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第20話:ランクアップ試験

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 全然気がついていなかったけど、僕たち自身のレベルを上げているうちに、気がついたら魔物の召喚数が百を超え、昇格試験を受ける基準に達していた。

 この間、配信を開始してからものの一ヶ月だった。

 いや、もっと早く基準は達成していたけど、最近は自分のステータスばかりみていて全然気がついていなかった。



「ランク……上げた方が良いよね?」

「そうですね。さすがにこのダンジョンに来る人たちを見ていると、早くランクは上げた方が良いですね」



 主にレベルの上げたい冒険者が来るので、E~Cランク冒険者が多数来ている。
 そのおかげもあり、宿も大盛況している。
 その分、DPも自動的に増えているので、スラ妖精復活費用になり助かっているけど……。



「でも、スラ妖精だけだと、僕たちのレベル上げはそろそろ限界かな?」



 僕のレベルは一月掛けてようやく30になっていた。
 エリシャも同様である。
 そこを境に急にレベルが上がりにくくなっていた。



「元々スラ妖精は30前後まで上げるのに向いている魔物ですから。次のメタルスラ妖精を召喚しても良いかもしれないですね」



―――――――――――――――――――――
レベル:30 種族:メタルスラ妖精(ランク:C)
HP:7/7 MP:2000/2000
筋力:10 耐久:5110 魔力:150 精神:150 速度:5110
スキル:【逃げ足(LV:10)】【経験値増(LV:3)】【中級魔法(LV:5)】【魔法耐性(LV:10)】
経験値:20000 お金:50円
召喚DP:1000~
―――――――――――――――――――――



 一気に4倍の経験値が貰える。
 しかし、DPも一気に10倍に増えてしまう。
 安定収入ができてきたとはいえ、まだこのメタルスラ妖精をメインとするには厳しい。



「とりあえず三階層を作って、そっちはメタルスラ妖精専用階層にしておこうかな」

「それがいいですね。まだ二階層を超える冒険者はいませんからね」

「確かにFランクダンジョンにSランクの魔物はやり過ぎだもんね……」



 一応ダイヤスラ妖精は二階層のボス部屋へと移動させている。
 その甲斐もあって、安心してスラ妖精狩りに励めるようだ。

 今日もたくさんの冒険者が我先にと、決めてるスラ妖精の数を取り争っている。



「それじゃあ、ランクアップするために冒険者組合へ行ってこようかな?」

「私も付き合いますよ。何度も行ってますから案内できますよ」

「冒険者だもんね。うん、それじゃあお願いできるかな?」

「はい、任せてください!」



◇◇◇



 遥と二人、僕は冒険者組合へとやってきた。
 ただ、町の方まで出てきたので、徒歩2時間ほどかかり、既にかなりの疲労が溜まっていた。



「えっと、冒険者組合は……」

「こっちですね。役所の隣に建ってますよ」



 遥が案内してくれたのは、無骨なコンクリートの建物だった。
 特に何かがあるわけでもなく、ただ『冒険者組合』と書かれた看板が貼られているだけのいかにも役所らしい雰囲気だった。



「なんだか入るのに緊張するね」

「――そうですか? 別にいきなり怒鳴られるわけでもないですし、安心してください」

「ま、まぁ、いきなり怒鳴られたりするわけでもないもんね。今は誰でも冒険者になれるわけだし……」



 その昔は力を持っていない冒険者を拒むために、わざと高ランク冒険者が勝負を仕掛けてきたりとか、そういった事も行われていたらしい。
 しかし、今ではトラブルを起こすと冒険者の資格を剥奪されるので、そういった人物もめっぽう減っていった。


 でも、役所という場所へ入るのはどうしても緊張してしまう。
 悪いことをしているわけでもないのに……。



「ようこそ、冒険者組合へ!! あっ、遥さんと、そちらは……ダンジョンマスターの奏さんですね」

「ふぇっ!?」



 建物の中は病院の待合室のようなところだった。
 そこの受付へと向かうと突然僕の名前を言われてしまう。
 そこまで有名人だっただろうか?



「ど、どうして僕のことを?」

「むしろこの冒険者組合に来る人で奏さんのことを知らない人はいませんよ。あれだけ大々的に配信をしているダンジョンマスターと言えば奏さんくらいしかいませんから……」

「あ、あははっ……、そ、そういうことですね……」



 僕は乾いた笑みを浮かべてしまう。
 どうやら、ここで知られている理由も配信絡みのようだった。



「ところで今日はどうされたのですか? ダンジョンマスターのあなたが冒険者組合まで来られた……ということは。も、もしかして、ついにランクアップ試験を受けてくれるのですか!?」



 受付の女性が目を輝かせて僕を見てくる。



「そ、そうですけど、なんでそんなにうれしそうなんですか?」

「奏さんのダンジョンは既にCランク……、いえ、Bランクでもおかしくないほどの魔物が徘徊してますからね。そろそろ、こちらからランクアップの話をしに行こうかと思っていたほどですよ。(私たちもレベルを上げたいですし……)」



 小声で女性は呟いていた。



「えっと、それで試験を受けるのにいるものってあるのですか?」

「いえ、すでにカナタダンジョンについては情報を仕入れておりますので、あとは職員がランクアップに等しいダンジョンか、実際に挑ませていただきます。日にちはまた追って報告させていただきますので、よろしくお願いしますね」



 ランクアップの申請は案外簡単に終わってしまった。
 本当にこれで良かったのだろうか?
 そう思いながら、僕たちはダンジョンへと戻っていく。
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