上 下
19 / 43

11話 奴隷商

しおりを挟む
 迷宮から帰ってきたおれたちを待っていたのは大きなダブルベッドのある部屋への移動だった。これからはティナちゃんも含めて3人分の料金を払ったので、それならと部屋も大きい部屋にしてもらったのだが……
 まぁ今までも二人で寝ていたわけだしそれが3人になるだけだ。ティナちゃんもミィも小柄なので場所はあまりとらないので広々と使え、いいことだらけだ。



 おれたちはベッドに腰掛けて話し合う。

「では第一回パーティ会議を始めます」

 わぁぁ。とティナちゃんとミィが盛り上げてくれる。

「ところでお兄ちゃん。私達のパーティ名って何なの?まさかパーティっていう名前?」

 ティナちゃんが今まで考えたこともないことを聞いてくる。そういえば、パーティ名決めてなかったな。

「特に決めてないな。いいのがあったら案をあげてくれ」

「はい、ミィは優様親衛隊がいいと思います」

 おれがおれの親衛隊をしてどうするんだ?悪いがミィの案は却下だ。

「私は……一点突破とかは? 今の私達っぽいしね」

 ティナはだいぶいい案をだしてくれる。これはキープだ。

「おれは|家族の庭(ファミリーガーデン)とかどうだ。いまのおれたちなんか家族みたいだろ。なら会うんじゃないかなって…を」

 おれの案も出した後、ティナちゃんとミィがおれの案に賛成してくれる。これでおれたちのパーティ名が決まった。

「では改めて、第一回ファミリーガーデンの会議を行います」

 ドンドンパフパフとティナちゃんとミィが空気を読んで言ってくれる。

「まずは最重要課題である迷宮の罠についてどうするかということだが…」

 はいはいっとティナちゃんが両手を挙げて飛び跳ねる。

「じゃあティナちゃん」

「はい、お兄ちゃんだけ留守番する」

「はい、却下。ほかに案は?」

 今度はミィが手を挙げている。

「じゃあミィ」

「はい、ミィと同じように奴隷を雇うのはどうかな。器用が高めの奴隷を探せばいいと思うよ」

「そうだな、やっぱりそれしかないかな」

 おれが特殊なステータスであることから絶対裏切らない仲間でないといけない。そうなると自然と奴隷になるわけだ。

「じゃあ明日は奴隷商の元へ行くから早く寝ようか。

「「はーい」」

 そうしておれたちは同じベッドの中で眠りにつく。





 さてやってきました、奴隷商。落ち合わせは金貨一枚と銀貨が50枚までだ。それ以上は生活に関わってきてしまう。
 早速中に入ると中は意外にも普通のまるでギルドの受け付けのようだった。まぁカウンターにいるのはおじさんだが……

「いらっしゃいませ。ギニーユ奴隷商会へようこそ。本日はどの様な奴隷をお探しでしょうか?」

 一瞬ミィの首にロックオンして、そのあとティナちゃんの全身もさっと見てた。奴隷とした時の値段の勘定でもしていたのだろう。
 まぁそんな目つきをされたのでティナちゃんもミィもおれの後ろに隠れてしまう。

「今日はとにかく器用な奴隷を見に来たんだ。予算は金貨一枚だからこれで買える奴隷とちょっと上の値段の奴隷を見てみたい」

「わかりました。では先に身分証の提示をお願いします。荒川優様ですね。ではすぐにご用意いたします」

 おれは身分証といわれギルドカードを提出したがそれでよかったみたいだ。

「あと、奴隷を解放するにはいくらくらいかかる?」

「あまり解放する方はおられませんが、あなた様が今すぐに解放するということでしたら、一律金貨10枚となります。死後解放なら銀貨10枚で結構です」

 どうやら主人のデータを消すのがだいぶかかるらしい。今回はミィには死後解放だけで我慢してもらおう。それだけでもミィは感動していたが……

 さて準備が出来たようで上の階の個室に案内される。まずは見るだけの高い奴隷たちを見る。中にいたのは美人のお姉さん達と屈強な男の人らだった。他の人はだいたい能力を平均的にあげてるので、レベルの高い人が器用ということになっていた。ここら辺の奴隷の金額は金貨2から3枚らしい。あんまりレベルが高くても上昇しにくくなるしな。それを考えると低いレベルのほうがいいかもしれない。

 次に案内されたのはレベルが低いか何かしらの問題がある奴隷のいるへやだった。ここはどんなに高くても金貨1枚なので選ぶならここからということになる。
 中に入るとそこにいたのはこの世に絶望しきったような子どもたちだった。何の才能もない子も多い。ミィも何かしら思うことがあるのだろう。暗い顔をし、目を背ける。一歩間違えば自分が、ここにいたかもしれないと考えたのだろう。
 その中でも奥の方に座っている子が気になった。


名前:クルル
年齢:14
レベル: 7
HP : 9
MP : 84
攻撃 : 5
防御 : 5
知力 : 14
敏捷 : 8
命中 : 16
器用 : 148
称号 : 奴隷
スキル: 絵画魔術(ユニーク)


 レベルもそこそこ高く魔術も特殊だが、その子の腕は先がなかった。絵画の魔術なのに腕がない。絶望したくもなるよな。髪はオレンジ色の長髪だ。そして顔立ちはとても可愛らしい女の子だ。


「この子とゆっくり話してみたい。ちなみにこの子はいくらだ?」

 その決断にティナちゃんは驚いていたが、ミィはおれの回復魔術をみたことがあるので、平然と自分の次の奴隷はどんな人かじっくり吟味していた。

「よろしいのですか? この子は絵画魔術という珍しい魔術を持っていますが、それもこのように腕を失ってしまってますので使用できませんよ。教会に斡旋して治すことは可能ですが、両手の部位欠損となりますと金貨10枚は最低でもかかります」

「そこまではしなくていい。最終この子と話して決定したい。それでこの子の値段は?」

「はい、この子は銀貨50枚になります。では別室にどうぞ」

 思った以上に安いな。でも部位欠損が治らないことには足手まといだし、部位欠損の費用が最低金貨10枚だったら妥当なせんなのかもしれない。

「お兄ちゃん、本当によかったの?」

「ああ、それに多分おれは部位欠損も治すことができる。ならばあの子の器用さはすごく役に立つだろう」

「お兄ちゃん、そんなこともできるんだ!?」

「優様は魔術だけは凄いですからね」

 なんかミィにバカにされた気がするが一応褒めてもいたのでスルーする。

「とりあえずあの子の本心を聞いて決めるから、二人はおれの話すことに口を出さないようにしてね」





 新たに案内された部屋は6畳くらいだろうか? 4人でいるには少し狭いが話する分にはいいだろう。

「では私は扉の前で待ってますので話が終わりましたらお声がけください」

「わかりました」

 そういうと奴隷商は部屋から出て行った。

「じゃあ早速何点か聞きたいことがある」

 奴隷の女の子、クルルは顔をあげた。相変わらず目は暗いままだったが…。

「まずはクルル、お前なんでそんなに暗い目をしてるんだ」

「ぼくのこの手を見てもそう言えるんですか?」

「ああ、お前のその手は治療できるんだろ」

「知ってます。でも金貨10枚かかるんですよ。こんなぼくのために使ってくれる人なんているわけないじゃないですか?」

「自分で貯めるという手段もあったんじゃないのか?」

「無理ですよ。奴隷なんですよ、ぼく。奴隷にお金を持たせる人がどこにいるのですか?」

「じゃあ、もう完全に諦めてしまったのか?」

「諦められるわけないじゃないですか!? ぼくがどれだけ頑張ってきたと思ってるんですか!? 毎日毎日絵を描いてようやくあと一歩で王宮付きの絵画師になれそうだったんですよ! ようやく夢が叶うその一歩手前で盗賊に襲われて手を切り落とされて、奴隷にさせられたんです。簡単に諦められるわけないじゃないですか! 何度も何度も諦めようとしてようやく諦められそうだったのに……なんであなたはこんなひどいことをするんですか?」

 クルルは今まで溜め込んでいたのだろう。興奮しながら目には涙をうかべ叫び続ける。ティナちゃんやミィも何か言いたそうにしていたが、おれを信頼して黙っていてくれる。

「つまりまだ諦めてないんだな!?」

「当たり前じゃないですか!?」

「わかった。じゃあ次の質問だ。お前はおれたちと来たいか?おれたちは冒険者だ。命の危険もあるだろう。それでも一緒に来たいか?もし、着いて来たいならその手は治してやる」

 おれの言葉にクルルは大粒の涙をうかべながら聞き返してくる。

「ほんとに? ほんとに治せるのですか?」

「ああ、治せる。あとはお前次第だ」

「ぼくも連れて行ってください。どれだけ役に立てるかわかりませんが、精一杯やらしてもらいますので……」

 クルルは頭を下げてお願いしてくる。おれはその頭をポンポンと軽く叩く。そして回復魔術を使う。クルル両腕にはなかったはずの手が復活する。クルルは開いて閉じてを繰り返していた。その顔はとても嬉しそうで涙で溢れかえっていた。

「じゃあこれからもよろしくな。クルル」

「はい、よろしくお願いします。ご主人様」

 クルルの満面の笑みで微笑みかえしてくれる。

「出来たらご主人様はやめてくれ」

「じゃあなんとお呼びしたらよろしいのですか?」

「おれは荒川優だ。普通に荒川でも優でもお兄さんでも構わんぞ。あと敬語も禁止だ」

「私はお兄ちゃんの恋人のティナです」

「ミィは優様の奴隷で妻のミィです」

 おいおい、クルルが混乱してしまってるぞ。

「じゃあお兄さんで…。ぼくはクルルだよ。お兄さん、奥様方、よろしくお願いします」

 クルルは完全に信じてしまっているようだった。

「ちなみにこいつらは冗談をいってるからな。おれに恋人や妻はいない」

「お兄ちゃん! 私はいつでも恋人のつもりですよ!」

「ミィは優様のこと愛してるよ」

「だぁぁ! お前ら騒ぐな!まだ話し合いの途中なんだ」

 おれたちのやりとりをみてクルルが笑っている。どうやらうまくやっていけそうだな。

「これからもよろしくお願いします。お兄さん」



 クルルと話がついたのでおれたちは奴隷商を呼びに部屋を出る。

「どうでございますか?」

「頂くよ。銀貨50枚だ」

 おれは袋から銀貨を取り出そうとする。

「いえいえ、実はお客様にお願いがごさいまして、それをしていただけたならタダということにしますので話だけでも聞いていただけないでしょうか?」

 奴隷商が嫌らしく笑みを浮かべている。こういう顔は生理的に受け付けないが、話は聞いておこうか。

「いいですよ。なんでしょうか?」

「いえいえ、ここではなんですしこちらにどうぞ」

 そういわれ案内されたのはVIPルームというところだろうか?材質の良さそうな皮が使ってある椅子やなんか高そうな壺などが置かれていた。

「さて、では私どもからお願いしたいことですが、私どもは見ての通り奴隷を扱っております。その過程でどうしてもその子見たいな部位欠損をしている子が表れます」

「つまり、おれにその部位欠損を治せということか?」

「そういうことでございます」

 おれの方は全然問題ないが、普通キズは神殿で治すらしい。ここら辺がわからないのでティナちゃんに聞いてみる。
「ティナちゃん、こういうのって勝手におれが治して神殿が何かしてくるってあるかな?」

「ないと思いますよ。実際部位欠損までは治りませんが、ギルドでも似たようなサービスがありますので……ただレベルの高い回復魔術師は安定した給金のために神殿に通 務めることが多いそうです」

 なるほどな。なら問題はなさそうだな。

「でもそれって値段合いませんよね!? こちらが受け取るクルルちゃんは銀貨50枚でしたよね? それに対してこちらが行う部位欠損の治療は神殿では金貨10枚でされていることですよ」

「それは重々承知しております。なので、治療には別途費用を払わせて頂きます。それとは別に優様にはうちの商店の専属として、ほかの奴隷商店には専属契約をされないで頂きたいのです。その費用がこちらの奴隷ということでどうでしょう?」

「専属契約しなければいいのですね。冒険者の依頼とかで治療してくれときてそれを治したら他所の奴隷商だったとかそういう場合はあるかもしれないですし……」

 さっきからティナちゃんが仕切ってくれている。こういうところは宿屋の看板娘をして帳簿もつけていたらしいのでくわしい。おれなら二つ返事でオッケーを出していただろう。

「それは構いません。実際に冒険者をされているのですから……それで毎回の治療の費用ですが……金貨1枚でどうでしょう?」

「ちょっ、それはいくらなんでもおうぼ……」
「構いませんよ。ただし、そちらが選んだ部位欠損者だけじゃなく、全ての奴隷の部位欠損者を治すというのがこちらからの条件ですが……どうでしょう?」

 ティナちゃんの言葉を遮ってまで交わした約束はおれにとっては重要なことだった。クルルみたいな目に遭う奴隷は減らさないとと思ったのだ。

「わかりました。それで結構です。ではまずその奴隷の契約を始めます。優様、こちらに少し血を垂らして頂けますか?」

 そういって渡されたのは首輪だった。そこに血を垂らし、契約完了だった。あとはミィとクルルの二人ともおれの死後に解放されるようにしてもらう。

「ありがとうごさいます。じゃあ今日はおれもサービスしときます。こちらに部位欠損してる者たちを集めてください。今日は魔力の続くかぎり無料で行います」

 おれがそういうと奴隷商は慌てて他のものに連絡をとっていた。そうして集まった奴隷の数は2〜30人と言ったとこだろう。少なくはないがおれの魔力なら大丈夫だろう。

 こうして一人一人治していって全てが終わったら奴隷商が何でしたらもう一人奴隷をどうですかと聞いてくるが今すぐには必要ないので、断っておいた。それならと金貨5枚を渡してきた。
 どうやらおれが治した中には傷が治れば高額で売れる奴隷もいたらしく、そのお礼ということらしい。お金は今後入りようになるから喜んでもらっておいた。





「もう、お兄ちゃん人良すぎだよ。あそこはもっともらえたよ」

 ティナちゃんは先ほどのおれが値段のとこで割り込んだのが許せないみたいだった。

「でもね、ティナちゃん。お金は確かにとれただろうけど、それだと奴隷商の治したい1部しか治せなくなるよ」

「でもお兄ちゃんだけが損するのも間違ってるよ」

「別におれは損してないよ。むしろ人を治すと結構経験値がはいるからトレーニングにはちょうどいいよ」

 おれが嫌がってないとみるとティナちゃんはそれ以上なにも言ってこなくなった。

 おれたちより少し後ろを歩く奴隷二人組は早速仲良くなったみたいだ。

「優様は本当にいい人だよ。いつも一緒のベッドで寝たりとかご飯も一緒に食べるし、何より優しいんだよ」

「一緒のベッド……///」

 おいこら、そこだけを抜き取るのはやめろ。おれがロリコンみたいじゃないか。こんな子どもたちとってミィはおれと一つしか違わないが見た目お子様なのでどうもなかったが、クルルはおれよりは背が低いものの身長150cm位はあるだろう。こうしてみると結構…。いやダメだ。今こんな事したらそのために奴隷を雇ったみたいになってしまう。

「むむ、お兄ちゃん争奪戦の最大のライバルはクルルちゃんになりそうかも……」

「優様、変な顔」

「そんなに見られると恥ずかしいかも…」

 ティナちゃんは頭を抱え、ミィは大笑いし、クルルは恥ずかしがってる。どこへ行っても騒がしいが、いいパーティーになりそうだ。





 クルルの衣装がまだボロボロのままなので早速服屋に行って服をミィの時と同じように5着位選ぶように言う。クルルは遠慮していたが、これもミィの時になれたのでティナちゃんに引っ張ってって貰い銀貨10枚以内で適当に選らんどいてくれという。

 ここからは長いのでおれはミィを連れて向かいにあるカフェにやってくる。わざわざ一人で入るのはあれだったが、ミィを連れてなら平然と入れる。
 向かいの様子が見える外のテーブルに座り、注文を取りに来たのでおれは、オススメのミックスジュースを頼むとミィも同じものを頼んだ。

 出てきたミックスジュースは色は鮮やかなオレンジで、飲んでみるとあっさりとしていて結構甘いが、純粋に果物の甘みなのですごく飲みやすかった。ミィもすぐに飲み終わっていたので、おかわりを頼みティナちゃんたちが終わるのをゆっくり待つことにする。





 ティナちゃんが選び終わって出てきたとき、クルルは白のワンピースに麦わら帽を着ていた。本人はすごく恥ずかしそうにしていたがとてもよくにあっていた。
 おれとミィがカフェのほうから手を振っているとティナちゃんたちも気づいたらしく、こちらに向かってくる。

 もう席についてることなのでこのままここで昼食を食べることにする。クルルはやはり床に座ろうとするので席に座らせて、注文を何がいいか聞くが自分ではなかなか決められないらしく、おれと同じものにするといっていた。ちなみにおれはオムレツのセットだ。ティナちゃんはミドルリ草のグラタンを選んでおり、ミィはミックスピザだ。

 なんかおれに馴染みのある料理ばかりだなと思うと何でも昔勇者様が考案された料理だそうだ。今でも結構な数の料理が出回っているらしい。

 ただ料理がくるとティナちゃんもミィもおれのオムレツも食べたくなり、結局取り皿を貰い、取り分けて食べることになった。懐かしい料理たちはとても美味しかった。
しおりを挟む

処理中です...