暗躍貴族の保身的救済 ~死にたくないので救国します!〜

空野進

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第一の仲間(2)

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「クロウリッシュ様、あの反乱者を放っておいて良いのですか?」


 ブライトが去って行くのを見送った後、護衛が確認をしてくる。
 確かに状況のわからない奴からしたら、殴りかかってきた国民を罪に問わずに逃がしたように見えるか。


「問題ない。それよりもその兵を早く治療してやれ」
「はっ、かしこまりました」
「全く……、これ以上俺の手を煩わせるな。あと、今後はこのようなことがないように巡回を増やせ。民だけじゃなくて魔物とかが襲ってきたらどうするんだ。しっかり夜も見張っておけ!」


 常に巡回兵がいるとわかると魔物の襲撃回数が減ってくれるはずだ。
 その指示を出すには良いきっかけだっただろう。ただ、今の俺が動けるのはこの程度だな。

 しかし、それを聞いた兵士はにやりと笑みを浮かべていた。


「かしまりました。確かにやっかいな魔物が出たら大変ですよね。念を入れて調べさせていただきます」


 何か含みを持たせた言い方をしてくる奴だな。
 余計な企てでもしているのだろうか?
 滅多なことはしないだろうが、俺の評判を落とすのだけは辞めて欲しいな。


 どこか不安の残る態度を不審に思いながらもどうすることもできないので、あとのことは任せて館へ戻っていく。


◇◇◇



 夜になると仮面を付けて、アインとして出かける。当然ながら巻物をマントの下に隠して――。
 今日は特に情報を知れることはできていない。
 むしろ、昼間の騒動があったから、ブライトを見つけられるかのほうが心配なところではあった。
 しかし、そんな心配は杞憂に終わる。

 ブライトは初めて見かけた酒場にいた。
 中央広場のすぐ近く……。

 いくら何でも危険じゃないかとも思うが、貴族が直々に罪を問わないと言ったのだ。
 これで手を出してくる奴はほとんどいないだろう。

 ヤケ酒でもしている様に見えるので、俺はその隣の席に座る。


「どうした? やけに荒れているではないか」
「そ、その声はアインか⁉︎」


 ブライトが慌てて振り向いてくる。
 そして、俺の顔を見た瞬間にどこかホッとした表情へと変わる。


「アイン……探したぞ」
「あまり目立つわけにはいかないからな。それよりも昼間の騒動でお前は目立ちすぎた」
「し、しかし、子供が殺されかけていたんだ。助けないわけにはいかないだろ!」


 なるほどな。
 そういう事情があったのか……。
 やはりブライトはブライトだったか。

 それとは別に子供が服を汚したからといって、殺そうとする兵士達も危ないな。
 今回は相手がブライトで返り討ちにあったから良いようなものの、今までもそういった理由で国民達を殺してきたのだろう。

 兵達の様子も確認しておかないといけなさそうだ。

 それに事情を聞けばブライトが手を出さずにはいられなかった理由がよくわかる。


「ただ、今回のことでアインの言いたいこともわかった。本当に一人ずつ助けていったところで全く意味がないな……。俺は無力だった――」


 ブライトが乾いた笑みを見せてくる。
 確かにあのタイミングで俺が「その男を殺せ」と言っていたら、ブライトの命はなかったわけだからな。


「いくら俺一人が助けたところで敵が強大すぎる。今日も相手の気まぐれがなければ命がなかったところだ」
「でも、そのおかげで子供は助かった――」
「あぁ、でも無力感を味わったよ……。力だけじゃどうすることもできないんだな……」


 ぐいっと酒を飲むブライト。
 ほのかに頬が染まっているところを見ると酔っているようだな。


「とにかく俺一人じゃどうすることもできないことはわかった……。だから、俺はアインの誘いを受けようと思う」


 どうやら今日の出来事は最後の一押しになった様だ。
 これは俺にとっては助かるな。
 俺が動けないときでもブライトを動かすことができる。
 有力な駒が一つできた訳だからな。


「……わかった。これからよろしく頼む」
「あぁ、一緒に国を倒そう……」


 ブライトがとんでもないことを口走る。


 ちょっと待て! 国を倒す? 俺はそんなこと、一度も言ってないぞ?
 むしろ国を倒されたら俺も殺されるじゃないか!
 俺はただ、革命を起こされないために国民の不満を解消したいだけなのだが――。


 思わず口を出しそうになるが、もしそれで「やっぱり仲間になるのを辞める」と言われても困る。
 それに酔いから勘違いしてしまっただけなのだろう。
 改めて俺の目的を話せばどうにかなるだろう。

 やる事は国民を助ける事……。俺にまで被害が及ばない様にすることが重要だ。

 それに「国を倒す」なんて堂々と酒場で言ったら、注目を集めるだけだろう……。

 少し心配して周りを見る。

 しかし、誰一人として俺たちのことを気にしている人はいなかった。
 むしろ、国への不満が酒のさかなになっている様だ。

 こんなところを兵士に聞かれでもしたら、トラブルの種になりそうだな。
 でも、聞かれても良い、と思っているのだろうが。
 ただ、細心の注意を払うならここはごまかしておくべきか……。


「……酔いすぎだぞ、ブライト」
「お、俺はそんなに酔ってなんか――」
「はぁ……、まぁいい。とりあえず今日は一旦別れるか」
「あぁ……、わかった。俺はこのあとヘクセルの森に身を隠すつもりだ」


 ヘクセルの森。
 このヴァンダイム領の北に位置する大森林。
 かなり広範囲に広がっているこの森は魔力がかなり充満しており、簡単な魔法ですら暴発を起こしやすい。
 しかも、一部霞がかっている場所もあり、更にBからAランク級の魔物も闊歩する……という。


「大丈夫なのか? 危なくないか?」
「問題ない。誰だと思ってるだ?」
「――ただの飲んだくれだな」
「なにをー!!」


 ブライトが顔はニマニマと笑いながらも口では文句を良いってくる。


「まぁ、数日掛けて安全なところを探すつもりだ。そうだな……、三日後の夜に戻ってくる。北にある例の場所で待ち合わせはどうだ?」


 例の場所……か。
 貧困街の奥にある壊れた城壁。

 一人で向かうには少々大変そうだな。
 それにこれから活動していくなら数日動けるように手配をしておく必要があるだろうな。

 ――まぁ、これは元々の俺の性格を利用すればなんとかなるか。
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