深夜の常連客がまさかの推しだった

中島焔

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第二部 第四章 双方の気持ち

双方の気持ち4

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 紅害嗣と納多が帰った後も、八戒の1st、3rdパート、悟浄の4thパート収録をこなし、深夜になってレコーディングが終了した。プロデューサー太上は既にスタジオの隅で就寝中である。老人は夜が早いのだ。

「細かい音の調整はまだこれからだけど、とりあえず7つのパートとエレキを合わせた音源を今から流すから聴いてみて」

 さすがに疲労した様子の玉竜が音源のスイッチを入れた。

 全員で声を合わせた早いテンポのイントロから始まる。最初から超絶技巧のボイパが繰り出されながら、悟空メインのAメロが来る。八戒の高音のハモリがメロディに華やかさを与えている。BメロとCメロでメインをとる玄奘の声が安心感と豊かさを感じさせた後、そしてあのエレキとボイパの掛け合いがあり、悟浄がしっかりベースラインを支えて安定させた後、玄奘が何度も練習した転調部分があり、ラスサビに向かう。早口言葉のように言葉が繰り出され、ラスサビは攻撃的で痛みすら感じるくらいだ。

 しかし、玄奘の柔らかい声と八戒の深みのある声のハモリがしっかりと聴いた人の耳を癒してくれる。痛みの中の希望を手に残して曲は終わる。

 最後の響きが消えた後も余韻のようにしばらく口を開く者はいなかった。

 が、例のごとく八戒が遠慮なくしゃべり出した。

「いいじゃん、俺の上手さが引き立ってるよね」

「デモの時よりも攻撃的だが、その分メッセージは強く伝わる印象がある」

 悟浄も満足そうに目を瞑った。

 悟空は自分がメインをとった楽曲の玄奘による評価が気になる。そわそわしながら尋ねた。

「おれも悪くないと思うけど。玄奘はどうです?」

「そうだな……。Journey to the Westの新しい扉が開く、というような気がする。今までにはなかった印象の曲だし、いつもと歌い方もパートも異なるし……。でも、私も良いと思う。悟空の声がすごく素敵だ」

 にっこりと笑う玄奘がたまらなくなって、「そっか、良かったです」と、悟空は思わず玄奘を抱きしめた。抱きしめられた玄奘は悟空の頬に軽いキスをした。

「あ……」

「初めてのメインボーカルおつかれさま、のキスだ」

「……そうですか」と頬を抑えて照れくさそうに笑う悟空を八戒がからかった。

「自然にキスしちゃってるけどさぁ、もうここに紅害嗣いないから別に恋人ごっこする必要ないんだけどね~」

「うるっせえな、八戒。紅害嗣に本当の恋人だと思わせるように絶えず練習してんだよ、放っとけ」

「本当の恋人……。本当の恋人……。ふぅん、本当の恋人だと思わせる……。自分にか?他者にか?ふぅん。ふぅん。」

 磁路がつむじ風のようにくるくる回りながら嫌味を言って去っていった。


 その夜、同じベッドに入った後、
「無事にレコーディング終わってよかったですね」と悟空が声をかける。悟空が腕を伸ばすと定位置のようにそこに玄奘が頭を載せてくるのがとても愛らしい。

「そなたは紅害嗣ととても仲が良さそうに歌っていたな……」

「よく言いますね、そんなこと。でも、まあ今日は楽しかったのは事実です」

「私と歌っているよりも楽しいのではないかと思って、……その、……少し羨ましいと思った」

「そっ、そんなのっ、おれもですよ。玄奘の声と紅害嗣の音がすげえ合ってて、……正直妬きました。おれの方がいつも玄奘の傍にいるのに、あいつのエレキの方が合うのかなって」

「なんだ……、そうなのか」

 勢い込んで言い募る悟空に、玄奘はほっとしたように笑った。しかしすぐに表情を曇らせた。

「実は私は今日嘘をついた。良くないことをしたと今では反省している」

「どんな嘘です?」

「紅害嗣と一緒にブースにいた時、別に何も怖いことはなかった。すぐ隣の部屋に悟空もいたし、今日の紅害嗣は穏やかであったし。しかし、私を見る悟空の顔が……その、紅害嗣と二人きりでいるのをあまり、心良く思っていないようだったから、悟空にすぐ傍に来てほしいと思って……その、声が、……出ないふりをしたんだ」

 緊張して聞いていた悟空は拍子抜けした。その程度の嘘、悟空ならいくらでもつく。

「え?それが嘘なんです?」

 悟空の問いを、嘘に呆れられたものと思った玄奘は弁解を続けた。

「あの……いつもそんな嘘をつくわけではないぞ。あのフェスのときは本当に声が出なかったんだ。別に悟空を心配させてやろうとかそういうことでやったわけではない。しかし、今日のは……その、嘘をつきました。申し訳ない」

 悟空は玄奘の柔らかい髪をふわふわと撫でた。

「気にしなくていいですよ。怒ってません。でも玄奘の声が出なくなるのは本当に心配なので、これからは嘘をつかずに『傍に来てほしい』と言ってください。声が出ないとか無理に理由をつけなくていい。何の理由がなくたっておれは傍に行きますから」

「そうか、そういうものなのか?」

「そういうもんです」

「おやすみのキスをしてもいいだろうか」

「どうぞ」

 
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