君よ、土中の夢を詠え

ヒロヤ

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 十五夜が終わって、年末までしばらく仕事が落ち着くわ。今年は晴れて綺麗なお月さんだったから、月見饅頭もよく売れたんだよ。

 ほら、これ。残り物で悪いけど食べるでしょ。
 え、芋きんつばが良かった?
 じゃあ今度はそっちを用意しようかね。

 それにしても、ようやく夏も完全に終わったって感じだよ。
 いや、本当に暑かったねえ。
 あの夏の暑さに、ぶっ倒れそうになったけど、何とか乗り越えられたわ。

 いやだ、まだ元気よお。
 とはいっても、もう完全におじいさん、おばあさんだけどねえ。

 でもね、身体が弱かった私がここまで生きられるとは思わなかった。正直ね。

 アンタはまるで手伝いなんかしやしなかったけど、菓子屋も結構大変な仕事なんだよ?
 朝は早いしさ。立ちっぱなしだしさ。腰も痛いしさ。
 でも、逆にそれが私を鍛え上げたんだね、きっと。
 今じゃ町内で一番若く見られるよ。
 やだ、何を笑っているのさ。うるさいね、どうせ六十八歳のばあさんだよ。

 でもね、本当に笑うしかないよ。いつ死ぬかわからないじゃない。人間、笑いながら死ぬためには笑って生きていかなきゃね。
 最近じゃ、もう葬式ばかりだよ。
 それがさ、こないだなんか、年寄りじゃなくて若い人だっていうよ。
 五年くらい前に引っ越してきた、三軒先の清田さん。若くたってポックリ行っちゃうことがあるんだよ。理由は知らないけどね。

 イヤだねえ。年寄りばっかり生きていたってさあ。ねえ?

 こうやって天気が良い日に饅頭食べられる幸せって、当たり前に思っていたらいけないね。

 これから一気に寒くなるし、風邪を引かないようにしないとね。

 私は大丈夫だよ。お父さんやアンタがいるからね。
 やだ、アンタ、少し痩せたんじゃない?もともと、細い方だったけど。
 これから食欲の秋っていうから、甘いもの食べて、太らなきゃダメだよ。

 何、私は控えろって?

 いいんだよ、年寄りは何を食べたって。
 老い先短いんだから、好きに生きさせとくれ。

 しかし、好きに生きているといえば、あの人を置いて右に出るのはいないね。

 え、いやいや、もちろん好きでああなったわけじゃないからね。
 わかっているよ。
 でもさ、こっちが苦労してることを少しでもわかってくれたらって思うよ。
 無理な話なのは重々承知だよ。


 けどさあ、さすがに『お姉さん』はないわあ。


 そりゃ、私の母親のことでしょうよ。

 私は、姪だっての。

 いや、話には聞いたことあるけど、ショックだわ。

 うんうん、わかっているよ。愚痴とため息は、幸せが逃げるってね。

 だったら、アンタが私を幸せな気持ちにさせとくれ。
 今年で四十歳じゃないのさ!
 いつ、お嫁に行くんだい!

 え?
 そう、パーマ当てたの。綺麗でしょ。
 え、ああ、うん。明日ね、実はお客さんが来るんだよ。だから美容室行ったの。

 何でも、ミっちゃんとこの子らしいんだけど。

 それが、でも……。

 どうしてかしらね……。
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