その男、モブにつき 〜警戒されない一般人は最高の暗殺者でした〜

空野進

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 城から出てきたカイは真っ先に宿へと戻っていった。

 するとチルが嬉しそうに近付いてくる。


「お帰りなさい。お仕事の方は?」
「あぁ、終わったよ。明日には国へ戻るつもりだ」
「わかりました。では、準備をしておきますね」


 あとはこの国を出る瞬間か……。
 まぁ、そこは問題ないだろうが。


 ◇


 カイの予想は当たり、町を出て行くとき、馬車の荷台を調べられたくらいで特に問題なく町を出ることができた。
 それが逆に不安を抱かせる要因でもあったのだが、今この町さえ出てしまえばもう問題はないだろう。
 あとは……このことを報告するだけだな。

 それが終わったらまたいくつかの問題を片付けていく必要があるだろう。

 でも、今はそのことを考えないようにしよう。


「カイさん? なんだか怖い目をしていますよ?」


 チルにいわれて初めて俺は自分の表情が変わっていることに気づく。
 今不安に思っていても仕方ないことだもんな。

 カイは大きく深呼吸をした後にチルへ笑みを見せる。


「大丈夫だ。それよりもチルの方は何もトラブルはなかったか?」
「はい、大丈夫ですよ。一度女の人が部屋を訪ねてこられたくらいであとは特に何もありませんでしたし」
「女の人?」


 それは初耳の出来事だった。


「はい。なんでも最近アルストラメーグ王国に来た人間を見て回っているそうで私の顔を見た瞬間に出て行かれました」
「因みにそいつはどんなやつだった?」
「とっても大人の女の人でした……。その、胸が大きくて……」


 チルが恥ずかしそうな表情を見せる。
 それだけで相手が誘惑ハニートラップと言うことがわかった。


「ちなみにそれからなにかされたのか?」
「いえ、私の顔を見た瞬間に『ごめんなさい、部屋を間違えたみたい』と笑みを見せながら帰って行かれましたよ」


 それは逆に問題がありそうだな。
 チル自身が誘惑のターゲットとなった可能性がある。

 まぁブラークと知り合いみたいだから彼の店で働いているとわかれば警戒を解くか……。


「とりあえず、家に戻ったらすこし気をつけろよ」
「……? はい、わかりました」


 チルは不思議そうにしながらも頷いていた。



(兵士団長マーグル)


 くっ……、ど、どうして我が国王様が殺されているんだ?
 誰だ、誰が犯人だ?
 城の中には兵士か使用人達くらいしかいない。

 特にここは国王様の血族しか住まない区画。

 この付近にいたのはブラッシュ様に命令されて部屋を片付けていた兵士のみ……。

 付近を信用のできる兵士達に見て回らせたが怪しいやつの痕跡はなかった。
 ブラッシュ様の部屋を片付けていた兵士もとてもすぐには片付けられる量ではないほど、汚れた部屋を片付けさせられていたらしい。

 これは幾人も経験したことがあるので、犯人ではないだろう。

 そうなると他に怪しい人物は――。

 こんなに痕跡がないと逆に俺たちの中に犯人がいるように思える。
 特に兵士達はさすがに全員を把握していない。

 ここに暗殺者が紛れ込んでいても俺たちにはわからないだろう。

 城にさえ入ってしまえば後は闇夜に影を潜めて……。
 なんとかすることができるだろう。

 つまり相手は暗殺者。
 誰かが依頼したということになる。

 そんなことをしそうな相手は数え切れないくらいいるが、この手際を見る限りかなりの手練れを使ったと見える。

 そんな人物を雇うには金が――。
 それもそこらの人間だと払うこともできないほどの大金が必要になる。

 国王様もかなり高ランクの暗殺者を雇って隣の国の国王を暗殺しようとしていたが、もしかして、その依頼人と会うときに殺されたのか?
 暗殺を依頼しようとして殺されたということは依頼が重なったということだ。

 暗殺を実行しようとしたものはわからんが、それを依頼した人物はおそらく隣国の国王。
 つまり、やつに直接聞きに行く方が実行犯がわかるかもしれない。


「そうと決まったら早速王子に隣国を攻めることを提案してみるか」
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