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悟浄に叱られたい
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お主、何を申すか、失礼千万な。うちの師と兄弟子の関係を疑っておるのか。あの二人は師弟という強い信頼で結ばれておる。決してお主が考えているような不逞な関係ではないのだ。
そう、この前もそうであった。あの日は雪というより霙混じりの冷たい雨が降って、蓑を着ていてもびしょ濡れになってな。
運良く夕方前に荒屋を見つけ、火を焚いて乾かしたのだ。夜も敷布が濡れてしまったもので、枯草を身体に掛けて寝たのだが、どうやらそれも湿っておったのだろう。夜中にお師匠様が熱を出したのだ。
がちがちと身体を震わせながら、それでも遠慮がちに「少し寒い。」とな。悟空兄者は慌てて焚火を大きくしたり、背中を擦ってやったり、甲斐甲斐しく世話を焼いておった。
が、なかなかお師匠様は寝付けんようでな。しまいには、お師匠様が兄者に抱きついて離れなくなっての。
いや、お主、興奮するな。そういう意味ではないのだ。落ち着いて聞け。あの悟空兄者の真性は火と金であるからして、その身体はいつも燃えるような熱を抱えておるのだ。
考えてみろ。真冬の隙間風が跋扈する荒屋で、発熱の悪寒に苦しむ者は誰だって兄者の身体を抱えるだろう。それだけのことだ。
悟空兄者は慌てておった。顔まで猿の尻のように赤くなってしまっての。いや、それも邪推しては困る。兄者は敬慕の情を寄せるお師匠様に身体を寄せられ、その勿体なさに畏怖の心を覚えただけだ。
兄者の身体を抱えたまま、お師匠様はやっとうつらうつらとされたものでな、兄者もそこまでされては振り払えぬ。
そっと抱き寄せるようにして二人で眠りに落ちたのだ。どうだ、この清々しい師弟愛が理解できぬとはお主の目は、節穴か。
その夜何もなかったのかだとぉ?何かとは、何だ。申してみろ。
はぁ?お主は神聖な仏弟子にそのような関係が成り立つとでも思っているのか、汚らわしい。
勿体なくもお師匠様は一度も元陽を漏らしたことのない聖僧なのだぞ。
なに、夢精……とな、そ、それは生理現象だからあるやもしれぬ……。自分の手の中で……、いや、それは……四六時中、我ら弟子が傍にいるのだからできぬだろうな……。誰かの手の中で……、くっ、痴れ者めっ、調子に乗るなっ。
と、とにかく、その晩はお師匠様と兄者は寄り添って寝たのじゃ。何やら光輪が輝くように二人の陰が煌めいておったのを覚えておる。素晴らしき師弟関係を天が讃えておったのだろう。
翌朝か。夜のうちにたくさん汗をかいたようで、すっかり熱も下がってお師匠様もさっぱりした顔をされておられた。
しかし、兄者に抱きしめられて寝ていることに気付いたお師匠様は、そういえばひどく焦っておられた。「悟空、これはいったいどういうことですか。」と兄者をゆさぶる。
兄者といえばいつもなら微かな物音でもすぐに飛び起きるのだが、その日はどうも寝坊でな、生返事をしたあとにますます腕の力を入れてお師匠様を抱きしめるものだから、お師匠様の力では離れようもない。蒸気したような赤い顔で悟空の背を叩いておったわ。おおかた兄者は夜中もお師匠様のことを心配して眠れなんだのであろう。麗しき師弟愛ではないか。そう思わんか。
はあ?お主はどこまでいっても曲がった解釈をするやつだ。もういい。勝手にしろ。
ん?今二人は?お師匠様は禊に行っておられる。何しろ綺麗好きだからな。兄者はその護衛でついて行った。
おい、お主、どこへ行く。覗きにいくなど言語道断だ!
そう、この前もそうであった。あの日は雪というより霙混じりの冷たい雨が降って、蓑を着ていてもびしょ濡れになってな。
運良く夕方前に荒屋を見つけ、火を焚いて乾かしたのだ。夜も敷布が濡れてしまったもので、枯草を身体に掛けて寝たのだが、どうやらそれも湿っておったのだろう。夜中にお師匠様が熱を出したのだ。
がちがちと身体を震わせながら、それでも遠慮がちに「少し寒い。」とな。悟空兄者は慌てて焚火を大きくしたり、背中を擦ってやったり、甲斐甲斐しく世話を焼いておった。
が、なかなかお師匠様は寝付けんようでな。しまいには、お師匠様が兄者に抱きついて離れなくなっての。
いや、お主、興奮するな。そういう意味ではないのだ。落ち着いて聞け。あの悟空兄者の真性は火と金であるからして、その身体はいつも燃えるような熱を抱えておるのだ。
考えてみろ。真冬の隙間風が跋扈する荒屋で、発熱の悪寒に苦しむ者は誰だって兄者の身体を抱えるだろう。それだけのことだ。
悟空兄者は慌てておった。顔まで猿の尻のように赤くなってしまっての。いや、それも邪推しては困る。兄者は敬慕の情を寄せるお師匠様に身体を寄せられ、その勿体なさに畏怖の心を覚えただけだ。
兄者の身体を抱えたまま、お師匠様はやっとうつらうつらとされたものでな、兄者もそこまでされては振り払えぬ。
そっと抱き寄せるようにして二人で眠りに落ちたのだ。どうだ、この清々しい師弟愛が理解できぬとはお主の目は、節穴か。
その夜何もなかったのかだとぉ?何かとは、何だ。申してみろ。
はぁ?お主は神聖な仏弟子にそのような関係が成り立つとでも思っているのか、汚らわしい。
勿体なくもお師匠様は一度も元陽を漏らしたことのない聖僧なのだぞ。
なに、夢精……とな、そ、それは生理現象だからあるやもしれぬ……。自分の手の中で……、いや、それは……四六時中、我ら弟子が傍にいるのだからできぬだろうな……。誰かの手の中で……、くっ、痴れ者めっ、調子に乗るなっ。
と、とにかく、その晩はお師匠様と兄者は寄り添って寝たのじゃ。何やら光輪が輝くように二人の陰が煌めいておったのを覚えておる。素晴らしき師弟関係を天が讃えておったのだろう。
翌朝か。夜のうちにたくさん汗をかいたようで、すっかり熱も下がってお師匠様もさっぱりした顔をされておられた。
しかし、兄者に抱きしめられて寝ていることに気付いたお師匠様は、そういえばひどく焦っておられた。「悟空、これはいったいどういうことですか。」と兄者をゆさぶる。
兄者といえばいつもなら微かな物音でもすぐに飛び起きるのだが、その日はどうも寝坊でな、生返事をしたあとにますます腕の力を入れてお師匠様を抱きしめるものだから、お師匠様の力では離れようもない。蒸気したような赤い顔で悟空の背を叩いておったわ。おおかた兄者は夜中もお師匠様のことを心配して眠れなんだのであろう。麗しき師弟愛ではないか。そう思わんか。
はあ?お主はどこまでいっても曲がった解釈をするやつだ。もういい。勝手にしろ。
ん?今二人は?お師匠様は禊に行っておられる。何しろ綺麗好きだからな。兄者はその護衛でついて行った。
おい、お主、どこへ行く。覗きにいくなど言語道断だ!
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