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翌朝、俺はどの服を着ていくか迷っていた。
初めは仕事……ということだからスーツの方が良いのかと思ったが、莉愛がデートと言って楽しみにしていたので普通の服から選ぶことにする。
以前買ってもらった服に着替えていく。
とは言っても、下はジーパンに上は白柄のシャツとシンプルな格好で莉愛と出かけるのにこれでいいのかと少し不安になる。
まぁ、実際に莉愛に見てもらえばいいか。
そう思うと莉愛の部屋へと向かっていく。
◇
「有場さん、その服、すごく似合ってますね。とっても格好いいです」
莉愛は両手の指を組み合わせ、目を輝かせながら褒めてくれる。
「それならいいが、適当に選んだ服だぞ?」
「えぇ、とってもお似合いです」
莉愛が褒めてくれるならこの服で良いな。
「そういう莉愛もよく似合ってるぞ」
今の莉愛は薄いピンクのワンピース、その下には青色のズボン。頭には白のキャスケット帽という格好をしていた。それがまた莉愛には似合っている。
「あ、ありがとうございます……。これ、お気に入りの服なんですよ」
莉愛は嬉しそうに微笑んでくれる。
あまりうまく言葉に出来ず、その一言しか言えなかったが、莉愛にはそれで十分だったようだ。
そして、嬉しそうに俺の腕を掴んできた。
「それじゃあ行きましょう」
◇
いつものごとくリムジンに乗り込み、一時間ほどかけてやってきたのは神楽坂オーシャンパーク。
海をモチーフとして作られたこのテーマパークにはアトラクションをメインに他にも水族館やプール等も併設されている。
夏になったらまた莉愛と来ても良いかもしれないな。
「まずはどこに入る?」
「もちろんアトラクションコーナーですよ! やっぱりそこがメインですから」
目を輝かせながら俺の顔を見てくる。
「わかった。それじゃあ早速入ってみるか」
莉愛に腕を組まれながら俺たちは入場門の方へと歩いて行く。
「いらっしゃいませ。申し訳ありません。当館はまだ開園をしておりませんので……、あっ、莉愛様と有場様でしたか。代表からすでにお話は伺っております。どうぞ、お入りください。当店スタッフでおもてなしさせていただきます」
初めは断られそうになったが、俺たちのことに気づいて笑顔で中に入れてくれる。
それにしても莉愛はともかく俺のこともすでに知られているなんてどういうことなんだろうか?
そんな疑問を浮かべながら中を歩いて行く。
日本のどのテーマパークより大きい……、と豪語するこの遊園地にはジェットコースターはもちろん何種類もあり、他にもお化け屋敷や急流滑り、メリーゴーランドや観覧車、コーヒーカップといった定番もしっかり兼ね備えている。
その他にも多数のアトラクションやパレード。他にもイベントが多数あり、一日あってもとても回りきれる気がしない。
ただ、莉愛を見ているとあまり絶叫系とかは得意じゃなさそうだな。
ここはどちらかと言えば大人しめのアトラクションがメインになるか。
そう思っていたのだが、莉愛が言ってきたのは全く別だった。
「有場さん! ジェットコースターに乗りましょう!」
腕を引っ張りながら莉愛がすぐ近くにあったジェットコースターを指さしていた。
なんか世界最速、最凶のジェットコースターとか書かれてるけど良いのだろうか?
少し不安になる俺は一応莉愛に確認しておく。
「あれはジェットコースターだぞ? 本当に大丈夫なのか?」
「もちろんです。雑誌とかでいつも見ていたんですよ。その……遊園地ではまずジェットコースターに乗りましょう……カップルの人は……って」
最後の方はかすかに聞こえる程度のもぞもぞとした声になっていたが、理由はわかった。
「もしかして、莉愛ってジェットコースターに乗ったことはないのか?」
「はい、こうやって遊園地に来るのも初めてなんですよ。だから凄く楽しみで雑誌で前もって勉強してきたんですよ」
それだとどういったものかわからないかもしれないな。
雑誌だと詳しくは書いてないだろうし、両手を挙げて喜んでいるようにも見えるからな。
「あれは乗った人を絶叫させるもので、線路の上を猛スピードで動き回るやつだぞ。本当に良いのか?」
うまく説明できたかはわからないが、再度莉愛に確認を取る。
しかし、彼女はそれでも頷いていた。
ただ、先ほどまでとは違い、あれがどういうものか理解したようで少しだけ顔を青くしていた。
「行きましょう。少し怖いですけど、でも、やっぱり乗ってみたいです。有場さんと一緒に……。だから、一緒に乗ってくれますよね……?」
「あぁ、わかったよ。そこまでいうなら一緒に乗るか」
頭を掻きながら莉愛の強情さに呆れている。
でも、莉愛はとても嬉しそうに満面の笑みを見せてまっすぐジェットコースター乗り場に向かっていく。
しかし、莉愛が笑顔だったのはここだけだった。
コースターに乗り込むと莉愛の表情は強ばり、肩を小さく震わせていた。
そして、まるでロボットのようにゆっくりぎこちなく俺の方を向いてくる。
「あ、有場さん……、だ、大丈夫でしょうか……」
涙目になりながら視線で助けを求めている。
でも、今の俺にはどうすることも出来ないので、手を差し出してあげると莉愛は嬉しそうにそれを握り返してくる。
ただ、そのタイミングでゆっくりとジェットコースターが動き出す。
まだ坂を上り始めている段階だが、莉愛は更に目を潤ませ、恐怖のあまり顔を伏せていた。
そして、坂の頂上へ――。
この少し止まったタイミングで安心して顔を上げる莉愛。
「あっ、馬鹿!」
「えっ?」
思わず俺は声を漏らすが、莉愛は訳がわからずに困惑の表情を見せる。
次の瞬間に一気に下へと落下していく。
「きゃ、きゃあぁぁぁぁ……」
隣から莉愛の悲鳴が聞こえる。
その間も俺の手はしっかり握って離さない。
むしろ前よりも力を入れているように思える。
莉愛が盛大に悲鳴を上げてくれるおかげで、俺は冷静にジェットコースターの乗り心地を見ることが出来た。
一応感想がほしいと言われていたからな。莉愛はこの調子だと何も覚えていないだろうし……。
莉愛の表情を見る限りだと迫力は十分だし、安全の対策もしてある。
……今のところは問題なさそうだな。
少し考え込んでいるとジェットコースターは終わってしまった。
「はぁ……はぁ……、や、やっと終わりましたね……」
莉愛が息を荒くしながら安堵の表情を見せていた。
「あぁ、よく頑張ったな」
莉愛の頭を軽く撫でると彼女は嬉しそうに微笑んでくれる。
そして、ゆっくりとバーが上がっていったので、席を立つ。
ただ、なかなか莉愛が立ち上がろうとしなかった。
「どうかしたのか?」
「あははっ……、腰が抜けちゃいました……」
乾いた笑みを浮かべる莉愛。
恐怖のあまりその場から動けなくなってしまったようだ。
仕方ないな……。
「莉愛、少しだけ我慢しろよ」
「えっ? きゃっ!?」
莉愛を抱きかかえるとひとまずジェットコースターから降りていく。
「お、お姫様だっこ……」
「んっ、どうしたんだ?」
「い、いえ、なんでも……」
莉愛は頬を染め、顔をうつむける。
ただ、それでも嬉しそうに微笑んでいた。
◇
ジェットコースターの乗り場からしばらく歩いたところでようやくベンチを発見する。
莉愛もまだ本調子に戻っていないのでそこで一旦休憩を取ることにした。
莉愛をベンチに座らせると一瞬だけ寂しそうな表情を見せる。
「ふぅ……、やっと休むことが出来るな」
「ありがとうございます……。ごめんなさい、ジェットコースターがあんなに怖いものだとは思いませんでした……」
乗ったことがないのなら仕方ないだろうな。
「気にするな。とりあえず飲み物でも買ってくるが何か飲みたいものはあるか?」
「あっ、それならお茶をお願いしても良いですか?」
「わかった。少しそこで待っていてくれ」
座っている莉愛を置いて近くで売っていた自販機でお茶を買ってくる。
人がいない今日だから莉愛から離れられるが、人が多いと無理だろうな。
苦笑を浮かべつつ、莉愛の要望通りお茶を二つ買ってくる。
「ありがとうございます……」
買ってきたお茶を一つ、莉愛に渡す。
それを開けると小さな口でゆっくり飲み始める莉愛。
そしてようやく莉愛も人心地つけたようだ。
それを見て俺も同じように横に座り、お茶の封を切る。
「ジェットコースター……、恐ろしい乗り物でした……」
しみじみと先ほどと同じことを言ってくる。
やはり相当怖かったようだ。まだよく見ると肩とか震えている。
「大丈夫か? 他に何か欲しいものは?」
「いえ、それならもう少し近くに座ってもらえませんか? それで落ち着けると思いますので……」
怯える莉愛のお願いならと肩が触れそうな位置まで近付く。
すると莉愛がゆっくり頭を肩に乗せてくる。
まぁこの場には他の人がいないしそのくらいならいいか……。
莉愛が落ち着くまではこうしておこう。
そうだ、せっかくだし今の間にジェットコースターについての感想をメモしておくか。
鞄の中からメモ帳とボールペンを取り出すとメモを取り始める。
アトラクション自体の乗り心地はさっき感じたとおりだけど、降りてからの……降り口からベンチまでが意外と離れていたことや台数が少ないことはマイナス……っと。
それをノートにメモしておくと莉愛がムッとした様子になる。
「もう、有場さん! せっかく遊びに来たのですから楽しみましょうよ!」
「いや、でもこれも仕事……」
「しっかり遊ぶのもお仕事ですよ! まとめるのは私も手伝いますので今は楽しみましょう! それに私はもう大丈夫ですからそろそろ次のアトラクションに行きませんか」
ようやく顔色が戻った莉愛が手を差しのばしてくるので、それを握り返す。
「それで次はどこに行ってみるんだ?」
「それならあれに行ってみませんか?」
莉愛が指さしたのはお化け屋敷だった。
……二回続けての絶叫系なんだが大丈夫なのか?
「莉愛、ここはやめといた方が良いんじゃないか? さっきとは別の意味で危ないぞ」
「大丈夫です! ここはカップルなら絶対入るべき場所と書かれていました。雑誌にも『お化け屋敷はカップルなら絶対入るべき! 仲が深まるのでおすすめ』と書かれていたんです。」
また雑誌の情報か……。
カップルにお勧めという理由をわかっているのだろうか?
それに俺たちはまだカップルって訳じゃ……。まぁカップルとしての情報が欲しいと言われていたからそう務めるべきだろううな。
期待のこもった目で俺をジッと見てくる。
さすがにそんな目で見られると断れないな……。
「わかった。ただ、しっかり俺に掴まっておけよ」
「……いいのですか? いつも私から一方的に掴まってるだけなのに……」
「あぁ、その代わりに絶対離すなよ!?」
「わかりました!」
莉愛は嬉しそうに手を握ってくる
これなら莉愛が怖がったとしても大丈夫だろう。
その体制のまま俺たちはお化け屋敷へと向かっていく。
◇
中は結構本格的なお化け屋敷で、歩いて見ていくスタイルらしい。
薄暗く少し前しか見えない程度の明かりしかない。
「暗いですね……。なんだか不気味です……」
装飾はなかなか凝ったもので一見すると本物と見間違えそうなほど精巧に作られていた。
それが莉愛の恐怖をさらに掻き立てていた。
「あ、有場さん……、は、離れないでくださいね……」
恐怖のあまり莉愛は体を縮こめて、しっかり俺にしがみついていた。
そして、お化けに扮した人等が現れるたびに小さな悲鳴をあげて更に強く俺の手を握りしめていた。
「大丈夫だ、俺が付いてるからな。その代わりにしっかり掴んでおけ」
「う、うん……。ありがとうございます……」
小さく頷く莉愛。
ただ手を繋ぐだけではなく、腕をしっかり絡めてくる。
その際に俺の腕に感じる柔らかな感触は気にしないように平静を保った。
その状態のまま先を目指して歩いていく。
すると包帯が巻かれたミイラや骸骨、更にはナイフを持った男……などが追いかけてきた。
他にも急にコウモリが飛んだりと様々なギミックで驚かそうとしてくる。
ここまでお化け屋敷らしいところも珍しいな。
かなり本格的で俺ですらビクッと驚くことがある。
莉愛にも怖かったようで、なんとか俺にしがみついて堪えていたのだが、ついに我慢ができなくなって目を潤ませながら出口へ走って行ってしまった。
「り、莉愛、待て!?」
莉愛を止めようとするが、彼女の耳には入らなかったようでそのまま走って行く。
くっ、大体最後に一番驚かすものがあるのに……。
慌てて莉愛を追いかける。
すると前から莉愛が悲鳴を上げて戻ってくる。
「あ、有場さん、た、助け……」
俺に抱きついて涙ながらに訴えかけてくる。
り、莉愛の体の感触が……。
それに強引に体に押しつけられる二つの柔らかな部分。これって――。
い、いやいや、ダメだダメだ!
意識をしっかり持て! 今は仕事中だぞ!
顔を赤く染めながら莉愛が指さしている先を見る。
そこにはたくさんのゾンビに扮した人たちいて、ゆっくりと俺たちに向かってきていた。
かなりリアルなその風貌は普通なら俺でも怯えてしまうのだろうが、今は抱きつかれている莉愛の感触に意識がいってしまい、ゾンビ達の様子にほとんど目がいくことはなかった。
◇
「はぁ……はぁ……、有場さん、もうお化けは追ってこないですよね!?」
ようやく出口にたどり着くと莉愛は息を荒くしながら心配そうに聞いてくる。
ただ、俺は別の意味で動揺しながら答える。
「あ、あぁ……、大丈夫だ」
それを聞いて、莉愛はその場に座り込んでしまう。
「怖かったです……。私、もう夜一人で寝られなくなりますよ……」
「……大丈夫だ、その時は寝るまで側にいるくらいはできるからな」
「そのときは手も……握っててくださいね」
上目遣いをしてくる莉愛に苦笑しながら俺は頷いていた。
初めは仕事……ということだからスーツの方が良いのかと思ったが、莉愛がデートと言って楽しみにしていたので普通の服から選ぶことにする。
以前買ってもらった服に着替えていく。
とは言っても、下はジーパンに上は白柄のシャツとシンプルな格好で莉愛と出かけるのにこれでいいのかと少し不安になる。
まぁ、実際に莉愛に見てもらえばいいか。
そう思うと莉愛の部屋へと向かっていく。
◇
「有場さん、その服、すごく似合ってますね。とっても格好いいです」
莉愛は両手の指を組み合わせ、目を輝かせながら褒めてくれる。
「それならいいが、適当に選んだ服だぞ?」
「えぇ、とってもお似合いです」
莉愛が褒めてくれるならこの服で良いな。
「そういう莉愛もよく似合ってるぞ」
今の莉愛は薄いピンクのワンピース、その下には青色のズボン。頭には白のキャスケット帽という格好をしていた。それがまた莉愛には似合っている。
「あ、ありがとうございます……。これ、お気に入りの服なんですよ」
莉愛は嬉しそうに微笑んでくれる。
あまりうまく言葉に出来ず、その一言しか言えなかったが、莉愛にはそれで十分だったようだ。
そして、嬉しそうに俺の腕を掴んできた。
「それじゃあ行きましょう」
◇
いつものごとくリムジンに乗り込み、一時間ほどかけてやってきたのは神楽坂オーシャンパーク。
海をモチーフとして作られたこのテーマパークにはアトラクションをメインに他にも水族館やプール等も併設されている。
夏になったらまた莉愛と来ても良いかもしれないな。
「まずはどこに入る?」
「もちろんアトラクションコーナーですよ! やっぱりそこがメインですから」
目を輝かせながら俺の顔を見てくる。
「わかった。それじゃあ早速入ってみるか」
莉愛に腕を組まれながら俺たちは入場門の方へと歩いて行く。
「いらっしゃいませ。申し訳ありません。当館はまだ開園をしておりませんので……、あっ、莉愛様と有場様でしたか。代表からすでにお話は伺っております。どうぞ、お入りください。当店スタッフでおもてなしさせていただきます」
初めは断られそうになったが、俺たちのことに気づいて笑顔で中に入れてくれる。
それにしても莉愛はともかく俺のこともすでに知られているなんてどういうことなんだろうか?
そんな疑問を浮かべながら中を歩いて行く。
日本のどのテーマパークより大きい……、と豪語するこの遊園地にはジェットコースターはもちろん何種類もあり、他にもお化け屋敷や急流滑り、メリーゴーランドや観覧車、コーヒーカップといった定番もしっかり兼ね備えている。
その他にも多数のアトラクションやパレード。他にもイベントが多数あり、一日あってもとても回りきれる気がしない。
ただ、莉愛を見ているとあまり絶叫系とかは得意じゃなさそうだな。
ここはどちらかと言えば大人しめのアトラクションがメインになるか。
そう思っていたのだが、莉愛が言ってきたのは全く別だった。
「有場さん! ジェットコースターに乗りましょう!」
腕を引っ張りながら莉愛がすぐ近くにあったジェットコースターを指さしていた。
なんか世界最速、最凶のジェットコースターとか書かれてるけど良いのだろうか?
少し不安になる俺は一応莉愛に確認しておく。
「あれはジェットコースターだぞ? 本当に大丈夫なのか?」
「もちろんです。雑誌とかでいつも見ていたんですよ。その……遊園地ではまずジェットコースターに乗りましょう……カップルの人は……って」
最後の方はかすかに聞こえる程度のもぞもぞとした声になっていたが、理由はわかった。
「もしかして、莉愛ってジェットコースターに乗ったことはないのか?」
「はい、こうやって遊園地に来るのも初めてなんですよ。だから凄く楽しみで雑誌で前もって勉強してきたんですよ」
それだとどういったものかわからないかもしれないな。
雑誌だと詳しくは書いてないだろうし、両手を挙げて喜んでいるようにも見えるからな。
「あれは乗った人を絶叫させるもので、線路の上を猛スピードで動き回るやつだぞ。本当に良いのか?」
うまく説明できたかはわからないが、再度莉愛に確認を取る。
しかし、彼女はそれでも頷いていた。
ただ、先ほどまでとは違い、あれがどういうものか理解したようで少しだけ顔を青くしていた。
「行きましょう。少し怖いですけど、でも、やっぱり乗ってみたいです。有場さんと一緒に……。だから、一緒に乗ってくれますよね……?」
「あぁ、わかったよ。そこまでいうなら一緒に乗るか」
頭を掻きながら莉愛の強情さに呆れている。
でも、莉愛はとても嬉しそうに満面の笑みを見せてまっすぐジェットコースター乗り場に向かっていく。
しかし、莉愛が笑顔だったのはここだけだった。
コースターに乗り込むと莉愛の表情は強ばり、肩を小さく震わせていた。
そして、まるでロボットのようにゆっくりぎこちなく俺の方を向いてくる。
「あ、有場さん……、だ、大丈夫でしょうか……」
涙目になりながら視線で助けを求めている。
でも、今の俺にはどうすることも出来ないので、手を差し出してあげると莉愛は嬉しそうにそれを握り返してくる。
ただ、そのタイミングでゆっくりとジェットコースターが動き出す。
まだ坂を上り始めている段階だが、莉愛は更に目を潤ませ、恐怖のあまり顔を伏せていた。
そして、坂の頂上へ――。
この少し止まったタイミングで安心して顔を上げる莉愛。
「あっ、馬鹿!」
「えっ?」
思わず俺は声を漏らすが、莉愛は訳がわからずに困惑の表情を見せる。
次の瞬間に一気に下へと落下していく。
「きゃ、きゃあぁぁぁぁ……」
隣から莉愛の悲鳴が聞こえる。
その間も俺の手はしっかり握って離さない。
むしろ前よりも力を入れているように思える。
莉愛が盛大に悲鳴を上げてくれるおかげで、俺は冷静にジェットコースターの乗り心地を見ることが出来た。
一応感想がほしいと言われていたからな。莉愛はこの調子だと何も覚えていないだろうし……。
莉愛の表情を見る限りだと迫力は十分だし、安全の対策もしてある。
……今のところは問題なさそうだな。
少し考え込んでいるとジェットコースターは終わってしまった。
「はぁ……はぁ……、や、やっと終わりましたね……」
莉愛が息を荒くしながら安堵の表情を見せていた。
「あぁ、よく頑張ったな」
莉愛の頭を軽く撫でると彼女は嬉しそうに微笑んでくれる。
そして、ゆっくりとバーが上がっていったので、席を立つ。
ただ、なかなか莉愛が立ち上がろうとしなかった。
「どうかしたのか?」
「あははっ……、腰が抜けちゃいました……」
乾いた笑みを浮かべる莉愛。
恐怖のあまりその場から動けなくなってしまったようだ。
仕方ないな……。
「莉愛、少しだけ我慢しろよ」
「えっ? きゃっ!?」
莉愛を抱きかかえるとひとまずジェットコースターから降りていく。
「お、お姫様だっこ……」
「んっ、どうしたんだ?」
「い、いえ、なんでも……」
莉愛は頬を染め、顔をうつむける。
ただ、それでも嬉しそうに微笑んでいた。
◇
ジェットコースターの乗り場からしばらく歩いたところでようやくベンチを発見する。
莉愛もまだ本調子に戻っていないのでそこで一旦休憩を取ることにした。
莉愛をベンチに座らせると一瞬だけ寂しそうな表情を見せる。
「ふぅ……、やっと休むことが出来るな」
「ありがとうございます……。ごめんなさい、ジェットコースターがあんなに怖いものだとは思いませんでした……」
乗ったことがないのなら仕方ないだろうな。
「気にするな。とりあえず飲み物でも買ってくるが何か飲みたいものはあるか?」
「あっ、それならお茶をお願いしても良いですか?」
「わかった。少しそこで待っていてくれ」
座っている莉愛を置いて近くで売っていた自販機でお茶を買ってくる。
人がいない今日だから莉愛から離れられるが、人が多いと無理だろうな。
苦笑を浮かべつつ、莉愛の要望通りお茶を二つ買ってくる。
「ありがとうございます……」
買ってきたお茶を一つ、莉愛に渡す。
それを開けると小さな口でゆっくり飲み始める莉愛。
そしてようやく莉愛も人心地つけたようだ。
それを見て俺も同じように横に座り、お茶の封を切る。
「ジェットコースター……、恐ろしい乗り物でした……」
しみじみと先ほどと同じことを言ってくる。
やはり相当怖かったようだ。まだよく見ると肩とか震えている。
「大丈夫か? 他に何か欲しいものは?」
「いえ、それならもう少し近くに座ってもらえませんか? それで落ち着けると思いますので……」
怯える莉愛のお願いならと肩が触れそうな位置まで近付く。
すると莉愛がゆっくり頭を肩に乗せてくる。
まぁこの場には他の人がいないしそのくらいならいいか……。
莉愛が落ち着くまではこうしておこう。
そうだ、せっかくだし今の間にジェットコースターについての感想をメモしておくか。
鞄の中からメモ帳とボールペンを取り出すとメモを取り始める。
アトラクション自体の乗り心地はさっき感じたとおりだけど、降りてからの……降り口からベンチまでが意外と離れていたことや台数が少ないことはマイナス……っと。
それをノートにメモしておくと莉愛がムッとした様子になる。
「もう、有場さん! せっかく遊びに来たのですから楽しみましょうよ!」
「いや、でもこれも仕事……」
「しっかり遊ぶのもお仕事ですよ! まとめるのは私も手伝いますので今は楽しみましょう! それに私はもう大丈夫ですからそろそろ次のアトラクションに行きませんか」
ようやく顔色が戻った莉愛が手を差しのばしてくるので、それを握り返す。
「それで次はどこに行ってみるんだ?」
「それならあれに行ってみませんか?」
莉愛が指さしたのはお化け屋敷だった。
……二回続けての絶叫系なんだが大丈夫なのか?
「莉愛、ここはやめといた方が良いんじゃないか? さっきとは別の意味で危ないぞ」
「大丈夫です! ここはカップルなら絶対入るべき場所と書かれていました。雑誌にも『お化け屋敷はカップルなら絶対入るべき! 仲が深まるのでおすすめ』と書かれていたんです。」
また雑誌の情報か……。
カップルにお勧めという理由をわかっているのだろうか?
それに俺たちはまだカップルって訳じゃ……。まぁカップルとしての情報が欲しいと言われていたからそう務めるべきだろううな。
期待のこもった目で俺をジッと見てくる。
さすがにそんな目で見られると断れないな……。
「わかった。ただ、しっかり俺に掴まっておけよ」
「……いいのですか? いつも私から一方的に掴まってるだけなのに……」
「あぁ、その代わりに絶対離すなよ!?」
「わかりました!」
莉愛は嬉しそうに手を握ってくる
これなら莉愛が怖がったとしても大丈夫だろう。
その体制のまま俺たちはお化け屋敷へと向かっていく。
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装飾はなかなか凝ったもので一見すると本物と見間違えそうなほど精巧に作られていた。
それが莉愛の恐怖をさらに掻き立てていた。
「あ、有場さん……、は、離れないでくださいね……」
恐怖のあまり莉愛は体を縮こめて、しっかり俺にしがみついていた。
そして、お化けに扮した人等が現れるたびに小さな悲鳴をあげて更に強く俺の手を握りしめていた。
「大丈夫だ、俺が付いてるからな。その代わりにしっかり掴んでおけ」
「う、うん……。ありがとうございます……」
小さく頷く莉愛。
ただ手を繋ぐだけではなく、腕をしっかり絡めてくる。
その際に俺の腕に感じる柔らかな感触は気にしないように平静を保った。
その状態のまま先を目指して歩いていく。
すると包帯が巻かれたミイラや骸骨、更にはナイフを持った男……などが追いかけてきた。
他にも急にコウモリが飛んだりと様々なギミックで驚かそうとしてくる。
ここまでお化け屋敷らしいところも珍しいな。
かなり本格的で俺ですらビクッと驚くことがある。
莉愛にも怖かったようで、なんとか俺にしがみついて堪えていたのだが、ついに我慢ができなくなって目を潤ませながら出口へ走って行ってしまった。
「り、莉愛、待て!?」
莉愛を止めようとするが、彼女の耳には入らなかったようでそのまま走って行く。
くっ、大体最後に一番驚かすものがあるのに……。
慌てて莉愛を追いかける。
すると前から莉愛が悲鳴を上げて戻ってくる。
「あ、有場さん、た、助け……」
俺に抱きついて涙ながらに訴えかけてくる。
り、莉愛の体の感触が……。
それに強引に体に押しつけられる二つの柔らかな部分。これって――。
い、いやいや、ダメだダメだ!
意識をしっかり持て! 今は仕事中だぞ!
顔を赤く染めながら莉愛が指さしている先を見る。
そこにはたくさんのゾンビに扮した人たちいて、ゆっくりと俺たちに向かってきていた。
かなりリアルなその風貌は普通なら俺でも怯えてしまうのだろうが、今は抱きつかれている莉愛の感触に意識がいってしまい、ゾンビ達の様子にほとんど目がいくことはなかった。
◇
「はぁ……はぁ……、有場さん、もうお化けは追ってこないですよね!?」
ようやく出口にたどり着くと莉愛は息を荒くしながら心配そうに聞いてくる。
ただ、俺は別の意味で動揺しながら答える。
「あ、あぁ……、大丈夫だ」
それを聞いて、莉愛はその場に座り込んでしまう。
「怖かったです……。私、もう夜一人で寝られなくなりますよ……」
「……大丈夫だ、その時は寝るまで側にいるくらいはできるからな」
「そのときは手も……握っててくださいね」
上目遣いをしてくる莉愛に苦笑しながら俺は頷いていた。
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「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」
父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。
清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。
なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。
学校では誰もが憧れる高嶺の花。
家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。
しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。
「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」
秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。
彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。
「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」
これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。
完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。
『著者より』
もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858
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