 請求書を見たとたんに研吾に聞くモロゾフ。
 この反応はいつものことなので研吾は笑顔を見せながら頷く。


「はい、これで大丈夫ですよ?」


 すると研吾の手をつかみ何度も上下に振るモロゾフ。


「先生、ありがとうございます。ここまでのことをしてもらってしかも値段まで――」


 ここまで喜んでもらえると研吾としてもうれしくなってくる。


「では俺たちはこれで失礼しますね」


 笑みを浮かべた研吾がそのまま帰ろうとしていたので、モロゾフはつい腕を掴んでしまった。


「いや、このまま返してしまっては悪い。せっかくだ、飯でも食っていくといい。あぁ、それがいい」


 それだけ言うと研吾を食堂へと引きずっていく。



 そして、しばらく待っているとミランダがテーブルの上に乗りきらないほどの料理を持ってきてくれる。


「よし、料理が出揃ったな。それじゃあこれで乾杯といこうか」


 モロゾフはどこからともなく酒瓶を取り出してくる。そして、全員分のコップに酒を注いでいく。


「それにしてもいいものを作ってくれた。さぁ飲もう。感謝の宴だ!」


 乾杯をした後あっという間にコップを空にするモロゾフ。喜びのあまりか絶えず笑顔を見せていた。
 それにつられるように研吾もコップに口をつける。


「あっ、美味しい……」


 飲んだ後にその口当たり、味、香りの良さに思わず笑みがこぼれる。それを見てモロゾフは満足げに何度も頷く。


「そうだろう、そうだろう。酒造りといったらやっぱりドワーフが一番だ!」
「確かにおいしいですね」


 コップが空になるたびにモロゾフが注いでくれるのでついつい飲んでしまう研吾。すると次第に機嫌がよくなってくる。


「あれっ、なんだか目が……」


 そして、そのまま倒れてしまう。


「もう、ケンゴさんったら……。ドワーフのお酒はかなり強いんですから、あれほど飲んだら酔ってしまいますよ」


 そんな研吾を呆れながらも見守るミルファー。そして、実際に酔っ払った研吾は幸せそうによだれを垂らしながら高いびきをかいていた。
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