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極上 クリスマス編「欲しいものはきっと」
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スローペースでゆるゆる進んでいく配信に目を戻そう。
メインで進行役を務めているのが短髪男性で、彼の話し方の特徴でもあるせいか、ゆるめの進行になりがちなのを目つきの悪い男性がフォローしている。
チャンブタさんは、クリスマスケーキを次々と平らげながら茶々入れ担当(あんなに食べてあの体型なのだから、彼はかなり太りにくい体質なのだと思う)、陰気な男性はパソコンの前に陣取ってぼそぼそとコメントを読み上げる。
「Gojoeポニテかわいい。ありがとうござる。今日はパジャマパーティーゆえ、しどけない格好で皆集まっておる。……そうだな、パジャマかわいい、というコメントがたくさん来ている」
自社製品が褒められて私も小さくガッツポーズをする。そう、確かに三人ともとてもよく似合っている。
「ありがとうございます。すごく素敵ですよね。今回のパジャマは全てPetite féeというブランドにお世話になっています。見た目が良いというだけではなく、肌触りもいいし、温かいし、産地限定のオーガニック綿にこだわって作られているんですよ。実はパジャマだけじゃなくて、今日のクッションやオーナメントなども全てPetite féeのご協力の下で準備して頂いたものなんです」
がっつりと短髪男性がうちの宣伝をしてくれる。ありがたいな、と思いながら私は両手を拝むようにさすりあわせる。ここまでしてくれたからには、今度あのカップルが来店するときまでに彼らの楽曲をいくつか聞いて、それぞれの芸名も覚えておかなきゃいけないだろう。
「Petite féeって今みんなが着てるパジャマだけじゃなくて、かわいいルームウェアなんかもあるんだよな?な?兄貴」
にたにたした笑いを隠そうともせずに、目つきの悪い男性をつつきながら、チャンブタさんが言う。たしかにあのカップルはもこもこうさみみウェアを購入されていたけれど。ここでそれを言う……のか?
「おれはよく知らねえよ」
目つきの悪い男性は腕を組んだままそっけなく答える。いたずらっぽい瞳をきらめかせながら、チャンブタさんは今度は短髪男性に話を向ける。
「あれ?じゃあ、Genjyoに聞いてみよっかな。ね?かわいいもこもこうさみみウェア、知ってますよね?」
チャンブタさんの問いに短髪男性は色白の頬を真っ赤に染めた。
「あ……、そう、そうだね。一応……レディース物ですが……、あのもこもこで柔らかくて、……その、恋人から、かわいいと言ってもらえてきっと……その、……ぎゅっと抱きしめてもらえて……えっと、そのあと……」
なにかを思い出しているのだろうか、どんどんうっとりした顔つきになっていく短髪男性を目つきの悪い男性が背後に庇い、カメラを遮った。そして眉根をしかめながら言い放った。
「もこもこうさみみウェア、オススメですのでぜひ店舗でお試しください。よしっ。終了。Gojoe、次は何のコーナーだ」
「プレゼント企画……」
「よし、じゃあその説明をしてくれ」
「chan-Buta用に用意したパジャマのサイズが合わずにここに置いてあるのだが、これを視聴者プレゼントにしようと思っておる。このグリーンの地に飾りが入った柄は着ると全身がクリスマスツリーになったような気分が味わえる素敵なデザインでござる。もちろん、これも限定オーガニックの綿だ」
陰気な男性が説明をしている間、チャンブタさんは目つきの悪い男性の脇腹をつついて何か言っているが、マイクには乗っていない。目つきの悪い男性は優し気だけど困ったような表情で、短髪男性に何か言い聞かせている。
磁路さんが見せてくれるパソコン画面を眺めると、「Genjyoは何を照れてたんだろう?」「もしかしてうさみみを彼女に着てもらったのでは」「安定のGo-ku警備の隙がねえ」などとたくさんのコメントが流れていく。
ファンってすごい。好きなアーティストの一挙手一投足にまで目を配り、それが何を意味しているのか、どういう意図だったのかまで考えているらしい。ファンからしたら生で配信を見られるという今の私の状況は垂涎ものだろうが、「推し」という概念がいまいち理解できない私にはよくわからない。ので、ぼーっと見ているしかない。ただ、隣にいる磁路さんのことは気になっている。
チャンブタさんが、畳んであったパジャマを広げて身体に当てながら説明を引き取った。
「Lサイズのパジャマが一つ余っているので、抽選で一名様にプレゼントでーす。俺が試着したからかすか~に俺の匂いがしたりしてまーす。どんどん応募お待ちしてまーす。ん?方法?#chan-Butaのパジャマ欲しいでツイートしてもらって応募ってことにしよっか?」
「お前の汗つきのパジャマなんて誰も欲しがらねえって。応募者一人もいなかったらどうする?」
「兄貴のもこもこうさみみウェアも一緒につけようか?」
「やめろ。てか、おれは持ってねえっつーの」
チャンブタさんと目つきの悪い男性の遠慮のないやりとりにもファンは「chan-Butaのパジャマ欲しいよー」、「Go-kuがうさみみ着たの?」などと反応している。
隣の磁路さんが自分のスマホを見せてくれる。少し猫背になって私の目線に合わせようとしてくれるのが嬉しいが、心臓に悪い。
「どんどんツイートされております。トレンド入りするかもしれないですね。ああ、しまった。タグにPetite féeのブランド名も入れておけば良かった。気が付かず申し訳ない」
「いえ……、全然。お気になさらず……です。あの……盛り上がってて……すごいです」
「ははは、盛り上がるのはこれからであるからご期待あれ」
磁路さんは不敵に笑った。私は首を傾げてから磁路さんの視線を追う。
メインで進行役を務めているのが短髪男性で、彼の話し方の特徴でもあるせいか、ゆるめの進行になりがちなのを目つきの悪い男性がフォローしている。
チャンブタさんは、クリスマスケーキを次々と平らげながら茶々入れ担当(あんなに食べてあの体型なのだから、彼はかなり太りにくい体質なのだと思う)、陰気な男性はパソコンの前に陣取ってぼそぼそとコメントを読み上げる。
「Gojoeポニテかわいい。ありがとうござる。今日はパジャマパーティーゆえ、しどけない格好で皆集まっておる。……そうだな、パジャマかわいい、というコメントがたくさん来ている」
自社製品が褒められて私も小さくガッツポーズをする。そう、確かに三人ともとてもよく似合っている。
「ありがとうございます。すごく素敵ですよね。今回のパジャマは全てPetite féeというブランドにお世話になっています。見た目が良いというだけではなく、肌触りもいいし、温かいし、産地限定のオーガニック綿にこだわって作られているんですよ。実はパジャマだけじゃなくて、今日のクッションやオーナメントなども全てPetite féeのご協力の下で準備して頂いたものなんです」
がっつりと短髪男性がうちの宣伝をしてくれる。ありがたいな、と思いながら私は両手を拝むようにさすりあわせる。ここまでしてくれたからには、今度あのカップルが来店するときまでに彼らの楽曲をいくつか聞いて、それぞれの芸名も覚えておかなきゃいけないだろう。
「Petite féeって今みんなが着てるパジャマだけじゃなくて、かわいいルームウェアなんかもあるんだよな?な?兄貴」
にたにたした笑いを隠そうともせずに、目つきの悪い男性をつつきながら、チャンブタさんが言う。たしかにあのカップルはもこもこうさみみウェアを購入されていたけれど。ここでそれを言う……のか?
「おれはよく知らねえよ」
目つきの悪い男性は腕を組んだままそっけなく答える。いたずらっぽい瞳をきらめかせながら、チャンブタさんは今度は短髪男性に話を向ける。
「あれ?じゃあ、Genjyoに聞いてみよっかな。ね?かわいいもこもこうさみみウェア、知ってますよね?」
チャンブタさんの問いに短髪男性は色白の頬を真っ赤に染めた。
「あ……、そう、そうだね。一応……レディース物ですが……、あのもこもこで柔らかくて、……その、恋人から、かわいいと言ってもらえてきっと……その、……ぎゅっと抱きしめてもらえて……えっと、そのあと……」
なにかを思い出しているのだろうか、どんどんうっとりした顔つきになっていく短髪男性を目つきの悪い男性が背後に庇い、カメラを遮った。そして眉根をしかめながら言い放った。
「もこもこうさみみウェア、オススメですのでぜひ店舗でお試しください。よしっ。終了。Gojoe、次は何のコーナーだ」
「プレゼント企画……」
「よし、じゃあその説明をしてくれ」
「chan-Buta用に用意したパジャマのサイズが合わずにここに置いてあるのだが、これを視聴者プレゼントにしようと思っておる。このグリーンの地に飾りが入った柄は着ると全身がクリスマスツリーになったような気分が味わえる素敵なデザインでござる。もちろん、これも限定オーガニックの綿だ」
陰気な男性が説明をしている間、チャンブタさんは目つきの悪い男性の脇腹をつついて何か言っているが、マイクには乗っていない。目つきの悪い男性は優し気だけど困ったような表情で、短髪男性に何か言い聞かせている。
磁路さんが見せてくれるパソコン画面を眺めると、「Genjyoは何を照れてたんだろう?」「もしかしてうさみみを彼女に着てもらったのでは」「安定のGo-ku警備の隙がねえ」などとたくさんのコメントが流れていく。
ファンってすごい。好きなアーティストの一挙手一投足にまで目を配り、それが何を意味しているのか、どういう意図だったのかまで考えているらしい。ファンからしたら生で配信を見られるという今の私の状況は垂涎ものだろうが、「推し」という概念がいまいち理解できない私にはよくわからない。ので、ぼーっと見ているしかない。ただ、隣にいる磁路さんのことは気になっている。
チャンブタさんが、畳んであったパジャマを広げて身体に当てながら説明を引き取った。
「Lサイズのパジャマが一つ余っているので、抽選で一名様にプレゼントでーす。俺が試着したからかすか~に俺の匂いがしたりしてまーす。どんどん応募お待ちしてまーす。ん?方法?#chan-Butaのパジャマ欲しいでツイートしてもらって応募ってことにしよっか?」
「お前の汗つきのパジャマなんて誰も欲しがらねえって。応募者一人もいなかったらどうする?」
「兄貴のもこもこうさみみウェアも一緒につけようか?」
「やめろ。てか、おれは持ってねえっつーの」
チャンブタさんと目つきの悪い男性の遠慮のないやりとりにもファンは「chan-Butaのパジャマ欲しいよー」、「Go-kuがうさみみ着たの?」などと反応している。
隣の磁路さんが自分のスマホを見せてくれる。少し猫背になって私の目線に合わせようとしてくれるのが嬉しいが、心臓に悪い。
「どんどんツイートされております。トレンド入りするかもしれないですね。ああ、しまった。タグにPetite féeのブランド名も入れておけば良かった。気が付かず申し訳ない」
「いえ……、全然。お気になさらず……です。あの……盛り上がってて……すごいです」
「ははは、盛り上がるのはこれからであるからご期待あれ」
磁路さんは不敵に笑った。私は首を傾げてから磁路さんの視線を追う。
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